バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 国語

問 以下の意味を持つ四字熟語を答えなさい。
『周囲がすべて敵や反対者で、孤立していて、助けや味方がいないこと』


姫路瑞希の答え
『四面楚歌』

教師のコメント
正解です。漢字のミスもありませんし、流石は姫路さんですね。


土屋康太の答え
『絶対絶命』

教師のコメント
まあ意味合いとしては近いのかも知れませんね。


岡崎大悟の答え
『悲しい』

吉井明久の答え
『寂しい』

教師のコメント
君達の感想は聞いていません。


第十一問 対Bクラス ~勝機~

―――side明久

 

 

対Bクラス戦に突入してから翌日。

 

「昨日言っていた作戦を実行する」

 

教壇に上がった雄二が開口一番そう告げた。

 

「作戦? でも、開戦時刻はまだだよ?」

「Bクラス相手じゃない。Cクラスの方だ」

 

そう言う雄二。確かに昨日の感じからするとCクラスの存在は厄介だ。Bクラスに勝利した直後に攻め込まれれば、こっちにはほぼ勝ち目は無い。だから雄二はBクラスとの戦いの前に対処しておくつもりだろう。

 

「でも、何をするの雄二?」

「やり方は簡単だ。秀吉にコイツを着てもらう」

 

そう言って雄二が鞄から取り出したのはうちの学校の女子の制服。他校にもオトナのオトモダチにもかなり人気がある垂涎の逸品だ。

 

「‥‥‥ねぇ雄二。どうして君はそんなものをもっているんだい?」

「心配するな。これは大悟に特別に用意してもらったものだ」

「もれなく秀吉の身体のサイズに全て合わせてある。ぬかりはーーー無いっ!」

 

隣を見ると、大悟がやりきったような顔で僕にグーサインをする。どうして本来男子が持ってない筈の女子の制服を大悟が持っているんだろうか。

多分大悟のことだから徹夜でもして拵えたのかな? 多分コスプレイヤーの人にでも教えてもらったとかだろうけど、ホント見た目に反してムッツリーニ並に器用な奴だなぁ。

 

「それは別に構わんが、儂が女装してどうするのじゃ?」

「秀吉には木下優子として、Aクラスの使者を装ってもらう」

 

なるほど。それが狙いか。

秀吉にはAクラスに所属する双子のお姉さんがいる。見分けがつかないくらいよく似ていて、違う箇所なんてテストの点数と話し方くらいしか思い付かない。

彼女に化けてAクラスとして圧力をかけるということか。

 

「というわけで秀吉。用意してくれ」

「う、うむ‥‥‥分かったのじゃ」

 

雄二から制服を受け取り、秀吉はその場で生着替えを始める。

な、なんだろうこの胸のときめきは。相手は男なのに目が離せない!

 

「‥‥‥‥‥!!(パシャパシャパシャパシャ!)」

 

ムッツリーニは指が擦り切れるんじゃないかというくらいに凄い速さでカメラのシャッターを切っている。

良かった。ときめいているのは僕だけじゃなかった。

 

「ふん。三次元ごときで取り乱すとは、二人ともまだまだだな」

 

大悟。そういう君も凄い速さで秀吉そっくりの美少女生着替えイラストを描いているじゃないか。強がりは良くないよ?

 

「よし、着替え終わったぞい。ん? 皆どうした?」

「さぁな? 俺にもよくわからん」

「おかしな連中じゃのう」

 

いや、絶対におかしいのは秀吉の外見だって! どうしてそんなに色っぽいんだよ!

 

「さあ! このダイゴブックスの新商品、二次元美少女風秀吉の生着替えイラスト! 初期価格は1000円からだ!」

「1200円!」

「いや、俺は1500円!」

「何をう!? ならこっちは2000円だ!」

 

そして向こうでは既に先ほどの大悟のイラストがオークションにかけられている様だった。

フッ‥‥‥皆血眼になってイラストを買おうとしてるけど甘いな。もう少し待てばそれが大悟の『神の右手』と『無限の妄想力』によって完璧な同人誌に生まれ変わって販売されるというのに。

 

