ーー 半年前、如月少年院 正門前ーー
「岡崎、この半年間良く頑張ったな。」
「いえ、全て貴殿方刑務官さん達の指導のお陰っす。本当にお世話になりました。」
「いいんだ。しかし、半年前の面影はすっかり無くなったな。手もつけられねぇ程の悪餓鬼だったのがまさか院一の模範囚にまで成長するとはな。」
「はい、俺もこの場所で過ごして、改心することが出来ましたから。」
「ま、唯一変わらないのが、その独特のヘアースタイルじゃねえか?俺の学生時代に流行った髪型だぜ?」
「はは、こいつは俺のポリシーなんす。それに、昔の俺のダチが誉めてくれた髪型なんでね。そう易々と変えるわけにはいきませんよ。」
「そうか・・そういや、お前はこれからどうしていくつもりなんだ?どこかで働くのか?」
「ああ・・本当は俺もそうしようと思ってたんすけど、こんな物を貰ったんす。」
『文月学園高等部 編入試験要項』
「文月学園・・こりゃあ驚いた。文月っていやあ最近話題になってる学校じゃねえか。岡崎、編入試験ってことは・・ここに行くってことなのか?」
「ええ。ちょっと前に院長から呼ばれまして。そしたらそこにこの文月の学園長って名乗る婆さんに言われたんす。『このまま中卒の肩書きで残りの人生を過ごすか、それとも、アタシの学校でもう一度学生をやり直すか、好きな方を選びな。』って。」
「んで、後者を選んだと?でも何でそんな事するんだろうな?」
「何か、素行不良少年の為の更正プロジェクト?とか言ってましたね・・難しい話っぽかったから途中から聞くの止めましたけど。ま、あの婆さんの上から目線な態度は気に入りませんでしたけど、こんなゴミクズ当然の俺に高校に通える機会をくれたんスよ?なら、こんな誘い断る理由は無いでしょう?」
「そうか・・人生何が起こるか分からねぇなあ。だけどな岡崎、機会を貰ったってことはそれ相応の態度で応えなきゃあならないという事だ。少なくとも、相手方を失望させるような真似は何があってもしちゃならねぇぞ。」
「はい、もう暴力沙汰は起こさねぇ様努力します。刑務官の皆さんも、お体に気をつけて。」
「ああ、そっちこそもう二度と戻ってくるんじゃないぞ。お前が楽しい青春を送れる事を祈ってるからな。」
「ありがとうございます。それじゃあ。」
そうして、再び刑務官に頭を下げ、俺は身を翻して歩き出した。
ああ・・漸く、ようやく辛かった少年院生活が終わった。これにて俺は晴れて自由の身となった。この半年間・・長かった。
血の滲むような生活環境、刑務官達の地獄の扱き、厳しい規則やスケジュール。そして同じ院の奴等からされ続けた陰湿なイジメ・・そんな苦行を俺は全て乗り越えた。最早今の俺には怖いものなど何も無い様に感じる。
そして更に、俺は絶望的だった高校への進学の切符も得た。この文月学園ってえのはどんな所なのか・・うちは特別なシステムを取り入れた最先端の学校だとあの婆さんは言ってたが・・まあそれは行ってみれば分かるだろう。
・・と、その前に一つ、俺にはやるべき事があった。
「この半年間溜まりに溜まったアニメを網羅しなくてはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ーーー
「・・ふむふむ、今季のアニメは中々の豊作だな。PVを見る限り面白そうな物ばかりだ。」
俺はあのまま近くのアニメショップまで赴き、店頭に所狭しと並べられているグッズを眺めていた。これは俺が少年院に入る前からの日課であり、こうして念入りなチェックを行っている。
何せ、アニメというのは流行の入れ替わりが激しい。自分の見ていたアニメが気づけば過去の産物と化しているなんて普通の事。だから常日頃からの確認は必要不可欠なのだ。
さて、ここまで来れば大抵の人はお気づきだろう。この俺・・岡崎大吾は、れっきとしたアニメオタクだ。
「・・何ぃ!?『魔法少女の弟子めるたん』の二期が放送されていたのかぁ!?しかも劇場版公開決定だとぉ!?・・なんて事だ・・俺がムショに入ってる間にこんな重要な事があったなんて・・!」
俺は劇場版の予告映像を見ながらその場で落胆する。『魔法少女の弟子めるたん』といえばかつては最高の神アニメと評された伝説の作品・・!この俺も毎週の視聴、録画は勿論、DVD&Blu-rayBoxも全て購入し、イベントにも必ず訪れる程だった!当事の俺は全てをめるたんに捧げたといっても過言では無いっ!!
