「死後の世界へようこそ」
「閻魔様は?」
「それは道教の神様です。仏教にはおりません」
「あなたはウジ虫へ転生です」
「え”」
「でも極楽へ転生するチャンスがあります」
「極楽!!」
「ではこちらへ。極楽へ転生します」
 ……そして始まる、レベルアップの日々。


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極楽転生 - 極楽良いとこ一度はおいで

 乳を流したかのような白い世界。

 

「死後の世界へようこそ。案内のスジャータと申します」

 

「あの。閻魔(えんま)様は?」

 

「それは道教の神様です。仏教にはおりません」

 

「では、そちらの方はあちらへ、

 こちらの方は、向こうへ移動してください」

 

「なぜ別々に?」

 

「あちらの方は、生前やその前世に徳を積んでおられましたので、新人コースは免除されます」

 

「さて、皆さまにお話しがあります。

 皆さまは生前の徳が足りておらず、本来なら畜生(動物)・修羅(争いが絶えない戦地)・餓鬼(飢餓(腹ペコ))・地獄に転生します。

 しかしながら、アミダ様の格別な慈悲をもって、皆さまを極楽へご案内いたします」

 

「ご案内する条件は、10回以上、アミダ様におすがりしたことがあること、つまり『南無、阿弥陀仏』と唱えたこと」

 

(私、そんなことしたかしら。そういえば、ちっちゃいころ、おばあちゃんについて読経の真似事をしたような……

 意味も分かってなかったけれど、極楽にいけるのはおばあちゃんのおかげね。おばあちゃん……)

 

「女の方は、もう一つ条件があります。女の体を厭うた(嫌った)ことがあること」

 

(そうね。女性だけの憂鬱な日だったり、男性にバカにされたり、男だったら、と思ったこともあったわ)

 

「ではこちらへ。極楽へ転生します」

 

----

 

(え? 男? 男になってるんですけど!!!)

 

「あの! 男になってるんですが!!!」

 

「あなたは女の体を厭うたのでしょう? ですから男の体にしました」

「そのため、極楽は見た目は男性しかおりません」

 

「え、天女様は?」

 

「天女がいるのは天界です。極楽ではありません」

 

「では、あとはあちらの方についていってください」

 

----

 

「訓練教官のタモン先任軍曹である。

 話し掛けられた時以外口を開くな!

 口でクソたれる前と後に『南無! 阿弥陀仏!』と言え!

 分かったか ウジ虫ども!

 

(挿絵予定)

 多聞天(※) 東大寺金堂

(挿絵予定)

 

 

「南無! 阿弥陀仏!」

 

「ふざけるな! 大声出せ!

 タマ落としたか!」

 

「南無! 阿弥陀仏!」

 

「貴様ら雌豚が おれの訓練に生き残れたら

 各人が菩薩となる。仏となる第一歩だ

 その日まではウジ虫だ!

 地球上で最下等の生命体だ

 貴様らは人間ではない

 両生動物のクソをかき集めた値打ちしかない!」

 

「貴様らは本来、畜生道でウジ虫転生するところを、アミダ校長の格別の慈悲をもって、おれが訓練してやる!

 

 貴様らはキビしいおれを嫌う

 だが憎めば それだけ学ぶ

 俺はキビしいが公平だ

 肩書差別は許さん

 男性 女性 僧侶 在家(一般人) 善人 悪人 俺は見下さん(※1)

 すべて平等に価値がない!

 おれの使命は役立たずを成仏に導くことだ 愛する仏道の害虫を!

 分かったか ウジ虫!」

 

「南無! 阿弥陀仏!」

 

「ふざけるな! 大声出せ!」

 

「南無! 阿弥陀仏!」

 

「スキン顔 名前は?」

 

「山田太郎です!」

 

「本日より釈正道信士と呼ぶ(※2)

 いい名前だろ?」

 

「南無! 阿弥陀仏!」

 

 (中略)

 

「人間界でクソまじめに努力する(戒律を守る)こたぁない!

 アミダ様に任せ(他力本願)りゃケツに奇跡(本願力)を突っ込んでくれる!

 

 その奇跡で貴様らはここ(極楽浄土)にいる!」(※3)

 

「死ぬか? 俺のせいで死ぬつもりか? だがここに生・老・病・死、四苦八苦はない!