「しかし、本当に似てるな‥‥‥まるで見分けがつかん」

「そうかの? 儂はあまりそう思わぬが‥‥‥」

 

いや、どこからどうみても木下優子さんそのものだ。何も知らない人が見たら騙されてもおかしくない。

 

「んじゃ、Cクラスに行くぞ」

「うむ」

「あ、僕も行くよ」

「はい! この商品は須川亮が4000円で落札! これにて閉廷! というわけで俺も行くぞ」

 

そして僕達は雄二のあとをついていき、Cクラスへと向かった。

 

 

 

ーーー

 

 

 

そして、Cクラスの前で立ち止まる僕達。

 

「さて、ここからは悪いが一人で頼む」

 

Aクラスの使者になりすます以上、Fクラスの僕や雄二が同行するのはまずい。それに昨日の大悟が起こした行動のせいで特に小山さんなんかはすっごい僕達を敵視してると思うし、見つかると面倒だ。

よって、僕達は離れた場所から様子を窺うことになる。

 

「気が進まんのう‥‥‥それになんかこの教室からやけに酸っぱい匂いがするのじゃが‥‥‥」

 

それは僕も思った。けど秀吉には真実を伝えない方が良いだろう。これ以上犠牲者を増やす訳にはいかない。

 

「そこを何とか頼む」

「そうだぜ秀吉。それに俺が考えたこの台詞なら必ず成功する。お前の特技をCクラスの奴らに見せつけてやれ」

「むぅ‥‥‥。仕方ないのう‥‥‥」

 

秀吉は演劇部のホープで、演技が達者だったりする。勉強は苦手だけど、他の面に抜群に秀でているのだ。

 

「はぁ‥‥‥。あまり期待はせんでくれよ‥‥‥」

 

溜息とともに力なくCクラスに向かう秀吉。はたしてうまくいくだろうか‥‥‥

 

 

 

ガラガラガラ

『静かになさい、この薄汚い豚ども!』

 

 

 

‥‥‥うわぁ。これ以上ないくらいの挑発だ。

 

『な、何よアンタ!』

 

この高い声はCクラス代表の小山さんだろう。

 

『話しかけないで! 豚とゲロの臭いが移るじゃないっ!』

 

自分から来たくせに酷い言い様。けれどゲロに関してはあながち間違いじゃないと思う。

 

『アンタ、Aクラスの木下ね? ちょっと点数良いからっていい気になってるんじゃないわよ! 何の様よ!』

『フン! 弱い豚ほどよくブーブー鳴くものね、滑稽で不快だわ。私はね、こんな臭くて醜い教室が同じ校内にあるなんて我慢ならないの! 貴女達なんて腐った豚小屋で充分だわ』

『なっ! 言うに事欠いて私達にはFクラスがお似合いですってぇ!?』

 

別にFクラスとは言ってないぞ小山さん!

 

『手が穢れてしまうから本当は嫌だけど、特別に今回は貴女達を相応しい教室に送ってあげようかと思うの。ちょうど試召戦争の準備をしているようだし、覚悟しておきなさい。近いうちに私達が薄汚い貴女達を始末してあげるから!』

 

そう言い残し、秀吉はCクラスから出てきた。その顔はやけにスッキリとしていた。

 

 

「これで良かったかのう?」

「ああ。素晴らしい仕事だった」

「俺はお前のその才能が恐ろしいぜ」

 

『Fクラスなんて相手にしてられないわ! Aクラス戦の準備を始めるわよ!』

 

Cクラスから小山さんのヒステリックな叫び声が聞こえてくる。

 

「はっ、ざまぁ見ろってんだよ」

「ねぇ大悟、昨日といい大悟は小山さんと何かあったの?」

 

大悟はああ、と頷く。

 

「アイツは一年の頃、俺のやってるダイゴブックスに対して散々難癖をつけてきてな。やれキモいだの友達を巻き込むなだの不快だの色々言われたよ。けど俺は好きでやってることだし、その友達も好きで買ってんだ。テメェの我が儘で他人の趣味にまでケチつけんじゃねえ、分かったら帰れヒステリー女って言い返したら、なんか逆ギレされて、敵視されるようになっちまったんだよ‥‥‥」

 

