バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 保健体育

問 以下の問いに答えなさい。

『女性は(  )を迎えることで第二次性徴期になり、特有の体つきになり始める』


姫路瑞希の答え
『初潮』

教師のコメント
正解です。


吉井明久の答え
『明日』

教師のコメント
随分と急な話ですね。


岡崎大悟の答え
『お兄ちゃんとのいちゃラブ展開』

教師のコメント
君の将来が心配になってきました。


土屋康太の答え
『初潮と呼ばれる、生まれて初めての生理。医学用語では、生理のことを月経、初潮のことを初経という。初潮年齢は体重と密接な関係があり、体重が43kgに達するころに初潮をみるものが多い為、その訪れる年齢には個人差がある。日本では平均十二歳。また、体重の他にも初潮年齢は人種、気候、社会的環境、栄養状態などに影響される』

教師のコメント
詳しすぎです。



第十二問 対Bクラス ~決着~

―――side大悟

 

 

 

「よっしゃあ! 成功だ!」

 

破壊音と共にBクラスとDクラスを遮る壁は取っ払われ、向こうへと繋がる道が生まれた。

これで明久の役目は終了。ここからは俺の仕事だ。

 

「明久、良くやった。後は俺に任せろ」

 

その言葉に返事は無い。どうやら想像を絶するフィードバックによる苦痛に体が耐えきれなくなって気絶したのだろう。

そして明久は点数が無くなり、予想通り戦死になった。

 

「島田、明久を頼む。鉄人には上手く言っておいてくれ」

「分かった。けど岡崎、折角アキが身体張ってくれたんだから、失敗なんてしたら許さないわよ!」

「ああ! 当たり前だ!」

 

明久を島田に任せ、俺は残りの二人と立会人の落合先生を連れてBクラスへと乗り込んだ。

 

「ンなっ!? 岡崎っ!?」

「よぉ根本。また会ったな。そう! 俺こそが二次元を愛し、二次元に生き! 二次元の為に死ねる男ぉぉおおーーー」

 

 

「ーー岡崎大悟! ド派手に参上っ!!」

 

 

崩れた壁の向こうにある、驚きの表情をした根本。雄二達本隊がBクラスの戦力の大半を引き付けてくれている為、だだっ広い教室の割には人が少ない。いるのはせいぜい根本の近衛部隊だけだ。

 

「壁ぶっ壊すとかコイツ何考えてやがる!? 馬鹿なのか!?」

 

馬鹿‥‥‥か。確かにこんな『壁を壊して突入する』なんて普通なら考え付かないような作戦を立てた男は、自分の身も満足に守れねぇ癖して他人の為ならどれだけ自分が傷ついても構わないとか抜かしやがる、正義感丸出しの正真正銘、大馬鹿野郎だ。

けどな、女の子が好きなヤツの為に一生懸命書いたモンを利用する、テメェみてぇなゲス野郎に比べりゃあ百倍マシだ!

俺は自慢のリーゼントヘアーを整え、言い放つ。

 

「さて‥‥‥テメェだけは許さねぇ。覚悟しろよ‥‥‥根本ぉぉおおお!!!」

 

俺達は呆気に取られている根本をぶちのめす為にBクラスに突撃し、ヤツに向かって駆け寄った。すると俺達の前に、残っていた根本の近衛部隊が行く手を阻む。

 

「「「「試獣召喚《サモン》っ!!」」」

 

「兄貴! 近衛部隊だ!」

「関係ねえ! 邪魔するってんならここでぶちのめすだけだ! 試獣召喚《サモン》っ!!」

 

 

Fクラス 岡崎大悟  572点

       &

     武藤啓太  67点

       &

      君島博  72点

 

 世界史   VS

 

 

Bクラス 山本鈴華  169点

       &

     吉田卓夫  190点

       &   

     金田一裕子 172点

       &

     里井真由子 180点

    

 

 

そして俺達も召喚獣を呼び出し応戦する。幸いにも教科は世界史だ、余程のことが無い限りは負けることはないだろう。だが、根本はその間に落合先生の試験召喚フィールドから外に出てしまった。

