バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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逃走中編
幕間 俺とハンターと地獄の鬼ごっこ 序


 

―――side大悟

 

 

 やぁ読者の諸君。岡崎大悟だ。

 突然なんだが、君達に一つだけ質問をしたいと思う。なぁに、誰にでも答えられるような簡単な質問だから気軽に答えてくれ。それでは早速―――

 

 

 ―――君達は、“夏”に対してどんな印象を抱いているかな?

 

 

 おっと、少し漠然としすぎてしまっただろうか。まぁいいか。

 夏と言えばなにか。ふむふむ……イベントが盛りだくさんの楽しい季節。ただ暑いだけの憎たらしい季節。女の子の露出が増える最高の季節……それぞれ色んな考えを持っていることだろう。ちなみに俺も最後の考えには賛成だ。なぜなら女子小学生も薄着姿になり、その発展途上の身体を惜しげもなく晒すという至高にしてエロスの―――おっとそこの君、今すぐその持っている携帯電話を置くんだ。110番はしなくていい。

 さて、話が少々脱線してしまったが……そんな多くの意見が飛び交う中、この俺、岡崎大悟が夏に対して抱いている印象は……人間が最も活発化する季節なんじゃないかと思っている。

 

 そう断言する根拠としては、前述にもあった通り、夏には多くの野外イベントや行事が盛りだくさんだ。

 海水浴、夏祭り、プール、避暑地でのキャンプ、甲子園、音楽フェスティバル、果てはコミックマーケットなど……他の季節に比べても圧倒的な数を誇っている。あとはそうだな……ちょっと微妙なラインだが学生なら部活動の引退試合なども含んでもいいかもしれない。

 そして、そんな素晴らしいイベント達の立役者となっているのが、この夏という素晴らしい季節だ。別にこれらは夏じゃなくても十分楽しめるものばかり。しかしなぜ夏だけがこんなにもピックアップされるのか。うだるような暑さ、耳をつんざくような蝉の自己主張、そして燦々と照りつける太陽の輝き。これら全てはその特別な行事をより魅力的に引き立たせるスパイスなんだと思う。

 家族、友人、恋人……そんなかけがえのない人達との忘れられない思い出を作り、共有したい。外に出て、この時期ならではの熱気を感じ、賑やかな喧騒に顔をしかめながらも、焦がすような日差しを全身で浴びたい。止まらない汗を拭い、思いっきり身体を動かしたい。それこそが夏という季節を限界まで楽しむ為の方法であり、その延長線上として、前述のイベント達が存在しているのだろう。そりゃあ普通の人間なら気持ちがいつもより高ぶるのも無理はないだろう。

 

 つまり、夏とは人間の心だけでなく、物事さえもそこに秘められている魅力や娯楽性を倍増させてしまう。まぁ簡単に言うと『どんなイベントも夏にやれば楽しい』ってことだ。俺は今までずっとそう思っていたし、これからもその考えが変わることはないだろう。けど―――  

 

 

 

 

「うわぁぁあああっ!! 見つかったぁぁあああーー!!」

「ってオイ明久ァ!! テメェなにハンター連れてこっちに逃げて来やがんだボケェェエエッ!!」

「っていうかそもそもハンター共速すぎだろぉぉぉおおおいいいっ!?」

「ま、待って欲しいのじゃぁぁああー! ワシを置いていかないでくれぇぇえーーっ!!」

「……………捕まる訳には……っ!」

「いやぁぁああっ!! 来ないでくださいーーっ!」

「うぇぇえっ!? なんで前からも来るのよぉぉおーーっ!?」

 

 

 

『『『……………(ドドドドドド)』』』

 

 

 

 ―――これに限っては、絶対違う。

 

 

 

『『『逃げろぉぉぉおおおおおーーっ!!!!』』』

 

 

 

 必死に逃げる俺達の後ろには、そんな俺達の気持ちを嘲笑うかのごとく迫り来る黒い影……またの名を―――“狩人(ハンター)”。

 さて、どうしてこんな事になってしまったのか……。そう、事の発端はおおよそ今から数時間前、今朝のことまで遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――数時間前

 