ため息を吐く大悟。まさか小山さん、大悟にそんな事言ってたんだーー

 

「ったく、ああいうやつはな、ファンタジーもののエロゲーによくある『くっ‥‥殺せ!』って属性の女主人公と一緒なんだよ!」

「え? どういうこと?」

「分かりやすく説明するとだな、とある王国の騎士として育てられた小山は世界を征服しようとする魔王を倒すための旅に出る。だがしかし魔王の力は凄まじくあっけなく敗北。そして小山は捕らえられ、魔王の性欲の発散の為に若干未発達の身体を使われそうになるが『体は好きに出来ても、心まで好きに出来ると思うな』と必死に抵抗する。しかし行為を重ねるごとにやがてはその快感と快楽に溺れてしまい、自分から『魔王さまぁ‥‥‥早くその極太○○○で気持ちよくしてぇ~』と身を捩らせーー」

「大悟、少し黙ろうか」

 

これ以上は色々とまずい気がするので、大悟の口を封じた。一切の羞恥心もなくこんな事を饒舌に話すとは、流石オタクの中のオタクだ。

けれど知り合いの女子を平気でエロゲーの題材にするあたり、やっぱり大悟は頭がおかしい。

 

「よし、作戦も上手くいったことだし、俺達もBクラス戦の準備を始めるぞ」

「あ、うん」

「ーーそして魔王の部屋から聞こえてくるのは人としての羞恥心を完全に捨て去り、魔王の黒光りする○○○から噴水のように溢れ出る白濁液を全身で受け止めた小山の喜びに満ちた声が部屋いっぱいに響き渡りーー」

 

隣でまだ馬鹿がなにか言ってるけど、余計なことに気を取られている暇は無い。あと十分で今日の戦争が始まる。

僕らはとりあえず大悟を黙らせつつ、Fクラスへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

―――side大悟

 

 

 

Cクラスへの対策も終わり、Bクラス戦の二日目に突入した。

今日の雄二の作戦は『とにかく敵を教室内に閉じ込めろ』とのこと。昨日と同じ場所からスタートし、姫路を再び総司令官として明久達が動いている。

俺は昨日と同じく、雄二の護衛だ。その為今は教室にいるのだがーー

 

「暇だー」

 

暇だった。教室には今俺と雄二、そしてFクラスの何名かだけだ。雄二は今俺達と敵の現在の勢力をノートに記している。ちなみにムッツリーニは本隊とは別行動を取っている。

 

「なあ雄二ー、俺も戦いに行きてーよー」

「駄目だ。お前は確かに文系科目、特に社会科目ならAクラス以上の力があるだろうが他がクソレベルだ。しかも向こうは既にお前の実力を分かってるからな。当然対策も講じられてるに決まってる。だから今の戦況でお前を易々と出陣させる訳にはいかない。戦死にでもなられたら困る」

「それはそうだけどよー‥‥‥」

「お前はいざというときの隠し手だ。万が一の時には遠慮なくお前の力をふるってくれて構わない。だから今は我慢しててくれ」

 

確かに俺の召喚獣なら社会科目という条件下ならかなりの力を持っている。もし姫路がピンチになったりムッツリーニが失敗した時に俺を投入しようと考えているのだろう。

そうすれば相手は文系科目を中心に勝負しているし、点数を消費している。そこを一気に殲滅し、根本の首を取るようになるんだな。それに最悪、腕輪の能力も使わざるを得ないか‥‥‥。

 

「お前が理数系もまともに取れれば、もっと早く勝負がつけられるんだけどな‥‥‥」

「はっはっは、無茶言うな。ま、しゃあねえ。なら俺はまた漫画でも読んで暇をーー」

 

 

 

 

バァン!!