 

「は、ははっ! 驚かせやがって! 残念だったな! そいつらが足止めしている間に本隊を呼び戻してやる! お前らの奇襲は失敗だ!」

「くっ、どうする! 兄貴!?」

「‥‥‥」

 

取り繕うように俺らを笑う根本。

確かに、このまま雄二達を追いかけていった本隊を呼び戻されればかなり厄介だ。いくら点数の高い俺でも、流石にBクラスの大半を相手に出来るほどじゃない。どんなに強いヤツでも数の暴力で攻め込まれればいずれはやられるからな。

だからコイツらをとっととぶっ倒していかなくてはならないのだがーー

 

 

ニヤリ‥‥‥。

 

「残念だと? いいや、これで充分だ。何故なら俺の役目は根本! お前を倒すことじゃねぇからな!」

 

 

ーーそんなことをする必要はなかった。姫路がやる筈であった、明久が俺に託した役割。それは根本の打倒じゃなく、Dクラス戦の時と同じ『敵の最終防衛ラインを崩すこと』だ。だから奇襲というのは根本に攻撃を仕掛ける為と見せかけて、本当はわざと派手な登場をすることで、残った近衛部隊を俺達に向かわせ、足止めさせることに意味があるからな。

そう、全ては雄二と明久の掌の上だった。

何故雄二がわざわざ扉の前まで出向いたのか。それは本隊をこっちに引き付けて教室から逃げられなくするため。

あの時、何故雄二が室外機なんてものを壊すよう言ったのか。それはこの教室の窓を全て開けさせるため。

何故明久は自分でじゃなく、俺に突入させたのか。それは向こうの近衛部隊によってこちらが全滅する可能性を無くすため。そして万が一感づかれた時に根本の所へ戻らせないため。

 

 

そしてこれらは全て、根本を丸腰にさせて『アイツ』に倒させる為の布石に過ぎなかったのだーーー

 

 

 

 

「教えてやるよ! 主役ってのはな! いつでも遅れてやって来るモンなのさ!!」

 

 

 

ダン、ダンッ!

 

 

その音と共に俺が見たのは、窓からロープを使って侵入するという並外れた行動力を持つーーー

体育教師を引き連れて参上した、ムッツリーニの姿だった。

 

 

 

「‥‥‥Fクラス、土屋康太」

「き、キサマ‥‥‥!」

「後はお前の出番だぜ、同志」

「任せろ、同志‥‥‥Bクラス根本恭二に保健体育勝負を申し込む」

 

 

「ムッツリィニィーーッ!」

 

 

過信、軽率、傲慢。それがお前の敗因だよ、根本恭二。

 

 

「ーー試獣召喚《サモン》」

 

 

 

 

 

 

Fクラス 土屋康太  441点

 

 保健体育 VS

 

Bクラス 根本恭二  203点

 

 

 

 

 

 

最早ヤツに逃げ場は無い。ムッツリーニの呼び出した召喚獣は手にした小太刀を一閃し、一撃で根本の召喚獣を葬り去った。

こうして二日間に渡る戦いは、俺達Fクラスの勝利という幕引きに終わった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

―――side明久

 

 

 

「あ、あれ‥‥‥ここは?」

「目が覚めたか、明久」

「大丈夫、アキ?」

「大悟‥‥‥美波‥‥‥」

 

 

目を覚ますと、どうやらここはBクラスの教室みたいだ。目の前には僕の顔を覗きこむ大悟と美波が見える。

 

「大悟‥‥‥僕達はどうなったーーっ!?」

「馬鹿野郎、あまり無理すんじゃねえ。」

 

身体を起こそうとすると、とてつもない激痛が身体中を駆け巡る。

そういえば、僕は大悟の召喚獣に思い切りぶん殴られたんだった‥‥‥流石高得点所有者の一撃だ。僕の召喚獣が受けたダメージは本体の僕にもフィードバックで返ってくる。全部が返ってくるわけじゃないけど、流石にやり過ぎたか。