 

「「「???」」」

 

 いつも通りの平日。

 俺はこれまたいつも通りのメンバー、相棒の木下秀吉とその姉、木下優子の三人で学校に登校していたのだが……、

 

「……なぁ秀吉、優子。今日って学校休みだったか?」

「い、いいや。そんなことはないはずよ。でも……」

「これは一体……どういうことなのじゃ?」

 

 俺達はその光景を疑った。

 なぜなら……いつもなら生徒達の姿が見える筈の校庭に、俺達三人以外の人間が()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いやいや、普通の登校日でこれはおかしいだろ。……ハッ!? もしや何かの手違いでパラレルワールドに飛ばされたのか俺達ァ!?」

 

 てことはどこかにこっちの世界の俺達がいるはず! 

 や、やべぇ……確か同じ自分に出会っちまうと三日後に死ぬって言われてるよなぁ……!? それにパラレルワールドの世界の人間ってのはほぼ全員が特殊能力を持ち、本来の世界の自分を殺そうとしているという設定が定石だ。この前やったギャルゲーも最終的にはヒロインが主人公を掛けてもう一人の自分と殺し合いを繰り広げるというバトル展開になったんだよな……。

 いやだ! そんな方法で死にたくねぇ! 俺はまだやりてぇことがいっぱいあるし、葉月ちゃんをはじめとした全世界のロリ達よりも先に逝くなんてまっぴらごめんなんだよぉ! 

 こうなったら……仕方ない。

 

「殺られる前にこっちの世界の俺を殺っちまえばいい……」

「さっきから何アホなこと言ってるのよ大悟。でもまさか、人影どころか気配すらないなんてね……」

「もしや、何かの事情で急遽休みになったのかのう?」

「だとしたらアタシ達か親に連絡が来るでしょう? それに他の人達は知ってるのにアタシだけ知らないってのもおかしいじゃない」

「むぅ、それもそうじゃの……」

 

 事態がイマイチ飲み込めず、どうすればいいのか分からずにいる俺達。すると、

 

 

「おはようございます。お三方様」

 

「「「?」」」

 

 

 不意にどこからか声を掛けられた。

 良かった、俺達以外にも人がいたようだ。

 なんだ~やっぱりちゃんといるじゃねぇかよ。そう安堵しつつ俺は声の聞こえた方へと振り向く。しかし、

 

「岡崎大悟様、木下優子様、そして弟の秀吉様ですね?」

「? お、おう。確かにそうだが……」

 

 そこにいたのは、生徒でも教師でもない。

 黒のスーツにワイシャツ、そしてこれまた黒いネクタイにサングラスといった、まるでSPのような格好をする一人の女性だった。

 えっと……誰だコイツ?

 

「お待ちしておりました。早速ですがこちらを」

「いやいや、ちょっと待て。その前にアンタは誰だ? 学校の関係者じゃねぇだろう?」

 

 俺はそう彼女の話を切って尋ねる。

 するとこっちの予想よりも早く、彼女は俺達にこう返答してきた。

 

 

「私は今回のこのコラボ企画の運営に携わる如月グループのスタッフでございます。決して怪しい者ではございません」

「如月グループ?」

「コラボ?」

「スタッフ?」

 

 

 そう淡々と告げられるも、益々訳が分からなくなる。なにいってんだコイツは。

 一応如月グループという名前だけは聞き覚えがある。なにせ俺や明久、そして雄二は清涼祭や如月ハイランドパークの件で散々引っ掻き回され、個人的に因縁があるのだ。その為あんまりこの会社にはいい印象を持っていないというのが俺の本心だ。

 だがなぜそのスタッフが文月学園にいるんだろうか。それと彼女のさっきの『待っていた』という台詞はどういう意味なのだろうか。もしかして、この誰もいない状況と何か関係があるのか?

 

「そういうことですので、早速こちらを」

「あの……コラボって一体何の事ですか? アタシ達何も聞いてないんですけど」

「私の口から説明するよりも、こちらを読んでいただく方が早いかと」

「は、はぁ……」

 

 と、スタッフの女性はやや押し気味に優子に何かのプリントを渡してきた。

 それを隣で一枚受け取り、中身を確認する。えっと、なになに……?