 

 

 

突然、教室の扉が乱暴に開かれた。

入ってきたのは明久だった。

 

「うん? どうした明久。脱走か? チョキでシバくぞ」

「それとも、俺の恋のマジカル☆金的潰しでもーー」

 

「話があるんだ」

 

そう言う明久は、雰囲気がいつもとは違っていた。俺と雄二のジョークにも応えないし、やけに目つきが鋭い。

つまり今ーー明久は怒っていた。それもマジおこ、ガチギレ状態だ。

 

「‥‥‥随分と訳ありみてぇだな、明久」

「‥‥‥とりあえず、聞こうか」

 

俺と雄二は様子を察した。

あの温厚な明久がここまでキレるとはな、まさか根本がまた何かやらかーー

 

 

 

 

「根本君の着ている制服が欲しいんだ」

 

 

 

 

‥‥‥は? コイツ今なんて言った? 確か根本の制服が欲しいって言ってたような。

 

「明久、もう一度言ってくれ」

「根本君の制服が欲しいんだ」

 

「「お前に何があったんだ?」」

 

思わず雄二とハモってしまう。

 

「ああ、いや、その。えーっと‥‥‥」

「まぁいいだろう。勝利の暁にはそれくらいなんとかしてやろう」

「そうだな、それに人の趣味ってのはとやかく言うことじゃねぇし」

 

なんだろうな。明久が段々遠い存在のように感じる。

 

「で、それだけなのか? 明久」 

「もう一つある。姫路さんを今回の戦闘から外して欲しい」

「姫路を、だと? 何でだ」

「理由は言えない」

 

俺の問いにそう返した明久の表情は真剣そのもの。冗談の類いではないみたいだ。

 

「どうしても外さないとダメなのか?」

「うん。どうしても」

 

雄二は顎に手を当てて考え込む。

おそらくどうやって姫路抜きでBクラスの壁を突破するか考えているのだろう。

このまま姫路を外すのは俺達にとってリスクしかない。最悪そのまま敗北に繋がる可能性大だ。それを明久は分かってーー

 

「頼む、雄二!」

 

雄二に深く頭を下げる明久。まさか明久がここまでするとは、よっぽど根本の制服が欲しいのかーーいや、明久の性癖を俺は知っている。少なくともコイツは男、しかも根本なんかの制服を欲しがるようなアブノーマル人間じゃねえ。

おそらく明久が欲しいのは、制服自体じゃなくて、根本の制服にある『何か』。

そして姫路を戦闘から外してほしいという頼み。

この二つから分かるのは、根本が持っているその『何か』が姫路に関係しているという事。そしてそれが姫路にとって枷となっている事だ。

 

「明久‥‥‥お前」

「‥‥‥条件がある」

「条件?」

「姫路が担う予定だった役割をお前がやるんだ。どうやってもいい。必ず成功させろ」

「もちろんやってみせる! 絶対に成功させるさ!」

「良い返事だ」

 

明久の言葉にふっと口の端を上げる雄二。

 

「それで、僕は何をしたらいい?」

「タイミングを見計らって根本に攻撃をしかけろ。科目は何でもいい」

「皆のフォローは?」

「ない。しかも、Bクラス教室の出入り口は今の状態のままだ」

 

今はBクラスの前後の扉の二ヶ所で行われていて、これは雄二曰く時間稼ぎと作戦に必要な行動との事。その為教室の奥でふんぞり返ってる根本に接近する為には姫路レベルの火力が必要だ。

俺ならそこを突破出来なくも無いが、その前に理数系科目で戦死になる確率が高い。つまり、実質明久だけでやれってことか。

 

「もし、失敗したら?」

「失敗は出来ない。必ず成功させろ」

 

いつになく強い口調でそう言う雄二。

 

「じゃあ俺はDクラスに例の件で指示を出してくる。大悟、明久についてやってくれ」

「分かった」

 

Dクラスに向かおうとした時、雄二は扉の前で振り向かずにこう言った。

 

「明久。確かにお前は点数は低いが、秀吉やムッツリーニ、大悟のように、お前にも秀でている部分がある。だから俺はお前を信頼している。うまくやれ」

「‥‥‥雄二」

「大悟、お前もだ。明久のこと、頼んだぞ」

「ああ、任せておけ」

 

そう言い残し、雄二は教室を後にした。

 

「さて‥‥‥どうする?明久」

「‥‥‥」

 

明久は下を向いて何か考えて込んでいた。すると小声でこう呟く。

 

 

「‥‥‥痛そうだよなぁ」

「あ?」

 

