バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト  

問 以下の問いに答えなさい
『水泳の個人メドレーの種目を答えなさい』


姫路瑞希の答え
『1,バタフライ 2,背泳ぎ 3,平泳ぎ 4,自由形』

教師のコメント
正解です、さすがですね、姫路さん。
解答は合っていますが、姫路さんは実際に泳ぐのが苦手なようですね。水泳は全身運動で、心肺機能を鍛えるのに役立ちます。
苦手だからといって尻込みせず、積極的に水泳に参加しましょう。


岡崎大悟の答え
『アニソンメドレーを流してくれればどんな泳ぎ方でも完走してみせましょう』

教師のコメント
君の気概は聞いていませんし、そもそもメドレー違いです。


吉井明久の答え
『アニソンメドレー、懐メロメドレー、鳩サブレー!』

教師のコメント
鳩サブレーは先生も好きです。



第二十九問 馬鹿と雑魚は違う

ーー大悟視点ーー

 

 

「ほー、中々に盛り上がってるじゃねぇか」

 

大会会場に着いた俺はそのギャラリーの多さに思わず声を漏らす。準決勝の時もそれなりに観客はいたが、やはり決勝戦ともなるとその盛り上がりようは段違いだ。

しかも、観客席にちらほら品のよさそうな格好をした人が見受けられる。あれがババァの言っていた文月へのスポンサーなんだろうな。

 

(さて‥‥‥幼女はどこだ‥‥‥出来れば葉月ちゃんレベルの可愛い妹系キャラが‥‥‥)

 

そう思い、観客席を見渡す。こんなに大勢いるんだ。その中に幼女の一人や二人いてもおかしくはない!

あわよくばその幼女の隣に座ってその香りを余すことなく堪能させてもらいたいですぞぉグへへへへ‥‥‥

 

 

「ねぇママ。あのお兄ちゃんずうっと笑ってるよ?」

「しっ! 見ちゃいけません! 優奈はああいう怪しい変態に声をかけられてもついていっちゃダメよ?」

「へんたい? わかんないけどはーい!」

 

 

おっと! いかんいかん! 幼女とのイチャラブなんて事を考えている場合ではなかったな。それに俺は二次元を愛する男だ。それを忘れないようにしなければ。

そして、俺は一番明久達との距離が近いであろう一番前の席に座る。いい席が空いててよかったぜ。

 

「さて、少し時間もあるみてぇだし、途中だったオリジナルエロゲの脚本作りでもーー」

 

「おや、偶然ですね。岡崎君」

「こんにちは、岡崎君」

「あ?」

 

急に隣からかけられた澄んだ声と妖艶な声。俺の知ってる中でこんな美声を持つヤツらは二人しかいない。

 

「なんだ、高城さんに、確か‥‥‥小暮さんじゃねぇか。どうしたんだこんな所で」

「いえ、私達もこの試験召喚大会の様子を見物させて頂こうと思いましてね。隣、よろしいでしょうか?」

「ああ、構わねぇよ」

「それでは、失礼しますね」

 

そして、高城さんが右側に、小暮さんが左側に座る。ふむ、こうして改めて見るとホントに整った顔立ちしてるよなぁ。黙ってりゃあカッコイイとはよく言うが、正にそれだよなぁ。

そんで小暮さんは相変わらずエロイな。同志に紹介してやりてぇぜ。

 

「だが、意外だな。高城さんはこういった催し物に興味がないと思ってたんだがな」

「ははは、それは少し心外ですね。私とてこういったエンターテイメントには多少なりとも関心はあるんですよ。それに、私にとっては今回が最後の学園祭ですから、少しでも多く思い出作りというものをしようと思っているのですよ」

「思い出作り? ならこんな所よりもババァのいる学園長室に行って来たらどうだ?」

「おや、どうしてそこで学園長の名前が出てくるのです?」

「だってアンタら、付き合ってんだろ?」

 

一瞬にして高城さんの表情が固まる。小暮さんは横でクスクスと笑みを浮かべていた。

 

「‥‥‥お、岡崎君。もしや昨日のように私を騙そうとしていますね? ですが流石にもうそんな手には」

「そういえば小暮さんよぉ、今回の優勝賞品がなんだか知ってるか?」

「はい。確か如月ハイランドパークのプレミアムチケットでしたわね。何でもそこに行った男女は幸せになれるとか」

「そ、そうだったんですね。ですがそれと何の関係が」

「実はな、俺達Fクラスの設備の改修と引き換えにこのチケットをババァに譲るという交渉をしててな。いやぁ、あんなに嬉しそうなババァの顔は初めて見たぜ。良かったな高城さん」