 

 

 

 

 

 如月グループ主催特別コラボイベントのお知らせ

 

     

          ~~逃走中~~

      ~~史上最速のハンターから逃げ切れ!~~

 

        今回、我が文月学園と如月グループ、

   某テレビ局の三者による共同イベントを開催する事になりました。

        

          そして厳正なる選別の結果

      見事貴方はこのイベントの参加資格を取得しました。

          真におめでとうございます

       

          学園初の試みとなる本企画

     どうぞ心行くまで楽しんで頂ければ幸いでございます。

         

 

  【日時】本日9:00~終了時刻未定

  【場所】文月学園 如月ハイランドパーク 如月ドーム

  【参加生徒一覧(クラス混合、五十音順)】

   文月学園第二学年:岡崎大悟、木下秀吉、木下優子、霧島翔子、工藤愛子、久保利光、坂本雄二、島田美波、清水美春、土屋康太、姫路瑞希、吉井明久、etc……

 

  ※なお、本企画は後日某テレビにてオンエアされる予定なので悪しからず。

 

 

 

 

「……………」

「……………」

「……………」

   

 沈黙する俺達三人。そして……、

       

 

「「「……Really?」」」       

 

 

 思わず口から出たのは、その一言だった。

 

        

       

 

 

 

 

 

「……んで、どう思うよ。これ」

 

 俺達はあの後、女性スタッフの指示に従い体育館へと移動した。

 そこには既に他の参加者も集められており、皆同様この企画について疑問を持っているようだ。

 

「どうもこうもねぇ。あのババァと如月グループが組んでるとなりゃあ、またなんか企みがあって当然だろ」

「あ、やっぱり雄二もそう思うんだね」

 

 そう訝しむ態度を見せるのは、俺の悪友でありFクラスのバカコンビ。坂本雄二と吉井明久だ。  

 それもそのはず。俺達はあのババァと如月グループには散々な目に会わされた記憶がある。怪しむのは至極当然な反応と言えるだろう。

 

「しかし、まさかその内容がこれほどとはのう……」

「……………大規模過ぎる」

 

 秀吉と同志が先ほどスタッフから渡されたプリントを見つつそう呟いた。

 

 ―――逃走中

 

 おそらくこの日本で最も有名な鬼ごっこの名称だろう。

 現在某テレビチャンネルにて不定期に放送されている特番の一つで、様々な場所を舞台に『ハンター』と呼ばれる存在から制限時間一杯まで逃げ続け、逃走成功者には賞金が与えられるという人気バラエティ企画だ。

 しかし、ただ逃げ続けるわけではなく、途中で課せられる様々なミッションや自首制度。果ては裏切り者の登場などといった、視聴者を毎回楽しませてくれる要素も盛り込まれているのだ。

 

「どうやら、学園長もかなりこの企画には力を入れているようだね。ここに来るまでに数多くのスタッフらしき人物を見かけたよ」

「あ、久保君。久保君も参加者だったんだね」

「やぁ吉井君。その通りさ。だから今日は一日、よろしく頼むよ」

「うん、こちらこそよろしくね」

 

 同じく参加者である久保が、トレードマークであるメガネをクイッと釣り上げながらそう言った。

 ところなしか、明久を目の前にして嬉しそうな表情だ。

 

「でもよ、ババァはなんでまた如月グループと組んでやがんだ? 俺達と同じで連中のことはあのババァも良く思って無ぇだろうに」

「確かに、大悟の言う通りだよね」

「そりゃあ、如月グループは文月学園の大手スポンサーの一つだからな。前回のウェディング体験しかり、世間体や学園ブランドを物凄く重視するかつ多額の資金援助を受けている立場上、そう易々と向こうが出してくる要求を断れる訳が無い」

「要は権力者の犬ってことか。あのババァめ……」

「しかも今回はテレビ局まで加わっておるらしいからの。益々学園長は協力せざるを得なかったんじゃろうな」

「…………権力の前には逆らえない」

 

