バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト

問 次の問いに答えなさい
『男女の恋愛について自由に論じなさい』


姫路瑞希の答え
『頼りない自分を一生懸命守ってくれるような優しい人が大好きです』

教師のコメント
姫路さんらしい回答ですね。そんな姫路さんには是非ともそんな男性と幸せな未来を築いていけるよう応援しています。


岡崎大悟の答え
『俺は三次元なんかには興味はなーーー木下優子さんのような可愛らしい女性が好きです』

坂本雄二の答え
『暴力的な人はにがーーー霧島翔子さんのような品のあるおしとやかな女性が大好きです』

教師のコメント
明らかに筆跡が変わっているような気がするのですが。



第三十五問 三次元に見惚れるなんて‥‥‥

ーー大悟視点ーー

 

 

「ぜぇ、ぜぇ‥‥‥な、何とか生き残ったな、雄二」

「ああ、マジで寿命が縮むと思ったぜ‥‥‥」

 

俺たちは、アレは秀吉の声真似だと逃げながら命がけの説得を行い、何とか二人の怒りを鎮めることが出来た。

危なかった。もし少しでも言葉選びに失敗していたら、俺と雄二は仲良くお化け屋敷の新メンバーとなっていた事だろう。

 

「坂本雄二サン、岡崎大悟サン。お疲れサマでシタ。どうでしたカ? 結婚したくなりまシタか?」

「お前にはそう見えるのか? もしそうなら俺が良い眼科医を紹介してやろう」

「アレを結婚と結び付けて考えることができるのはお前と明久ぐらいだろうな‥‥‥」

 

絆どころか更に溝が深まったな。

 

「オカしいデスね? 危機的状況に陥っタ二人の男女ハ、強い絆デ結ばれルという話なのデスが‥‥‥」

「その危機的状況の原因が、結ばれるべき相手じゃなければな‥‥‥」

「吊り橋効果どころか将来的に奈落の底に真っ逆さまだな」

 

コイツ、もしかして明久並のバカなんじゃないのか?

 

 

「‥‥‥そろそろ、お昼」

 

 

すると、霧島が噴水の上の方を見ながら呟いた。そこにある時計は午後の一時を差している。おっと、もう昼過ぎなのか。色んなことがありすぎて全く気付かなかったぜ。

 

「デハ、豪華なランチを用意してありマスので、こちらへいらして下サイ」

「ほう、昼飯まで用意してくれるのか。中々の待遇っぷりじゃねぇか」

「さすがはプレミアムチケットだな。そこらへんの準備はしっかりしてるんだな」

 

豪華なランチと聞いては黙っておれぬ。腹いせというワケじゃないが、こうなりゃ腹いっぱいになるまでたっぷりと馳走になろうじゃねぇか。育ち盛りの男子高校生二人分の胃袋のデカさを見せてやるぜ!

 

「‥‥‥あの、私のバッグ‥‥‥」

「‥‥‥あっ、大悟‥‥‥アタシのーー」

「ん? どうした二人共?」

「何か気になることでもあんのか?」

「‥‥‥う、ううん。何でもないの」

「‥‥‥‥‥私も」

「「???」」

 

何だ? 一瞬だったが寂しそうな表情に見えたんだが‥‥‥?

 

「‥‥‥雄二。急がないとはぐれる」

「大悟もっ。ほら、行きましょ」

「お、おう」

「わ、分かった」

 

気づいたら、似非野郎の姿がずいぶん遠くに見える。俺たちは早歩きでヤツの元へと向かった。そういえば、まだ霧島と優子は鞄を返してもらっていないのか? 見たところ、あの似非野郎が両方のバッグを持ってる様だが。まあ、いずれはちゃんと返してくれるだろ。

そしてしばらく歩いていると、目の前に小洒落たレストラン風の建物が見えてきた。

 

「おお、あれがレストランか?」

「ハイ。お二組はコチラでランチをお楽しみ下サイ」

 

似非野郎に連れられるまま、中へと通される。

レストラン内の空間は、まるでパーティー会場のような内装で、そこら中にはお高そうな丸テーブルが設置されており、前方にはステージとテーブルがあった。

 

「これはあれか? 飯を食いながら目の前でイベントをやってくれるってやつか?」

「いや、こりゃあレストランってよりも‥‥‥」

「‥‥‥クイズ会場みたい」

「確かに‥‥‥テレビでよく見るような雰囲気ね」

 

