おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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牢屋の向こうの問い

 アーク・ロイヤルはいつものように牢屋の内側から本日の看守役である高雄を見つめている。重桜の重巡洋艦、高雄。この母港の彼女はKAN-SENの中でもとびきりの武闘派で、精神に一本筋の通った高潔な精神の持ち主である。常に高みを目指して修練し続け、「最強」の座を目指している武人だ。

 

「解せないな」

 

 牢屋に据え付けられた粗末なベッドに横になりながら、アーク・ロイヤルは牢屋の扉の前で仁王立ちをして彼女を見つめる高雄に言う。

 

「何がだ」

 

 高雄は顔色一つ変えずに、アーク・ロイヤルを見つめたまま問う。アーク・ロイヤルは笑みをこぼしながら起き上がると高雄のもとへ歩み寄る。本当に、駆逐艦への性癖さえなければ演劇の男役をも立派に務まるだろう。

 

「この牢屋から逃げたりはしないのに、なぜ貴女は律義に私のことを見張っているんだ? 貴女だって暇じゃないだろうに」

 

 アーク・ロイヤルのその言葉に高雄はむっとしたような顔を作る。

 

「指揮官殿は拙者に『見張りをしてくれ』と頼んだ。ならば拙者はその言葉に従うだけのこと」

 

「『しかし、誰が見張りを見張るのか』」

 

「何?」

 

 アーク・ロイヤルは柵越しの高雄に顔を近づけてそう問う。高雄は脇差に手をかけて怪訝そうに言う。もしもアーク・ロイヤルがおかしな真似をしようとするなら、高雄ならば瞬きをするよりも早く刀を抜き放って牢屋ごと目の前の「囚人」を両断できる。

 

「誰も貴女を監視してはいない」

 

「誰も見ていないからといって拙者が指揮官殿の命令を反故にするとでも?」

 

 わずかに怒りの混じった高雄の言葉にアーク・ロイヤルはふっと穏やかに微笑む。

 

「いいや。貴女ならばそう言うだろうと思ったんだ。すまなかったな」

 

 空気が弛緩したことを感じたのか、高雄は手にかけた脇差に込める力をほんの少しだけ緩めた。

 

「そういえば、貴女は閣下と古い付き合いなのだろう? 浮いた話の一つや二つあるんじゃないか?」

 

 アーク・ロイヤルの問いに高雄は顔を真っ赤に染める。その様子を見たアーク・ロイヤルは意地悪く微笑んだ。

 

「く……あの赤城殿が貴殿に強く出られない理由がわかった気がする……。質問の答えだが、あいにく拙者と指揮官殿の間にそういう話はない。確かに拙者はここに来るより前、重桜時代から指揮官殿の部下だが恋心などは感じたこともない」

 

 本心はどうであるのか不明だが、高雄は律義にもアーク・ロイヤルの問いに答えて赤い顔のままそっぽをむいた。アーク・ロイヤルは何かに気づいたように笑みを溶け落とすと、口を開いた。

 

「そういえば、なぜ閣下はこの母港にいるんだ? どうして重桜陣営からロイヤル陣営になったのだ?」

 

「それは……」

 

 その答えは高雄にだってわからない。ある日いきなり重桜がアズールレーンから離脱したと聞いたときは彼女たち重桜陣営や鉄血陣営のKAN-SENだってこの母港にいた。それなのに重桜本国はおじいちゃん指揮官のみならず、ほかにも諸国に派遣していた指揮官たち――貴重な戦力を切り捨ててアズールレーンから離反したのだ。

 

「……拙者には解らぬ」

 

 それを考えるのは自分の役目ではないと無理やり自らを納得させたのか、高雄は目を瞑って大きく息を吐いた。

 

 

 

 

 

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