問 以下の問いに答えなさい。
『地図と方位磁石を頼りにチェックポイントを辿るスポーツを、何と呼ぶでしょう』
姫路瑞希の答え
『オリエンテーリング』
教師のコメント
正解です。さすがですね、姫路さん。
長い距離を歩くスポーツで、上り下りのある山道で行われる事もあります。体の弱い姫路さんには大変かもしれませんが、体力作りのためにも頑張って参加してください。
岡崎大悟の答え
『遭難体験』
教師のコメント
高校生には厳しすぎるかと。
吉井明久の答え
『ロールプレイングゲーム!』
教師のコメント
そう答えると思ってました。
ーー明久視点ーー
「明久、ここはやめよう」
「ここまで来て何を言ってるのさ! 早く中に入るよ!」
「頼む! ここだけは、Aクラスだけは勘弁してくれ!」
僕らはAクラスの前に来ていた。天ちゃんと葉月ちゃんの話によると、噂の出所はここらしい。けどその名前が【魔法メイド少女カフェ 『ご奉仕しちゃうぞっ☆』】という、いかにもFクラスのキモオタが考えそうなネーミングセンスだった。でも魔法少女なのかメイドなのかどっちなんだろう、と思っていると、
【協賛 ~貴方の欲望、お埋めします~ ダイゴブックス】
やっぱり大悟が絡んでいたか。まぁ、こんなこと考えるのアイツくらいしかいないもんね。
「そっか。ここって坂本の大好きな霧島さんのいるクラスだもんね」
「あれ? あと確かここには岡崎の恋人の木下さんもいるのよね? 岡崎はどうしたの?」
「さぁ? まだFクラスの人達から逃げ回っているんじゃないですか?」
雄二が妙な抵抗をしているうちに女の子三人も追い付いてきたみたいだ。でも、珍しいことにこの場に大悟はいない。おそらく天ちゃんの言う通り百鬼夜行と化したクラスの連中から逃げ回っているのだろう。それに船越先生がどうとか言ってたし、大悟にとっては死と絶望の鬼ごっこといっても過言じゃないだろうな。
「ま、大悟のことはともかく、雄二、これは敵情視察なんだ。決して趣味じゃないんだからーー」
「‥‥‥‥‥!!(パシャパシャパシャパシャ!)」
「‥‥‥ムッツリーニ?」
見ると、そこには現在厨房の責任者をいなくなった大悟の代理で任されているはずのムッツリーニが、指が擦り切れんばかりにカメラのシャッターを切っていた。
「‥‥‥‥‥人違い」
「どこからどうみても土屋でしょうが。アンタ何してるの?」
「‥‥‥‥‥敵情視察」
「ムッツリーニ、ダメじゃないか。盗撮とか、そんなことをしたら撮られている女の子が可哀想だとーー」
「‥‥‥‥‥一枚百円」
「2ダース貰おうーー可哀想だと思わないのかい?」
「アキ、普通に注文してるわよ」
はっ!? いつの間に!?
