おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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お別れの教科書

 おじいちゃんは自室の窓から外の景色を眺める。妻と同じ姿をしたものを殺せと命じ、艦隊の皆が躊躇する中でただ一人砲撃を行った愛宕は、着弾と同時に爆炎の中に刀を構えて飛び込んでいった。

 

 そして死亡を確認した彼女は、いつものような調子で笑いながら作戦の完了を報告した。

 

 一瞬が永遠にも思えるような気まずさの中で皆は無事帰還した。

 

 いつもなら和やかな談笑が始まるのだが、この時ばかりはおじいちゃんを含めて皆がそれぞれの部屋に足早に戻った。

 

「……」

 

 おじいちゃんは窓から景色を眺め続ける。目の前に広がるのは一面の海原と空だ。

 

「殺したのは私の意思だ……」

 

 おじいちゃんは自分に言い聞かせるように消え入りそうな声でつぶやく。そして目元に浮かんだ涙を指でぬぐうと、おじいちゃんは声を殺して嗚咽した。

 

「俺が殺したんだ」

 

 泣きながらもおじいちゃんの脳の冷静な部分が「もう■■■は死んだ」と述べるが、涙はとめどなくあふれる。

 

「最期に一度だけ……」

 

 窓枠に体重をかけ、おじいちゃんは膝から崩れ落ちる。

 

「話がしたかったよ……」

 

 

――――  ――――  ――――

 

 

 翌日、明石の商店をおじいちゃんが訪れていた。明石は珍しいお客に驚いたようだが、すぐに接客用の態度に切り替える。

 

「いらっしゃいませにゃ」

 

「花は売ってるかな?」

 

「にゃ? 誰かへのプレゼントかにゃ?」

 

「いいや。この基地に植えようと思ってね」

 

 おじいちゃんはいつものにこにことした顔で言う。

 

「普段売れないから買い付けに行かないといけないにゃ。何の花かにゃ?」

 

「……ネモフィラ。私と、妻が好きだったんだ」

 

 明石もおじいちゃんの過去のことは知っている。彼女も重桜時代からおじいちゃんの部下だ。

 

「ははあ、なるほどにゃ。それなら基地の遊ばせてる場所に植え付けたらいいにゃ。この基地は土が良いからあたり一面ネモフィラ畑にできるにゃ」

 

 ただしサービスはしないけど、と明石が意地悪気ににやりと笑うと、おじいちゃんもふっと笑う。

 

「そういえば、ネモフィラにも花言葉ってあるのかねぇ?」

 

「花言葉は全部の花にあるにゃ。えぇっとたしかネモフィラの花言葉は……在庫に本があったはずだにゃ」

 

 ひょいと身をひるがえして明石はぺらぺらと本をめくる。おじいちゃんも明石の背後からその本の中身をのぞき込む。

 

「ネモフィラの花言葉は、『どこでも成功』、『可憐』なんてのがあるにゃ。かわいい子揃いのこの基地にぴったりにゃ。あ、まだあったにゃ。それと……」

 

「『あなたを許す』、にゃ」

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