バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 歴史

問 次の文を読み、( )を埋めての名前を完成させなさい。
『第二次世界対戦で大日本帝国海軍によって編成された爆装航空機による、敵艦に体当たりを行い自分もろとも相手を撃沈させる事を目的とした特別攻撃部隊を(      )という。』


岡崎大悟の答え
『神風特攻隊』

教師のコメント
正解です。他には『神風特別攻撃隊』とも呼ばれますね。


土屋康太の答え
『死なばもろとも部隊』

教師のコメント
確かに本質は間違ってはいませんが、不正解です。


吉井明久の答え
『捨て駒』

教師のコメント
お国の為に散った人達に謝って下さい。


第八問 女の子の手料理は男をイチコロ(物理的)にする

―――side大悟

 

 

「あぁ‥‥‥くそったれ、頭が痛ぇ‥‥‥」

 

Dクラス戦の翌日、俺はいつも通り学校に向かっていた。珍しく普通の時間での登校だ。

だがいつもと違うのは朝から妙な頭痛と倦怠感に襲われているという事だ。

何故だろう。意識を奪われる程の綺麗な川に自分が立っていて亡くなった婆ちゃんに会ったような気がする。まさかとは思うがあれは三途の川だったのか? てことは俺は一度死んでたってこと? 待てよ‥‥‥なら異世界ハーレム系主人公になって美少女達とイチャイチャするチャンスだったじゃん!! どうして生き返ってしまったんだ! クソッ!! 神様はなんて残酷なんだ!!

 

「一体昨日は‥‥‥何してたんだっけな‥‥‥?」

 

イマイチ昨日の出来事が曖昧だ。覚えているのは俺が昨日、目を覚ました時には近くの病院のベッドの上だった。一緒に帰っていた秀吉の話によると、俺は急に倒れ、前世での罪を懺悔し来世への戯言を吐きながら泡を吹いて気を失い救急車で運ばれたという。そして何とか救命措置により意識を取り戻した。医者の話によると心肺停止寸前だったとか。よく生きてんな俺。

 

「確か昨日は‥‥‥試召戦争が終わった後に、姫路とブツの取引をして‥‥‥そんでラブレター‥‥ドーナツ‥‥‥チッ、駄目だ。思い出せねえ」

 

まるで思い出そうとすると脳がそれを拒否するかのように記憶がぼやける。

 

「‥‥‥まあいいか。過ぎたことだしな」

 

今日の予定は、確か雄二の話だと1日テストの点数の回復試験なようだから、行かなくても別に何かペナルティがあるという訳では無い。けれどすぐにBクラスとの戦争に踏み切る様だから、取り敢えず文系だけはちゃんと受けて後は寝てよう。

母さんからは「今日は休んだらどうだ?」といわれたがそこまででも無いので断った。

勝利品の約束のイラストは後はコピーするだけだから図書室のコピー機を借りるか‥‥‥

 

「おはようじゃ、大悟」

 

突然声がかけられたので振り返ると、そこには俺の親友の絶世の美女こと木下秀吉がいた。

 

「おっす、秀吉。今日も可愛いな」

「もうそのお主の挨拶にも慣れたわい。それより大悟、もう体の調子は良いのか?」

「ああ、ちょっと臨死体験をしただけだ」

「世間一般ではそれはちょっととは言わんと思うのじゃが‥‥‥」

 

うむ、確かに秀吉の言う通りかもしれん。

 

「けど秀吉。お前が救急車を呼んでくれたんだろ? 済まなかったな」

「何を言うのじゃ大悟。儂らの仲じゃろうが。友達を助けるのは当然の事で、お主が礼を言うことでは無い」

 

えっ‥‥‥? 何この子凄く男らしい。ヤバい、惚れそう。

 

「秀吉、もし俺が三次元の人間と恋をするなら真っ先にお前にプロポーズしようと思う」

「真剣な目で何馬鹿な事を言っておるのじゃお主は」

「そんなっ! 秀吉は俺の事が嫌いなのか!?」

「誰もそんな事言っておらぬじゃろ!? 第一儂は男じゃ!」

「振られた‥‥‥秀吉に振られるって、ギャルゲーの選択ミスでバッドエンドになるより辛い‥‥‥泣きそう」

「‥‥‥その調子なら大丈夫そうじゃな」

 

