おじいちゃん指揮官による母港運営記   作:喜多見 健

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Belli dura despicio

 リディという若い指揮官がアポイントなしに演習をしにやってきたことに軽く注意をし、おじいちゃんと若い指揮官は演習場へと向かう。KAN-SENの姿は見えない。おそらくすでに演習場で待機しているのだろう。

 

 おじいちゃんの母港では出撃はおろか演習を行うことすら稀だ。良い所せいぜい日々の哨戒や近隣の味方の援護として陽動などが主で、艦隊総力を以て敵を撃滅するなんてことはセイレーンが積極的に攻勢に転じてこなければありえないだろう。

 

 二人は演習場の見渡せるベランダに設置された椅子に座る。かすかな潮風が二人の男の肌をなでる。

 

 二人の指揮官の準備が整ったことを確認したのか、各艦隊が演習準備よしの声を上げる。その編成の速さに若い指揮官は冷や汗を流す。押しかけ同然で訪れたのにもかかわらず、10分もしないうちに戦闘準備を整えているのだから。

 

 おじいちゃんの艦隊はウォースパイトを旗艦とし、イラストリアス、レキシントンの空母二隻を両翼に展開。前衛にはおじいちゃんの初期艦である綾波と、近接雷撃に特化した愛宕。そして援護位置につくのが非常に巧みなプリンツ・オイゲンという構成だ。

 

 若い指揮官の艦隊は主力ロドニー、大鳳、レンジャー。前衛にシグニッド、ベルファスト、ケントといった編成だ。好みが透けて見える。

 

 おじいちゃんが若い指揮官をちらりと見遣ると、彼は気恥ずかしそうにふいっと顔をそらした。

 

 審判である明石が開始を宣言すると、両艦隊の前衛が一斉に前に飛び出した。

 

 

――――  ――――  ――――

 

 

 それからはもう滅茶苦茶なことになった。特出した綾波に全砲火を向けたリディ指揮官の艦隊であったが、綾波に命中弾を与えることができない。巧みにひらひらと、空中に木の葉が舞うように綾波の体が右に左に、時には空中に浮く。ならばと大鳳とレンジャーの艦載機が飛び立つが、すべからくイラストリアスの艦載機によって撃墜される。

 

 ならばとビッグセブンの一角、ロドニーの戦艦砲が放たれるが、綾波の頭上を飛び出した愛宕の白刃により砲弾は切り裂かれる。次いで飛来した弾幕も、プリンツの破られぬ盾によって防がれる。さすがに無傷とはいかなかったようで、プリンツは盾を一瞬で剥ぎ取られたうえで小破した。

 

 リディ指揮官は艦載機と艦砲の再装填を行うために前衛を下げようとするが、綾波と愛宕がそれを許さない。

 

「鬼神流奥義……!」

 

「あらら、どういじっちゃおうかしら」

 

 両艦は浮足立つリディ指揮官の艦隊に肉薄雷撃を行い、あっという間に前衛を壊滅させる。だてに酸素魚雷を積んではいない。

 

「じょ、冗談じゃ……!!」

 

 リディ指揮官の驚愕の声をよそに、おじいちゃんはにこにことしたまま旗艦、ウォースパイトとその脇で発艦準備を整えたレキシントンを見つめた。

 

「艦載機たち、いきなさい!」

 

 容赦ない攻撃がリディ指揮官の艦隊に突き刺さり、前衛の大暴れもあって残すは旗艦、ロドニーのみとなった。

 

 そして、示し合わせたようなタイミングで前衛の3人が離脱する。リディ指揮官とロドニーにはその意図がわからないようだが、今まで攻撃に参加していなかった「オールドレディ」と、急速に飛来する艦砲に気づいたのか青い顔をしていた。

 

「Belli dura despicio!」

 

 艦砲から煙を吐き出しながら、命中を確信したウォースパイトがつぶやいた。


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