【第三問】
強化合宿二日目の日誌を書きなさい。
姫路瑞希の日誌
『今日は少し苦手な物理を重点的に勉強しました。いつもと違ってAクラスの人たちと交流しながら勉強もできたし、とても有意義な時間を過ごせました』
教師のコメント
Aクラスと一緒に勉強することで姫路さんに得られるものがあったようで何よりです。
今度の振り分け試験の結果次第ではクラスメイトになるかもしれない人たちと交流を深めておくと良いでしょう。
土屋康太の日誌
『前略
夜になって寝た』
教師のコメント
前略はそうやって使うものではありません。
吉井明久の日誌
『全略』
教師のコメント
あまりに豪快な手抜きに一瞬言葉を失いました。
岡崎大悟の日誌
『詳しくはwebで!』
教師のコメント
サイトが見つかりませんでした。
―――side明久
「……雄二。一緒に勉強できて嬉しい」
「待て翔子、当然のように俺の膝に座ろうとするな。クラスの連中が靴を脱いで俺を狙っている」
「あの、優子さん? 腕の関節が外れそうなのでその手を放してくれませんかね?」
「何言ってるの、ダメよ? 暫くはずっとアタシと一緒だからね♪」
強化合宿二日目。今日の予定はFクラスとの合同合宿となっていた。
学習内容は基本的に自由であり、殆ど自習のようなものだ。その為机の並びも生徒同士が向かい合うような形になっている。
「でも、なんで自習なんだろう? 授業はやらないのかな?」
「授業? そんなもんやるわけないだろ」
そんな僕の一言を聞き付けて、雄二が霧島さんを置いて隣にやって来た。
「やらない? どうしてさ?」
「明久。てめェはAクラスと同じ授業受けて中身が理解出来んのか?」
斜め前の席で大悟がそう僕に告げる。
「むっ。失礼な。大悟にはそうかもしれないけど、僕にとってはAクラスもFクラスも大差はないよ」
「ほう。それは凄いのう」
「―――どっちも理解出来ないからね」
「……色んな意味で凄いのう」
隣にいた秀吉が微妙な表情を見せる。あれ? 僕変なこと言ったかな?
「……この合宿の趣旨は、モチベーションの向上だから」
「じゃなきゃ、Fクラスの人たちと同じ場所になんかいないものね」
「え? どういうこと?」
「翔子、木下姉、それだけじゃ明久にはわからんだろ。つまり、AクラスはFクラスを見て『ああはなるまい』と、FクラスはAクラスを見て『ああなりたい』と考える。そう言ったメンタル面の強化が目的だから、授業はさして問題ではないということだ」
「ほー、そういうことだったんか。だがそれ、Aクラスはともかく、Fクラスには効果があるのか?」
「……見た感じ、その可能性は薄いわね」
霧島さんの言葉の続きを雄二が説明してくれる。やっぱり息もあってるし、この二人は(外見を除けば)お似合いだなと思う。ちなみにその隣のカップルは色んな意味でバイオレンス(主に大悟の身が)だ。
僕は席を外した方がいいかな、などと考えていると、
「あ、代表と優子ここにいたんだ。それならボクもここにしようかな?」
そこに聞き慣れない声が聞こえてきた。いそいそと僕の正面の席に勉強道具を広げている彼女は、確か―――
「工藤さん、だっけ?」
「そうだよ。キミは吉井君だったよね? 久しぶり」
「あ、貴女様は我が愛しの嫁の柿崎みるくたそ!!? なぜ青色スプラッシュサマーの世界からここに……ハッ! まさか画面の向こうからわざわざ僕に会いに来てくれたのかッ!!? つまり相思相愛!! ということなら話は早い!! 僕も会いたかったよマイニード嫁ぇぇええげぼるぉっ!!」
「だ~い~ご~? またそうやって他の女に色目を……オシオキが必要かしら?」
「推しのためなら死ねる!! どんと来ぎゃぁぁあああっ!!?」
「あははっ、岡崎君は相変わらずだね。でもボクはそのみるくたそとかいう人じゃないかな」
木下さんによる虐殺行為を目前にしてもなお、ニッと歯を見せて笑う工藤さん。ボーイッシュな雰囲気と相まって、その仕草はとても爽やかに見えた。
反対にその隣の木下さんは、そのどす黒いオーラと制服に付いた返り血も相まって、その仕草はとても狂人的に見えた。
「それじゃ、改めて自己紹介させてもらうね。Aクラスの工藤愛子です。趣味は水泳と音楽鑑賞で「みるくたそと同じだと!? やっぱり貴女はみるくぎゃぁぁあああっ!」「……大悟のバカ。顎骨へし折ってやるんだからっ」、スリーサイズは上から78・56・79、特技はパンチラで好きな食べ物はシュークリームだよ」
なんだ!? 大悟の戯言と何かの骨が砕けるような音はどうでもいいけど、最後の方に魅惑的な台詞が混ざったぞ!?
