以下の文章の( )に入る正しい物質を答えなさい。
『ハーバー法と呼ばれる方法にてアンモニアを生成する場合、用いられる材料は塩化アンモニウムと( )である』
姫路瑞希の答え
『水酸化カルシウム』
教師のコメント
正解です。アンモニアを生成するハーバー法は工業的にも重要な内容なので、確実に覚えておいてください。
土屋康太の答え
『塩化吸収剤』
教師のコメント
勝手に便利な物質を作らないように。
岡崎大悟の答え
『素敵なSOMETHING』
教師のコメント
分からないからといって綺麗ぶった事を書くのはやめましょう。
吉井明久の答え
『アンモニア』
教師のコメント
それは反則です。
ーー大悟視点ーー
「高城さん‥‥‥」
「奇遇ですね、岡崎君」
これはまた、意外な人物と遭遇したものだ。それもこんな辺境の場所には訪れる可能性が限りなく低いであろうヤツが。
「まさか、アンタともあろう人がこんな所に来るとは思わなかったぜ、三学年主席の高城さんよ」
「ははは、文月の二大経済巨頭の一つ『ダイゴブックス』を経営する貴方にそう言って頂けるとは光栄ですね」
俺の言葉に爽やかな表情でそう応えるこの美形の先輩の名は高城雅春。
スラリとした長身に艶のある清潔感漂う髪。細面と切れ長の目という俗に言うイケメンと呼ばれる顔つきをしている。
しかもこの高城という先輩は三年の主席を務める程の秀才でもあり、この学力至上主義の文月学園に置いて、全生徒の頂点に君臨している男だ。
そして何気に、ダイゴブックスの初期の頃からの顧客でもある。しかも内容は自分と姫路の絡みが中心の二次元オールカラー同人誌の為、姫路が好きということも理解済みだ。ま、当の本人は明久のことが好きなんだがな。
「んで、今日は何の用で? また姫路の同人誌でもご所望かい?」
「はい。次は姫路瑞希嬢の抱き枕を所望しーー失礼、そんなことではありません。実は生徒や一般のお客様が二年Fクラスについて色々な耳にしましてね。『学園祭のレベルを遥かに越えた飲茶を提供する中華喫茶店がある』『あの中華喫茶店は客に出す食事の中に虫が入ってる』と」
しっかし、この男の慇懃な喋り方、どうにも馴染まねぇな。
だが、まさかそこまで色んな評判が広まっていたとは知らなかった。姫路達がチャイナドレスを着たことはかなりの収益効果になったようだな。だが同時に、あの常夏コンビがやらかしやがってくれた根も葉もない噂まで出回っているとはな。
「ですから、その噂の真偽が如何程なのかを確かめに本日はお伺いしたのですよ。友人と一緒にね」
「友人? いや、見たところ一人じゃねえか。どっかに連れでもいるんすか?」
「あら、ここにいたんですのね、高城君」
すると、高城さんの向こうからやってくる一つの影が見えた。その声から女性だと判断出来る。
「もう、高城君。貴方は一人で行動しない方が良いって、散々言っているではありませんか」
「申し訳ありません小暮嬢。如何せん旧校舎という所は初めて来る場所なので迷ってしまいまして」
高城さんの言葉にその女性は呆れたような表情をする。見た感じ、この人が高城さんの連れの女性の様だな。
「高城さん。この人か?」
「ええ、紹介します。私と同じクラスの小暮葵さんです」
高城さんがそう言うと、その女性は俺の前に出てくる。
「貴方が噂の兄貴‥‥‥岡崎大悟君ですね? 初めまして、私、三年A組所属の小暮葵と申します」
「あ、ども。岡崎大悟っす」
スカートの端を摘んでちょこんと礼をする小暮先輩。結い上げた髪に濡れた瞳。制服の上からでもハッキリとわかるほどの魅力的な身体のラインはどこか妖艶な雰囲気を醸し出している。単純に言うとエロゲの人気種族である色欲魔、サキュバスみたいな感じの人だった。
おい、その仕草は普通はロングスカートでやるもんだろ。そんな短いスカートでやったら女の花園をガードする唯一の生地が見えてしまうとーーあり?
