愛宕と加賀は母港近くの浅瀬にて相対する。
愛宕は脇差を、加賀は薙刀を構え、目の前の「敵」をまっすぐに見つめている。どちらも刃のついた、確実に殺せる代物だ。
「加賀さんは薙刀を使うのね」
「昔取った杵柄だ」
二人の距離は4メートルほど。飛び込めば確実に損傷を与えられる距離で二人は互いの瞳を見つめている。審判役を務めるのは高雄だ。
「互いに礼!」
高雄の言葉に二人は深く頭を垂れる。そして頭を上げたときには殺気が満ちた。
「殺し合いにならぬように注意なされよ。始め!!」
高雄の号令に愛宕と加賀は同時に突っ込む。砲撃や雷撃、航空機なんて小技が通じないことをよくわかっているのか、自らの最後の武器をもって確実に仕留めるようだ。
先に仕掛けたのは加賀だ。リーチの長い薙刀を大振りに横に薙ぐが、愛宕はそれを軽々と飛び越えて脇差をためらいなく加賀の脳天めがけて振り下ろす。
加賀が遠心力そのままに薙刀で一太刀を防ぐと甲高い衝突音が響き、薙刀と脇差の間に火花が散る。加賀が愛宕の瞳を見つめたまま素早く足を払うと、愛宕の体が崩れる。脇差も取り落とした。
「もらった!!」
好機とばかりに加賀が獰猛な笑みを浮かべて薙刀を愛宕の首めがけて振り下ろす。高雄は動じることなくその様子を見つめている。
薙刀が首に到達する前に愛宕が足を延ばす。しなやかな足が加賀の首に巻き付き、加賀の首を軸にして愛宕が体ごと回転する。たまらず加賀の体も海面に倒れこんだ。
「ぶはっ!!」
「げほっ!!」
海水が口に入ったのだろう。両者同時にせき込むが瞬きはしない。眼だけを動かして手放した武器の位置を確認する。海中だ。
状況を把握して先に素手での組合いを仕掛けたのは加賀だ。愛宕の襟をつかむと体を崩して海上で背負い投げを決め、愛宕を海中に沈めると同時に薙刀に手を伸ばす。
愛宕もとっさに受け身をとると、海中で目を開けたまま脇差に手を伸ばした。
海上と海中から薙刀と脇差が振るわれ、ちょうど水面で激突して再び甲高い音が響く。
二人が姿勢を整えて次の攻撃を行おうとする。
「そこまで。これ以上は殺し合いになる」
脇差に手をかけた高雄が終了を宣言すると、加賀と愛宕は殺気をそのままに残心をとった。
「互いに礼!」
始まったときと同じように深く頭を垂れ、そして上げたときには殺気は消えて互いにいつもの表情を浮かべていた。
「首を落としたと思ったんだがな」
「殺されるかと思ったわ」
和やかに物騒な会話を交わす二人を見つめたまま、高雄はゆっくりと脇差から手を離した。