そうか? 言われてみればそう見えなくもないが、こういうレストランは別に珍しくはねぇし、子供の頃から天とよく母さんに色んな国のレストランに連れてってもらってたから、別段違和感なんてのは感じねぇな。

 

 

「いらっしゃいませ。坂本雄二様、翔子様、岡崎大悟様、優子様」

 

 

すると、俺たちの前にボーイに扮した秀吉が現れた。

 

「秀吉。まだ演技を続けるつもりか?」

「秀吉? どなたかと間違われておいででしょうか?」

 

顔色一つ変えずに切り返してくる相棒。さすがは演技派人間。こうなると余程のことがない限りはボロをださねぇか‥‥‥。

よし、さっきのお化け屋敷の件も兼ねて、仕返ししちゃるか。

 

「ようしボーイさんよ、違うって言い張るんなら、ちょっと待ってな」

 

そう言って、俺は携帯電話を取り出し、中の写真や簡単な動画が保存されているファイルを開く。

 

「優子。この写真懐かしくないか?」

「えっ? なにがーーちょっ!? こ、これ、なんでこんなもの保存してーーあははははっ!」

「だろ? いやぁ、あまりの傑作ぶりについ写真に残しちまったぜ」

 

優子が写真を見て腹を抑えながら思い出し笑いをする。それを不思議そうに見ていた雄二と霧島が俺に聞いてきた。

 

「‥‥‥優子がこんなに笑うなんて、初めて見た」

「大悟、なにがそんなに面白いんだ?」

「お? 気になるか? これはな、俺らが中二の時に秀吉が俺ん家でーー」

 

そう言いかけたとき、

 

 

ヒュンッ!

 

 

突然、高速で秀吉が俺の手から携帯電話を奪い取った。馬鹿な!? 見えなかっただとぉ!?

 

「申し訳ございません。手が滑ってしまいました」

「いや、明らかに狙ってただろ!?」

「いいえ。手が滑ったのでございます。すぐにお返ししますね」

 

そう言って俺に携帯電話を返す秀吉。すると、さっきの写真は跡形もなく削除されていた。どうやらあの一瞬のうちに画像を消していたようだ。

普段からの秀吉では想像もつかないほど俊敏な行動だ。そんなにあの写真が見られたくなかったのだろうか? 俺はアリだと思うけどな。まぁ、コイツの性格を知ってて尚且つあの写真を見れば大爆笑不可避だが。

 

「なぁ大悟。さっきのは何だったんだ?」

「んぁ? ああ、やっぱ気が向いたら教えるわ」

「?」

「‥‥‥優子、何を見たの」

「ご、ごめん代表、また後で教えるね‥‥‥プフッ」

「?」

「‥‥‥そ、それでは皆様、こちらへどうぞ」

 

秀吉に連れられて、会場の中を移動する。すると会場の丁度真ん中くらいのテーブルに案内された。

そして席に着くと、早速秀吉がグラスに飲み物を注いでくれる。ラベルを見せるように注ぐあたり、徹底しているな。

雄二と霧島と優子にはノンアルコールのシャンパンを。俺には純度100%のスピリタスを注ぎーー

 

「待て。明らかに俺の飲み物だけ常軌を逸脱しているんだが?」

「いいえ、しっかりと岡崎様のご家族の方に確認を取っておりますので、間違いはございません」

「そうか。ちなみに誰に聞いたんだ?」

「妹様です」

 

よし、あのバカは明日からの晩飯はしばらくトマトだけで決定だな。

その後はちゃんとした飲み物とオードブルが運ばれてきたのでまぁ良かったが。あと一つ心配なのは‥‥‥‥‥

 

 

「「(‥‥‥これ、姫路が作ってないよな?)」」

 

 

 

ーーー

 

 

 

食事タイムは無事進行し、最後のデザートまで食べ終えた。よ、良かった。ちゃんとした味で安心したぜ‥‥‥。

 

「ふむ、ここには特に何の仕掛けもなさそうだな」

「そうだな。ま、食事くらいは気兼ねなくゆっくりしてぇからな。それでいい」

 

と、雄二と安堵しかけた時だった。

 

 

《皆様、本日は如月ハイランドのプレオープンイベントにご参加頂き、誠にありがとうございます!》

 

 