俺が聞き返すと、明久は急に頬を叩き、自分を奮い立たせるような仕草を見せる。

 

「ーーーよっしゃ! あの外道に目に物見せてやる!」

「‥‥‥何か思い付いたようだな、明久」

「うん、だから大悟。頼みがあるんだ、君の力がーー必要だ」

 

 

 

 

ーーー

 

 

―――side明久

 

 

 

 

「‥‥‥お前、本気か?」

 

僕が考えた作戦を大悟に伝えると、大悟は真面目な顔で聞き返してきた。

 

「本気も本気、ガチ本気だ」

 

僕は一切の迷いもなく頷いた。

 

「‥‥‥確かにお前の召喚獣の特性と俺の力があれば、お前の作戦は成功するかも知れねぇ。だがこれを相当なリスクが伴うぞ。お前は戦死ーー補習室送りは確実だ。それに加えて明久にはフィードバックがある。痛みってのは人間が受けられる限界ってものがあるからな、運が良くて気絶だ。それでもやるってのか?」

「上等だ。やってみせるさ」

 

方法があって、勝算がある。気合いと根性さえあればやれるのだとしたら、やらない理由はどこにもない!

なにより姫路さんが味わった痛みに比べたら、フィードバックなんて大したことじゃない!

 

「‥‥‥覚悟は出来てる様だな。良いだろう、やってやるよ」

「ありがとう、大悟」

「ただし、一つ教えてくれ」

「なに?」

 

「姫路に何があった。どうして根本の制服が姫路に繋がるんだ? ヤツは姫路の何を握ってる?」

 

大悟の質問に、僕は言葉を濁す。

 

「そ、それは‥‥‥」

「答えろ。お前にはその義務がある。俺は隠し事が嫌いだぞ」

 

どうやら大悟には話さないといけないようだ。僕は観念して答える。

 

「‥‥‥僕が本当に欲しいのは、制服じゃなくて、そこに入ってる手紙なんだよ」

「なんだと? 手紙がなんだってんだよ。それは姫路が書いたヤツなのーーー」

 

「ーーーそういう事か」

 

大悟は僕の考えに気づいたらしく、納得した様子を見せた。そして天井を見上げてふぅ‥‥‥と深呼吸をする。表情は変わっていないけれど、大悟の大きな拳は硬く強く握られていた。そう、根本恭二が奪ったのは姫路さんの好きな人である大悟に渡す為のラブレターだったのだ。

言おうかどうか凄く迷ったけど、この際どうでもいい。だって大悟は姫路さんにとって大切な人なんだから。

 

 

「あの野郎‥‥‥随分と舐めた真似してくれんじゃねえか」

「僕は絶対に根本恭二を許さない。けれど僕は無力だ、一人じゃ何も出来ないーーだから大悟! 僕に力を貸してくれ!!」

 

僕は今度は、大悟に深く頭を下げてお願いした。この作戦にはどうしても大悟の力が必要だ。だから僕は断られたとしても何度でも頼み込む。なんだったら土下座だってしたって構わない。

姫路さんの為なら、僕のプライドなんてズタズタに引き裂いてやる!

 

「‥‥‥明久。知ってると思うが俺は二次元を愛する男だ。けどそんな俺でも、人として超えちゃならねえ領域ぐらいは理解してる。そして俺には、絶対に許せねえ人間ってのがいる。それはなーーー」

 

「ーーー根本のような、テメェの都合だけで女を傷つけるような野郎だ!!」

 

「大悟‥‥‥!」

「いいぜ! やってやろうじゃねえか明久。あのクズ野郎に、正義の鉄槌ってのをお見舞いしてやろうぜ!」

「ああ! 上等だ! 何だってやってやる!」

 

 

そして僕らは強い握手を交わす。大悟もどうやらやる気満々のようだ。

待ってろよ根本恭二、目にものを見せてやる!

