おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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完治しない古傷

 夜、赤城は自室で頬杖をついて大きくため息を吐いた。姉の珍しい姿に、思わず同室の加賀はため息の理由を問う。

 

 聞けば、愛しの指揮官が既に結婚していたのに妻を先に亡くしていたとのことである。それだけならば「ただの」不幸な話で終わり、赤城がこれほどまでにショックを受ける理由などみあたらない。そのことについて聞いてみると「そんなかわいそうな指揮官様に満足な慰めの言葉すらかけられなかった」というのが本当の理由らしい。

 

「それで姉さまは恋をあきらめるのですか?」

 

 加賀は赤城の分もお茶を用意して問う。赤城は息を吸い込む。

 

「諦められるわけないじゃないの。でも、指揮官様が私とケッコンしても、指揮官様は前のお嫁さんをわすれられないでしょう?」

 

 赤城のその弱気な言葉にたまらず加賀はからからと笑う。赤城はむっとしたように口をとがらせるが、加賀は笑みを崩さぬままに言葉を紡ぐ。

 

「意外です。姉さまなら『前の女を忘れさせるくらい私に夢中にさせる』とでも言うと思いましたが」

 

 確かに、今までの赤城であればそんな言葉を……いや、もしかしたらそれ以上に苛烈な言葉を口にしていただろう。赤城はゆっくりと首を横に振った。

 

「指揮官様がこの話をしたときに、とても悲しそうな……泣き出しそうな顔をしていたから」

 

 赤城も今にも泣きだしそうな顔で、そう言った。

 

 

――  ――  ――

 

 

 そのころ執務室ではウォースパイトとおじいちゃんが和やかに談笑をしている。本日分の仕事も終わったのか二人ともリラックスした表情で、室内に笑い声が響く。

 

「そういえば今日、飛龍と赤城にもこの『指輪』のことを知ってもらったよ」

 

 少しだけ悲しげな表情でおじいちゃんは指輪に目を落とす。

 

「そう……」

 

 その言葉にウォースパイトも、同じように少しだけ悲しそうな表情を浮かべる。彼女だっておじいちゃんの指輪の秘密は知っているが、おじいちゃんがこの話をするときに決まって悲しい顔をするのが彼女は嫌いだった。

 

「そんな顔をするくらい苦しいなら隠せばいいじゃないの」

 

 ウォースパイトは問うが、おじいちゃんは首を横に振った。

 

「体の傷は目で見えるが、心の傷は目で見えない。それがいったいどれだけ深いのか、どれだけ重症なのかがわからないから大変なんだ。だから心の傷を癒すには、その傷と向き合わなくてはならない。そして時間をかけて傷を治すしかないんだ」

 

 まるで学者のような口調で、言い聞かせるようにおじいちゃんは言う。それがウォースパイトに言い聞かせる文句なのか、彼自身に言い聞かせるものなのかはわからない。

 

「でも」とウォースパイトは思う。何十年も昔の傷を見つめ続けていても完治しない彼の傷は、いったいどれだけ深いんだろうと。

おじいちゃんの人物像とか過去を詳しく知りたいですか?

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