「ん? どうしたの吉井君?」
「いや、別に工藤さんの特技を疑っているわけじゃないんだ。ただ、その……」
「あ、さては疑ってるね? なんなら、ここで披露してみせよっか?」
工藤さんがスカートの裾を摘まんでそう言う。クッ、女の子からこんな誘惑的な台詞を受けたら、男として聞き逃すわけには……、
「……待つんだ。そんなことをする必要はないぜ」
「え?」
突然大悟が立ち上がり、そうはっきりと工藤さんに言った。顔面アンパ〇マンみたいに腫れあがってるけど。
「みるくた―――いや、工藤。いくらお遊びとはいえ、そのような不埒な行為を人前で晒すのは些か倫理観に欠けるな。そういった真似は冗談でも控えた方がいい。俺の考えを押し付けるようで済まないが、女性ってのは"品格"が大事だからな。それを忘れちゃあならねぇぜ?」
「おお……大悟が珍しくまともなことを」
「……だが! 目の前で三次元版みるくたそのパンチラはどうしても見たい!! つまりどうするか!! それを人前でそれをさせなければ合法なのさ!! てことで工藤、夜になったら体操着姿でちょっと俺のところに来てごばぁっ!!」
「はーい♪ 次は前歯と奥歯を一本ずつね♪」
……うん。大悟はやっぱり狂ってる。木下さん。もういっそのことその社会不適合者予備軍を社会から完全に隔離してくれて全然構わないよ。
そして、隣ではなぜか雄二が目を押さえてのたうち回っていた。霧島さんが指をチョキにして「……浮気は駄目」と呟いているのは関係ないと思いたい。
「……………明久、同志。工藤愛子に騙されないように」
いつの間にか隣にやってきたムッツリーニが不可解なことを言い出した。
「騙す、だと? どういうことだ同志? みるくたその生まれ変わりである彼女に限って―――」
「あれ、ムッツリーニ、随分と冷静だね。僕ですらこんなにドキドキしているんだから、てっきり鼻血の海に沈んでいると思ったのに」
「……………ヤツは、スパッツを穿いている……!」
「「そ、そんな!! 僕(俺)達の純情を騙したね(のか)!?」」
畜生がっかりだ! 僕のドキドキを返してほしい! それと隣で「俺は目を突かれ損じゃないか‥‥‥」と落胆している雄二と「スパッツだと‥‥‥、ふざけるなッッ!! そんなの俺が断じてゆ"る"さ"ん"っ!!!」と血の涙を流して歯ぎしりしている大悟に謝ってほしい!
「大悟。アタシはスパッツ穿いてないわよ?」
「あっそ。だからなんだだだだだだ!!! なんでぇぇぇええ!!?」
「……バカ」
「あはは、バレちゃった。さすがはムッツリーニ君だね。まぁ、特技ってわけじゃないけど、最近凝っているのはコレかな?」
笑いながら彼女が取り出したのは小さな機械だった。なんだろコレ?
「……………小型録音機」
「うん。コレ、凄く面白いんだ。例えば―――」
―――ピッ 《工藤さん》《僕》《こんなにドキドキしているんだ》《やらない?》
「ほう……コイツはすごいな」
「実に率直かつ大胆な台詞じゃのう」
「わああああっ! 僕はこんなこと言ってないよ!? 変なものを再生しないでよ!」
「ね? 面白いでしょ?」
いきなりその小型録音機から流れてきたのは、先ほどまでの僕の複数の言葉を繋げて変な風に改ざんされた声だった。それを聞いてニヤつく雄二と感想を述べる秀吉。面白くない! 僕は全く面白くないよ工藤さん!?