 

「戦いは俺達の勝利だ。見ろよ、あの外道。ざまぁ見ろってんだ」

 

大悟がそう言って指差した先には、さっきまでの強気な態度が嘘のように大人しく項垂れる根本だった。

そして僕はようやく状況を理解した。そうか‥‥‥本当に、勝てたんだ。

 

「そっか‥‥‥僕達が勝ったんだ」

「ホント、壁を壊して突撃しようだなんて、アキは無茶するんだから」

「けど、俺達はこれで仲良く職員室行きだな。仕方ねぇけどな! ワハハハハ!!」

 

大悟が大口を開けて笑う。確かに、僕達の一連の行動は全て落合先生に見られている。学校の壁を破壊するなんて問題にならない訳がない。大悟の言葉通り、僕達はこれから職員室で事情聴衆という名のハートフルコミュニケーションタイムだ。

しかも僕は観察処分者、大悟は特別監視対象生徒だ。多分相当しごかれるのは間違いない。

 

「明久。大悟から訊いたぞ。全くお主は随分と思いきった作戦を考えたのう。」

「秀吉‥‥‥はは、でしょ? もっと褒めてもいいよ?」

「後のことを何も考えず、自分の立場を追い詰める、実に男気溢れる作戦じゃな」

 

‥‥‥それ遠回しに馬鹿って言ってない?

 

「ま、それが明久の強みだ。あんな真似、このバカにしか思い付かねえよ! な!」

 

大悟がバンバンと肩を叩いてくる。馬鹿が強みとはなんて不名誉な! 

 

「やっと起きたか、明久」

 

すると、僕が目を覚ましたことに気づいた雄二が声をかけてきた。その表情は機嫌がよさそうだ。

 

「雄二‥‥‥」

「良くやったな。今回のMVPは間違いなくお前だ。それで、これから戦後対談といくんだがどうする?」

「うん、分かった」

「アキ、あんまり痛いなら保健室で休む?」

「ううん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、美波」

 

確かに今は休みたい気持ちはあるけど、流石に雄二にばっかり任せるわけにはいかないからね。

そう思い、僕は大悟に肩を貸してもらいながらゆっくり立ち上がった。

 

「さて、それじゃ嬉し恥ずかし戦後対談といくか。な、負け組代表?」

「‥‥‥」

 

床に座り込んでいる根本君。その周りをBクラスと僕達Fクラスの生徒が戦後対談を見守るように取り囲んでいた。

 

「本来なら設備を明け渡してもらい、お前らには素敵な卓袱台をプレゼントするところだが、特別に免除してやらんでもない」

 

そんな雄二の発言に、ざわざわと周囲の皆が騒ぎ始める。まあ、普通なら設備を好感するのは当たり前に要求する事だしね。そうなるのも無理は無い。

 

「落ち着け、皆。前にも言ったが、俺達の目標はAクラスだ。ここがゴールじゃない」

「うむ。確かに」

「ここはあくまで通過点だ。だから、Bクラスが条件を呑めば解放してやろうと思う」

 

その言葉でうちのクラスの皆はどこか納得したような表情になった。Dクラス戦でも言ったことだし、皆雄二の性格を少しずつ理解し始めているのだろう。

 

「‥‥‥条件はなんだ」

 

力なく根本君が問う。

 

「条件? それはお前だよ、負け組代表さん」

「俺、だと?」

「ああ。お前には散々好き勝手やってもらったし、正直去年から目障りだったんだよな」

 

雄二の言葉に誰も何も言わない。けれどそうやって言われるだけのことを彼はやっている。根本君自身もそれは理解しているみたいだ。

 

「そこで、お前らBクラスに特別チャンスをやろう。Aクラスに行って、試召戦争の準備が出来てると宣言して来い。そうすれば設備については見逃してやってもいい。ただし、宣戦布告はするな。すると戦争は避けられないからな。あくまでも戦争の意思と準備があるとだけ伝えるんだ」

「‥‥‥それだけでいいのか?」

 

疑うような根本君の視線。

 