そんな俺が・・幾らムショに入ってたとはいえ・・彼女の活躍を見逃すなんて・・取り返しのつかない愚行を犯してしまったんだっ!!末代までの屈辱・・!!
「ごめんよめるたん・・こんなどうしようもない俺を許してくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「店長・・あの人売り場の前で泣き崩れてるんですけど・・注意した方がいいっすかね。」
「そっとしておいてあげなさい。あの人はきっと人生に疲れきって、癒しを求めているのだろう。」
うう・・だが、過ぎた事をいつまでも引きずっていてはいけない。そんなくよくよした考えでは、俺はいつまで経っても前には進めねぇ!そうだろう・・めるたん?
『アタシ!絶対諦めない!確かに今は師匠の足元にも及びません・・でも!それは諦める理由にはならないもん!どれだけ転んでも、躓いても・・道を踏み間違えてもっ!!目標とする人がいる限り、アタシは諦めない事を止めないっ!!!』
俺の気持ちに応える様に画面の向こうでめるたんが此方を見てそう言い放つ。ありがとう!めるたん!俺、必ず君のもとまで辿り着いてみせる!だから待っててくれ!君に相応しい男になって、もう一度君に会いに行くよ!
大好きだ!!めるたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんんんんん!!!!
「・・今度はテレビ画面の前で土下座してますけど?」
「なんて事だ・・この国の若者はこんな状態になってしまうほど追い詰められているというのか・・!?」
「いや、ただの不審者だと思いますよ?」
さて、本来ならここで売っているグッズを全て購入し、家で視聴するところではあるが、生憎今は手持ちどころか金銭すら持ち合わせていない。まあ、先程まで少年院にいたので私物なんて持っている筈は無いのだが。
あるのは文月学園編入試験の要項と連絡用の携帯電話のみだ。
「仕方ない、めるたんはまたの機会にするか・・取り敢えず今日は家に帰って明日の準備をするとするか・・母さんと天にもただいまって言わねえとな。」
そう言って俺は立ち上がりショップを出ようと出口へ向かったとき、ある一つの光景が目に飛び込んできた。
「・・・・・・。」
丁度出口からすぐの道を右側から歩いてきた二人組の男女のカップル。どちらも俺と同じくらいか少し年上に見え、今時の若者といった派手な格好をしていたのだが、女の方は大きな青いキツネっぽいぬいぐるみを二つも抱えていた。
「(随分そのナリに似合わねぇ組み合わせだな・・にしてもあんなもん二つも買ってやったのか?しかも片方・・妙に手作り感があるが・・。)」
ま、どうでもいいかと思い、俺は家がある反対方向へと歩き出した。クソ・・今季のアニメはどれもこれもが興味をそそられる内容ばかりだ・・考えるだけでワクワクするな!そしたら一刻も早く家に帰り、母親と妹に挨拶と謝罪をして、テレビの前で全裸待機しなくてはな。
『うぅ・・えぐ・・ひぐっ・・・・』
と、道の向かい側からそんな嗚咽が聞こえてきた。何事かと視線の先には、一人の女の子が泣きながら歩いているのが分かった。
ううむ・・流石にあんな小さな女の子が悲しそうに泣いている横をそのまま素通りするのは精神衛生上よくないだろう。
「どうしたお嬢ちゃん。何で泣いてるんだ?」
そう言うと、その女の子は顔をあげたのだが、瞬間驚きの表情を浮かべる。まあ、いきなりガタイのいいリーゼントの男に急に話しかけられれば怖がるのも無理は無いだろう。
おっと、勘違いしないでほしい。おれはあくまで善意でやってるんだ。俺は三次元の女の子には興味が無いからな。
「う、うぅ・・実は、さっき男の人と女の人が来て、葉月の持っていたぬいぐるみを取っていったんです・・。」
「ぬいぐるみ・・まさかそれって、すげぇ派手な格好した奴等じゃなかったか?」
「はい、そうです。でも・・それはお姉ちゃんにあげる物だから返して下さいって言ったら・・お前みたいな餓鬼より俺の彼女が持ってた方が良いんだよ! って言われて・・二つとも無理矢理・・。」
おいおい、さっきの奴等マジか。幾らそのぬいぐるみが欲しいからってこんな小さな女の子から奪ったってのかよ。人間性の欠片も無い真似をしやがって・・これだから三次元は・・!