「‥‥‥‥‥そろそろ当番だから戻る」
そう言って、ムッツリーニは僕に写真を残して、教室の方に去っていった。
「全く、ムッツリーニにも困ったもんだね」
「吉井君、その写真をどうするつもりなんですか?」
「やだな~姫路さん。もちろん処分するに決まってるじゃないか。それよりそろそろお店に入ろう? もう凄くお腹が減っちゃったよ」
「あ、そうですね。入りましょうか」
「うんうん。早く敵情視察も済ませないとーー写ってるのは男の足ばっかりじゃないか畜生!」
「やっぱり見てるじゃないですかっ!」
「ご、ごめんなひゃい! くひをひっぱらないで!」
バレて頬をつねられた。それと、足元では何故か葉月ちゃんが僕の腿をつねっていた。
「それじゃ、入るわよ。お邪魔しまーす」
ガチャリ
「「お帰りなさいっ、お姉様っ」」
出迎えてくれたのはクールで知的な美人、霧島翔子さんと、キュートで可愛らしい女の子、木下優子さんだった。
「わぁ‥‥‥二人とも綺麗で可愛い‥‥‥」
「あっ! さっきのトゲトゲバットのお姉さんですっ!」
姫路さんが感嘆の声を漏らす。確かに霧島さんと木下さんは綺麗で可愛かった。でも木下さんは恥ずかしいのか、若干顔を赤らめながら俯いている。ていうか、やっぱりさっきの大悟の状態は木下さんによるものだったのか、ざまぁみろ。
霧島さんは長い黒髪にエプロンドレスの白がよく映えて、黒のストッキングが彼女の美脚を更に際立たせている。反対に木下さんは流石秀吉と二卵性双生児というだけあって、その端麗かつ幼さの残る顔立ちに茶色の髪。そして霧島さんとは真逆でミニスカートに生足というどこか大胆さを兼ね備える衣装だった。
そして、店名にもあった魔法少女よろしくなのか、肩から二の腕くらいまでに黒いフードを身につけ、胸元には白いリボン。更に二人ともキラキラしたステッキを持っている。まさにメイドと魔法少女の良いとこ取りって感じだ。
くそっ。やっぱり雄二と大悟のヤツが心から憎い!
「それじゃ、僕らも」
「はい。失礼します」
「魔法少女×メイド‥‥‥Best Match!」
「お姉さん達、きれ~!」
「‥‥‥お帰りなさいっ、お兄ちゃんっ」
「‥‥‥お、お帰りな‥‥‥さいっ、お姉ちゃんっ」
霧島さんと木下さんは姫路さんと葉月ちゃん、天ちゃんにも同じように出迎える。照れながら言う木下さんはなんかいつもの優等生って感じとは違って新鮮だなぁ。これが大悟が前に言ってた『ギャップ萌え』ってやつなのかな?
「‥‥‥チッ」
最後に雄二が渋々入店してくる。
「‥‥‥お帰りなさいっ。貴方に永遠の愛の魔法を、ダーリン」
ちょっとアレンジされていた。
「霧島さん、大胆です‥‥‥!」
「ウチも見習わないとね‥‥‥」
「あのお姉さん。魔法が使えるのかな?」
「へぇ、あれが大悟兄の言ってた雄二さんのお嫁さんか」
それぞれのリアクション。美波は見習ってどうするのか気になるところだ。
「‥‥‥? ‥‥‥?」
すると、木下さんは僕達の集団をキョロキョロ見回していた。おそらく僕達の中に本命の大悟がいないのに気づいたんだろう。まあ、今は大悟はそんな場合じゃないしね。
それが分かると、途端にしゅんとした表情になってしまった。
「‥‥‥吉井、岡崎は?」
「うーん、それが僕達にも分からないんだよ。どこにいるのかもさっぱりで」
「‥‥‥優子、ずっと岡崎の事待ってる。なんとか岡崎をここに呼べたりしない?」
「そうだな‥‥‥じゃあちょっと連絡してみるよ」
「あ、ならあたしに任せて下さい」
ポケットから携帯電話を取り出そうとすると、突然天ちゃんに止められた。
「‥‥‥貴女は?」
「あ、初めまして、あたし大悟兄の妹の天っていいます。大悟兄を呼び出したいなら一番効果的な方法がありますよ」
「え? そんなのがあるの? 天ちゃん」
「はい。えーっと‥‥‥あ、あった。これです」
すると、天ちゃんが取り出したのは小型の音楽プレイヤーだった。
「ん? これでどうやって大悟を呼び出すの?」
「まあまあ、見ていてください。じゃあ、再生しますね」
天ちゃんは音楽プレイヤーからイヤホンを外し、音がそのまま出る状態にする。そして何やら曲を選んでいるようで、それを再生した。
『悪い人はお仕置きしちゃいますっ! エボリューション☆チェーンジ☆』
流れてきたのは何かのボイスのようだ。でもやけに子供みたいな声っぽいけど、何のボイスなんだろ?