 

 

 

ーーー

 

 

 

「えっと‥‥‥これはどういう状況かな?」

 

Dクラスに召喚獣勝負の立会人として呼ばれた社会科の落合先生が僕らにそう尋ねる。

 

「落合先生、これは僕と大悟の決闘です。どうか許可を下さい」

「俺からも頼みます。コイツとはここでケリをつけなきゃならねえんです」

 

向かい合う僕と大悟。そして他に補給テストを受けていた美波と武藤君、君島君を連れてきていた。

 

「アキも岡崎も、本気でやるの?」

「大丈夫だよ美波。何も心配しなくていい」

「これは俺達の喧嘩だ。手出し無用で頼むぜ」

 

「でも、それならわざわざこんな所でやらなくても‥‥‥」

「先生。コイツは《観察処分者》だ。あんなボロっちい場所で暴れたら本当にぶっ壊れちまいますよ」

「友達同士で喧嘩はいけないことなんじゃ‥‥‥」

「いえ。やります。大悟には常日頃から色々やられましたから。ここで礼をしてやらないと僕の気が済まないんです」

「はっ! 弱い犬程よく吠えるな」

 

落合先生に有無を言わせぬ強い口調で言い切る。

 

「わ、分かりました。確かに喧嘩するほど仲が良いってことわざもあるもんね。それなら、承認します!」

 

これで召喚が出来る。

大きく息を吸って、腹の底から声を出した。

 

 

「「試獣召喚《サモン》っ!!」」

 

 

僕と大悟は同時に召喚獣を呼び出した。

 

 

 

 

Fクラス 吉井明久  70点

 

 世界史 VS

 

Fクラス 岡崎大悟  598点

 

 

 

点数の差は絶望的、そして僕の召喚獣は学ランに木刀という弱そうな装備。反対に大悟の召喚獣は和装束に巨大な棘のついた金棒。普通なら勝てる訳が無い。しかも僕は《観察処分者》としてこきつかわれた時はほとほと嫌になったけど、今はその肩書きに有り難さを感じる。これで僕は根本に一泡ふかせられるのだから。

 

「かかってこいや明久!」

「行けっ!」

 

大悟の召喚獣目がけて駆け出す僕の召喚獣。壁を背にした相手に対し、勢いを乗せて大きく拳を振るった。

 

ドンッ!

 

「ぐーーーぅっ!」

 

しかしその動作はあっさりとかわされてしまい、壁を殴り付ける。

そしてその拳の痛みが僕にフィードバックする。

 

「甘ぇんだよ明久ぁ!」

 

すると、背後から大悟の召喚獣が大きく金棒を振り上げ、僕の召喚獣に向かって攻撃をしかける。

 

ドゴォオン!!

 

「がぁああっ!!?」

 

僕の召喚獣は金棒の威力に耐えきれず音をあげながら壁へと叩きつけられる。そしてフィードバックによる想像を絶する苦痛が僕の全身を襲った。

 

「まだだぁっ!!」

 

立ち上がり、更に力を込めた一撃を放つ。

しかし今度は金棒で防がれてしまい、再び金棒でぶん殴られて同じ壁に打ちつけられる。

 

ドゴォォオオン!!!

 

「ぐぅぅぅうううう‥‥‥っ!!!」

 

その威力は教室を大きく揺るがせる一撃だった。その反動も凄まじく、言葉では言い表せない程の激痛が走り、ふらつく。

流石大悟の召喚獣、手加減してくてるとはいえ強すぎる。少しでも気を抜いたら痛みで気絶しそうだ。

 

「明久ァ! 気ぃしっかり持ちやがれ! それとも姫路の為になりたいっていう、お前の気持ちはその程度か!!?」

「ま‥‥‥っ! まだだ! こんなものじゃ、僕は負けない!」

 

「二人とも、もう時間がないわよ」

 

現在時刻は午後2時57分。作戦開始まであと僅かだ。

 

 

『お前らいい加減諦めろよな。昨日から教室の出入り口に人が集まりやがって。暑苦しいことこの上ないっての』

『なんだ? 軟弱なBクラス代表サマはそろそろギブアップか?』

 

遠くから根本君と雄二の言い合いが聞こえる。姫路さんが戦闘に参加出来ない分、本隊まで出動せざるを得なかったのだろう。

 

 

『はぁ? ギブアップするのはそっちだろ?』

『無用な心配だな』

『そうか? 頼みの綱の姫路さんも調子が悪そうだぜ?』

『‥‥‥お前ら相手じゃ役不足だからな。休ませておくさ』

『けっ! 口だけは達者だな。負け組代表さんよぉ』

『負け組? それがFクラスのことなら、もうすぐお前が負け組代表だな』

 

 

何とか雄二達が時間を稼いでくれてる。この機会を無駄にするわけにはいかない!