突如、レストラン会場に大きくアナウンスの声が響き渡った。なんだ? これからショーでも始まるのか? と思い、紅茶を口に入れる。ふむ、ダージリンティーか。しかもこの茶葉はいいものを使っているな。食後のティータイムにはピッタリのーー

 

《なんと、本日ですが、この会場に結婚を前提としてお付き合いを始めようとしている高校生のカップルが二組、いらっしゃっているのです!》

「「ブフォッ!」」

 

勢い良く紅茶が口から出た。台無しだ。

 

 

《そこで、当如月グループとしましては、そんな方々を応援するための催しを企画させて頂きました! 題して、【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズ~!》

 

 

そんなアナウンスと共に、出入り口を閉鎖する重々しい音が聞こえてくる。クソッ! 俺と雄二の行動パターンは先読みされていたか‥‥‥おのれ明久ァ!

 

《本企画の内容は至ってシンプル! こちらの出題するクイズに答えて頂き、見事指定数を正解したら弊社が提供する最高級のウェディングプランを体験していただけるというものです!》

「いらねぇよ!?」

《もちろん、ご本人様の希望によってはそのまま入籍ということでも問題ありません》

「大問題だ馬鹿野郎!」

 

おのれ‥‥‥安心したところに攻めてくるなんて、なんて卑怯なヤツらなんだ! 同じ人間として恥ずかしいぞ!

 

《それでは、坂本雄二さん&翔子さんペアと、岡崎大悟さん&優子さんペア! 前方のステージへとお進みください!》

 

ご丁寧に司会が俺たちの席を示したため、レストランにいる観客が一気にこちらへと視線を向ける。だが俺も雄二もそんなモンに出るつもりなど毛頭ないわ!

 

「ふざけるな! こんな茶番に付き合ってられるか! 俺は家に帰らせてもらあだだだだだだだだっ! 鼻が! 鼻がもげるぅっ! 分かったから引っ張んなぁっ!」

「行きましょ大悟。絶対にウェディング体験を勝ち取ってみせるわっ!」

「落ち着け翔子。そういったものはだな、きちんと双方の合意の下に痛だだだだっ! 耳が千切れるっ! 行く! 行くから放してくれっ!」

「‥‥‥ウェディング体験‥‥‥頑張る‥‥‥!」

 

俺と雄二は、逃げることもかなわずそのままステージへと強制連行されていく。嫌だぁ! 行きたくねぇよお!

そしてスタッフ誘導のもと、俺たちはそれぞれの解答席へと案内された。目の前には大きなボタンが一つ設置されている。どうやらコレを押してから解答するみたいだ。

 

《それでは【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズを始めます!》

 

司会が催しの開始を宣言する。そんな中、俺と雄二はこっそりと目と口パクで合図を交わした。

 

(雄二、どうする?)

(こうなったらやることは一つだ。正解したらプレゼントってことは、間違え続ければ無効だ。だから女どもに解答権を与えず、俺たちが全部間違った解答を出せばいい)

(分かった。その方法でいこう。健闘を祈るぜ)

(お前もな)

 

俺たちは互いに頷き、正面に向き直る。そしてボタンに手を伸ばす準備を整えた。

さあどこからでもかかってこい! 俺は負けねぇぞ!

 

《では、坂本さん&翔子さんペアに、第一問!》

 

最初は雄二か。一体どんな問題が‥‥‥?

 

 

《坂本雄二さんと翔子さんの結婚記念日はいつでしょうかっ?》

 

 

‥‥‥は? どゆこと? 意味が分からんのだが。

 

ーーピンポーン!

 

《はいっ! 翔子さん、答えをどうぞっ!》

「‥‥‥毎日が記念日」

「やめてくれ翔子! 恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだ!」

 

なっ! いつのまに霧島がボタンをっ!? だがいくらアイツとて、答えの存在しない問題には‥‥‥

 

《お見事! 正解です!》

「「何いぃっ!?」

 

なんで正解なんだよ!? いや、霧島の答えもあれだが、結婚記念日ってまず結婚してないと記念日として成り立たんだろう! だからこの結果は明らかにおかしいぞ!?

 

(おい雄二! これはさすがにおかしい! どうなってやがる!?)

(クッ! まさかこのクイズ‥‥‥出来レースか! まさかとは思っていたが、どれだけ俺たちにウェディング体験をさせたいんだ!?)

(マジかよ!? じゃあもうなすすべがねぇじゃねぇか! どうする!?)