『炎上爆発! 殲滅破壊! 魔法のステッキで大変身☆ 我こそはゴッドウィザードの正当なる後継者! その名もーー魔法少女の弟子っ☆』
「『めるたぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーんっ!!!』」
ガシャァァアアアアン!!!
すると、突然外の窓から何者かが大声を上げて教室に突入してきた。
よく見ると、それは良く僕が見知った馬鹿だった。
「‥‥‥何してるの、大悟?」
「何をしてるだとっ!? そんなことよりも明久! 今ここからめるたんの声が聞こえただろう!? どこだ、めるたん! まさか敵が現れたのかっ!? もう安心してくれ! 君を守る騎士であるこの大悟お兄ちゃんが助けに」
「お帰り、大悟兄」
「ん? 天? 何故ここにーーん?」
天ちゃんの一言で、少し我に帰った大悟。そして周囲の状況をキョロキョロと確認しだした。
『めるたんの変身ボイスが流れている音楽プレイヤー』
『それを持っている妹の天ちゃん』
『大悟の後ろで淀んだ目をして禍々しいオーラを発している木下さん』
「お帰りなさいっ。一生覚めない夢の魔法を貴方に、お兄ちゃん‥‥‥いえ、あ・な・た♪」
やけにドスの効いた木下さんの出迎え。
大悟は一通り確認し終えたのか、ふぅ‥‥‥、と深呼吸をした。
ダッ(出口に走り出す大悟)
ガッ(その手を掴む木下さん)
ドカッ(そのままエスカ○ボルグで大悟を殴る木下さん)
ズルズルズル(そのまま木下さんに無理矢理席まで引きずられていく大悟)
‥‥‥なんだろう、Aクラス戦以来から、段々優子さんがFクラスに負けないくらい過激になっていってるような気がする。
「木下さん、とっても行動力がありますね‥‥‥羨ましいです」
「憧れるよね‥‥‥ウチも見習わないと」
「あのお姉さん、ちょっと目が怖かったです」
美波、それは多分見習わなくていいやつだと思うよ。
ーーー
ーー大悟視点ーー
「ーーーはっ!?」
「あ、起きた、大悟兄?」
「ん、天か。俺は一体何を‥‥‥ってか頭痛ぇ‥‥‥」
「ここはAクラスだよ、大悟兄」
目を覚ますと、俺は椅子に座っていた。隣には天が座っていて、同じテーブルには明久、雄二、葉月ちゃん、姫路、島田もいる。そういや、俺は確かFクラス連中と何故だか船越先生から逃げ回ってたんだったな。
そしたらこっからめるたんの声が聞こえたから、つい我を忘れて突入してしまったぜ。
「そうか‥‥‥って、Aクラスだとっ!? まさかっ!?」
俺は慌てて周囲を見回す。ヤバい。Aクラスということはあのヤンデレモンスターがいるに違いない。どうりでさっきから頭が何か鈍器で殴られたような痛みがするワケだ。理由は知らんが多分また俺はアイツにやられたんだろうな。
「落ち着いて大悟兄。優子姉なら今はいないよ」
「いないだと? それは本当か?」
「うん。さっき出ていったから明久さん達も皆知ってるから」
そうか、なら良かったと俺は安堵する。けど珍しいな。自慢するワケじゃないが、俺が来たとなればアイツは真っ先に俺にベタベタしてくると思ってたからな。買い出しにでも行ったんだろうか?