「待ってくれ工藤!! それ俺にも貸してくれ!」
「ん? いいよー」
―――ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ 《工藤さん》《やらない?》《やらない?》《やらない?》《やらない?》《やらない?》
「大悟貴様ァァァァアアアア!!!」
「あははっ、やるねぇ岡崎君」
「わはははは! 合成会話か! コイツは確かに面白れぇ!」
悪戯っぽい笑みを浮かべる工藤さんと、大口を開けて笑う大悟。クッ、このキモオタ野郎! 中学生みたいな低レベルな真似をしやがって……!
と、思っていると突然背後から急激な寒気を感じた。僕の中の危険感知センサーがガンガンなっている気がする。
「……ええ。最っっ高に面白いわ」
「……本当に、面白い台詞ですね」
振り向くと、そこには氷の微笑をたたえた美波と姫路さんがいた。
「え、えっとね、姫路さん? 美波? これは大きな誤解で―――」
「瑞希。ちょっとアレを取りに行くのを手伝ってもらえる?」
「わかりました。アレですね? 喜んでお手伝いします」
机に勉強道具を置いて、学習室を出ていく二人。何故だろうか、全身から冷や汗が噴き出して止まらない。
「……明久、大悟、ちょっといいか」
すると、隣で真剣な表情をしていた雄二が僕と大悟に手招きをしていた。
アイツが真剣な顔をするときは必ず何かがある。僕たちは周りに聞こえないように、雄二に小声で話しかける。
(雄二、どうしたの?)
(まさか、お前もみるくたその魅力に気付いたのか?)
(違うわバカ。今の手際を見ただろう。もしかすると、工藤が例の犯人かもしれないと思ってな)
(なん……だと? バカな! あの子はみるくたその生まれ変わりなんだぞ! そんなことが信じられるか!)
(いい加減二次元と三次元の区別をつけろこのキモオタ。まぁ大悟は放っておくとして、さっきの行動から、ヤツはこういった行為に慣れているとみた。確定まではいかないが、有力な犯人候補といえる)
(そっか。雄二と大悟はプロポーズを録音されてたんだもんね)
(クッ……信じたくはないが、その線が一番あるか)
大悟も苦虫を嚙み潰したような表情をするも、雄二の仮説を肯定する。
確かに彼女のあの技術はムッツリーニにも引けを取らなかった。それに加えて、彼女はAクラスの人間だ。霧島さんや木下さんのこともよく知っているに違いない。だから彼女が二人とそういった取引を行っていたとしても何の不思議もないという訳か。
(さて、こうなったら後は工藤が犯人だという決定的な証拠が欲しいところだ)
(なるほどな……よし! ここは俺に任せておけ!)
(え、大丈夫かい大悟? また変なこと言って木下さんにボコられるんじゃないの?)
(おいおい、二度も同じ轍を踏むわけがないだろう? ちゃんと考えがあるんだよ。ま、見てな)
そう言って大悟は、自信満々に向かっていくーー何故か工藤さんではなく、木下さんの方へ。
ああなるほど、木下さんに協力を仰ごうというのか。確かにそっちの方が成功率は高
「優子。済まないがちょっと頼みがある。聞いてくれるか?」
「ん? 何かしら大悟。ダーリンの頼みならなんでも―――」
「工藤のケツが見たい。だから協力してくれ」
「―――あ"?」
ボゴォ……ッ!!