「あら、そうだったんですの。なら友人として、私もお祝いしなければいけませんね」

「岡崎君、小暮譲、冗談はそのくらいに」

「ごめんなさい。私、噓はあまり得意ではありませんの」

「人の幸せを冗談で使うワケねぇだろうが。不謹慎だろ?」

「‥‥‥‥‥」

 

『さて皆様。長らくお待たせ致しました! これより試験召喚システムによるによる召喚大会の決勝戦を行います!』

 

おっ、どうやら始まるようだ。

取り敢えず横で俺に諭吉を差し出している高城さんは放っておいて、俺は会場に視線を向ける。

 

『それでは、出場選手の入場です!』

 

アナウンスがそう告げると、会場に繋がる通路から明久と雄二が現れた。

 

『二年Fクラス所属・坂本雄二君と、同じくFクラス所属・吉井明久君です! 皆様拍手でお迎えください!』

 

すると、盛大な拍手が観客席中から大きく響き渡る。おそらくここには例の姫路の父親もいるんだろう。

 

「あら‥‥‥あれが例の『観察処分者』の吉井明久君ですか。思っていたよりも可愛らしいお顔をしているのですね」

「おっと、小暮さんお目が高い。何せヤツはダイゴブックスの中でも上位に食い込む売り上げを誇るんだ。主にそっち方面の方々や、一部の(腐)女子に大人気ですぜ?」

「おや、そうなんですのね。なら今度私も拝見させてもらってもよろしくて?」

「いいでしょう」

 

良かったな明久。お前(アキちゃん)のファンがまた増えそうだぜ。

 

『なんと、最高成績のAクラスを抑えて決勝戦に進んだのは、二年生の最下級であるFクラスの生徒コンビです! これはFクラスが最下級という認識を改める必要があるかもしれません!』

「ほう、あの司会、中々粋な台詞を言うじゃねぇか」

 

こんな言葉が聞かれれば、姫路の父親にも好印象だろう。オマケにここで明久達を持ち上げておけば『試験召喚システムのおかげで、最低学力の自分達でもやる気を出して学力が向上した』というPRにもなる。

 

『そして対する選手は、三年Aクラス所属・夏川俊平君と、同じくAクラス所属・常村勇作君です! 皆様、こちらも拍手でお迎えください!』

 

コールを受けて拍手と共に姿を現したのは、散々邪魔をしてくれやがった例の常夏コンビ(クソ野郎共)だ。

 

『出場選手が少ない三年生ですが、それでもきっちりと決勝戦に食い込んできました。さてさて、最年長の意地を見せることができるでしょうか!』

 

 

そして、明久達と常夏コンビが向き合った。さてさて、泣いても笑ってもこれがラストバトルだ。俺は野郎共の戦いを静かに見届けようじゃねぇか。

 

 

「‥‥‥いやはや、まさか高校最後の学園祭で、こんな異様な光景が見られるとは思いもしませんでしたよ」

「異様? そりゃどういう意味だ?」

「いえ、岡崎君にとっては気分を害してしまうような発言になってしまうのですが、君達Fクラスは学園の中でも最底辺に位置するクラスです。そしてあの二人はその中でも特に問題児とされる生徒でしょう?」

「まぁ、否定は出来ねぇな。実質俺も似たようなもんだし」

「ですから、そんな彼らがどうやってこの決勝戦まで踏み切る事が出来たのか、私には皆目見当もつかないのです。特に片方の生徒‥‥‥吉井明久君でしたかな? 彼は学園初の『観察処分者』です。悪いうわさも度々耳にしますからね。そんな名実ともに最悪とされる人物が何故この舞台に立てるのでしょうか? いや‥‥‥どうして立とうとすら思ったのでしょう?」

「‥‥‥‥‥」

 

淡々と告げる高城に俺は何も言い返さない。高城さんは言葉を選んで話しているつもりだろうが、要約すると『何でお前等みたいな馬鹿が勝ち上がれるなんて有り得ない』と言っているのだ。でもこの考え方を俺は否定しない。