「何処に行くとかは言ってなかったのか?」
「確か、大悟兄が追われてるって事を明久さんと雄二さんが話したら『ちょっとそのゴミ始末してくるわ』ってエスカ○ボルグ持って出ていったよ?」
「さらばだ野郎共、船越先生。今までそれなりに楽しかったぜ」
残念だ。まさかこんなにも早く身近な人達がいなくなってしまうなんて。けど不思議だ。悲しいとはあんまり思わん。
「あ、そうだ、天」
唐突に俺はとある事を思い出し、天に言う。
「ん? なに、大悟兄?」
「お前、めるたんのボイス流して俺を騙したよな?」
「え? ‥‥‥あっ」
「前にも言ったよな? 二次元関係で俺を騙したり嘘ついたりしたら怒るぞってさ?」
俺の言葉に冷や汗をかく天。この様子だとそれを知った上でやってたなコイツ。
「え、えぇっと、それは‥‥‥その‥‥‥あれですよ?」
「言い訳したら拳骨な?」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「おにいたまだいちゅき☆ ゆるちて?」
満面の笑みでそう返した天。全く、天は仕方ねぇなぁ。
「よし、天。少し離れてくれ」
「嫌だ」
「離れろな?」
「嫌です」
「離れろ」
「やだ、叩くでしょ?」
「叩かねぇよ」
「ほんと?」
「シメるから」
「やーだー! ごめんなさーい! 許してー!」
アイアンクローをやろうとする俺の手を必死に両手で押さえて許しを乞う天。だがごめんで済めば落とし前なんていらねぇんだよ。よくもこの俺の純情なるめるたん愛を利用してくれたな愚妹よ。兄の怒りを知れ。
「‥‥‥では、メニューをどうぞ」
すると、霧島が立派な装丁のメニューを渡してきた。ふむ、改めて見るとやはり霧島もそうだが文月の女子は逸材ばかりだ。メイドと魔法少女というアンバランスな組み合わせにも関わらず両方の良さを引き出し、尚且つ互いの邪魔をさせない着こなし‥‥‥やはり俺の目は間違えていなかったようだ。
クラスの内装も完璧だし、あの時、二時間以上かけて講義『メイドは何か? ご奉仕とは何か?』をした甲斐があったぜ。ま、それに加えてつい魔法少女についても話しちまったけどな。ま、是非もナイヨネ!
「ウチは『天にも昇る魔法のふわふわシフォンケーキ』で」
「あ、私もそれがいいです」
「葉月もー!」
「じゃあ、あたしもそれにします」
女子勢は仲良くシフォンケーキ。
「僕は『聖なるスカイブルーウォーター』で。付け合わせに『マジック☆ソルト』があると嬉しいな」
「おい、それ綺麗な名前してっけど、水と塩じゃね?」
コイツどこでも塩水飲んでんな。
「さて、どうすっかなぁ‥‥‥雄二は何にすんだ?」
「そうだな‥‥‥んじゃ、俺は」
「‥‥‥ご注文を繰り返します」
遮るような霧島の声。え? まだ俺達注文してねぇぞ?
「‥‥‥『天にも昇る魔法のふわふわシフォンケーキ』が四つ、『聖なるスカイブルーウォーター』と『マジック☆ソルト』が一つ、『メイドとの婚姻届』と『魔法少女との夜の営み』がそれぞれ二つずつでよろしいでしょうか?」
「「全然よろしくねぇぞっ!?」」
突然の悪魔の言葉に叫び声を上げた俺と雄二。待ってくれ、俺の今までの記憶を辿る限り、メイド喫茶にも魔法少女にもそんなイヤらしさ満載なメニューもやり取りも存在しない! 勘弁してくれよ霧島さんホント! 冗談でも言って良いことと悪いことがあるんだぞ!
「‥‥‥では食器をご用意致します」
カチャッ(女子勢の所に置かれたフォーク)
スッ(明久の前に置かれた塩)
スッ(俺と雄二の前に置かれた実印&朱肉 ラブホテルの予約票)
おかしい。明久の塩がまともに見えるくらいおかしい物が置いてあるんだが?