神様、俺が一体何をしたと言うのですか。貴方は俺の事が気に入らないというのですか。

 

 

だがその後、俺は自分の頭痛と倦怠感がどうでも良くなる位の出来事を目の当たりにする事になる。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

『Y・A君からの緊急タレコミ! Fクラスの岡崎大悟と坂本雄二が、あの船越女史を巡って泥沼関係に!? ~~教師と生徒の禁断の恋路特集~~』

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

「ゆ、雄二? 大悟?」

 

「「あ‥‥‥あ‥‥‥」」

 

 

 

 

「「明久ァァアアアアアアア!!!!!!」」

 

 

 

 

 

ーーAクラスーー

 

 

 

 

 

 

「ふ、二人とも、一体どうしたの?」

「許さない‥‥‥‥雄二は誰にも渡さない」

「へぇ‥‥‥随分とふざけた事をしてくれるじゃない。大悟‥‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

―――side明久

 

 

Dクラス戦の翌朝、僕はいつも通り学校へ向かう。

今日は試召戦争で消費した点数を補給する為にテスト漬けの筈だ。頑張らないと。

 

「おはよー、皆ーー」

 

「「明久ァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」

 

教室の戸を開けた途端、僕は二つの大きな腕に顔面を捕まれた。

 

「えっ! ちょっ、何!? いきなりなんなの!?」

「やってくれたなぁ明久ァァ‥‥‥」

「まさかこんな形で返してくるとはなぁ‥‥‥」

「え‥‥‥一体何のこと?」

「「とぼけんなこの馬鹿野郎!」」

 

随分と怒り心頭の様子の雄二と大悟。

 

「お前が下らねぇデマを広げやがったせいで、朝から船越女史に追いかけられる羽目になったじゃねえか!」

「そうだ! おかげで俺達ァ連絡先を交換させられそうになるわ、デートの約束をさせられそうになるわ、「親御さんへの挨拶はいつ頃がいいかしら?」とか言われるわ散々だったんだからな!!」

 

そう言えば、僕は昨日姫路さんと別れた後、職員室に言って先生にデマ情報を流したんだった。「実は同じクラスの坂本君と岡崎君に『船越先生は俺の女だから手を出したら許さねぇぞ』って言われたんですけど」って。

だからか、ここまで来る途中に他の生徒が「アイツら‥‥‥可哀想に。きっと単位を落としてしまったんだな‥‥‥」ってひそひそ話をしてたのは。仕返しのつもりだったけどまさかここまで広まるなんて思ってなかった。

 

「なんだ、良かったじゃないか二人とも。船越先生なら多分浮気もしないと思うし、家事もしっかりこなしそうだし、なんなら夜の相手もリードしてくれそうで僕の頭蓋骨が握り潰される様に痛ぃぃぃいいいいいい!!! 出る! 出ちゃう! 脳みそがグロテスクな形になって飛び出るぅぅうう!!!」

 

「おーい。誰かペンチと釘を持ってきてくれー」

「塩とライターもなー」

 

ヤバい! このままだと僕は生爪を剥がされて釘を打たれて塩を塗りたくられた挙げ句傷口を焼かれる!!

 

「ス、ストップ!! 僕が悪かった! もう二度とこんな事はしないと未来永劫に誓います! だから離してぇぇええええええ!!!」

「‥‥‥チッ、仕方ねえ」

「船越先生にはあれは誤解だって分かって貰えたからな」

 

そう言って、二人は渋々手を離して僕を解放する。た、助かった‥‥‥尋常じゃない程痛かった。僕の頭、形変わってないよね‥‥‥?