俺達は、勉学こそが学園で生きるための武器であり、戦争で最も必要とされる力になる文月学園において、それらを酷くおろそかにしたヤツラの集まりだ。そしてこれは召喚大会。普段の戦争とは違って普段の積み重ねだけが勝敗を決めるため、その『力』を持たない俺達がいること自体がおかしいことなんだろう。

それに高城さんはこんな残念ながらも三学年の首席だ。全生徒の頂点に立つ高城さんが、自分とは全く逆の立場にいる明久に対して良い印象は持てないのも無理はない。まぁ、高城さんの場合は姫路のことも含めて思うところがあるのだろうが。

 

「待って下さい高城君。あまり岡崎君の前でそのような事を言うのはーー」

「いや、別に構わねぇぜ小暮さん。高城さんの言ってることは至極真っ当な考え方だ。だから俺はそれを責めるつもりはねぇ」

「岡崎君‥‥‥」

 

「だが、高城さんよ。アンタの言ってることには一つだけ間違いがあるな」

 

俺がそう言い放つと、高城さんは疑問符を浮かべたような表情を見せる。

 

「間違いですか? 一体私が何を間違えているというのです?」

「ま、見ていれば分かるさ。アンタがそうであるように、明久達だってそういうことなんだ」

「? どういうことですか?」

 

 

 

「『馬鹿』と『雑魚』は違うってことだよ」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ーー明久視点ーー

 

 

アナウンサーがルール説明をしているが無視し、僕らは先輩達と睨みあった。

 

「ようセンパイ方。もうセコい小細工はネタ切れか?」

「お前らが公衆の面前で恥をかかないように、という優しい配慮だったんだがな。Fクラス程度のオツムじゃ理解できなかったか?」

「残念ながら、お前らの言葉なんてAクラス所属でも理解できないだろうよ。まずは日本語を覚えてくるんだな。サル山の坊主大将」

「て、テメェ、先輩に向かって‥‥‥!」

 

観客には聞こえない程度の小声で雄二と坊主先輩による挑発合戦が行われている。雄二も言ってやりたいことがたくさんあるのだろう。

そして、僕も確認したいことがある。

 

「先輩。一つ聞きたいことがあります」

「ぁんだ?」

 

「教頭先生に加担している理由は何ですか」

「っ!?」

 

そう聞くと、坊主先輩は一瞬驚いたような顔をした。

 

「‥‥‥そうかい。事情は把握してるってことかい」

「大体は。それでどうなんですか?」

「進学だよ。うまくやれば推薦状を書いてくれるらしいからな。そうすりゃ受験勉強とはおさらばだ」

「そうですか。そっちのーー常村先輩も同じ理由ですか?」

「まぁな」

「‥‥‥そうですか」

 

小さく頷いて会話を打ち切る。僕が聞きたいのはこれだけだ。

 

「本当は小細工なんて要らなかったんだよな。Aクラスの俺達とFクラスのお前らじゃ、そもそも実力差があり過ぎる」

「そうか。それなのにわざわざご苦労なことだな。そんなに俺と明久が怖かったのか?」

「ハッ! 言ってろ! お前らの勝ち方なんて、相手の性格や弱みにつけこんだ騙し討ちだろうが。俺たち相手じゃ何もできないだろ!」

 

『それでは試合に入りましょう! 選手の皆さん、どうぞ!』

 

説明も終わり、審判役の先生が僕らの前に立つ。

 

 

 

「「「「試獣召喚(サモン)」」」」

 

 

 

掛け声をあげ、それぞれが分身を喚び出した。

 

 

 

Aクラス  常村優作   209点

       &

      夏川俊平   197点

 

 

 

確かにAクラスに所属しているだけのことはある。点数はかなりのものであり、召喚獣も質がかなりよさそうに見えた。

どうやらこの二人、本当に勉強ができるみたいだ。

 

「どうした? 俺たちの点数見て腰が引けたか?」

「Fクラス程度じゃお目にかかれないような点数だからな。無理もないな」

 

誇らしげにディスプレイを示す先輩。確かに誇ってもよいくらいの点数だ。

けれど、特に驚きはない。何故なら先輩達の点数が可愛く見えるくらいの化け物を、僕はよく知っているから。

そして彼らは、あれほどの点数を持ち合わせていながら、正々堂々ということを捨てて、僕たちの邪魔をした。

ーー大切な人たちに取り返しのつかないような酷いことをしようとした。こんな連中の身勝手な動機のせいで、姫路さんを守れないなんて、馬鹿げている。

 