「‥‥‥俺の気のせいなら済まない。小暮さんとやら、アンタ何でその長さでスカート持ち上げたのに下着が見えないんだ?」
「下着を穿いていないからでしょうか」
俺のセクハラともとれる質問にも平然と答える小暮さん。同志が聞いたら真っ先に鼻血を噴射していただろうな。
「‥‥‥‥‥」
「あら、どうかしましたか岡崎君? もしや‥‥‥スカートの中が気になっているのですか?」
「いや、別にーーって、なんで近づいてくるんですか?」
「気になるのでしたら‥‥‥ご自分の目で確かめてみますか? 私は構いませんよ?(ピラッ)」
そう言って身体をぐいっと近づけてくる小暮先輩。実際近くで見てみるとかなり妖艶で綺麗な女性だと思った。そんな女性が自らのセーフティーゾーンを晒そうとしている。普通の男ならここで性欲がクライマックスを迎えそのまま彼女を押し倒して無理矢理制服を脱がしてレッツトラブルダークネスしている事だろう。
だが、甘いな小暮先輩よ。誘惑のやり方を誤ったな。
「いや、別に興味ねえな。それに、あんまり男の前でそんな誘惑じみた真似は控えた方がいいぜ」
「あら‥‥‥そんな事を言うなんて、随分と紳士的なお方なのですね」
「いえ、小暮嬢。彼は本当に興味がないのですよ。何故なら岡崎君は自他共に認める『二次元をこよなく愛する男』ですからね。ですから我々三次元では彼を誘惑することは不可能なのですよ」
高城さんがそう助け舟を出す。分かっているようで
「まぁ、それは残念ですわ。でも、せっかく良い体つきをしていらっしゃるのですから、少しは三次元の方にも興味を持たれては如何でしょうか? 私でよければ、エスコートして差し上げますよ?(クイックイッ)」
「はは、なら俺のダイゴブックスの専属コスプレモデルになってくれるのなら考えますがね」
小暮先輩の顔つき、凹凸のハッキリした身体、そして男を惑わす誘惑的な言動。柿崎みるくちゃーーいや、工藤とはまた違った魅力がある。
工藤が男を釘付けに『する』やり方なら、この小暮先輩は男を釘付けに『させてしまう』やり方。言葉は一緒でもその本質が大きく違う。
これをエロゲヒロインの特徴で例えますとねぇ、工藤は『最初は友達だと思ってたけど徐々に女性として意識するようになったスポーツ系幼なじみ』で小暮先輩は『密かに年下の男主人公に好意を持っているけどそれが伝えられない学園マドンナのエロい先輩』なんだよな。まぁどちらも素晴らしいってこと。
「ふふ。噂通りの面白い方ですね、岡崎君。少し興味が湧いてきてしまいましたわ」
「そうですか、それは光栄ですね。じゃあもし本当に専属コスプレモデルになっていただけるのなら是非こちらまでお電話を」
「そうですね。機会があれば是非お電話させて頂きますわ」
俺は手作りの名刺を小暮先輩に渡す。うし、これでまた売り上げの増加が見込めるぞ。
「流石は岡崎君。小暮嬢をこうも容易く手込めてしまうとは、やはり兄貴と呼ばれる男は伊達ではないようですね」
「おいおい高城さんよ。勘違いはよくねぇな。女性ってのは『作品』と一緒だ。造り上げる人間がクズなら、女性だって華やかになるものもならねぇぜ。そんなんだからアンタは二学年の間で『学園長とデキている』なんて噂が立つんだぞ?」
「おや、岡崎君が冗談を言うとは珍しいですね。私とあの学園長先生がそのような関係などと」
「姫路もそれ知って『気になっていたのにがっかりです‥‥‥』って言ってたしな」
「‥‥‥な、何をおっしゃられているのかが些か理解に欠けますね。で、ですが所詮は根も葉もない噂、何も気にすることは」
「そういや最近学園長がダイゴブックスのお得意様になってな。しかもその内容が高城さんとの年の差イチャラブ同人誌で」
「岡崎君、嘘だと言ってください」
「悪いな高城さん。俺は嘘つきが嫌いなんだ」
「‥‥‥‥‥」
「高城君。吐くのならもっとエレガントにお願いします。バカがバレてしまうでしょう? それに今のは岡崎君の嘘ですよ」