(落ち着け大悟! それなら、問題と明らかに関係ない答えを出すんだ。それなら向こうも対応は出来ない!)

(そうか! 分かったぜ!)

 

《それでは、岡崎さん&優子さんペアに第二問! 大悟さんが優子さんと初めて出会ったのはどこでしょうか?》

 

ーーピンポーン!

 

《はいっ! 答えをどうぞ!》

「カレーうどん!」

《正解です!》

「「なんでだあぁっ!?」」

 

馬鹿な!? 場所を聞かれたのにカレーうどんが正解って!?

 

《お二人の出会いは母校である望月中学校の屋上、別名【カレーうどん】です! その時に先輩に絡まれていた優子さんを助けたことが始まりですね!》

「待たんかぁいっ! 学校の屋上がカレーうどんなワケないだろうが! 強引にも程があるだろ!」

「絶対その別名はこの場で命名しただろう!」

《坂本&翔子ペアに第三問!》

「「話を聞けぇぇええ!!」」

 

あの司会マジぶん殴ってやりてぇ。

 

《お二人の出会いはどこでしょうかっ?》

「クソッ! 今度こそ確実に間違えーー」

「‥‥‥させない」

 

ブスッ

 

「ふおぉぉぉっ!? 目が、目がぁっ!?」

 

流れるような仕草で雄二の目が突かれる。悶絶する雄二の隙をつき、霧島がボタンを押す。

 

《はい、答えをどうぞ!》

「‥‥‥小学校」

《正解です! お二人は小学校の頃からの長い付き合いで今日の結婚にまで至るという、なんとも仲睦まじい幼馴染みなのです!》

 

アイツはバカなのか? これをどう見たら仲睦まじいカップルに見えるんだろうか? 

うむ、どうやら問題を聞いてから動き出すようでは遅いようだ。なら多少強引だが、問題文が読み上げられる前にボタンを押し、【分からない】と解答する! それなら絶対に間違いになるはずだ!

 

《第四問参ります!》

 

ーーピンポーン!

 

「分かりまーー」

《正解です! それでは最終問題です!》

 

おぉい!? 最早解答権すら無くなったぞ!? もう強行突破ってわけかよコンチクショウ!

クッ‥‥‥もう打つ手なしか、と思った時、

 

 

『ちょっとおかしくな~い? アタシらも結婚する予定なのに、どうしてそんなこーこーせーコーコーセーだけが特別扱いなワケ~?』

『あの、お客様。イベントの最中ですので、どうかご静粛にーー』

『あぁっ!? こっちは客だろーが! ガタガタ抜かしてんじゃねぇよ!』

『そーだよ! 引っ込んでろよ!』

 

 

不愉快な騒ぎ立てとともに、ステージの近くへと歩み寄ってくる四人組。どっかで会ったような連中だと思ってよく見てみると、入場口で難癖をつけて俺を殴ったチンピラ集団だった。

 

『アタシらもウェディング体験ってヤツ、やってみたいんだけど~?』

『アタシもアタシも~!』

『で、ですがーー』

『だからゴチャゴチャうるせえってんだよ! 俺達もクイズ大会に参加してやるってんだよバーカ!』

『うんうんっ! じゃあ、こうしよーよ! アタシらがあの四人に問題出すから、答えられたらアイツらの勝ち、間違えたらアタシらの勝ちってことで!』

『そ、そんなーー』

 

慌てるスタッフのマイクを奪い取り、その集団はズカズカと壇上に上がってきた。

チッ、また面倒事が増えやがったな。だがこれはある意味チャンスだ。ヤツらが出す問題なら堂々と間違えることができる。そうすりゃあウェディング体験なんてもんはしなくて済むからな!

 

(雄二、いけるか?)

