ウォースパイトを旗艦としたおじいちゃんの艦隊は「ファイアフライ作戦」のために外洋で戦闘をしていた。
まだ北方連合からは遠く離れているためかセイレーンの姿は見えず、こちらに攻撃を仕掛けるのは質の悪い量産型ばかりだ。こんな敵に後れを取るほどおじいちゃんの艦隊は弱くない。実戦経験は乏しいとはいえ自主訓練と座学は欠かさなかったその艦隊は、まるで一つの生物であるかのように蠢き、敵の量産型を次々と海面から消し去ってゆく。
「張り合いのないことだわ」
艦砲を斉射したウォースパイトがインカムに向けてため息とともにそんな言葉を吐き出す。
「そう? ピクニック気分で戦闘するのもなかなか楽しいわよ。見渡す限り水平線っていうのはいただけないけど」
ウォースパイトの愚痴に答えたのはプリンツ・オイゲンだ。彼女は散歩にでも出かけているような調子で言う。彼女の眼前では綾波と愛宕が敵陣の真っただ中に突撃し、縦横無尽に砲撃し、雷撃し、時には手にした武器で近接戦を仕掛けている。彼女は決して、綾波と愛宕から視線を外すことはない。常に援護ができるように目を光らせている。
肝心のおじいちゃんはどうしているのだろうか?
――彼は空にいた。
イラストリアスやレキシントンから発艦される艦載機とは別に、一機だけ烈風が上空を高く飛んでいる。まるで海鳥のように。
「指揮官? そろそろ疲れてきたんじゃない?」
「うぅむ……やはりブランクがあると体がついてこないね」
ウォースパイトがちらりとその烈風を見遣りながら問うとノイズ交じりにインカムから声が返ってくる。
彼の烈風は特別製だ。外装こそ重桜の戦闘機、烈風だが、武装を外して索敵に特化している。内装は根本的に弄り回し、航続距離と機動性を両立させて耐久力を犠牲にしている。そのため制空権が確保されていない海域では持ち出せないが、イラストリアスのおかげでたいていの海域でおじいちゃんはこれに乗って細かい戦場のコントロールを行っている。
「ウォースパイトさん、もうじき海域の敵を一掃できます。終わったら休憩しましょう」
「終わったわよ」
愛宕の主砲が火を噴き、その反動を打ち消すように魚雷が放たれる。すかさず次が放たれ、最後の量産型に突き刺さると爆炎を上げた。
狂犬だ、と綾波は思う。もちろん彼女も「ソロモンの狂犬」と呼ばれる駆逐艦夕立のことは知っているし、仲も良い。ただ、爆炎の中で髪の毛を揺らしながら獰猛に笑う彼女をほかにどう例えて良いのか綾波は分からない。
愛宕は綾波に見られていることに気づいたのか、大きく息を吐き出すと刀を納め、いつもの温和な顔で綾波に笑みを投げた。目元だけは冷たく凍り付いたままで、綾波の背に寒気が走った。
「付近に敵影なし。指揮官のほうからは確認できる?」
「いや、こちらも反応はないよ」