「ああ。Bクラス代表がコレを着て言った通りに行動してくれたら見逃そう」

 

そう言って雄二が取り出したのは、大悟が製作し、秀吉が着ていた女子の制服だった。

 

「ば、馬鹿なことを言うな! この俺がそんなふざけたことを!」

 

根本君が慌てふためく。そりゃ嫌だよね。

 

「ちょっと待てよ、雄二」

 

すると、大悟が突然口を開いた。

 

「おめぇよぉ、そんなつまらねえ真似してんじゃねえよ。笑い話にもなんねえぞ」

 

大悟が鋭い視線でそう言う。その予想外の反応に僕も雄二も驚いた。

一体どうしたんだ? まさか根本君を庇うつもりなのか? いや、大悟は根本君がやった行いを知ってる筈だからそんな真似をするとはーー

 

「やるんならもっとレベルをあげなきゃなぁ? オイ! 例のヤツ持ってこい!」

「はい! 兄貴!」

 

すると、合図に合わせてFクラスの一人が何かを持ってきた。どうやらそれは大悟の通学用の鞄のようだけど‥‥‥。

 

「なあ根本よ。俺が裏で何をしているか分かってるよなぁ?」

「‥‥‥ああ」

 

大悟の質問にコクリと頷く根本君。

 

「雄二は制服で良いって言ってるけどな。それじゃあ俺の気が治まらねぇ。お前には少し『人としての領域』が欠落してるからな。仕置きも兼ねてテメェには、もっとお似合いな格好があるぜぇ?」

 

そして大悟は、鞄に手を突っ込んで何かを取り出して根本の前に突き出した。

大悟、一体何をしてーー

 

 

 

 

バサッ ←(フリフリがいっぱいついた黒のゴスロリ衣装)

「俺の自信作だ。どうだ、可愛いだろう?」

 

 

 

 

大悟が取り出したものーーコスプレ衣装を見た瞬間、教室内の空気が凍りついた。

いや、君は学校に何でそんなものを持ってきてるんだ。

 

「おっと、これだけじゃあ無いぜ? ええと後はーー」

 

大悟はまた鞄から何かを取り出そうとする。その様子は至極冷静で、明らかに皆の雰囲気が変わったのに全く気にも止めていなかった。

今度は一体何をーー

 

 

 

バサッ←(メイド服)

バサッ←(ビキニアーマー)

バサッ←(巫女服)

バサッ←(園児服)

バサッ←(スクール水着)

バサッ←(ウェディングドレス)

 

「ふぅ‥‥こんなもんだろ。ダイゴブックスオリジナル、どれも至極の逸品だ」

 

 

 

机の上にずらりと並べられた大量のコスプレ衣装。しかも見た感じ全部が根本君のサイズに会うように作られていたみたいだった。

それに唖然した表情を浮かべるBクラスの生徒。いや、もう一度言うけど大悟は一体学校に何を持ってきているんだい? 流石の雄二も笑顔が引き攣っていた。

 

「ムッツリーニ、撮影の準備だ。出来るだけ高画質な写真に仕上げたい」

「‥‥‥‥‥了解した」

 

すると、いつの間にかムッツリーニが大悟の隣に立っていて、大型のカメラや撮影用の機材を準備していた。

 

「お、岡崎‥‥‥お前、俺に何をさせるつもりだ?」

 

その光景を見て、青ざめた根本君が震えた声で大悟に問う。その声色は明らかに怯えている感じだった。

 

「なぁに、お前には少し乙女の気持ちってもんを味わってもらおうと思ってな。お前は今からこの全部のコスプレ衣装に着替えて写真に写って貰う。そうすりゃあBクラスの設備は見逃してやる。雄二、それでいいだろう?」

「ほう、なるほどな‥‥‥俺は構わねえぞ」

 

どうやら雄二は大悟の考えに同調したようだ。なんとなく雄二の個人的感情も入っている気がするけど、まあ、結局はどっちも女装することには変わりないしね。

 