(ああ、任せておけ。アイツらがどんな問題を出してきたとしても、確実に答えて見せる)

 

「だ、大悟‥‥‥?」

 

一応優子の手を握って妨害をさせないようにする。

 

『んじゃ、問題だ』

「「‥‥‥‥‥」」

 

 

 

『アジアの首都はどこだか答えろっ!』

 

 

 

「「「「‥‥‥‥‥」」」」

『オラ、さっさと答えろよ。分かんねぇのか、あ?』

 

言葉が出ない。え、えっと‥‥‥確かにこれはこの場にいる全員が解答不可能な問題だ。何故ならアジアは大陸を指す名称であって国の名前ではないからだ。だからその首都と言われても答えようがない。

 

『んだよ? ここにいるやつ全員バカなのかぁ? 小学校からやり直したらどうだよ、ぎゃはははは!』

 

今の小学生はそう教えられているのだろうか。日本の教育レベルも落ちたものだな。

 

《‥‥‥坂本雄二さん、翔子さん。並びに岡崎大悟さん、優子さん。おめでとうございます。【如月ハイランドウェディング体験】をプレゼントいたします》

『おい待てよ! コイツら答えられなかっただろ!? オレたちの勝ちじゃねぇかコルァ!』

『マジ有り得ない! この司会バカなんじゃないの!?』

『話とちげぇじゃねぇかゴラァ!』

『約束破ってんじゃねーよ!』

 

馬鹿共がギャアギャアと騒ぐ中、ステージに幕が下りる。

なんていうか‥‥‥上には上がいるんだな。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「おメデとうございマス。ウェディング体験が当たるなんテ、ラッキーでスね」

「‥‥‥凄く嬉しい」

「やった♪」

 

レストランを出ると、未だに二人の鞄を持っている似非野郎が近づいてきた。

 

「何がラッキーだよ。こっちは今までアンラッキー続きだっての」

「全くだ。すべて計画の内だろうに」

 

正直限界だ。これ以上変な仕掛けに来られたら気力が持たない。でもまだ一番のビッグイベントであろうものが残ってるしな‥‥‥もう勘弁してくれよ。

 

「そういえば翔子。お前の持ってきた鞄は何が入ってるんだ?」

「優子もやけに荷物がデカいが、そんなに必要なモンがあるのか?」

「あ‥‥‥それは‥‥‥」

「‥‥‥別に、何も‥‥‥」

「「??」」

 

困惑したように答える二人。何かあんのか? ま、実印やらエスカリボル〇やらを常に持ち歩いてるヤツだし、とくにおかしくないか。

 

「それデハ翔子サン、優子サン。ウェディング体験の準備があるノデ、このスタッフについていってもらえマスか?」

 

すると、似非野郎の後ろから女性スタッフが歩み出てきた。ウェディングドレスのコーディネートを担当するスタイリストの人らしい。まさか本職の人まで呼ぶとは‥‥‥奴さんは相当このウェディング体験に力を入れているようだ。

 

「てことは、今までのは前座で、本命はこのウェディング体験だったか」

「みたいだな。んじゃ、俺たちは長い時間待たされるのか?」

「そりゃそうだろ。ウェディングドレスってのはそう簡単に着れるようなモンじゃあねえ。何せ女性が最も美しくなるとされる衣装だからな、化粧なんかを含めたら少なくとも数時間はかかるぜ」

「ならその間俺たちは何をしてればいいんだ?」

「ご安心下サイ。お二人についての対応は吉井サンと木下サンから聞いてーーではナク、ワタシが考えてありマース」

 

もうそこまで言ったんなら隠さなくていいだろうが。

 

「明久と秀吉から指示が出ているのか?」

「嫌な予感がするんだが」

「ハイ。マズは岡崎大悟さんにはコチラを渡すように、ト」

 

そう言って似非野郎が取り出したのは、一枚の紙だった。

 

「どうゾ、岡崎サン」

「ふん、何のつもりかは知らないが、そんなもんでこの俺が止められるとーー」

 

ピラッ

 

(アニメ版めるたんの精神崩壊トラウマシーンのコピー)

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

バタッ‥‥‥

 

「お、おい! 大悟!? どうしーーって、なんだお前! なんでそんなモンもってあぎゃああああああああっ!!?」

「少しガマンして下サーイ」

 

 

俺はあまりのショックによって気を失った。めるたんがぁ‥‥‥めるたんがぁあああああっ!