「ホラ、観客の皆様に見せてみろよ。お前らの貧相な点数をよ」

「夏川。あまりいじめるなよ。どうせすぐに晒されるんだぜ?」

 

この二人に対して、形容しがたい強い感情が湧いてくる。

 

 

「‥‥‥前に」

「ぁん?」

「前に、僕の二人のクラスメートが言っていた」

「なんだ? 晒し者にされた時の逃げ方でも教えてくれたのか?」

 

ギャハハハ、と笑う坊主先輩。

試召戦争の時、姫路さんと大悟が言ってくれた言葉が頭に浮かぶ。そう。あの時、二人はこう言っていた。

 

「『好きな人の為なら頑張れる』って」

「ハァ? コイツ何言ってんだか」

「そしてもう一つ。先程から先輩達が発しているそのセリフはーー」

 

 

 

 

 

Fクラス  坂本雄二   215点

       &

      吉井明久   166点

 

 

 

 

 

 

「ーー負けフラグそのものだって」

「「なっ!?」」

 

点数が表示されたディスプレイを見て、二人の顔色が変わった。

 

 

 

 

「アンタらは小細工なしの実力勝負でぶっ潰してやる!」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

ーー大悟視点ーー

 

 

「なんと、あの点数は‥‥‥」

「あんな点数が取れるとは‥‥‥とてもFクラスの生徒とは思えませんわ‥‥‥!」

 

ディスプレイに表示された明久と雄二の点数を見て、若干ではあるが驚愕の姿勢を見せる高城さんと小暮さん。そりゃあそうだ。最底辺に位置する問題児二人が、自分たちと同じAクラス相当の点数を引っ提げてきたのだから。

俺も初めてアイツらの点数を見るが、特に明久の野郎‥‥‥いつもより全然高得点じゃねぇか。ま、そうでなきゃ俺が付きっきりで教えた意味がねぇ。

 

「二人共、驚くのはまだ早えぜ? お楽しみはこれからなんだからよ」

「‥‥‥成程、これは興味深い。どうやら思っていたよりも、中々に楽しめそうな試合になりそうですね」

「ええ、その通りですわね」

 

そう言って、二人は再び視線を会場に向けた。これで二人は明久達に一目置いただろうが、俺にとってはそんな事はどうでもいい。

さあ、俺はやれるだけのことをした。後はテメェらがやるだけだ。だから俺は一切声は出さない。

アイツらの勝利を信じて、どっしりと構えておけばいい。

 

 

 

(明久、雄二。テメェらは俺にめるたんのリアルタイム視聴をやめさせてまで付き合わせたんだ。こんなところで負けやがったら許さねぇからな!)

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

ーー明久視点ーー

 

 

「それじゃあーー行くぞっ」

 

先に動いたのは雄二の召喚獣だった。装備が軽い分、動きが速い。

 

「夏川! こっちは俺が引き受ける!」

 

モヒカン先輩が慌てて雄二の正面に立ち塞がる。雄二とモヒカン先輩の点数は拮抗関係にあるから、互いが目を離す事は出来ない。つまりタイマン勝負になる。

これなら僕は、もう一人からの不意討ちなどを心配せず存分に戦える。

 

「それじゃ、僕の相手は先輩ですね」

「上等じゃねぇか! 多少ヤマが当たったくらいでいい気になるなよ!」

 

正面から坊主先輩の召喚獣が剣を構えて突っ込んでくる。流石に動きは速い、けれどただの馬鹿正直な突撃なんて避けてくれと言っているようなもの。

半身を右にずらして、小さな動きで相手を避ける。

 

「っと、この‥‥‥!」

 

そのまま背中を向けそうになった相手は、振り向きざまに横薙ぎの一撃を見舞おうとするが、その一撃を小さく屈むことでかわし、一呼吸の間に三度木刀を振るう。

 

「くぅっ!」

 

なんとか剣で防御した先輩は、仕切り直すように大きく一歩下がった。

 

「テメェ、試召戦争じゃ60点程度だったくせに‥‥‥!」

「今でもそんなもんですよ。この教科以外は、ね?」

「野郎‥‥‥! 最初からこの勝負だけに絞ってやがったな‥‥‥!」

「ご名答。よくわかりましたね、先輩」

 

歯嚙みする敵に対して木刀を四方から叩きつける。これだけの点数を取っていたら木刀だって真剣に負けない強度になる。これならぶつかり合っても折れたりはしない。

 

「クソっ! Fクラスのくせに‥‥‥!」

「そんなFクラスでも、頑張ればここまでの実力をつけられるんですよ。甘く見られては困りますねっ!」

 

悔しそうに歯ぎしりをする坊主先輩。よし、中々にいい調子だ。このまま押し切れれば勝機はある!