「大丈夫っすよ小暮先輩、もうバレてますから」
流石明久の上位互換と呼ばれてる男だ。こんな簡単な嘘に騙されるとは。なんていうか、明久と同じ部類の臭いがプンプンしやがる。
高城さんを見ていると、『頭が良い』と『人間として出来ている』は別物なんだなとほとほと思わされるんだよな。
「ったく、高城さんといい午前中のアイツらといい、三年は変な面白い人ばかりですね」
「アイツら? それはどちら様ですか?」
げぼげぼと吐き終えた高城さんが俺に訊いてくる。くせぇ。
「常夏コンビーーいや、常村と夏川っつう先輩共なんすけどね」
「ああ、彼らなら私達と同じAクラスの生徒ですよ?」
マジかよ。あんなヤツらが勉強できんの? 小物感漂うチンピラもどきのくせして。
「あの二人がどうかなさったのですか?」
「‥‥‥まぁ、なんつーか、午前中にそいつらが営業妨害をしてきてな」
「営業妨害‥‥‥ですか?」
俺はあったことを高城さんと小暮先輩に話した。
「なるほど‥‥‥確かにあの二人は普段からあまり言動が良くは無いですからね。そんな行動に出ても何も不思議には思いませんが‥‥‥」
「ですが、どうしてそんな後輩の出し物にちょっかいをかけるのでしょうか‥‥‥皆目見当も着きませんわ」
「ですよね。俺もさっぱり分かりません」
「うーん‥‥‥あ、そういえば、少し気になることがありました」
「なんすか?」
俺が訊くと、高城さんは間を置いて言った。
「最近、あの二人が教頭の竹原先生とよくいる姿を見かけるのです。しかもそれが廊下の隅や空き教室などの人目につかない所での密談をよくしているみたいなのです。ですから岡崎君、あの三人は何かよからぬ事を企んでいるかも知れないので、気を付けた方が宜しいかと」
ーーー
ーー高城さん達と別れ、中華喫茶に戻り、しばらくした頃ーー
「ひきょうもの」
「二人とも酷いです‥‥‥」
「お前ら、一体何したんだよ‥‥‥明久」
「あ、いや、あれも勝負だったからさ」
試合から戻ってきたかと思えば、いきなり妙な雰囲気が舞い込んできた。島田のジト目と姫路の悲しそうな目に言い淀む明久。
話を訊くと、どうやら次の相手がまさかの姫路達だったらしく、流石に正攻法じゃ勝ち目が無いと判断した雄二によって卑怯な手を使ってどうにか勝ちを奪ったらしい。いくら勝負とはいえ友人にさえ容赦ない雄二のやり方には色んな意味で脱帽だ。
「二人ともそう言うな。お前らの代わりにしっかり俺達が優勝してやるから」
かたや雄二は全く悪びれる様子なし。流石人間の皮を被ったクソ野郎だ。
「それはそうと、アキ。本当に葉月に手を出そうとしてるわけじゃないわよね?」
「野郎共、殺せ」
『『『了解』』』
よし、始末する。
「言葉に気を付けてよ美波。クラスの皆が殺意の籠った視線を向けながら釘バットを構えているじゃないか」
ばれたか。しかし葉月ちゃんに手を出そうとするなど万死に値するぞこのロリコン野郎が。そんな愚か者はここで始末してやろう。
「岡崎、皆、釘バットはまだよ。さぁアキ答えなさい」
「心配しなくていいよ。僕はそもそもAカップに興味はないんだ」
「そ、そうなの‥‥‥あ、あはは。それは安心ね」
島田はそうやって軽く笑い、少し後に目を逸らした。そして散開する野郎共。まぁ俺は幼女なら胸のデカさなど関係はないがな! はっはっは。
(‥‥‥女は胸じゃないのに。アキの、バカ‥‥‥)
? 何かボソボソ言っているようだがよく聞き取れないな。まぁいいか。
「あ、皆さんお帰りなさーい」
「あ! バカなお兄ちゃん! お客さんがいっぱい来てくれたんだよ!」
葉月ちゃんと天が明久達の姿を見るなり、トトトッと駆け寄ってくる。
「そうだね。葉月ちゃん、天ちゃん、お手伝いどうもありがとうね」
「んにゃ~‥‥‥」
明久に頭を撫でられ気持ち良さそうな葉月ちゃん。クソゥ可愛い!! 俺もなでなでしたいっ!!