「・・ん?ちょっと待て、その右頬・・どうしたんだ?」
よく見ると、女の子・・葉月ちゃんの右頬が少し赤くなっていた。それはまるで何かに強く当たった事で出来た感じだ。
まさか・・と思い俺は恐る恐る葉月ちゃんに尋ねた。
「・・殴られたのか。」
俺の質問に葉月ちゃんはこくりと頷いた。
「あのぬいぐるみは、葉月のお姉ちゃんにあげる筈だったんです。ドイツから引っ越してきてから、お姉ちゃんずっと元気が無くて・・それでお姉ちゃんが欲しがってたぬいぐるみをあげれば、元気になると思ったんです・・。」
「・・・・。」
「でも、葉月のお小遣いじゃぬいぐるみは買えなかったんです。そしたら、馬鹿なお兄ちゃんがあのぬいぐるみを持ってきてくれたんです。それに、もう一人綺麗なお姉ちゃんからもぬいぐるみを貰ったんです。『一つは貴女のお姉ちゃんの、もう一つは貴女のもの』って・・!」
「とっても嬉しかったです。これでお姉ちゃんも元気になるって思ってたのに・・折角馬鹿なお兄ちゃんと綺麗なお姉ちゃんが葉月の為にくれたものだったのに・・うぅ、えぐっ。」
話しているうちに感極まったのか、葉月ちゃんは目を潤ませていた。成る程な・・この子は自分の為じゃなく、姉の為に何かをしてあげたいという優しい心の持ち主だ。つまりさっきの奴等は自分の欲を優先し、こんな年端もいかない女の子に手をあげたと、成る程成る程・・。
「・・葉月ちゃんと言ったな。状況はよく分かった。それ以上泣かなくていい。お兄ちゃんがそのぬいぐるみ、取り返してきてやる。」
「・・・・本当ですか?」
「おう、男に二言はない。」
「・・・・ありがとう!リーゼントのお兄ちゃん!」
涙を拭い、嬉しそうに笑みを浮かべる葉月ちゃん。ふむ、三次元の女の子にお兄ちゃんと呼ばれるのも案外悪くないかも知れないな。てかリーゼントのお兄ちゃんって・・
「おし、じゃあ葉月ちゃん。俺はさっきの人達ぬいぐるみを返して貰うように話してくるから、ここで待っててくれるか?あ、後これを持っておいて欲しい。」
「う、うん。大丈夫だけど・・」
「なぁに、すぐに戻ってくる。葉月ちゃんは何も心配しなくていいから。じゃ!行ってくる!」
そう言って、俺は来た道を引き返し、あのカップルを追いかけた。
ーーー
ずっと道を早歩きでいると、数分もしないうちに例のカップルを見つけた。幸いな事に通行人もいない。状況的には大助かりだ。
すると、カップルの話し声が聞こえてくる。
『いやー!ラッキーだったな!お前の欲しがってたぬいぐるみが二つもゲット出来てよ!』
『うんうん!しかもさ、さっきのガキの態度マジウケたしね!お願いします・・それは大切な物なんです・・返してください・・だってさ!』
『ギャハハ!そんなん俺等に関係ねーからっての!しかもアイツ俺にしがみついてきやがってよ。思わず殴っちまったぜ!』
『アハハ!アイツ泣いてたねー、ザマーミロっての!』
成る程な。さて、それじゃあとっとと用件を済ませるか。俺はゆっくりと歩み寄って、男の方に声をかける。
「すみません、ちょっと宜しいでしょうか?」
『あぁ?なんだお前。』
二人組が揃って顔を此方に向けてくる。
『うーわ、何コイツの髪型、いつの時代かっての。』
『古臭ぇし、だっせえな。んで、俺等に何の用だよ?』
男の方が一歩前に出て、俺に対して威嚇するように詰め寄ってくる。なんだ、そっちから来てくれるのか。なら話は早いな。
「いえいえ、そんな大した事では無いんですよ。すぐ済みますから。」
その瞬間、俺はその男の顔面に拳を叩き込んでいた。
「テメェ等・・子供に手ぇあげやがって。生きて帰れると思うなよ!」
ーーー
「お待たせ、葉月ちゃん。」
事を済ませた俺は、葉月ちゃんの待っている場所へと戻った。
「あっ、お兄ちゃん!お帰りなさいですっ!」
俺の姿を見つけた葉月ちゃんがトコトコと歩いてくる。
「お兄ちゃん・・大丈夫だったですか?」
「大丈夫だ。ちょっと軽く『お説教』してきただけで、もう解決したから。ほれ、約束通りに返して貰ってきたぜ。これでいいのかな?」
俺は両手に抱えていた大きなぬいぐるみを二つ、葉月ちゃんに渡す。彼女の体にはその大きなぬいぐるみは持ちづらそうだったが、とっても嬉しそうな表情をして受け取ってくれた。
「ノイちゃん・・良かったですっ・・ありがとう!リーゼントのお兄ちゃん!」
「はは、どういたしまして。それよりも、もう日も沈みかけてる。早く家に帰ってお姉ちゃんに渡してやりな。」
「はいっ!あ・・でもお兄ちゃん、その手・・怪我してるです・・。」
葉月ちゃんが不思議そうに俺の右手を見詰める。そういえば、あのときにどうやら付いてしまった様だ。
「ああこれか。気にしないでくれ。ちょっと途中で擦りむいただけだから。じゃ、俺はもう行くね。」
「あっ!待ってください!えっと・・お兄ちゃん、ちょっと持っていて欲しいですっ。」
俺は葉月ちゃんから一旦ぬいぐるみを受け取り、持っていた鞄から何かを取り出した。何だ?お礼でもしようというのか?