 

 

「仕方ねぇ。二年相手に大人げないが、経験の差ってやつを教えてやるよ!」

「?」

 

 

そう告げると、坊主先輩の召喚獣は大きく飛び退って、僕だけじゃなく坊主先輩本人からも距離を取った。一体何をしようというんだ?  

 

「何をしようとしてるか分からねぇだろ? お前の知らない戦い方があるんだよ」

「なんだって‥‥‥?」

 

戸惑う僕に対して意味ありげな坊主先輩の台詞。そこまで言われれば、嫌でも向こうの召喚獣の動きが気になる。

用心深く見ていると、敵は剣を腰だめに構え、まるで力を溜めているように見えた。

まさか、僕ら二年生が知らない特殊能力でも持っているのかな?

 

「おおおぉぉっ!」

 

坊主先輩先輩が力を込める。何をしてくるのか分からないけど、とにかく相手を牽制しないと!

 

「いけっ!」

 

召喚獣を敵に向かって走らせる。このまま追撃をーーー

 

 

 

 

「そら、引っかかった」

「えっ‥‥‥うぐっ!?」

 

 

 

 

と、坊主先輩のからかうような声がしたと同時に、両目に飛び込んできた異物。思わず目を閉じてしまった。

こ、これは‥‥‥砂利!? 目潰しか!

 

「くーーそぉっ!」

 

そうか、この為に坊主先輩は召喚獣にあんな大仰な仕草をさせたのか! そうすれば立会人の教師も観客達も坊主先輩の召喚獣に視線が集中する。誰も坊主先輩本人の動きなんて見ていないだろう。やられた!

 

「これが経験の差ってやつだ。さぁ、反撃開始といこうじゃねぇか!」

 

マズい! 敵の攻撃が来る! 目は未だ見えないため、勘で召喚獣を横に跳ばせる。

その瞬間、左脇に鋭い痛みが走った。

 

「ぐぅぅぅっ!」

 

痛む目を擦って無理矢理開く。そして一目散に僕の視界に映ったのは、剣にわき腹を切り裂かれた僕の召喚獣だった。

 

「そういやお前、《観察処分者》なんだよな? こいつはさぞかし痛えだろうなぁ」

「‥‥‥っ!」

 

おまけと言わんばかりに顎に拳を叩き込まれる。脳が上下に揺さぶられ、意識がとぶような感覚に襲われた。

脇腹の焼けるような痛みと、頭の中が掻き回される不快感。そのせいでこみ上げてくる強烈な吐き気。これ、結構マズいかも‥‥‥。

 

「ま、これがお前ら二年と俺ら三年の実力差ってことだ。んじゃ、これで終わりにしてやるよぉ!」

 

坊主先輩の召喚獣が再び僕の召喚獣めがけて突進してきた。でも今の僕にはそれを回避するための余裕がない。

 

あまりの苦しさに視界もぼやけてきて、少し意識が遠ざかってきた。やっぱり、僕じゃあ勝てないのかーーー

 

 

 

 

 

 

「明久っ! てめぇ根性見せろやっ!!」

「ーーっ!」

 

 

 

 

 

突然鼓膜に響くほどの怒声が聞こえる。他でもない、雄二の声だった。それによって、僕は思い切り足を地面に叩きつけて意識を留まらせる。

そして、ふと観客席の方をみると、

 

 

「‥‥‥‥‥」

 

 

もう一人の戦友、大悟がこちらを見つめていた。

一切口元は動いておらず、ただ真っ直ぐにその射殺すような鋭い視線を僕に向けている。けれど僕は、不思議とヤツが僕に何を言いたいのかが分かる。言葉ではなく、その表情と気迫だけで、全てを察した。

 

 

 

ーーーお前なら勝てる。だから思う存分やっちまいな、と。

 

 

 

「よし。いけるな、明久(相棒)?」

「‥‥‥当然っ!」

 

そうだ。まだ戦闘不能じゃない。前に大悟が言っていた。戦いで負けるのは弱者でもバカでもない。ちょっとでも負けに臆したヤツだって。つまりそれは、さっきの僕みたいに一瞬でも勝つという信念が揺らいだ時も同様だ。

なんて僕は情けないんだ! たった少しだろうと、こんな連中に負けると思ってしまうなんて!

