リディ・フロスト准将とおじいちゃんは母港の応接室にいた。おじいちゃんの隣にはウォースパイトが腰かけ、リディの隣には鉄血の戦艦、フリードリヒ・デア・グローセがおじいちゃんとウォースパイトを舐め回すように見つめている。
今回のリディの訪問はあらかじめアポイントを取ってのものだったためおじいちゃん指揮下のKAN-SENたちはロイヤルメイド隊を中心に歓迎の準備も整えてある。ただし意外だったのは秘書艦として演習の時の旗艦だったロドニーではなく、鉄血陣営のグローセを連れてきたことだろう。
ともあれ、リディとグローセはにこにことしたまま、促されるままに応接室の柔らかな革張りのソファにその体をうずめている。
「まずは先日のファイアフライ作戦完遂ありがとうございました。おかげで北方連合の要塞を無力化できました」
「ユニオンへの恩も売れたね」
おじいちゃんが若干皮肉気に言うと、リディは意地悪気ににやりと笑う。おじいちゃんはいつも通りにこにこと柔和に笑みを浮かべたままだ。
「それだけじゃありません。ロイヤル内部でも先生に懐疑的だった指揮官連中が先生の力を認めつつあります。いずれきっと、先生を『中央』に戻して見せます」
そしてリディは一つ咳ばらいを落とす。
「今日は、また先生にお願いをしに来ました」
リディは溌溂とした、見ているこっちがまぶしくなりそうなきらきらとした眼でおじいちゃんを見つめて「お願い」を切り出す。おじいちゃんはにこにこと微笑んだまま、リディの言葉を待つ。
「何かね?」
「ファイアフライ作戦で先生がセイレーンと会敵した海域の哨戒をお願いします」
その言葉におじいちゃんの顔から笑みが溶け落ちる。リディの顔が見てわかるほどにさっと青ざめ、汗が滴る。グローセはリディの手をゆっくりと握ると、耳元で何かをつぶやいている。
「……あの海域に戦略的な価値を見出せないが?」
おじいちゃんが凍り付きそうなほどに冷たい声色で言うと、言葉を紡げないリディの代わりにグローセが回答を述べた。
「あの海域をユニオン、北方、そしてロイヤルの3陣営が行き来するための安全な海路にしたいの。空中回廊ならぬ『海上回廊』っていうところね」
その言葉を聞き、おじいちゃんは少しばかり考え込む。
ウォースパイトは気が気でない。もしもまたセイレーンに話しかけられたなら、どうなるかわからないのだから。
そんなウォースパイトの心配を知ってか知らずか、おじいちゃんはあっという間にいつものような笑みを浮かべる。
「わかった、やろう」
「え、へあ……あ、ありがとうございます……?」
リディは緊張の糸が切れたのか情けない声を漏らすが、すぐさま咳ばらいをすると気持ちを切り替える。
「そ、それでは『海上回廊構築作戦』、作戦名『サイレントシー』を開始します。本作戦の全指揮権及び命令系統を先生にお任せします。物資など必要なものがありましたら何なりと言ってください!」
ウォースパイトは思う。
なんでおじいちゃんはあの海域に行くことを断らなかったのだろうかと。
ひょっとしたら、またあのセイレーンと話をするつもりなのだろうか、と。