 

「歯ァ食い縛れやぁっ!!」

 

三度目の攻撃。今度は頭から壁に叩きつけられる。

最早痛みで意識が朦朧としてきて、口からは血を流し、全身には軽く痣までできていた。

そして壁には大きな亀裂が生まれている。

 

「はぁ‥‥‥はぁ‥‥‥」

「そうだ‥‥‥耐えろ明久。お前の根性は、こんなもんじゃねえ筈だろ!」

「当たり‥‥‥前だっ!」

 

 

『‥‥‥さっきからドンドンうるせぇな。何やってんだ?』

『さぁな。人望の無いお前に対しての嫌がらせじゃないのか?』

『けっ。言ってろ。どうせもうすぐ決着だ。お前ら、一気に押し出せ!』

『‥‥‥態勢を立て直す! 一旦下がるぞ!』

『どうした、散々ふかしておきながら逃げるのか!』

 

 

きた、このタイミングを待っていた。雄二達率いる本隊がBクラスから遠ざかり、それを追いかける向こうの戦力。

それはつまり、代表である根本君の防衛力が激減したということ。

本来なら姫路さんが請け負う筈だったこの役割。でも僕には、悔しいことに姫路さんクラスの点数を取れる教科はない。けれど目の前の大悟なら、それが出来る。だから僕達は、大悟の得意科目の社会科の担当である落合先生を呼んだんだ。

そして僕に出来ることは‥‥‥その為の道を作ること。物理干渉能力を持つ《観察処分者》という立場を利用して、根本君に奇襲をかけられるように。

 

 

「明久、そろそろ決着だ」

「うん。分かってる」

 

周りに集まっている皆にも目配せをする。

 

「えっ? 岡崎君、吉井君。何をしているの?」

 

状況が分からずオロオロしている落合先生が僕らを交互に見る。このままだと怪しまれて承認を取り消される可能性があるため、一気に決める。

 

「‥‥‥明久、本当に良いんだな?」

「‥‥‥もうその質問は聞き飽きたよ、大悟。さぁ来い! 君の全力、僕が全て受け止めてやる!!」

 

もう覚悟は決まった。僕は抜けない痛みを根性で押し込め、全身に力を込める。

 

 

「いいぜ!! お前のその覚悟、俺も全力で答えてやらぁ!!!」

 

 

そして、大悟の召喚獣が、金棒を野球のバッターの様に構えた。

来る、大悟の全力の攻撃が。

 

 

「「おおおおおおおっ!!!!」」

 

 

ここで耐えなければ僕達は負ける。この先はーーー無い。

壁の向こうから、敵の本隊を引き付けた雄二の声が聞こえてきた。

 

『あとは任せるぞ、明久』

 

 

 

 

 

「「恋の!!! スペシャル☆ぶん殴りぃぃぃいいいいいっ!!!」」

 

 

 

 

 

瞬間、僕の召喚獣は、持てる全てのパワーが込められた金棒によって、壁に叩きつけられた。

そして召喚獣が受けた痛みがフィードバックされる。

 

 

「ぐぁぁぁあああーーーーーーー!!!」

 

 

全身に走る激痛に、僕はとうとう断末魔と共にその場で倒れる。

けれど、これでいい。僕の役目は果たされた。

 

 

 

 

 

 

ドゴォォオオオオオオッ!!!!

 

 

 

 

 

 

大悟の召喚獣の凄まじいパワーによって、Dクラスの壁は豪快な音をたて、崩壊していった。

途切れ途切れになる視界の中で僕は呟いた。

 

 

「やっ‥‥‥た‥‥‥作戦、成功‥‥‥だっ」

 

 

ーー大悟、皆。あとはーー頼んーーだーー

 

 

 

Fクラス 吉井明久 DEAD

 

 

 

 




すみません。無理でした。
次こそ次回Bクラスとの決着です。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
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