 

「死んでも‥‥‥負けるもんかぁっ!」

「その意気だ、明久!」

 

「悪あがきを! すぐにとどめをくれてやるぜ!」

 

僕の召喚獣は弱っている。ここでケリをつけないと勝ち目はない!

 

「ーーんのぉぉっ!」

 

痛みを堪え、召喚獣を動かして敵の脇をすり抜ける。そのがら空きの背中に大きく蹴りを放った。

傷の影響であまり威力は出ていないけど、相手の態勢を崩すことに成功した。

 

「雄二っ!」

「おうっ!」

 

雄二が僕の様子を確認して、一気に召喚獣をもう一方の敵であるモヒカン先輩の方に突っ込ませる。

 

「舐めんなっ!」

 

迎え撃つようにモヒカン先輩の召喚獣が剣を振り下ろす。対する雄二の召喚獣は防御や回避もせず、ただ一直線に敵に迫る。

 

「もらったぁっ!」

 

その剣が雄二の召喚獣の首を両断しようとした。

 

 

「させるかぁっ!」

ギィンッ!

 

その寸前、僕の召喚獣が木刀をぶん投げて、その剣の軌道を変えた。

 

「ぐっ! しまっーー」

「吹き飛べやぁあっ!」

 

雄二の召喚獣の間合いにまで入られたモヒカン先輩の召喚獣は、大威力の拳によって吹っ飛んでいった。

それにより会場中から歓声が起こる。

 

「野郎! 得物を手放すなんて上等じゃねぇか!」

 

そして、僕の方に坊主先輩の召喚獣が迫る。こっちは無手で、相手は三年生だ。召喚獣の扱いに慣れていない同学年相手とは違って、武器もなしにいなせるほど甘くはないだろう。

けれど、一瞬でも注意が逸れれば初撃はかわせる!

 

「こんな戦い方もあるってことですよ! なんせ僕をここまでにしてくれた男は、そういうヤツなんでねっ!」

「っ!? 邪魔ーー!」

 

先程雄二の召喚獣によって吹っ飛ばされたモヒカン先輩の召喚獣が、坊主先輩の視界を遮る。さっきの砂利のお返しだ。

その隙に召喚獣を前に出す。狂った間合いのおかげで坊主先輩の召喚獣は攻撃のタイミングがずれる。これならかわせる!

 

「くらえっ!」

 

相手の攻撃を避けて、そのまま頭突きをくらわせた。威力には期待できないけれど、動きを牽制するならこれで充分だ。

 

「明久!」

「待ってたよ雄二!」

 

雄二の召喚獣がさっきの木刀をこちらに向かって蹴り飛ばしてきた。扱いに慣れてないくせにいいパスじゃないか!

勢いよく地面を転がってくる木刀を拾い上げさせる。そして雄二の召喚獣とともに坊主先輩の召喚獣に迫った。

 

 

「くそぉぉっ! お前らごときに三年の俺がーー!」

「はっ! 俺たちを相手にしたのが間違いだったな、ボス猿さんよぉ! 行くぜ明久ァ! ぶちかますぞ!!」

「おうっ! これが僕たちFクラスの力だ!! くらえっ! 大悟直伝ーーー」

 

 

 

「「恋の!! ダブル☆ストラァァァアアアイク!!!!」」

 

ドォォォオオオオン!!!!

 

 

 

僕の召喚獣の木刀は相手の喉元に深く突き立たれ、雄二の召喚獣の拳は相手の顔面に捻じ込まれる。そして相手は、その衝撃によって大きく吹っ飛んでいった。

これでもう、相手に戦える戦力はない。つまり、

 

 

 

 

『坂本・吉井ペアの勝利です!』

 

「ぃぃぃよっしゃぁああー!!」

 

 

 

 

全身が激しく痛むし、吐き気だっておさまらない。それでも僕は今、最高の気分を味わっていた。

 

 




というわけで、清涼祭編もいよいよクライマックス! あと一話~二話くらいで終われるように頑張ります!

それではまた次回お会いしましょう。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
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