「大悟兄、あたしの頭なら撫でても良いよ?」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥笑ったよね? 今鼻で笑ったなぁ!? このぉー!」
目の前で騒ぐ馬鹿はほっといて、厨房に戻る。あ、そうだ
「なぁ雄二、ちょっといいか?」
「なんだ、忙しくなるんだから手短にな」
隣にいる雄二に声をかける。
「実はさっき、三年の先輩達と会ってな。妙なことを訊いたぜ」
「妙なこと?」
俺は明久や姫路達に聞こえないように雄二と一緒に厨房まで移動し、小声で話す。
「何でも例の常夏コンビだが、教頭と何か繋がりがあるらしい。それも学園祭が始まる以前から頻繁に一緒にいるところを目撃してんだと。今回のヤツらの妨害と何か関係があるんじゃねえか?」
「竹原と‥‥‥だと?」
俺の言葉に、雄二は腕を組んで考え込む。
「竹原が常夏コンビと絡んでるか‥‥‥大悟、お前はどう思う?」
「そうだな、流石に教頭がFクラスの売り上げの邪魔をしてやろうなんて小せぇこと考えてるとは思えねぇし、別の目的があるんじゃねえか?」
「‥‥‥お前もそう思ってたのか」
「まぁな」
どうやら雄二と考えていたことは一緒のようだ。
「それに、さっき明久を襲おうとしたチンピラも引っ掛かってる。明久が何かしたなら話は別だが、アイツらは何か目的があって明久を狙ったんだ。ただの一般客がそこまでするなんざあり得ない」
「つまり、竹原は常夏コンビだけじゃなく、他校の生徒とも繋がってるってことか」
雄二の言葉に俺は頷く。あのチンピラ達の喧嘩スタイルを見てわかった。あれは俺や雄二の様に『相手を倒す』という目的でやってたのではなく『喧嘩以外の目的を果たす』為だったのだ。
それにここは学校の敷地内、警備もしっかりしていて下手に喧嘩沙汰なんて起こせば一般客だろうがすぐにしょっぴかれる。喧嘩するのが目的ならどこか別の場所にでも連れていくはずだ。
けどそれをしなかったってことは、『リスクを侵してまで明久を潰す』ための理由があったということになる。
「ふむ、そうなってくると目的はFクラスじゃなさそうだな」
「そうなのか?」
「考えてもみろ。単純にFクラスの妨害がしたいならわざわざチンピラなんて雇わないだろ。しかも今まで回りくどいやり方だったのがいきなり直接潰しにかかってきたんだ」
つまり、先ほどのチンピラ狙いはFクラスを運営を邪魔することではないことになる。
「だが、何故竹原は明久を潰そうとしたんだろうな」
「恐らく、例の試験召喚大会が絡んでいるんだろう。偶然にも、常夏コンビも試合に参加しているみたいだからな」
雄二の持っていたトーナメント表を見ると、明久と雄二とは反対のブロックに常夏コンビの名前がある。高城さんはヤツらとクラスが同じって言ってたから実力は申し分ない。間違いなく決勝まであがるだろう。
「じゃあ、狙いは明久だけじゃなく雄二もか。でもわざわざここまでして明久達の優勝を阻む動機が分からん」
「まさか竹原がプレミアムチケットを狙うわけがないだろうしな」