やっぱり僕が間違っていた。復讐なんて、悲しい結果しか産まないんだ。

 

「いてて‥‥そう言えば雄二、Dクラスの設備のことは皆には何も言われなかったの?」

「ああ。理由をきちんと説明していたからな。問題ない」

「ふーん」

 

皆が素直に言うことを聞いたのは雄二の動きを評価してのことだろう。

 

「それより、お前はいいのか?」

「何が?」

「昨日の後始末の事だ」

 

はて、昨日の後始末‥‥‥。ああ、雄二と大悟を殺ることか。

 

「何言ってるの? 僕の仕返しは既に済んでいるじゃないか」

「いや明久。俺達の事じゃねえ。お前にはもう一人、始末をつけなきゃならねえ奴がいるだろう?」

「大悟まで‥‥‥一体何が言いたいーー」

 

その瞬間、僕の言葉は顔面にめり込んだ突然の拳で遮られた。

 

「吉井っ!!」

「し、島田さん、おはよう‥‥‥」

「おはようじゃないわよっ! アンタ、昨日はウチを見捨てただけじゃ飽きたらず、消火器のいたずらと窓を割った件の犯人に仕立てあげたわね‥‥‥!」

 

‥‥‥おお、そういえば。

 

「おかげで彼女にしたくない女子ランキングが上がっちゃったじゃない!」

 

まだ上がる余地があったことが意外だ。

 

「ーーと、本来なら掴みかかっているんだけど、アンタにはもう充分罰が与えられているようだし、許してあげる」

「うん。さっきから鼻血が止まらないんだ」

「いや、そうじゃなくてね」

「ん? それじゃ何?」

 

島田さんが楽しそうに、本当に心から愉しそうに告げる。

 

 

「さっき船越先生が吉井の事を探してたのよ。「坂本君と岡崎君が私を取り合って喧嘩してたのを『ふざけんな! あの人と結婚するのは僕だ!』って言って二人を止めたって聞いて、我慢出来なくなって自分から話をしたいんだって」

 

 

‥‥‥‥‥え?

 

 

「な、なにそれ? 僕そんな事言ってな‥‥‥‥ハッ!!」

 

バッッ!!!

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

 

見ると、雄二と大悟は此方を見ながら怪しい笑みをこれでもかと浮かべていた。

そして一言。

 

 

 

「「俺達がいつ、お前を許すと言った?」」

 

 

 

聞いた瞬間、僕は扉を開けて廊下を疾駆した。

 

 

 

ーーー

 

 

―――side大悟

 

 

「ぬおぉぉ‥‥‥終わったー」

 

俺は疲れのあまり卓袱台に突っ伏す。

取り敢えず午前中の4教科が終了。Fクラスの奴等に渡すエロイラストの配布も終わった。皆よろこんでくれたようで何よりだ。

これで午後は殆どが理数系の教科だけだから昼寝に時間を費やせる。だがまさかの1時間目の数学の監督の先生が船越先生だったとは思わなかった。

ちなみに、船越先生には明久が近所に住んでいるらしいお兄さん(39歳 独身‥‥‥お兄さん?)を紹介したらしい。

婚期を逃した男女の熟した恋愛劇か‥‥‥うーん‥‥‥売れそうな気はしないでもないが、流石に船越先生をモデルにするのは色々と難しいかも知れんな。俺も人妻はイケるがロリババァじゃない熟女はちょっと‥‥‥

 

「うむ。疲れたのう」

 

俺の席の隣にいる秀吉がそう答える。

 

「‥‥‥‥‥(コクコク)」

 

いつも無口で存在が薄く思われがちなムッツリーニもいる。

 

「よし、昼飯食いに行くぞ! 今日はラーメンとカツ丼と炒飯とカレーにすっかな」

「全然疲れてないみたいだね雄二。全く‥‥‥一体どんな体の構造してるのやら」

「なら、儂も同行させて貰うかの。大悟とムッツリーニも来るじゃろ?」

「おう。ここの所、売上が上がって財布が暖かいからな。たまには贅沢するのも悪くねえ」

「‥‥‥栄養補給」

「じゃ、僕も今日は贅沢にソルトウォーターあたりにしようかな」

「明久。言い換えて格好良くしてっけど、それただの塩水だろうが」

「ん? 吉井達は食堂に行くの? だったら一緒していい?」

「ああ、島田か。別に構わないぞ」

「それじゃ、混ぜて貰うね」

 

そして俺達は立ち上がり、学食に行こうとした所で姫路に声をかけられた。

 

「あ、あの。皆さん‥‥‥」

「うん? あ、姫路さん。一緒に学食に行く?」

「あ、いえ。え、えっと‥‥‥、お、お昼なんですけど、その、昨日の約束の‥‥‥」

 

姫路はもじもじしながら俺らの方を見ている。

 

「おお、もしや弁当かの?」

「は、はいっ。迷惑じゃなかったらどうぞっ」

 