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

《それではいよいよ本日のメインイベント、ウェディング体験です! 皆様、まずは新郎のお二人を拍手でお迎え下さい!》

 

アナウンスの宣言により、園内全てに響き渡らんくらいの拍手が聞こえてきた。そして気がついたら、俺と雄二はタキシード姿に着替えされられ、ご丁寧に指輪まで持たされていた。どうやら気絶している間にやられたみたいだな。

 

「坂本雄二サン、岡崎大悟サン、お願いします」

 

舞台袖で似非野郎が耳打ちしてくる。この野郎、よくもあんな残酷なものを俺に見せてくれたな。許さねぇぞ覚悟しろ、今すぐテメェには俺の必殺恋のパワフル☆半殺しをお見舞いしてーー

 

「抵抗すれバ、アナタの実家に泡盛の詰め合わせを送りマース」

「やめてくれ。そんな真似をされたらあの人は散々呑んだくれた挙句暴れて手に負えなくなる」

「やれやれ‥‥‥。まぁ、あくまでもただの体験だしな。適当に付き合ってさっさと終わらせようぜ‥‥‥」

 

そう俺に呟く雄二。まぁ、確かにここまで来ちまったもんは仕方がねぇ。それにどっちみち逃げることは出来ないんだ。大人しくコレが終わるのを待つのが最善の方法だろうな。

 

「さァ。どうゾ」

「あいよ」

「おう」

 

俺は大人しく従うことに決め、目の前の小さな階段を昇る。そのまま二人でステージに上がると、その光景に一瞬眩暈がした。

 

「マジかよ‥‥‥ここまでするか」

「おいおい‥‥‥。なんだよこのセット‥‥‥」

 

目の前の光景に思わず驚愕の声を漏らす。

数え切れないスポットライトにライブステージのような観客席。天井には風船や色とりどりの電飾が設置されていて、派手さというものを超えて壮大ささえ感じさせられた。

そして、俺と雄二はステージの指定された場所まで歩く。

 

《それでは新郎方のプロフィールの紹介をーー》

 

お、俺たちの紹介もすんのか。まるで本物の結婚式さながらだな。多分明久と秀吉にでも聞いてーー

 

《ーー省略します》

「「手ぇ抜きすぎだろ」」

 

そこはせめて紹介しろよ。もう新婦側に興味はありませんってか? 悲しいなぁ。

 

 

《ーーそれでは、お待たせいたしました。いよいよ新婦のお二人のご登場です》

 

 

心なしか音量の上がったBGMとアナウンスが流れ、同時に会場の電気がパッと一斉に消えた。足元にはスモークが立ち込め、一気に雰囲気が変わったのが分かる。ほう、こりゃあいい演出だな。

この隙に脱出してしまおうとも思ったが、折角だ。優子のウェディング姿を見ておいても良いだろう。あれでも一応秀吉と瓜二つの美貌の持ち主だ。そこそこ似合っていてもなんも問題はないだろうーー

 

 

 

《本イベントの主役である、霧島翔子さんと木下優子さんです!》

 

 

 

すると、壇上のとある一点に向かってスポットライトが照らされた。暗闇からいきなり輝きが舞い込んできたため、思わず目を瞑ってしまう。

そして、再び目を開けたときに視界に映る姿にーー俺は言葉を失った。

 

 

 

『‥‥‥‥‥綺麗』

 

 

 

会場のどこからか聞こえてきた台詞。だが、俺はその言葉に対してなにも違和感はなかった。それほどまでに目の前の存在は、その言葉に相応しいものであるからだ。

見慣れた腐れ縁でありながら今日が初めて出会いを果たしたかのような、そんな感情になるほど、アイツは大変身を遂げていた。

 

「「‥‥‥‥‥」」

 

俺も雄二も言葉が出ない。いや、言葉など不要だった。

彼女らが身に纏う汚れなき純白のドレスは、俺が今まで見てきたどんなコスプレ衣装よりも気高く、淑やかに、そして美しく輝いている。思わずその姿から無意識に視線が離れなくなっていた。

馬鹿な‥‥‥この俺が、二次元を愛する男であるこの俺が! 三次元に見惚れているだとぉっ!?

 

「‥‥‥大悟?」

「っ‥‥‥!」

 

気がつくと、二人はステージの中央、俺と雄二の目の前まで歩いてきた。ヴェールの下に素顔を隠して、シルクの衣装に身を包む腐れ縁が、俺を見上げていた。

そんな‥‥‥俺は今、コイツを美しいと思っているのか‥‥‥!?

 

「ゆ、優子なのか‥‥‥?」

「そうよ‥‥‥大悟」

 

何も考えられなくなる。どうしちまったんだ俺は! 相手はあの優子だぞ! なんでこんなに動揺する必要があるんだ! 冷静になれ! お前は二次元に生き、二次元に死ぬ男だろう!