まぁ、俺としてはそうなってくれれば優子と地獄のデートに行かなくてよくなるし、大歓迎なんだけどな。
「こうなると、あのババアは俺達をプレミアムオープンチケットを回収させる為に戦わせてるんじゃなく、別の目的を隠して参加させてる可能性が高いな。その目的は恐らくーーもう一つの景品の『白金の腕輪』が関わっているんじゃないか?」
「白金の腕輪? なんだそりゃ?」
「俺もよくは知らないが、なんでも試召戦争において特殊能力が使えるアイテムらしい。竹原が狙っているのは間違いなくこの白金の腕輪だろう。だから確実に優勝を狙えるように常夏コンビを大会に仕向けたんだ。そして万が一のことを考え、チンピラ共を明久に差し向けた。こう考えれば今までの出来事に納得がいく」
「そうか‥‥‥だがまだ疑問だ。竹原の動機が分からねぇ。どうしてそこまで白金の腕輪に固執する? それにあの婆さんだって、確実に腕輪を手に入れたいなら、霧島や優子みたいなAクラスに頼む筈だ。わざわざFクラスのお前らに頼む理由が無い。デメリットがでかすぎる」
それに竹原も竹原でどうして常夏コンビなんだ? 普通に考えれば主席の高城さん辺りにでも頼みそうなものだが。何かあの二人に有益な取引材料でも持ってんのかな?
「‥‥‥それなんだが、一つだけ推測がある」
「なんだ?」
「Aクラスじゃなくわざわざ何故俺達に回収を依頼したのか、それは俺達が特別だからでも、明久が観察処分者だからということじゃなく、俺達がFクラスだからなんじゃないか? 点数が低い俺達に白金の腕輪を回収させるということは、逆に高得点を持つ生徒に白金の腕輪を手に入れられたら困るということ。そもそもあのババァは生徒が誰と一緒になろうがどうでもいいと思う人間だ。プレミアムオープンチケットってのは俺達を動かすための建前なんだよ」
「マジかよ、じゃあ、白金の腕輪に何かあるってのか?」
「考えられるのは‥‥‥不具合、それも高得点者が使うと壊れちまうとかだな。それなら竹原が白金の腕輪を常夏コンビに使わせたい理由にもなるし、召喚大会は文月のスポンサーが多く見に来るマンモスイベントだ。その前で白金の腕輪が欠陥品だということをバラされれば、その開発責任者のババァはどうなると思う?」
雄二に問われ、俺は顎に手を当てて考える。
「‥‥‥‥‥責任が問われるな。最悪学園長っていう立場も危ぶまれる」
「そうだ。だからババァはプレミアムオープンチケットのジンクスを利用して俺を焚き付けた。それに設備の改修という要望をのんだことで俺達がそう簡単に断れなくしたんだと推測出来る‥‥‥あのババァめ、とんだ策略家だな」
なるほど、まさか教頭がそこまで企んでいたとは知らなかった。たかが設備の改修と俺達の未来を守る為の戦いだと思ってたが、そこまで話が壮大だったとはな。
これが高城さんの言ってた『よからぬ事』なんだろう。
「‥‥‥にしても、相変わらずお前はすげえな雄二。まさかあの状況からそこまで予測して話が立てられるなんてのはそうそう出来るモンじゃねぇ。流石神童と呼ばれた男だな」
「いや、大悟のあの話が無ければここまで推測は出来なかった。こっちこそ助かったぜ、大悟」