そう言って、身体の後ろに隠していたバッグを出している。そう言えば、昨日のDクラス戦の作戦会議前にそんな話をしてたな。けど本当に作ってきてくれるとはな。自分の分合わせても7人分。しかも俺や雄二はその体格通り結構食べる方だ。バッグの大きさもそれなりにある。つまりそれも考慮して作ってきてくれたのだろうか。

 

「迷惑なもんか! ね、雄二!」

「ああ、そうだな。ありがたい」

「そうですか? よかったぁ~」

 

ほにゃっと嬉しそうに笑う姫路。本当なんでこんな二次元メインヒロイン系キャラの姫路がこんな主食が水と塩と砂糖というベジタリアンもドン引きの食生活を送ってる馬鹿野郎を好きになったのだろうかと常々思う。

 

「むー‥‥‥っ。瑞希って意外と積極的なのね‥‥‥」

 

そう言って明久を親の仇のように見る島田。

 

「それでは、せっかくのご馳走じゃし、こんな教室では無くて屋上でも行くかのう」

「そうか。ならお前らは先に行っててくれ」

「ん? 雄二はどこか行くの?」

「飲み物でも買ってくる。昨日頑張ってくれた礼も兼ねてな」

「あ、それならウチも行く! 坂本一人じゃ持ちきれないでしょ?」

「悪いな。それじゃ頼む。お前ら、俺達の分まで食うんじゃねえぞ」

「大丈夫だよ。あまり遅いと分からないけど」

 

雄二と島田は財布を持って出ていった。多分一階の売店にでも行ったんだろう。

 

「僕らも行こうか」

「そうですね」

 

そして俺達も屋上へと向かう。しかし、メインヒロイン最有力候補の姫路の手作り弁当か‥‥‥これは味も期待できーー

ーーん? 姫路の手作り? なんだ? 今一瞬妙な寒気がしたような‥‥‥それに、何か思い出しかけたんだがーー

 

 

「どうしたのじゃ? 大悟」

「‥‥‥いや、なんでもねえ」

 

 

ーー気のせいか。

 

 

 

 

ーーー 

 

 

 

―――side明久

 

 

 

屋上へと続く扉の向こうは抜けるような青空が広がり、日差しと風が気持ち良く絶好のお弁当日和だ。しかも屋上には僕達以外人はおらず僕らの貸切状態だ。

 

「天気が良くて何よりじゃ」

「そうだな。天気の良い屋上に、皆が集まるのは学園アニメのお決まり展開と言えよう」

「‥‥‥‥‥(コクコク)」

「お、分かるのか同志ムッツリーニ?」

「‥‥‥少し勉強した。二次元も‥‥‥悪くない‥‥‥」

「おお! 流石だぜ同志!」

「‥‥‥‥‥(グッ)」

 

「ふふっ。皆さん楽しそうで良かったです。それじゃあ準備しますね」

 

そう言って姫路さんは、バッグからビニールシートを取り出しその場に広げる。流石姫路さん、準備も万端だ。ピクニック用のセットだったりするのだろうか。

そして僕らはビニールシートの上に足を広げた。

 

「あの、あんまり自信は無いんですけど‥‥‥」

 

姫路さんが重箱の蓋を取る。

 

『おおっ!』

 

僕らは一斉に歓声を上げた。重箱には唐揚げやエビフライ、おにぎりやアスパラ巻きなどお弁当の定番メニューが綺麗に並べられていて、凄く美味しそうだ。

夢にまでみた姫路さんの手料理、しかも僕にとっては久しぶりの食事だ。

 

「姫路さん、料理も上手なんだね」

「そ、そんな! 上手だなんて‥‥‥そんなこと‥‥‥」

「うむ、色合いも綺麗じゃし、これはさぞ美味な事じゃろう。大悟もムッツリーニもそう思うじゃろ?」

「‥‥‥‥(コクリ)」

「‥‥‥‥」

 

すると、秀吉の言葉にムッツリーニは頷くけど、大悟は何か神妙な面持ちをして姫路さんのお弁当を見詰めている。

しかも何故か手がプルプルと震えていた。

 

「どうしたの、大悟? そんなに震えて。寒いの?」

「いや‥‥‥そうじゃねえんだが、何故か悪寒がな‥‥‥さっきから何なんだこりゃあ?」

 