あ、大悟の顔面に木下さんの鋭い回し蹴りがクリーンヒットした。
そしてそのまま笑顔でエスカリ〇ルグで大悟を嬲り始める木下さん。最早見慣れた光景だ。
(……アイツはダメだ。明久、頼む)
(うん。了解)
全く役に立たなかった大悟の代わりに僕は、工藤さんを真っ直ぐ見据える。
……いや、待てよ? もし工藤さんが犯人だとするなら『君が僕に脅迫状を書いたの?』と聞いてバカ正直に答えるわけがない。むしろこっちを強く警戒してしまうだろう。それでは意味がない。
危ない危ない。これは質問の仕方を変えないと。
「工藤さん。君が―――」
「ん、なに、吉井君?」
頭を使え吉井明久! 相手に気取られないかつ犯人だと特定できるような質問を考えるんだ!
そういえば、大悟がさっきお尻って言ってたよな。……そうか! 犯人の特徴はお尻に火傷の痕があるんだ―――よしっ!
「キミが!」
「ボクが?」
「キミが―――僕に、お尻を見せてくれると嬉しいっ!」
「「「「「「……………」」」」」」
やってもうた。
「……ぷっ。あははっ。吉井君はお尻が好きなの? それともボクの胸が小さいから気を使ってお尻にしてくれたのかな?」
「ご、誤解だよ! 別に僕はお尻が好きってわけじゃなくて!」
「ごふっ……! あ、明久。残念ながら手遅れみたいだぞ」
「流石だな明久。まさか録音機を目の前にそこまで言うとは」
「へ?」
雄二も大悟も何を言っているんだろう。
「ごめんね。折角だから録音させてもらったよ」
《僕に、お尻を見せてくれると嬉しいっ!》
「ひあぁぁっ!? これは合成すらしていない分ダメージが大きいよ!? お願い工藤さん! 今のは消してえぇぇっ!」
「吉井君って、からかい甲斐があって面白いなぁ。ついついイジメたくなっちゃうよ」
「……見た目のボーイッシュな感じとは裏腹に小悪魔的な面も併せ持つ……やっぱり工藤は本物のみるくたそ「他の雌を見るような目はイラナイワヨネ♪」あがぁぁああっ!! 目が! 目がぁぁああ!!」
―――ピッ 《お願い工藤さん!》《僕に、お尻を見せて》
「やめてぇぇええ! 僕が段々変態になってる気がするよ!」
「「今更だろ」」
「黙れクズ共!! と、とにかく工藤さんを止めないとーー」
その直後、背後に物凄い殺気を感じた。
恐る恐る振り返ると、そこには予想通り、拷問器具を持って黒く淀んだ瞳をした姫路さんと美波が戻っていた。
「……今の、何かしらね? 瑞希」
「……なんでしょうね? 美波ちゃん」
表情を変えず、二人は僕の後ろに石畳を設置し始める。
「まさか、ただでさえ問題のクラスとして注意されてるのに、これ以上問題を起こすような発言をしたバカがいるのかしら?」
「困りましたね。そんな人がいるのなら、厳しいオシオキが必要ですよね?」
ヤバい。最近姫路さんが木下さんに負けないくらいどんどん良くない色に染まってきている。って、そんな余計なことを考えている場合じゃない! とにかく誤解を解かないと!
「二人ともこれは誤解なんだ! 僕は問題を起こす気はなくて、ただ純粋に《お尻が好きって》だけなんだ――待って! 今のは途中に音を重ねられ《工藤さん》《の》《お尻が》《好き》ってやめてよ工藤さぁぁあん!? ああ二人とも、お願いだから僕を後ろ手で縛らないで! あとそっちの皆も笑ってないで助けてよ! 特に雄二と大悟!」
既に僕の腕は関節を極められつつ背中に回されている。
「……………工藤愛子。おふざけが過ぎる」
「ムッツリーニ! 助けてくれるの!?」
「……………うまくやってみせる。任せておけ」
そう告げてムッツリーニは工藤さんと同じように小型録音機を構えた。さてはムッツリーニも音を重ねて工藤さんの音を打ち消すつもりか! よし。ここはムッツリーニを信じて、僕は僕のやるべきことをやろう!