 

「‥‥‥大悟、どう? アタシ‥‥‥綺麗になったかな‥‥‥?」

 

恥ずかしげにそう優子が俺に訊く。それを見た時、俺は今まで考えてたものが全部頭の中から吹っ飛んでいくのを感じた。どうやって逃げようとか、ウェディング姿が似合うのかなんてもうどうでもいい。

そして無意識のうちに浮かんだ言葉を、そのまま発した。

 

「ーーああ、見違えるようだ」

 

どうやら俺は思っていたほど土壇場じゃあ噓がつけない人間のようだ。まさか俺ともあろうものが三次元、しかも優子に対して『魅力的』なんて感情を持つとはな。だが、それは間違いでも何でもない。

今の優子はそれほどまでにーー綺麗で、可憐で、美しく輝いていた。見えないけど、隣にいる霧島もそうなんだろうな。

 

「‥‥‥大悟‥‥‥」

 

優子は小さな声で俺の名を呼び、胸のブーケを抱え直す。

 

「‥‥‥待ってた‥‥‥」

 

すると、ブーケに顔を伏せて静かに震えだす。な、なんだ? 様子が変だぞ? 

 

 

《ど、どうしたのでしょうか? 花嫁のお二人が泣いているように見えますが‥‥‥?》

 

 

 

‥‥‥泣いてる? 

アナウンスが入ったことで、俺は気がついた。優子は肩を震わせながら俯きーー涙を流してきた。よく見ると、隣の霧島も泣いていて、雄二が困った顔をしている。そんな姿に観客もざわめいていた。なぜいきなり泣き始めたんだ?

 

「お、おい優子。どうしたんだ‥‥‥?」

 

俺がそう恐る恐る問いかけると、優子はいつもの強気な態度からは考えられないような、涙混じりの小さな声で呟いた。

 

 

「‥‥‥アタシの願いが‥‥‥叶ったの‥‥‥」

 

 

《願い、ですか?》

 

 

「‥‥‥ずっと‥‥‥アタシの願いだった‥‥‥嘘でも演技でもいい。大悟とこうすることが‥‥‥。大悟にとってのたった一人の特別な存在になりたかった‥‥‥。大悟がアタシを守るために、目の前からいなくなったあの日から‥‥‥」

 

優子が嗚咽を混じらせながら懸命に紡ぐ言葉に、俺はとてつもない罪悪感に襲われた。

秀吉から聞いた、コイツの俺への想い。それがあの時のことから来ているんだとするなら、それは大きな間違いなんだ。俺はそんなことのためにやったんじゃない。好意なんて要らない、俺はただアイツらから優子を守りたかっただけなんだ。そのせいで俺は感情に負けて取り返しのつかない事をして‥‥‥そして『自分たちのせいで』なんて勘違いをさせて優子を余計に苦しめてしまった。

それなのに、コイツは嫌がるどころか、世間から見たらクズ野郎の俺を懸命に愛している。こんなの笑い話にもならねぇ。コイツは、俺みてぇなゴミクズなんかと一緒になるべきじゃないんだ。それなのに、どうしてそこまで俺を好きでいられるんだ。辛いだけだっていうのに。

 

「‥‥‥だから、アタシは大悟に自分をちゃんと見てくれるこの時間が‥‥‥本当に嬉しいの‥‥‥。だから‥‥‥ありがとう‥‥‥大悟」

「‥‥‥‥‥‥」

 

そこまで言ったところで、優子はまた泣いてしまった。

すると、会場のどこからか聞き覚えのある声が微かにする。恐らく秀吉だろう。ったく、役者人間のくせに涙もろいヤツだ。

 

 

《どうやら嬉し泣きのようですね。花嫁さん達は相当に一途な方々のようです。さて、花婿の二人はこの告白にどう応えるのでしょうか?》

 

 

フン、そんなもん聞かれるまでもない。俺が優子にしてやれることなんて一つだけだ。コイツの間違った好意をちゃんと修正して、これ以上無駄な時間を過ごさせないことだ。それが優子にとって一番良いことなんだからな。

 

 

「優子。なら俺はーー」

 

 

 

 

 

『あーあ、マジつまんねー!』

 

 

 

 

 

俺が言いかけたところで、観客席から声が上がった。

 

 

 

 

 




少し長くなってしまった。詰め込み過ぎたかな‥‥‥。まあいいかな。

さて、次回が如月ハイランドパーク編最終回となります。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
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