「待ってくれ霧島! どうしてお前が俺達の家の実印を持っているんだ!?」
「そうだ! それにもう一つの方はどうやっても未成年じゃ用意するのは無理だろ! どうやって手に入れたんだ!?」
「‥‥‥さっき、凛花さんっていう人が用意してくれた。雄二の実印はお義母さんが貸してくれた」
「何やってんだ俺達の母親よぉぉおおっ!!?」
そうだったのか。全く相変わらず読めない行動をしやがるな。
よし、帰ったらあの人の常備してる酒という酒全部を下水道に棄ててやろう。やられたらやりかえす、俺はやるからな? 息子の底力と怒りを舐めるなよ母さん。
「‥‥‥では、魔法メイド少女とのラブラブ生活を想像しながらお待ちください」
「「恐ろしい事を言うな!?」」
優雅にお辞儀をしてキッチンらしき方向に歩いていく霧島。
「‥‥‥雄二、お前、絶対に召喚大会優勝しろよ。俺も全力で応援する」
「‥‥‥当たり前だ。俺達の自由と操の為にも! そうだろ、明久!」
「あ、うん。それはもちろん僕もそうだけど」
雄二の目からは並々ならぬ決意が感じられる。ふっ、いい目だ。それでこそ俺のダチだぜ。
「んで、葉月ちゃん。天ちゃん。キミ達の言っていた場所ってここなの?」
「あー、そうですよ。ここで馬鹿みたいにデカイ声でずっと騒いでました」
「なんか、嫌な感じのお兄さん達でした!」
『お帰りなさい、お兄ちゃん達っ』
『おう。二人だ。中央付近の席は空いてるか?』
と、新規の客の声が聞こえてきた。聞いたことのある胸糞な声だ。
「あ、大悟兄。アイツらだよ。さっきからずっと『中華喫茶は危ない』って言ってんの」
「やっぱりそうだったか。ったく、暇人かってんだよ」
声の主は、さっき俺らのクラスで営業妨害を企てて母さんにボコられた常夏コンビだった。天がさっきからって言ったから、多分通ってんだろう。
『それにしても、この喫茶店は平和でいいな!』
『そうだな。さっきいった二-Fの中華喫茶は酷かったからな!』
『料理の中に虫が入ってたし、物騒な客までいるしな!』
「っ!」
「待て、明久」
勢いよく立ち上がった明久を止める。恐らく殴り飛ばしにでも行くつもりだろう。単純なヤツだ。
「大悟、どうして止めるのさ! あの連中を早く止めないと! しかもアイツら、凛花さんの事まで悪く言ってるんだよ!?」
「馬鹿野郎。こんなおおっぴらに喧嘩沙汰なんて起こすな。そしたらFクラスの悪評は余計に広がることになるんだ」
「けど、このまま黙って指を加えて見てるワケには‥‥‥」
「まぁ待て。大悟、何か考えがあるんだな?」
「おうよ。こちとら何百とメイド喫茶に通ってる身だ。だからああいった害悪野郎が来ることも予想済みよ。見てろよあのゴミ共め、俺のプロデュースする魔法メイド少女喫茶で好き勝手はさせねぇからなーーあ、丁度来たな。おーい、優子!」
「‥‥‥あっ、ただいま、ダーリン♪ で、何?」
丁度Aクラスに戻ってきた優子を呼ぶ。てかまじでダーリンとか止めてくれ。俺はダーリンはダーリンでもダリ○ラの方が好きなんだ。
さて、優子の手の甲とエプロンに鉄の香り漂うトマトケチャップらしきものが付着していることはさておき、俺は本題に入る。
「なぁ優子。アイツら、見たことあるか?」
「え? ‥‥‥あぁ、あの先輩達? あれならさっきもこの教室に来て、全く今と同じようなこと喋ってたわよ。何なのかしら? 正直五月蝿いし、雰囲気も悪くなるから目障りなのよね」
分かりやすく顔を歪める優子。その後ろで霧島もコクッと頷いた。やはり二人にとっても愉快な客では無いようだ。
「そうか‥‥‥それなら丁度良い。優子、衣装を貸してくれ」
「‥‥‥流石に大悟が着れるサイズは用意して無いわよ?」
「待て! 俺がいつ自分用の衣装が欲しいと言った!?」
「あ、でもどうしても大悟が欲しいなら、恥ずかしいけど私のでーー」
「よし、落ち着け。お前のは必要じゃないからメイド服を脱ごうとするんじゃない! この変態野郎!」
あろうことか、その場でいきなり着ている衣装を脱ごうとした優子を、俺は必死に止める。クソ! コイツ、俺が言うことなら躊躇い無く実行しようとしやがる! 前までそんな様子全然見せなかった癖に! なんて危ない野郎だ!