「タイトルは‥‥‥そうだな。『生まれ変わった私を見て! 男子高校生のひ・み・つ!』にしよう! これは流行るぞ! 俺は二次元を愛する男だが、たまにはこういったジャンルに触れるのも悪くねえ。後で同人活動の資料にも出来るし、そっち系の人達や腐女子の皆さんにも喜ばれて2度美味しい!」

「‥‥‥こっちも売り上げの増加が見込める」

「よし、ポーズや表情の指示は俺がやる! 同志ムッツリーニ。お前の技術力で素晴らしい写真が出来る事を期待するぜ! 売上はダイゴブックスとムッツリ商会で分配な!」

「‥‥‥‥‥任せろ、同志大悟」

 

 

ニヤリ

 

 

悪者がするような笑みを浮かべ握手をする大悟とムッツリーニ。

僕は心の中で思った。この二人が味方で本当に良かったと。

 

「‥‥‥まぁ、という訳だ。んじゃ、早速着替えて貰おうか? 負け組代表」

 

そう言って、雄二がゴスロリ衣装を根本君に渡す。それを暫く虚ろな目で見ていると、やはり女装で、しかもその姿を写真に撮られるという恥辱が嫌なのか抵抗の声をあげる。

 

「ふ、ふざけるな! 百歩譲って制服ならまだしもこんなみっともねえ格好が出来るか! こんなことするぐらいなら設備を交換した方がマシだ!」

 

根本君が慌てふためく。そりゃ嫌だよね。

けど、君はそれでいいかも知れないけれど、他の人達は違うようだ。

 

『岡崎! 坂本! それで教室を見逃してくれるのなら、Bクラス一同、協力します!』

『そうね! それだけで教室を守れるなら喜んでやるわ!』

『よっしゃあ! そうと決まれば善は急げだ! Bクラス全員で必ず実行させよう!』

『それに負けたのはコイツのせいなんだ! だから責任とってコスプレしろ!』

『そうよ! 折角岡崎君が作ってくれたんだからありがたく着なさい!』

『『『そうだそうだ!! コスプレしろーっ!』』』

 

Bクラスの仲間達の温かい声援。これを見るだけで根本君のクラス内での評価が分かった気がした。

 

「んじゃ、決定だな。ほら、早く着ろよ。兄貴サマが待ってるぞ?」

「くっ! よ、寄るな! 変態ぐふぅっ!」

 

一瞬で見限られたBクラス代表は、呆気なく腹パンによってノックアウトした。

 

「兄貴、取り敢えず黙らせました」

「よし、それではこれより着付け作業に入る。明久、来い」

「了解っ」

 

ぐったりと倒れている根本君に近づき、制服を脱がせる。男の服を脱がせるなんてこの上ない苦痛だけど、仕方がない。

 

「う、うぅ‥‥‥」

「恋のマジカル☆チョップ!」

「がふっ!」

 

大悟による追撃。これなら暫く根本君は起きないだろう。

 

「うーん‥‥‥。これ、どうするんだろう? 流石にゴスロリ衣装なんて着せたことも自分で着たことも無いしなぁ‥‥‥」

「私がやってあげるよ、吉井君。岡崎君もいいかな?」

「む? Bクラスか、助かる。じゃあ頼むぜ」

「おっけー」

「それじゃ、どうせなら折角だし可愛くしてあげてよ」

「「それは無理。土台が腐ってるから」」

 

酷い言いようだ。

 

「じゃ、よろしく」

 

僕はその女子と大悟に根本君を託し、手に彼の制服を持ってその場を離れた。

多分、この辺に‥‥‥。

 

ごそごそ‥‥‥。

 

「あっ。あったあった」

 

見覚えのあるその封筒を取り出し、自分のポケットに入れる。

さて、この制服はどうしようか? ーーよし。捨てちゃおう。折角だから根本君にはゴシックロリータの衣装の着心地を家まで楽しんでもらうとしよう。

きっと気に入ってくれると僕は信じているさ。

 

「お前、それどうするつもりだ?」

 

いつの間にか隣にいた大悟が言う。

 