「これ、お兄ちゃんにあげるですっ!」
葉月ちゃんの掌には、青いローブを着た金髪の女の子のキーホルダーがあったのだが・・
「こ・・これは!めるたんのキーホルダー!?」
そう、それは先程までかじりつく様に眺めていた『魔法少女の弟子めるたん』の主人公、めるたんだったのだ。
「お兄ちゃん・・見た目はちょっと怖いですけど、とっても優しいです!さっきの馬鹿なお兄ちゃんと同じくらい好きですっ!だからこのキーホルダー、貰って欲しいですっ!お兄ちゃんがずっとめるたんの売り場にいたので、好きだと思ったんです!」
「おお・・い、良いのかい?こんな宝物を貰っちゃっても・・!?」
「はいっ!是非お兄ちゃんに受け取って欲しいですっ!」
葉月ちゃんがそこまで言うのだ。ここで受け取らないのは彼女の誠意を傷つけてしまう、そんな事は俺には出来ない!という訳で、俺は葉月ちゃんからキーホルダーを受け取った。
ありがとうございます葉月様!この御恩は一生忘れませぬ!ひゃっほう!めるたんめるたん!
「それじゃ、葉月はお家に帰るです!リーゼントでオタクのお兄ちゃん!バイバイですっ!!」
そう言って、葉月ちゃんはパタパタと駆け出していった。まさか俺があんな小学生に感謝されて嬉しく感じるとは・・どうやら俺は少し三次元を侮っていたのかも知れないな。
何はともあれこれで一件落着か。お姉ちゃんの為といったか、ドイツっていやあ日本からかなり距離がある。ただでさえ国内の引っ越しでも相応だというのに、海外からともなればそりゃあ寂しさや孤独感は相当だよな。元気になればいいが。
「・・さて、俺も帰るか。さて・・まずはこのアニメから見るとするか、丁度今日から一話目だしな。」
そして、俺はその場を後にした。だが帰路についている途中でふと思った。
・・あの子の言っていた馬鹿なお兄ちゃんって、どんな奴なんだろうか。ま、小学生に馬鹿といわれてる位だから余程のヤバい奴なんだろう。ま、別にどうでもいいか。
ーーー
「学園長、本当によろしいのですか?」
「ん?ああ、高橋先生かい。何のことだい?」
「今回の更正プロジェクトの事です。確かにこれが成功すれば我が校はかなりの知名度と評判を得ることが出来ます。」
「それの何が不満なんだい?」
「その対象の人物です。私も彼についての経歴を見させて貰いましたが・・正直に言いますと、彼を文月に入れるのは危険ではないでしょうか?」
「・・・・。」
「一応少年院でちゃんとした訓練を受けてきた様ですが、だからといって安全かと言われればそうではありません。うちの生徒に危害を及ぼす可能性も・・」
「高橋先生、アタシだってそれくらい理解しているさね。だけど、それを踏まえた上でアタシはコイツを選んだのさ。」
「・・と言いますと?」
「ま、それは追々わかるさね。コイツはね・・根っからの悪人でも、不良なんかでもないのさ。」
ーーー
「お姉ちゃん!ただいまですっ!」
「お帰りなさい、葉月・・それ、どうしたの?」
「これ、お姉ちゃんへのプレゼントですっ!」
「あっ、これ・・ウチがずっと前から欲しかったノイちゃんのぬいぐるみ・・ウチの為に?」
「はいっ!お姉ちゃんが最近元気が無いから、葉月が元気になってほしくて用意したですっ!」
「葉月・・・・ありがとうね。お姉ちゃん、すっごく嬉しい!」
「喜んでくれて良かったです!それに、今日葉月、いい人に会ったんですっ!」
「いい人?」
「はい!とっても大きくて・・顔がちょっと怖くて・・・・」
「リーゼントでオタクのお兄ちゃんなんですっ!!」
思いつきな作品なので、手軽に暇潰し程度に読んで頂ければ嬉しいです。
面白いなと少しでも思ったらお気に入り登録なんかもお願いします。
原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?
-
入れろ、絶対に
-
別に入れなくてもいいよ