おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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ソラノカケラ

 おじいちゃんはパイロットスーツのまま烈風の座席に腰かけてキャノピー越しに大空を眺める。海とはわずかに違う青色が、彼はお気に入りだ。

 

 おじいちゃんはもしかしたらありうる出撃のための思考を回す。上層部から出撃命令なんて皆無に等しいが、以前のようにリディが気を回してくれることもありうる。そんなときに万全とはいかなくても十全くらいのコンディションを保ったままでなくては艦隊の指揮と艦隊の士気に影響する。

 

 考えがまとまったのだろう。おじいちゃんはエンジンをかけると緩やかに滑走路をタキシングする。そしてエンジンの出力を上げると滑らかに、烈風の機体が空へと吸い込まれるように宙に浮く。そのまま高度を上げて緩やかに水平飛行に移る。出撃とは正反対の、ドライブのように気楽な飛行だ。

 

「これくらいならまだできるな」

 

 誰に言うでもなく小さくつぶやくとおじいちゃんはいたずらっぽく笑う。

 

「久しぶりに空戦機動でも試してみようか」

 

 烈風の機体がひらりと反転し、海面に向けて突っ込む。強烈なGにたまらずおじいちゃんの呼吸は荒くなる。

 

 基地からおじいちゃんの飛行を見学していた数名はたまらず悲鳴を上げたり目を覆ったりするが、烈風は海面に突き刺さる前に機首を上げ、海面からわずか数十メートルのところで再び水平飛行に移った。

 

「む……ぐ……やはり体がついてこないね」

 

 緩やかに機首を上げた烈風は今度は鋭く旋回機動を行う。真っ白な飛行機雲が青い大空を切り裂く。

 

「おお、これくらいならまだできるか」

 

 少しばかりの手ごたえがあったことに満足したのか、おじいちゃんは顔をほころばせて飛び続ける。

 

 ピッチアップ、ロールとった基本的な機動をためし、やがて満足したのか離陸の時と同じように滑るように着陸する。

 

 着陸した機体に駆け寄ってきたのは飛龍だ。手には飲み物とタオルを携え、興奮を隠しきれないように目を輝かせている。

 

「お疲れ様です指揮官! 見事な飛行でした!」

 

「ありがとう。全盛期には遠く及ばないが、まだまだやれるものだね」

 

 肉体と精神の疲労のためか、おじいちゃんは手を小刻みに震わせてやっとのことでタオルと飲み物をつかむ。皺の刻まれた顔には玉のような汗がいくつも浮かんでいる。

 

「無理はしないでくださいよ。今はパイロットではなく艦隊の指揮官なんですから」

 

 心配げに飛龍が言うと、おじいちゃんはゆっくりと飲み物を嚥下し、大きく息を吐いた。

 

「わかっているさ。こんな飛び方はしないよ」

 

 浮かび上がってくる汗をぬぐいながら、いつもの笑みでおじいちゃんは笑った。

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