雄二はそう言って俺の肩を叩く。
「さて、そろそろ準決勝だ。今回は俺達だけじゃなく、秀吉とムッツリーニ、大悟にも協力してもらうからな」
「分かった。ここが俺達にとっての正念場だな‥‥‥」
見ると雄二の目が今までにないくらいガチだ。だがそれは俺とて同じ。何故なら次の相手は、
「霧島と優子か‥‥‥やはりあがってきやがったかコンチクショウ!」
「ああ。だがあんなバケモノどもとまともに勝負するほどバカじゃない。うまくやってやるさ」
ちなみに準決勝の教科は保健体育。何故こんなところで保健体育を選んだのかと聞くと、雄二は作戦の内だと言った。霧島と優子が勝ち上がってくるのを予測し、敢えて保健体育にしたらしい。
「雄二、分かってるとは思うがな、ここで負けること‥‥‥それは同時に人生の敗北(結婚)を意味する。俺も全力で力になる‥‥‥だから死ぬ気で勝て!」
「当然だ。絶対に負けるわけにはいかない‥‥‥! 俺達の自由の為に‥‥‥!」
「「例え、明久の命をかけてでも!!」」
俺と雄二は互いにハイタッチを交わす。やっぱり友情というものはかけがえのないものなんだなぁ。
果たして、あの霧島と優子がどんな手を使ってくるかな。
(だが悪いな大悟、万が一の時になったら、お前には犠牲になってもらう)
ーーー
ーー明久視点ーー
『お待たせいたしました! これより準決勝を開始したいと思います!』
僕らが到着すると、審判を務める先生のアナウンスが流れた。どうやら時間ぎりぎりだったみたいだ。
『出場選手の入場です!』
お客さんの前に立つ。僕らの向かい側には対戦相手の霧島さんと木下さんがやってきた。
「‥‥‥雄二。邪魔しないで」
「Fクラスの分際で、アタシとダーリンの未来を汚すつもりかしら?」
「そうはいかない。俺も大悟もまだやりたいことが沢山あるんだ!」
雄二がそう言うとステージ脇で構えていた大悟がコクコクしているのが見えた。お誘いがそこまで嫌なら断ればいいのに、素直じゃないなぁ。
「‥‥‥雄二、そんなに私と行くのが嫌?」
うっ! こ、これは必殺上目遣い! 霧島さんみたいにクールな女の子がやると、その威力はもはや無限大だ! ここで酷いことを言える奴は人間じゃない!
「ああ。嫌だ」
コイツは人間じゃない。
「‥‥‥やっぱり、一緒に暮らしてわかり合う必要がある」
「そうね。だから力ずくで排除しなきゃいけないようね」
きっぱりと拒絶されたのに全く気にしていない霧島さんと、こっそりエ○カリボルグを忍ばせた目の濁った木下さん。なんていうか、相性だけ見れば雄二と大悟に似てると思う。あと木下さんが最近怖い。
「ハッ! 残念だったな! そんな寝言は俺達に勝ってから言うことだ!」
「‥‥‥分かった。そうする」
言い争いも終わり、いよいよ準決勝が始まる。
「雄二、作戦はどう?」
「任せておけ。抜かりはない。ーーもう演技はしなくていいぞ、秀吉っ!」
何故か雄二が目の前の木下さんに向かってそう呼ぶ。いやいや、確かに外見は秀吉そっくりだけど、中身は秀吉のお姉さんーーって、そうか!