あと後ろで明久と天が残念そうな顔をしていた。
「いいか優子? 俺は予備の衣装があれば貸してくれって言ったんだ。ちゃんと意味を理解しような?」
「ダーリンがそう言うなら分かった。けど誰に着せるつもり?」
「それは見てからのお楽しみというヤツでーー待て優子。どうして俺にエスカ○ボルグを突き立てる?」
「まさかとは思うけど‥‥‥私の知らない他の女に着て欲しいから、とかじゃ無いのよね?」
「はっはっは、何を言ってるんだ? 全く優子は馬鹿だな「大悟? 質問に答えなさい?」決してその様な愚かな真似はしないと固く心に誓います」
うん、これ以上なんか言うと命が危ないな。もう臨死体験はごめんだ。
「‥‥‥仕方ないわね。けど、もし嘘をついたらーー」
「ついたら?」
「前歯以外、全部へし折っちゃうからね♪」
そうどす黒い笑顔で言い残して去っていった。前歯以外か‥‥‥痛そうだ。
『あの店、他の食い物もヤバいんじゃないか?』
『言えてるな。なんせ、虫が入ってるんだもんな!』
『流石、あの問題児共がいるクラスだよな!』
わざとらしく大声で喋りやがる常夏コンビ。しかも俺達のテーブルは他の客からの注目の的になっていて、下手に動けない状況だ。
「大悟! なんでもいいから早く連中を!」
「まぁ待ちたまえよ明久君。おい、天、着付けの準備だ。秀吉にも連絡しとけ」
「? なんで? まぁ別にいいけど‥‥‥」
天が携帯を取り出して秀吉に繋ぐ。うし、これでいい。
「お待たせ、はい」
「お、サンキュー、優子」
と、今度は優子が俺特性デザインの衣装を一式抱えて戻ってきた。
「これで貸し一つね、大悟?」
「うむ、分かった。だそうだ、明久」
「分かったよ。じゃあ御礼に後で大悟を滅茶苦茶にしていいから」
What!? 明久、今貴様なんつった!?
「ほんと? ありがとう、吉井君♪」
「ちょっとまてテメェ! なんで俺なんだよ!?」
「じゃ、私そろそろ仕事に戻るから。今夜が楽しみね、ダーリン♪」
「待って! 優子も本気にするな! 頼むから待ってくれぇーー!!」
俺の抵抗も虚しく、優子は嬉しそうにその場を離れていってしまった。
「終わった‥‥‥俺のきらびやかな二次元生活が終わった‥‥‥」
「まあまあ、そこまで落ち込むことないじゃないか。で、これをどうするの?」
明久がそう呑気に訊いてくる。このクソ野郎後で絶対シバいてやる。そう思い、俺は恨みの籠った視線を明久に向けて言った。
「‥‥‥コイツを着ろ」
「ふーん、だってさ、姫路さん」
「え? わ、私が着るんですか?」
「バカいってんじゃねえ。姫路が着たところでどうやってあの常夏コンビを倒すんだよ?」
「じゃあ、天ちゃん?」
「あたしの戦闘力はゴミです」
「それじゃ、美波? でも、胸が余っちゃうとぶべらぁっ!」
「ツギハ、ホンキデ、ウツ」
すげえ殺気だな。
「島田でもねぇ。そしたら面が割れちまうだろうが」
「? でも、葉月ちゃんじゃ丈が余りすぎちゃうし、秀吉は今いないし、誰にーーーまさか」
どうやら明久は感づいたようだ。そう、そのまさかよ、
「着るのはただ一人‥‥‥お前だよ明久ァ!」
「いやあぁぁぁぁぁっ!」
勢いよくテーブルから立ち上がり、拒否反応を示す明久。ふん、残念だったな馬鹿め。今のこの状況でコスプレが出来尚且つあの三年共を倒せるのは『女装が一番似合う男No.1』の称号を持つお前にしか出来ないのだよ!
