葬儀の場で半狂乱になった軍服姿の青年が周りの制止を振り切って棺桶に走り寄り、力任せに棺桶の蓋をこじ開ける。おじいちゃんの意識だけは青年の背後に呆然と立ち尽くしている。
(どうしてこの思い出の前を思い出せないんだ?)
そして、青年の視界とおじいちゃんの視界がリンクして、棺桶の中の光景が映し出される。
(俺はなんでいつも葬式の光景ばかりなんだ?)
棺桶の中には顔に真っ白な布を被された人の形が、女物の着物を着せられて横たわっていた。首から下の素肌は真っ白な布で覆われている。
「やめろ……」
(俺の妻は鮮やかに思い出せるよ。でもなんで思い出すのはこの葬儀の記憶だけなんだ? 俺の妻の記憶は一体――)
「おじいちゃん」は記憶をたどりながら声を絞り出す。だが、彼の青年時代の記憶は再生を続ける。
青年は力任せに顔の部分の布を剥ぎ取る。棺桶の中の遺体と目が合った。
(なんで■■■は、こんなザマになってしまったんだ)
顔の部分は真っ白な紙と布で輪郭が作られていて、かろうじてかき集めたのであろう部位が――目と、右耳と、真っ二つにちぎれた鼻と、下だけの唇と、頬肉の一部が福笑いのように真っ白なキャンバスに設置されていた。
彼が心から愛した女の面影はどこにもなかった。
―――― ―――― ――――
夜更けに俺は目を覚ます。じっとりと冷や汗を掻き、枕もとの時計を見れば午前2時。起きるには早すぎる。
でも、再び寝る気分にはならなかった。今の夢を記憶に残したい。
「思い出せ。俺は何を忘れている? 俺は何を忘れようとしていた?」
乱暴にボトルの口を開けながら水を飲む。ぬるい。
「鮮やかに思い出せることはある。俺は確かに結婚した。指輪だってしているじゃないか。でも、俺はどこであいつと出会ったんだ? どうやって結婚したんだ? そもそもなんであいつは死んだんだ?」
記憶の中の細い道筋をたどりながら、俺はぶつぶつと独り言をつぶやきながら考えを整理する。唐突に頭が割れるように痛み、たまらず俺は頭を抱えると目を瞑り痛みに耐える。何かを思い出すことを拒んでいるように、脳が思考を拒否している。
「思い出せ……思い出せ……」
痛み続ける頭を抱えながら俺はつぶやき続ける。
「なんであいつは死んだんだ……? なんであんなザマになって死んだんだ……?」
痛みに耐えながら俺は必死に記憶をたどる。ふと、頭の中で閃光が弾けた。
「末期の卵巣がんです。すでに全身に広がりつつあります。まだお若いのに――」
「あぁ……」
耳元で囁かれたように男の声がよみがえり、それと同時に俺はすべてを思い出す。
「思い出した……俺が……俺があいつをあんな姿になるまで生かしてしまったんだ……」