ふーん、こんな筋肉ダルマの病気とは無縁そうな大悟でも寒気とか感じるんだ。

 

「ま、いいや。それよりも、姫路さんのお弁当を早速ーー」

「‥‥‥‥‥(ヒョイ)」

「あっ、ずるいぞムッツリーニっ」

 

動きの素早いムッツリーニがエビフライを一本つまみとった。

 

「‥‥‥‥‥(パク)」

 

そして、流れるように口に運びーーー

 

 

 

 

「‥‥‥っ!?」

バタン!!  ガタガタガタガタガタ‥‥‥

 

 

 

 

その瞬間豪快に顔から倒れこみ、小刻みに震えだした。

 

 

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥」

 

その様子を見て、僕と秀吉と大悟は顔を見合わせる。

 

「わわっ、土屋君!?」

「‥‥‥‥‥(ムクリ)」

「ど、どうしたんですか、土屋君?」

「‥‥‥‥‥(グッ)」

「た、多分『凄く美味しい』って伝えたいんじゃないかな?」

「あ、そうだったんですね。良かったですっ」

 

でも、ムッツリーニは目を虚ろにしながら足をガクガクさせている。まるでKO寸前のボクサーみたいだった。

ちょっと待って? まさかとは思うけど、ムッツリーニがこうなったのって、姫路さんのお弁当? いやいや、こんなにも美味しそうなのに、そんなわけがーー

 

「‥‥‥あ、俺急用を思い出したわ。ちょっと行ってーー」

「まあ待ちなよ。大悟」

 

一瞬で何かを察したのか、大悟は立ち上がって屋上から出ていこうとする。けど逃がすものか!

 

「おいおい、離せよ明久。早く行かねえと先生を待たせちまうことになるだろうが。」

「何を言ってるのさ。まだ昼休みは始まったばかりだし、先生達もお昼を食べている筈だよ。用事はそれが済んでからでも問題ないでしょ?」

「いやいや、早めに行った方が先生も用事を済ませられてゆっくり昼飯が食えるじゃねえか。そっちの方が効率もいいだろう?」

「大丈夫だよ。少しくらい遅れたって先生は怒りはしないさ」

「はっはっは、ああ言えばこう言うな、明久は。‥‥‥いいから離せやボケナスが‥‥‥っ!」

「そんな事無いさ、もう大悟ってば。‥‥‥そっちこそ大人しく座れやキモオタが‥‥‥っ!」

 

おのれ‥‥‥自分だけ助かろうという魂胆だろうけどそうはいかないぞ大悟! この手は何があろうとも絶対に離さない!

 

「岡崎君も吉井君も、遠慮なく食べてくださいね?」

「‥‥‥そ、そうだな。せっかく姫路が作ってきてくれたんだもんな‥‥‥」

「じゃ、じゃあ僕も遠慮なく‥‥‥」

 

引きつった笑顔で答える大悟。姫路さんの笑顔に断りづらくなってしまったのか、観念して再び腰かけた。

そして僕達は姫路さんに聞こえないくらいの声で話す。

 

(大悟、まさかこの事を知ってたの?)

(いや、俺もこんな事実を今知ったんだ。ムッツリーニの様子を見て全部思い出した。俺は秀吉と下校の時に昨日姫路に貰ったドーナツを食ったんだ。そしたら記憶がな‥‥‥)

(大悟が昨日泡を吹いて倒れたのはそれが原因じゃったのか‥‥‥)

 

確かに昨日大悟は姫路さんにお菓子らしき物を貰っていた。けどまさかあれがあの大悟を気絶させる程のものだったなんて‥‥‥

 

(明久。お前、胃袋に自信はあるか?)

(うーん、正直自信ないよ。食事の回数が少なくて退化してるからね)

(ならば、ここは儂に任せてもらおう)

(そんな、危ないよ! 大悟は別にどうでもいいけど、秀吉を危険な目に合わせる訳にはいかないよ!)