「やっぱり僕か! そりゃ女装したら確かに顔はバレないかも知れないけど!」
「分かっているなら話は早い。なに、心配するな。お前はブサイクだが女装すればそれなりに可愛い。その証拠としてダイゴブックスの先月の売り上げトップ3には女装明久二次元エロ漫画がランクインしてたんだぞ?」
「待って! どうして他の正統派を差し置いてそんなおぞましいジャンルが上位にランクインしているんだい!? そもそも僕の女装なんてどこに需要があるのさ!」
「ちょっとまて明久。いいか、人間ってのは多種多様な趣味を持つ生き物なんだ。そうやってお前の価値観でおぞましいとか判断するんじゃねえ」
「そうですよ明久さん。少なからずここには女装明久さん、略してアキちゃんを求める人がいるんですから、失礼ですよ?」
「くっ! 兄妹そろって地味に正論を述べるとは‥‥‥あと天ちゃん、その呼び方はやめてほしい!」
ま、そのトップ3に貢献してくれた奴らがすぐ近くにいるわけですがな。はっはっは。
「ってなわけで、着ろ」
「くっ! そうはいくものか! こんなところにいられない! 僕は先に帰らせてもら痛ぁぁあい!?」
「まぁそう言わずに着てみろよ、明久。案外似合うかもしれねぇぞ?」
「そうね。せっかく用意してもらったんだから、逃げるなんて失礼よ、アキ」
逃げようとした明久はすぐさま雄二と島田に捕らえられ、地面に組伏せられた。特に雄二は顔がにやけていることから俺の考えに気づいたんだろう。
馬鹿め、Fクラスの売りは団結力と行動力。島田はともかく、雄二がお前の行動を予測出来ないとでも思ってたのか?
「あの、吉井君。大丈夫ですか?」
そう言って倒れてる明久に近づく姫路。
「ありがとう。まったく、大悟の卑劣さには驚かされるよ」
「あ、あはは‥‥‥。でも、きっと大丈夫ですよ」
「そうだよね。あんな卑怯な真似はーー」
「吉井君ならきっと可愛いと思いますっ」
「そういう問題じゃないよ姫路さん!?」
ーーー
ーー明久視点ーー
「こ、この上ない屈辱だ‥‥‥!」
「明久、存外似合っておるぞ」
「やっぱりあたしと大悟兄の目に狂いは無かったですねっ!」
連絡を受けてわざわざやってきた秀吉と、連絡した天ちゃんによって、僕は男子トイレで着付けとメイク作業をさせられた。
凄い、たった数分でここまで出来るなんて、けど全然ありがたくない。
「では、儂は喫茶店に戻るぞい。存分に悪党をのしてくるが良い」
「いやー、にしても可愛いですねぇアキちゃんさん。もういっそのこと性転換でもしたらどうです?」
それだけは絶対に嫌だ、と思い、秀吉と別れてAクラスに戻る僕と天ちゃん。なんだろう。周囲の視線が凄く気になる。特に雄二と大悟の明らかに面白い生き物を見るような視線が。
『ていうか、そもそもよくあんな場所で食品なんて出せるよな』
『ま、教室のある旧校舎自体も汚いし、当然だよな』
あの連中、まだそんな会話を続けているのか。あいつらにとってはただの嫌がらせでも、僕にしてみれば大事なクラスメートの命運をかけた喫茶店なのに。許せない。
「お兄ちゃん達っ」
しずしずと歩き、このクラスのウェイトレスであるかのように声をかける。こんな奴らにお兄ちゃんなんて死んでも言いたくないけど、仕方ない。
「なんだ? ーーへぇ。こんなコもいたんだな」
「結構可愛いな」
舐めるような視線が僕にまとわりつく。物凄く気持ち悪い!