「姫路さん。美波。よく聞いて。さっきのは誤解で、僕は《お尻が好き》って言いたかったんだ。《特に雄二と大悟》《の》《が好き》ってムッツリーニィィーッ! 後半はキサマの仕業だな!? うまくやるって、工藤さんよりも上手に僕を追い込むってことなの!?」
「……………工藤愛子。お前はまだ甘い」
「くっ! さすがはムッツリーニ君……!」
二人はライバルのように睨みあっている。そうやって火花を散らすなら二人で直接やり合ってほしい。
「吉井君。ちょっといいかしら?」
「……吉井」
「?」
突如、木下さんと霧島さんに手招きされた。なんだろうと思い、近づいてみる。
「どうしたの? 二人と―――」
「……吉井。雄二は渡さない」
「吉井君。大悟をたぶらかすような真似したら‥‥‥殺すから」
肩を砕かんとする勢いで強く掴む木下さんと、キリッと僕を見据える霧島さん。
おそらく雄二と大悟のと聞いて反応したんだろう。でも安心してください。僕はどちらもいりません。
「アキ……。そんなに坂本と岡崎のお尻がいいの……? ウチのじゃダメなの……?」
「前からわかっていたことですけど、そうはっきり言われるとショックです……」
「二人ともどうしてすぐに僕を同性愛者扱いするの!? 僕にそんな趣味は―――」
「同性愛を馬鹿にしないで下さいっ!」
いきなり学習室のドアが開き、見覚えのある女子がつかつかと教室の中に入ってきた。ああ……、また変な人が増えたよ……。
「み、美春? なんでここに?」
「お姉さまっ! 美春はお姉さまに会いたくて、Dクラスをこっそり抜け出してきちゃいましたっ!」
「須川バリアー」
「なっ! け、汚らわしいです! 腐った豚にも劣る抱き心地ですっ!」
美波に盾にされた挙句口汚く罵倒された須川君は涙をこらえて上を向いていた。
そういえば、あの子どこかで会ったことがあるような――って思い出した! この子、Dクラスの清水美春さんだ!
「お姉さまは酷いです……。美春はこんなにもお姉さまを愛しているというのに、こんな豚野郎を掴ませるなんてあんまりです……」
「ちょっと美春! こんなところで愛しているとか言わないでよ! アキに勘違いされちゃうでしょ!?」
「おい島田! 同性愛は二、三次元関係なくれっきとした人間のアイデンティティーの一つだ! 馬鹿にするのは許さんぞ!」
「岡崎は黙ってなさい!」
「あ、岡崎先生! お疲れ様ですっ! 依頼していたお姉さまの同人誌は出来ましたか!?」
「おう。要望通り全ページカラーの高解像度データで出来ている。受け渡しは来週の月曜日だな」
「分かりました! 必ず行きますね!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ美春! アンタ岡崎に何を依頼してんのよ!」
ああ……、清水さんも大悟の神の右手に魅了されたのか。
でも否定はしない。だって僕を含めてここにいるほとんどがそうだからね。
「君たち、少し静かにしてくれないか?」
そんな中。凛とした声が響き渡った。知的に眼鏡を押し上げるクールな声の主は学年次席である久保利光君だった。
「あ、ごめん久保君」
「吉井君か。とにかく気を付けてくれ。全く、姫路さんといい島田さんといい、Fクラスには危険人物が多くて困る」
危険人物が多いのは否めない。けど、雄二やムッツリーニより先に姫路さんと美波の名前が挙がったのは意外だった。
「それと、岡崎君の言う通り、同性愛者を馬鹿にする発言はどうかと思う。彼らは別に異常者ではなく、個人的思考が世間一般と少し食い違っているだけの普通の人達なのだから」
「え? あ、うん。そうだね」
なんだろう。久保君の台詞にはまるで実体験のような重みが感じられる。
それと、どうして木下さんは複雑な表情をしているんだろうか。
「そうです! あのお二方の通り、性別なんて関係ないんですよお姉さま!」
「ウチにその趣味はないから!」
依然収まりそうにない清水さんを美波が学習室の外に追いやる。やれやれ、やっと静かになった。
「……性別なんか関係ない、か……」
久保君が妙に思い詰めた表情をして清水さんの捨て台詞を反芻していた。なぜだか鳥肌が立った。