「二人がそっくりなのを利用した入れ替わり作戦か!」
「ご名答だ、明久。さぁ秀吉。お前もこっちにーー」
「‥‥‥ふふっ」
と、突然木下さんが口元に手を当てて笑う。
「秀吉。もう木下さんの演技はいいから、早く僕らとーー」
「秀吉? 秀吉って、あのゴミのこと?」
「く‥‥‥すまぬ、雄二。ドジを踏んだ‥‥‥」
木下さんが大悟の方を指差す。するとそこにはボロボロにされた挙句手足を縛られた秀吉の姿があった。
「バ、バカな!」
「ひ、秀吉!? どうしてそんな姿に!」
「雄二の考えていることくらい、私にはお見通し」
雄二を見て笑みを浮かべる霧島さん。戦争の時は幼なじみという立場が有利に働いたけど、今回はそれが仇になった。
これで雄二の作戦は失敗だ。
「ま、匿名の情報提供もあったんだけどね」
匿名の情報提供? 誰がそんなことを。僕ですら知らなかったこの作戦をバラすなんて、常に僕らをマークしていないとできないはずだ。
けれどもそんなことより、チャイナドレスで縛られている秀吉は物凄く目に悪い。いけない気分になってしまいそうだ。
「‥‥‥‥‥!!(パシャパシャパシャパシャ!)」
「‥‥‥‥‥!!(サラサラサラサラサラッ!!)」
「ムッツリーニ! 大悟! いつの間に!?」
気がつけば、カメラを構えたムッツリーニとスケッチブックを持った大悟が一瞬で僕らのそばに出現していた。
「二人とも! 撮影にスケッチなんかしてないで、早く秀吉の縄をほどいてあげてよ!(その写真とイラスト、後で売って欲しい!)」
「明久。本音が混ざっているぞ」
しまった。つい僕の正直な部分が出ちゃったみたいだ。
「‥‥‥名残惜しいが、仕方ねえな」
「‥‥‥‥‥了解」
二人は素早く秀吉に駆け寄り縄を解いていた。
「二人とも、大人しくギブアップしてくれると嬉しいな。弱いものいじめは好きじゃないし」
「くぅっ‥‥‥!」
木下さんの降服勧告に雄二が顔を歪める。雄二が立てた作戦が見破られてしまった以上、正面から戦うしかなくなってしまった。でも学年主席の霧島さんとそれに準じた成績を持つ木下さんに僕らが敵うワケがない。
せめて、木下さんだけでもどうにか出来ないか‥‥‥!
「仕方ねえ‥‥‥こうなったらあの手段を使うしかねぇ!」
すると、雄二が高らかにそう言った。
「雄二!? まだ何か策があるのかい!?」
「ああ! 少し手荒だが、効果はある! ‥‥‥大悟、お前の出番だ!」
すると、後ろで待機していた大悟がこっちに来た。そういえば、秀吉やムッツリーニとは違って大悟の役割が分からない。一体何をさせるつもりなんだろうか?
「ほほぅ、雄二。ついに俺の出番というワケだな! さあ命令をくれ! どんな内容だろうと確実にこなしてや」
「唸れ俺の黄金の右手!!」
「ぐばあっ!?」
すると、突然雄二が大悟の首元に向かって全力の手刀を放った。それにより大人しくなった大悟。
(秀吉、頼んだぞ)
(うむ、了解じゃ)
そして秀吉の登場、あっ‥‥‥なるほど、そういうことか。
「優子! 俺はお前にどうしても伝えたい事があるんだ!」
「えっ‥‥‥な、なに? 」
本人と全く区別がつかないほどの物真似で話す秀吉。流石に予想外のことだったのか、先ほどまで余裕っぷりがあった木下さんにも動揺が見られた。
「だから優子。少しの間目を瞑ってて欲しい」
「? う、うん。分かったわ」
言われた通り目を瞑った木下さん。
(よし、明久。コイツを木下姉まで運ぶぞ)
(うん、了解)
「ぐぅっ‥‥‥ゆ、雄二、貴様ァッ‥‥‥!」
「寝てろキモオタ」
「へぶっ!?」
おっと、危ない危ない。雄二の手刀で一度でおちないなんて相変わらず頑丈なヤツだなぁ。
そのまま僕と雄二で周りに怪しまれないように肩を貸す振りをして木下さんのもとまで大悟を抱えて持っていく。
(よし、行くぞっ!)
(うん!)