 貴様らは成仏するまで訓練だ! わかったか!」(※4)

 

「南無! 阿弥陀仏!」

 

「極楽では許可なく死ぬことを許されない! そもそも死がない!」

 

(中略)

 

「本日をもって貴様らはウジ虫を卒業する

 本日から貴様らは信心(※)である

 兄弟の絆に結ばれる

 貴様らのくたばるその日はこない

 どこにいようと菩薩は貴様らの兄弟だ

 多くは極楽で訓練を続ける

 ある者は成仏(卒業)して、二度と戻らない

 だが肝に銘じておけ

 極楽では死なぬ

 死なぬようにするために我々は存在する

 だが極楽は永遠である

 つまり―――貴様らも永遠である!」

 

※信心:菩薩レベル1のこと。菩薩とは、仏になる途上の訓練中を指す。菩薩レベルは52まであります。カンストすると仏にクラスチェンジ。そこで仏に成る、つまり成仏。

 

(え”、あとコレが51レベル…………)

 

-----

 

解説:

 浄土宗、浄土真宗など、「南無阿弥陀仏」を唱え、「極楽往生」を目的とする仏教宗派の骨子がコレです。

 

 アミダ様は、自分にすがった全員を仏にする、と決心し、そのため自分の仏界(マイ・ワールド)進学(成仏)率100%の予備校にしました。これが西方極楽浄土です。成仏するまで卒業できません。

 この決心は48個あり、「全員を仏にする」は十八番目にあります。これが十八番(おはこ)の語源とする説もあります。「TS転生」は三十五番目。

 

 極楽往生とは、死んで極楽へ行く(往生する)こと、つまり極楽へ転生することです。

 こんな訓練かはともかく、TS転生と、極楽往生(転生)は終わりではなく、成仏への始まりというのは本当。キャラは仏教に関係ありますが、極楽にはいないはず。

 ウンチク系エッセイでなくこんな形にしてみました。

 

 

※多聞天(別名 毘沙門天):いわゆる四天王ですが、ぶっちゃけ下っ端なので軍曹役になってもらいました。

 戦国時代に自称毘沙門天と他称第六天魔王がいますが、属国の前線指揮官と帝国皇帝くらいレベルが違います。

 

※1「男性 女性 僧侶 在家(一般人) 善人 悪人 俺は見下さん」

 

『男性 女性』 諸々の歴史的理由で、仏教に「女性は仏に成れない」という思想が混入したが、「ならTS転生で男になればいい!」という解決策を示した。ちなみに法華宗ではTS変身する。

『僧侶 在家』 それまでの宗派は、出家して僧になった人だけが成仏できる、在家は今世では徳レベルだけ上げて来世に期待、という思想だったが、在家(一般人)も成仏できる。

『善人 悪人』 同じく、悪人も成仏できる。『善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや』って言われてるやつ

 

※2「本日より釈正道信士と呼ぶ」

 

 適当だが浄土系の寺のHPみて決めたので、戒名の命名ルールにそってるハズ。生前にろくに信心のなかった下っ端。のつもりで命名しようとしたが、どの寺も、物凄く信心や善行のあった人の命名ルールしか書いてなくて困った。

 

※3「人間界でクソまじめに努力する(戒律を守る)こたぁない!

 アミダ様に任せ(他力本願)りゃケツに奇跡(本願力)を突っ込んでくれる!

 その奇跡で貴様らはここ(極楽浄土)にいる!」

 

 浄土(真)宗の根幹。自力で戒律や修行をするのではなく、アミダ様(他力)お力(本願力)にすがる。なので僧も肉食妻帯OK。なお、元ネタは「クソまじめに努力するこたぁない!  神様に任せりゃケツに奇跡を突っ込んでくれる!」で、あまりにハマりすぎててワラタ。

 

※4「死ぬか? 俺のせいで死ぬつもりか? だがここに生・老・病・死、四苦八苦はない!

 貴様らは成仏するまで訓練だ! わかったか!」

 

 人間界は苦しみやら欲やら、仏道修行には気が散るものがあるので、そういうのがない極楽で集中講義。近隣に遊ぶ場がなく、勉強しかすることない、山奥の寮制高校・大学みたいです。

 




「これ『異世界転生』では?」
「いやいや。『畜生界』といっても別の世界があるわけじゃない。この世界の動物になるだけ。『仏界(極楽浄土)』も、この世界のどっかにある。異世界じゃない。」
「なるほど」

「スローライフ?」
「何しろ死がない永遠だから。500年に一度、岩を羽衣の布で触れて、それが何回もあって、徐々にすり減って、最後に岩がなくなる。そういう時間感覚だから。むっちゃスロー(ゆっくり)
「さざれ石が巌(いわお)となりて苔がむすどころじゃねーな」

出典:仏説無量寿経
http://labo.wikidharma.org/index.php/%E4%BB%8F%E8%AA%AC_%E7%84%A1%E9%87%8F%E5%AF%BF%E7%B5%8C_(%E5%B7%BB%E4%B8%8A)#.E5.9B.9B.E5.8D.81.E5.85.AB.E9.A1.98.E3.81.AE.E5.BB.BA.E7.AB.8B

参考: 浄土真宗聖典 菩薩:菩薩五十二位
http://labo.wikidharma.org/index.php/%E8%8F%A9%E8%96%A9
wikipedia:菩薩 が「要出典」と怒られてたので、浄土真宗聖典に変更(2020/1)

あとどっかの寺のHPとかもいっぱい見たが忘れた


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