「性別なんか関係ない、ですか……」
「あのね姫路さん。その台詞を呟きながら雄二と大悟と僕を順番に見るのはやめてもらえるかな? きっとキミは誤解をしているよ。知っての通り、僕は《秀吉》《が好き》なんだってちょっと!?」
また余計な音声が重ねられたけど、今回は否定できなかった。
「け、けど、誤解しないでね? 僕は秀吉の《特に》《お尻が好き》なんだ――ってこれだと余計に誤解を招くよね!? ムッツリーニと工藤さん、とにかくその機械をこっちに渡しなさい! 僕を取り巻く環境が変わらないうちに!」
「おい明久てめェ!! 秀吉は俺のモンだ!! 渡さねえかんな!!」
「あ、明久……。ワシはどんな返事をしたら良いのじゃ……?」
「しまった! もう手遅れ!? こうなったら、《久保君》《雄二と大悟》《順番に》《お尻を見せて》違う! どうしてこんな場面で久保君のお尻を見る必要があるのさ!」
「吉井君。そういうのは少々困る。物事には準備がある」
「わかってる! 順序云々の前に人として間違っていることも!」
「アキ、アンタやっぱり女より男の方が……」
「だからどうしてみんな僕をソッチの人にしようとするの!? 落ち着いて僕の話を聞いてよ!」
「大悟? 秀吉? 歯を食い縛りなさい♪」
「ま、待て優子! 今のは大事な相棒という意味であぎゃぁぁあああっ!」
「な、なにゆえワシまでぎゃぁぁあああっ!」
「……雄二。吉井より私にお尻を見せて」
「な、何馬鹿な事言ってやが―――って無理矢理ズボンを脱がそうとするんじゃねぇぇええ!!」
騒がしい教室内のざわめきに僕の声が打ち消される。
結局、この騒ぎは鉄人が怒鳴り込んでくるまで続いた。
―――side大悟
『みーんなー! 今日も私の活躍を応援してくれてありがとう! 次回もまた見てね☆ それじゃあ、まったねー☆』
「まったねぇぇえええええええええめるたぁぁあああああん!!!!」
「うるせぇぞ大悟!! 静かにしろ!!」
地獄のような学習時間(物理的な意味も込めて)と夕食を終え、俺は一週間で最も至福の時間である、魔法少女の弟子めるたんの視聴に入っていた。
うむ、今回はほのぼの回、しかも全ての美少女系アニメではお馴染みの水着だったか……いつもは戦いの日々を送っている子たちが年相応に水飛沫をあげてはしゃぐ姿は、感無量に尽きないな。
そして遂に解禁されためるたんの水着姿ッッ!! 思わず同志と一緒に昇天しちまったぜ……!!
「終わったならこっちに来い。話し合いを始めるぞ」
「おいおい、もう少し水着めるたんの余韻に浸らせてくれよな~頼むよ~」
「馬鹿な事言ってねぇで早くしろ。時間がねぇんだから」
雄二に急かされ、仕方なく俺はテレビを消して部屋の中心に腰掛ける。
そして、俺たち五人で今後のことについて話し合った。
「僕は工藤さんが犯人だと思うな」
「その可能性は高いだろうな」
雄二が明久の意見に頷く。確かにあの録音機の使い方はかなりのものだ。怪しむのも無理はない。
俺としては、みるくたその具現化である彼女がそんな真似はしてないでほしいと思いたいが。
「それじゃ、工藤さんを一気に取り押さえる?」
「……………それはやめた方がいい」
「なにか問題があるのか?」
「……………チャンスは一度きり。もし失敗したら犯人は見つからない」
「もし取り押さえて間違いだった場合、それを見ていた真犯人がどうするかをよく考えてみろ、ってことだろ?」
「ああ、そっか。証拠を隠滅するとか、自分を探させないようにする為に更に脅迫をするかとかだね」
「無計画な行為は返ってこっちの首を絞めるってことか」
確かにそう考えるとチャンスは一度きりだ。無暗に手は出せない。なら益々綿密な計画を立てないとな。
「例の火傷の痕を確認できたら良いのじゃが……」
「いっそ、怒られるのを覚悟でスカート捲りでもしてみる?」
「「……………彼女(ヤツ)は、スパッツを穿いている……!!」」
俺と同志が憎々しく呟く。クソッタレ! パンチラってのはスカートの下から覗かせるその花園を唯一お目にかかれる最高のシチュエーションなんだぞ! 工藤はそれが分かっているのかッ!!