(明久。お前には後で俺の恋のマジカル☆タコ殴りをお見舞いしてやる)

(大丈夫じゃ。大悟は知っておると思うが、儂は存外頑丈な胃袋をしていてな。ジャガイモの芽程度なら食ってもびくともせん)

(確かに‥‥‥一回演技の内っつってバッタを焼いて食ったこともあるしな、お前)

 

見かけによらずタフな内蔵だ。でもジャガイモの芽って毒だったと思うし、バッタってそもそも食べて大丈夫なの?

 

(でも‥‥‥)

(安心せい。儂の鉄の胃袋を信じてーー)

 

 

「おう、待たせたな! へー、こりゃ旨そうじゃないか。どれどれ?」

 

「「「あっ」」」

 

雄二登場。

 

 

 

パク    バタンーーーガシャガシャン! ガタガタガタガタガタ

 

 

 

そしてジュースの缶をぶちまけて倒れた。

 

「さ、坂本!? ちょっと、どうしたの!?」

 

遅れてやって来た島田さんが雄二に駆け寄る。

‥‥‥間違いない。コイツは、本物だ‥‥‥。

すると、雄二は倒れたまま僕の方をじっと見て、目でこう訴えていた。

 

『毒を盛ったな』と。

 

それに対して『毒じゃないよ、姫路さんの実力だよ』と、僕も目で返事をする。

 

「さ、坂本君まで、どうしたんですか!?」

「あ、足が‥‥‥攣ってな‥‥‥」

「あはは、ダッシュで階段の昇り降りしたからじゃないかな」

「うむ、そうじゃな」

「全く、準備運動を怠るからだ」

「そうなの? 坂本ってこれ以上ないくらい鍛えられてると思うけど」

 

そしてよろよろと立ち上がる雄二。だけどムッツリーニ同様足が生まれたての小鹿の様にガクガクしている。

そんな二人に何があったのか分かっていない様子の島田さん。取り敢えず彼女は一旦退場させた方が良いかも知れないな。

 

「ところで島田さん。その手をついてるあたりにさ」

「ん? 何?」

「さっきまで虫の死骸があったよ。だから手を洗ってきたら?」

「えぇっ!? 早く言ってよ! ちょっと行ってくる」

 

席を立つ島田さん。やっぱりそこら辺は女の子だから気にするんだな。

 

「島田はなかなか食事にありつけずにおるのう」

「全くだね」

「実に勿体無いなぁ、せっかくの姫路手製の弁当なのにな」

 

はっはっは、と男四人で朗からに笑う。

一方その裏側では壮絶な作戦会議が行われていた。

 

(明久! 今度はお前がいけ!)

(そうだ! お前が全部平らげれば綺麗さっぱり収まるってモンだぜ!)

(む、無理だよ! 雄二や大悟でも無理だったのに僕だったらきっと死んじゃう!)

(流石に儂もさっきの姿を見ては決意が鈍る‥‥‥)

(大悟がいきなよ! 姫路さんは大悟に食べてもらいたいはずだよ!)

(はぁ!? なに馬鹿な事言ってんだお前は! 俺にもう一度あの三途の川を拝めってのか!?)

(お主‥‥‥本当に死ぬ直前までいっとったのか‥‥‥)

(だが、姫路はどちからというとお前に食べて欲しそうだがな)

(そんなことないよ! 雄二は乙女心を分かってないね!)

(いや、分かってないのはどちらかと言うとお前のことじゃーー)

(ええい、往生際が悪いぞ! こうなったらーー)

 

「あっ! 姫路さん、アレはなんだ!?」

「えっ? なんですか?」

 

(おらあっ!)

(馬鹿が! そんなわかりやすい手に引っ掛かると思ったもごぁぁっ!?)

(悪いな大悟! これも俺達が助かる為だ!)

 

その隙に雄二が大悟の動きを封じてその口の中に弁当の中身をこれでもかと押し込んだ。 

目を白黒させているので、顎を掴んで咀嚼するのを手伝ってあげる。ご飯はよく噛みましょう。

 

「ふぅ、これでよし」

「‥‥‥お主、案外鬼畜じゃな」

 

秀吉が何か言ってるけど気にしない。大悟が焦点の合わない目をして泡を吹き始めたけど気にしない。

 

「ごめん、見間違いだったよ」

「あ、そうだったんですか」

 

こんな古典的な手にひっかかってくれる姫路さんがありがたい。

 

「お弁当美味しかったよ。ご馳走様」

「うむ、大変良い腕じゃ」

 