そして、そのまま大悟を木下さんの目の前で手放してすぐに元の位置まで戻る。
「もういいぞ、目を開けてくれ」
「うん。けど一体何をーーーーっ!?」
大悟の体はそのまま木下さんに向かって倒れ込む。そしてバランスよく木下さんがそれを受け止めた為、端から見れば大悟が木下さんにいきなり抱きついたようになった。
突然のことでアワアワする木下さんに、秀吉からのとどめの一撃。
「これが俺の本心だ。俺達はこの大会で優勝して、お前と一緒にデートがしたい!! 最後に‥‥‥この俺、岡崎大悟は世界中の何よりもーー木下優子を愛しているっ!!!」
力強い声での告白。流石演劇部に所属しかつ大悟と付き合いが長い秀吉だ。ちゃんと特徴を捉えた口調になっている。
でも、優子さんは大悟の事を知り尽くしていると思うし、いくらそっくりといっても声真似なんかで騙せるだろうかーー
「‥‥‥‥‥アタシも世界一大悟が好き、もうどこにもニガサナイ。ずうっと永遠にね‥‥‥ダーリン♥」
今までに見たことないくらいどす黒い瞳をして気絶している大悟を激しく抱き締める木下さん。どうやらいけたみたいだ。
「‥‥‥優子?」
「悪いな大悟! これも俺達の勝利の為だ!」
「よし! これである意味最狂の敵は封じたぞ! 後は君だけだ! 霧島さん!」
「‥‥‥っ!」
よし、ここからは僕の出番だな。霧島さんなら、大悟と同じ方法が使える!
(雄二。僕に考えがあるから、指示通りの台詞を言って欲しい)
(考えだと? よく分からんが、了解だ)
僕の指示だとばれないように雄二の影に身を隠す。そして再び秀吉にこっちに来るように促した。よし、やるぞ!
〈翔子、俺の話を聞いてくれ〉
「翔子、俺の話を聞いてくれ」
雄二は演技だと感づかれないように、真剣な表情をしている。
〈お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ〉
「お前の気持ちは嬉しいが、俺には俺の考えがあるんだ」
「‥‥‥雄二の考え?」
霧島さんが首を傾げる。よしよし
〈俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたいんだ!〉
「俺は自分の力でペアチケットを手に入れたい。そして、胸を張ってお前と幸せになりたいーーって、ちょっと待て!」
雄二が慌てて僕の方を向こうとする。けどそうはいくものか! 強引に雄二の頭を押さえつけてやる!
「‥‥‥雄二」
霧島さんはうっとりとした表情で雄二を見ている。よし、あともう一息だ。
〈だからここは譲ってくれ。そして、優勝したら結婚しよう〉
「だっ、誰がそんなことを言うかボケェッ!」
「うるさい! くたばれ!」
「くぺっ!?」
後ろから頸動脈を押さえる。これで聞き分けがよくなるはずだ。
「‥‥‥雄二?」
霧島さんが続きの言葉を待ち構えている。お任せください。貴女の期待に応えましょう!
「俺は大会で優勝したら、お前にプロポーズするんだ! 優勝したら結婚しよう! 愛してる、翔子ー!!」
秀吉によって最後の台詞が紡がれる。
「‥‥‥雄二、私も愛してる‥‥‥♥」
霧島さん攻略成功。これでもう向こうに戦える人間はいなくなった。
Aクラス 霧島翔子 UNKNOWN
&
木下優子 UNKNOWN
VS
Fクラス 吉井明久 52点
&
坂本雄二 UNKNOWN
「よしっ! 僕と雄二の勝利だ!」
物言いがつく前に勝鬨を上げておく。
『ただいまの勝負ですがーー』
「霧島さん、木下さん。僕らの勝ちで良いよね?」
「‥‥‥それは」
「‥‥‥でも」
「翔子、愛してる(秀吉)」
「可愛いよ、優子(秀吉)」
「「‥‥‥私達の負けで」」
『分かりました。坂本、吉井ペアの勝利です!』
冷めた観客の視線の中、僕らは勝ち名乗りを受けた。
というわけで、結構早い段階ですがバカテスのラスボス的存在の高城先輩が初登場です! これからどう大悟達と絡んでいくのかはーーまだしばらく先になりますね。
それではまた次回。
原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?
-
入れろ、絶対に
-
別に入れなくてもいいよ