「姫路さんのもとにこっそり返しておくよ」

「いいのか? 自分が取り返したって言えば姫路からの株もあがるだろうに」

「僕は姫路さんに喜ばれたくてやったわけじゃないからね。それとも大悟は、僕がそんな小さいことであんな真似をするヤツだと思ってたのかい?」

「‥‥‥いいや、思わねぇな」

 

大悟はそう言って、僕に拳を突きだす。

 

「この喧嘩は‥‥‥俺達の勝ちだ」

「あぁ‥‥‥ありがとう、大悟」

 

僕は同じく拳を合わせ、互いに笑いあった。

 

「兄貴! 撮影準備が整いました!」

「‥‥‥‥‥カメラの調子も絶好調。いつでもいける」

「兄貴! 衣装の着付け、全身の無駄毛の処理、化粧も滞りなく終わりました! 最終チェックをお願いします!」

「分かった! 今行こう! さぁ! 俺の腕の見せ所だぜ!」

 

そして僕達はそのまま別れた。

 

その後、ダイゴブックスとムッツリ商会が協同して作り上げられた根本君の女装写真集は一部の方々に大変好評だったらしい。更には大悟が持つ多くの同業者やその手の人達との太いパイプもあってか、一躍、根本君はそっちの界隈で広く名が知られる存在になったとか。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

皆より先にFクラスに戻ってきた僕は、姫路さんの席に置いてある鞄に、例の封筒を入れておいた。

 

「これで作戦完了っと」

「吉井君!」

「ふぇっ!?」

 

慌てて振り向く。するとそこには、姫路さんがいた。

 

「吉井君‥‥‥!」

「ど、どうかした?」

 

勝手に鞄を弄っている姿を見られてしまい、慌てる僕。すると、そんな僕に姫路さんはあろうことか正面から抱きついてきた。

 

「ほわぁぁっっと!?」

「あ、ありがとう、ございます‥‥‥! わ、私、ずっと、どうしていいか、わかんなくて‥‥‥!」

「と、とにかく落ち着いて。泣かれると僕も困るよ」

「は、はい‥‥‥」

 

精神の安定を図る為に姫路さんを引き離す。

ってしまった! 引き離してどうする! こんなチャンスは二度とないだろうが!

 

「いきなりすいません‥‥‥」

 

涙目をこする姫路さん。

ああっ! 言いたい! もう一度抱きついてってお願いしたい!

 

「も、もう一度ーー」

「はい?」

「もう一度壁を壊したい!」

 

って馬鹿ぁっ! お前はどこのテロリストだよ! もう一度壁を破壊してなんになるって言うんだよ!

 

「あの、更に壊したら留年させされちゃうと思いますよ‥‥‥」

 

うん。分かってる。だからそんな気の毒そうな目で僕を見ないで。

 

「‥‥‥それじゃ、皆のところに行こうか」

「あ、待ってください!」

「な、なに?」

 

まさか、良い病院を紹介してくれる気だろうか? くっ! 前に僕が言った台詞がそのまま返ってくるなんて、こんな屈辱はいつも通りだ!

 

「手紙、ありがとうございました」

 

うつむきがちに小さな声で言う彼女。

 

「別に、ただ根本君の制服から手紙が出てきたから戻しただけだよ」

「それってウソ、ですよね?」

「いや、そんなことはーー」

「やっぱり吉井君は優しいです。振り分け試験で途中退席した時だって『具合が悪くて退席するだけでFクラス行きになるのはおかしい』って、私の為にあんなに先生と言い合いをしてくれていたし‥‥‥」

 

そういえば、そんなこともあったなぁ。あの時は先生に冷たくあしらわれたから、つい熱くなっちゃったっけ。

 

「それに、この戦争って‥‥‥私の為にやってくれてるんですよね?」

「え!? あ、いや! そんなことは!」

「ふふっ。誤魔化してもダメです。だって私、岡崎君から全部聞いちゃいましたから」

 

何っ!? そんな馬鹿な! だってあの時の事は僕と雄二しか知らないはずーー

まさか雄二のヤツ! 大悟に喋ったのか! これじゃあ誤魔化しようがないじゃないか!