大悟の大活躍によってお弁当は無事始末完了。僕らの気持ちはこの青空のように晴れやかだった。

 

「あ、早いですね。もう食べちゃったんですか?」

「うん。特に大悟が『圧倒的美味‥‥‥っ!』って凄い勢いで」

「そうですかー。嬉しいですっ」

「いやいや、こちらこそありがとう。ね、大悟?」

 

「‥‥‥あぁ‥‥旨すぎて、昇天しそうだ‥‥‥」

 

ヤバい。本当に逝きかけてる。

 

「あ、そうでした」

 

姫路さんがポン、と手を打った。

 

「ん? どうしたの?」

「実はですねーー」

 

ごそごそ、と鞄を探る。そしてそこから取り出したのはタッパーのようなーー

 

「デザートもあるんです」

 

「あぁっ! 姫路さんアレはなんだ!?」

「やめろ馬鹿! 次やったら完全に俺は亡き者になっちまう!」

 

大悟が命がけで僕の作戦を止めにかかる。くっ、反応のいい奴め。

 

(明久! テメェには血も涙もねぇのか!? ダチを殺そうとしやがって!)

(仕方ないだろ! こんな任務は大悟にしか出来ない。それに君はどんな壁も乗り越えてめるたんの彼氏に相応しい男になるんだろう!?)

(確かにその通りだ! だがそれとこれとは話が別だ! こんな下らない死に方したらめるたんに笑われちまうだろうが!!)

(この意気地なしっ!)

(んだとコラァ!! だったらこれ以上手加減はしねぇからな!)

(ちょっ! なんでファイティングポーズを取ってるの!?)

(今度こそ俺の恋のマジカル☆タコ殴りを打ち込んだ後でお前の口の中にたっぷり詰め込んでやる!!)

(いやぁー! この人でなしーーー!)

(もう遅いわ!! 恋のっ!! マジカーーー)

 

あわや大悟にリンチをくらおうというところで、秀吉がすっと立ち上がった。

 

(‥‥‥儂が行こう)

(秀吉!? 無茶だよ、死んじゃうよ!)

(おいコラァ! 俺との扱いの差ァ!)

 

そりゃそうだ。見た目が美少女の秀吉の方が大悟なんかよりも遥かに重要度は高いんだから。

 

(大丈夫じゃ。儂の胃袋はかなりの強度を誇る。せいぜい消化不良程度じゃろう)

 

確かに毒や昆虫までも無効化する秀吉の胃袋なら大丈夫かもしれない。

 

「‥‥‥秀吉、お前はやっぱり俺の親友だ」

「‥‥‥すまん。恩に着る」

「ごめん。ありがとう」

「別に気にするでない。死ぬわけではないのじゃからな」

「そ、それもそうだね!」

「ああ! 秀吉、頼んだぞ!」

「うむ。任せておけ。姫路よ、貰えるかの?」

「はい、どうぞっ」

 

そして、秀吉は一気に姫路さんのデザート(見た目はとっても美味しそうなフルーツミックスヨーグルト)をかきこんだ。

 

 

 

 

「むぐむぐ。なんじゃ、意外と普通じゃゴばあっ!!」

 

バタッ!  ガタガタガタガタガタ

 

 

 

 

また一輪、花が散った。命という儚い花が。

 

「‥‥‥大悟」

「‥‥‥なんだ?」

「‥‥‥さっきは無理矢理食べさせてごめん」

「‥‥‥俺も、謝る」

「‥‥‥分かってくれたんなら、それでいい」

「あ、あれっ? 木下君、どうしちゃったんですかっ?」

「‥‥‥多分、腹一杯になって眠いんじゃねぇかな?」

「ふふっ。食べてすぐ寝ると牛になっちゃいますよ?」

「そ、そうだね‥‥‥あははは‥‥‥」

 

自称『鉄の胃袋』は白目で泡を吹いていた。

 

 

「‥‥‥一同!! 英雄木下秀吉に、敬礼っ!!!」

 

 

そして大悟の号令に従い、僕達三人は秀吉に尊敬と懺悔の念を込めた敬礼をした。

 

 

 

 

 




いやー、やっぱり姫路さんの手料理怖いなー。 

次回から対Bクラス戦に入ると思います。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
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