「足元にゴミが落ちてるよ? ちょっと拾うね?」
「そうか? さっさと済ませてくれよ?」
「ありがとう、お兄ちゃん。それじゃ、よいしょっとーー」
「ん? なんで俺の腰に抱きつくんだ? まさか俺に惚れて」
「恋の! マジカル☆バスタァァアアッ!!」
「ごばぁぁっ!」
大悟直伝のバックドロップ成功。これで坊主先輩は凛花さんに続いて本日二度目の脳天痛打だ。
「き、キサマは、Fクラスの吉井‥‥‥! まさか女装趣味がーー」
チッ! 生きてやがった! 仕方ない。応援を呼ぶとしよう。
「う、うぅ! このお兄ちゃん、あたしの事乱暴しようとした!」
「ちょっと待て! 乱暴してきたのはそっちだし、だいたいお前は男だとーーぐぶぁっ!」
「こんな公衆の面前で痴漢行為とは、このゲス野郎が!」
「俺の目の前で、可愛い可愛い魔法メイド少女に乱暴とは、良い度胸だなクズが」
痴漢退治と暴行阻止という大義名分を得て雄二と大悟が登場。
「お前らは何を見てたんだ!? 明らかに被害者はこっちだろ!」
「ふざけるな! さっきこの子に『僕達は変態のお兄ちゃんだよ』『今からエロい魔法をかけてあげようグヘヘ』と言いながら嫌がるこの子に迫っていたよなぁ!?」
「それに、コイツはこのウェイトレスの胸を揉みしだいていただろうが! 俺達の目は節穴ではないぞ!」
いや、正直節穴だと思う。
「さぁ可愛いお嬢さん。コイツは大悟お兄ちゃんと雄二お兄ちゃんが懲らしめてあげるからな」
「そっちで倒れてる男は任せたぞ」
「え? あ、うん。ありがとう、お兄ちゃん達っ」
う~ん。この坊主、どうしよう? 取り敢えず秀吉と天ちゃんに押し付けられたブラと猫耳でも頭につけておくか。瞬間接着剤で。
「さて。痴漢行為と性的暴行の取り調べの為、ちょっと来てもらおうか」
「くっ! 行くぞ夏川!」
「お、おい! これ外れねぇじゃねえか! 畜生! 覚えてろ変態めっ!」
坊主先輩は頭にブラと猫耳をつけたまま走り去って行った。
「逃がすか! 追うぞ大悟! アキちゃん!」
「おうよ! 雄二! アキちゃん!」
「了解! でもその呼び名は勘弁して!」
二人の後を追って僕達も廊下に飛び出す。
「ところで、ここの会計は?」
「俺達三人は何も頼んでいないだろ! 姫路達に任せておけ!」
「それに、実印は回収済みだからな! 問題はねぇ!」
『‥‥‥お会計は、夏目漱石を一枚か、坂本雄二と岡崎大悟を一名ずつのどちらかとなります』
『坂本雄二と岡崎大悟を一名ずつでお願い』
『‥‥‥ありがとうございます』
‥‥‥いいのかな? 君達千円で売り飛ばされてるけど。
おうちで過ごそう? いえ、おうちでずっと過ごしていたいです
原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?
-
入れろ、絶対に
-
別に入れなくてもいいよ