 

「岡崎君も言っていました。『明久は馬鹿だが、人間として大切なものをちゃんと持ってるヤツだ』って。私もそう思います。優しくて、小学生の時から変わってなくて‥‥‥」

 

驚いた。まさかあの大悟がそんな事を言うなんて。な、なんだろう。今までに経験した事のないむずがゆさを感じる。よく分からないけど、僕はこの雰囲気に耐えられそうにない!

 

「そ、その手紙、うまくいくといいね!」

「あ‥‥‥。はいっ! 頑張りますっ!」

 

そんな僕の言葉に応えたのは、姫路さんの満面の笑み。その笑顔を見て思う。

この子は本当に大悟のことが好きなんだな。わかっていたことだし、僕は大悟に敵わないと実感している。悔しいけどしょうがないか。けど向こうは二次元の女性にしか興味ないとかって公言してるヤツだからなぁ‥‥‥。

 

「で、いつ告白するの?」

「え、ええと‥‥‥全部が終わったら‥‥‥」

「そっか。けど、それなら手紙より直接言った方がいいかもね」

「そ、そうですか? 吉井君はその方が好きですか?」

「うん。少なくとも僕なら顔を合わせて言ってもらう方が嬉しいよ」

 

手紙は根本君のせいで嫌な記憶になっていそうだし、姫路さん自身にとっても、きっとその方がいいだろう。

大悟も多分、今の僕と同じ立場にいたら同じ答えを出すと思うしね。

 

 

『お、おい! なんだこのフリフリのスカートは! 歩きにくいぞ!』

『いいからキリキリ歩け! 言っておくが少しでも衣装を汚したら兄貴が怒るから気を付けろ』

『お、岡崎め! よくも俺にこんな辱しめをーー』

『無駄口を叩くな! これから撮影会もあるから時間がないんだぞ!』

『き、聞いてないぞ! 大体何でカツラと化粧までされてるんだ! それにお前達、下の毛も剃ったのか!?』

『兄貴の指示だ! 例え三次元だろうと、作品として残す以上決して妥協を許すなってな! どうせ後にスクール水着も着て貰うんだからな!』

『ま、待て! スクール水着!? 止めてくれ! それだけは勘弁してくれぇぇええ!!』

 

 

と、いきなり廊下から響いていた言い争い。どうやら始まるみたいだ。

きっと根本君は一生忘れられない思い出を背負うことになるだろう。

 

「じゃあ姫路さん。頑張ってね。僕も応援してるから」

「はいっ! ありがとうございます! それに、岡崎君も応援してくれていますしねっ!」

 

元気にそう返事をした姫路さん。そっかそっか。大悟も応援してくれてるのかーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーえ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと‥‥‥大悟が応援してくれてるって、どういうこと?」

「え? 言葉通りの意味ですよ? 私が好きな人へ思いを伝えられるように、岡崎君も協力してくれるって言ってました」

「え!? 姫路さんの好きな人って、大悟のことじゃないの!?」

「ち、違いますよっ! 岡崎君とはお友達ですけど、そんなんじゃありませんっ!」

 

 

 

 

「えええぇぇぇぇぇええええ!!!?」

 

 

 

 

 

僕はこの時、姫路さんが大悟に片思いしているというのが誤解だと分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

「‥‥‥雄二、私と付き合ってほしい」

「カーット!! ダメダメ! まだ瞳にハイライトが灯ってる! 頭の中を完全に邪念まみれにするんだ! もっと貴方の事しか考えられませんという雰囲気を出すんだ! それがヤンデレ属性の強みであり、武器なんだ! それを活かさなきゃ雄二はふりむいてくれねぇぞ!」

「分かった、頑張る。‥‥‥雄二、私とーー」

「カーット!! 笑顔にまだ爽やかさが残ってる! もっとーー」

 

 




これにてBクラス戦終了です。次回からはいよいよAクラス戦に突入します!

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
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