「……………確認するには女子風呂を除くしかない」
「やっぱりそうなるんだね……」
「けどどうすんだ? 昨日と同じやり方じゃあの教師共の陣営を突破するのは困難だぜ」
「作戦を練るにしても、あの場所はただの広い一本道に大きな大食堂があるだけじゃ。正面突破しかないと思うぞい」
確かに、あそこは何の隠し通路らしきものもない。だから裏から侵入という方法も無理だ。
「そうだな。午後は昨日失った点数の回復試験があったからな。時間もないし、基本は正面突破しかない」
「ま、そりゃ仕方がないわな」
「だが、方法がないわけでもない」
「え? 作戦があるの?」
「作戦なんて立派なもんじゃないがな。要するに、正面突破を成功させたらいいだけだろう」
「いや、それが難しいから困ってるんだけど……」
向こうの戦力は今のところ教師の召喚獣が三体に鉄人。それに引きかえこっちはたったの五人だ。人数では上回っていても、質が大きく違う。特に鉄人と姐御はヤバい。
唯一の利は、向こうは点数の補充がままならないということだけだ。
「正面突破しか出来ないのなら、それを成功させるだけの戦力を揃えたらいい。実力は負けてても、人数で上回れば勝機はある」
「共に戦地に赴く同志を増やす……か?」
「そうだ」
なるほど。確かに、雄二らしくない方法だ。
「そういうことなら任せろ。すぐにヤツらを呼んでこよう」
「安心しろ。既に声はかけてある。そろそろ来るはずだ」
ガチャ
「坂本、俺たちに話ってなんだ?」
すると、扉が開き須川をはじめとするFクラスの面々がぞろぞろと部屋に入ってきた。
「よく来てくれた。実は皆に提案がある」
部屋に入りきらないメンバーにもよく聞こえるように、雄二はハッキリとデカい声で告げる。
『提案?』
『今度はなんだよ。正直疲れて何もやりたくないんだけど』
『早く部屋に戻ってダラダラしてぇな~』
「――皆、女子風呂の覗きに興味はないか?」
『『『詳しく聞かせろ』』』
フッ……馬鹿共め。俺はそう答えるって信じてたぜ。
「昨夜、俺たちは女子風呂の覗きに向かったんだが、そこで卑劣にも待ち伏せをしていた教師陣の妨害を受けたんだ」
『『『ふむ、それで?』』』
「そこで、風呂の時間になったら女子風呂警備部隊の排除に協力してもらいたい。報酬は二つ。ダイゴブックスによる全ページフルカラーエロ同人誌! そしてもう一つは、その後に得られる―――
『『『乗ったぁぁあ!』』』
流石雄二だ。見事にこっちの『脅迫犯を探し出す』という目的を隠しつつ、野郎共を一気にまとめあげてやがる。単純に覗くのが目的と言った方が説明が楽なのだろう。
「ムッツリーニ、今の時間は?」
「……………二〇一〇時」
確か入浴時間は午後八時。今から向かえばナイスタイミングだ。
しかも昨日より大分戦力の増強が出来た。警備を突破できる可能性が高まったぜ!
「よし、今から隊を五つに分ける。A班は俺に、B班は明久、C班は秀吉、D班はムッツリーニ、E班は大悟にそれぞれ従ってくれ」
『『『了解っ!』』』
「いいか、俺たちの目的は一つ!
『『『おおおおっっ!!』』』
「全員気合いを入れろ!! 我らFクラス計四十八名!!
『『『おっしゃぁぁーっ』』』
そして俺たちは、一つの崇高な目的のため、走り出したのだった。
というわけで久しぶりの投稿です。遅くなってすみません。
最近色んな人のバカテス小説を読んでるうちに、久しぶりに描くか、と思い描きました。
次回は女子風呂突撃、第二夜目です。それではまた
感想、意見などありましたらお待ちしております。
原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?
-
入れろ、絶対に
-
別に入れなくてもいいよ