 あんのババァ……普段は俺達のことクソジャリとか呼んでるくせに、お偉いさんにはヘコヘコするイエスマンかよ。とことん癪に障るな。

 恩が無けりゃあ真っ先にぶちのめしていたところだ。

 

 

 

「それにしても、一体何をさせられるんでしょうか……?」

「ウチも同感。逃走中ってホントなんなのかしら? こんな格好までさせて……」

「……私も、わからない」

「そう? ボクは内容を知ってるから結構楽しみだけどね」

 

 

 

 そんな俺達に対し、女子勢達が口々にそんなことを呟いた。

 ちなみに俺達は今いつもの制服姿ではなく、スタッフから渡された企画専用の衣装に着替えていた。それぞれのイメージカラー(?)に合わせたTシャツにハーフパンツ。そして腰のポーチには携帯電話と謎の機械(?)があった。

 ああ、もうこれ完全に逃走者のする格好だわ。

 

「え? 工藤さんと木下さん以外の三人は見たこと無いの? 逃走中」

「すみません。私、バラエティはあまり見る方では無くて……」

「ウチも、殆どドラマとかサスペンスとかなのよね」

「……私も」

「ちなみにボクはバラエティは結構好きだよ。アメ○ーークとかロ○ハーとか」

「アタシも秀吉と一緒に色々見るわね。イッ○Q!とか有○の壁とか」

 

 明久の質問にそう答えた姫路、島田、霧島の三人。

 分からなくはない。島田は昨年までドイツにいたのだから日本のバラエティ番組にあまり馴染みが無さそうだし、姫路と霧島はキャラ的にそうだろうなとは思ってた。この二人が部屋でテレビを見ながら口を開けて笑ってる姿はあまり想像が出来ない。

 

 ま、逃走中については俺達が今説明せんでも後々発表されんだろ。

 

「それにこれって確かテレビ中継されるのよね? どうしてそこまでするのかしら?」

「文月学園のPR……とかそういう目的でしょうか?」

「……如月グループが関わっているから、それだけじゃないと思う」

 

 そう言えばそうだったな。ふむ、このメンツに加えて裏を引いているのがあのババァと如月グループ。そしてこの模様が全国に流れるということは……

 

「ふむ。つまり向こう側はハンターに無様に捕まる情けない雄二達を国民達に指差して笑って貰おうっていう魂胆なんだな」

「なるほど。明久達が呆気なく捕まる姿を画面の向こうから高らかに笑って馬鹿にしてやろうって考えか。そいつは傑作だ」

「そうだね。なんの見せ場もなく捕まって牢獄にブチ込まれる大悟達を見るのは実に愉快、痛快、爽快だもんね。その気持ちは凄い分かるよ」

「「「……………!(ガンのくれ合い)」」」

「たまに疑問に思うんだけど、アンタら三人って実は友達じゃないわよね」

 

 なんて失礼な。そんなことは断じてない。

 

「何をバカなことを言いやがるんだ島田よ。なぁお前ら?」

「そうだよ美波。僕らの友情は一生ものだよ」

「まったくだ。俺達は決して崩れることのない永遠の信頼関係で結ばれているんだからな」

 

(((―――利用価値がなくなるまでは)))

 

「今なんか心の声が聞こえたような気がするわ」

「豆腐よりも脆い友情じゃな……」

 

 ああ素晴らしきかな漢の友情。

 こんな固い絆で繋がれている俺らの姿は、自他共に認める本当のダチと言えるだろう。

 俺は確信した。今回のこの逃走中において、コイツらは大いに活躍してくれるに違いないと。

 

(((―――囮として)))

 

「またなにか心の声が聞こえたような気がしました……」

「最早豆腐を超えてゼリーやプリン並じゃな」

 

 そこまででは無い。少なくともコンニャクくらいの固さはある筈だ。

 なんて話をしていると、

 

 

 

 

《選ばれし逃走者の諸君。戦いの舞台へようこそ》

 

 

 

 

『『『!!』』』

 

 突如どこからともなく体育館全体に響き渡る謎の声。

 どうやら壁のスピーカーから流れている様だ。

 

 

《これより如月グループ主催、文月学園共同コラボ企画『逃走中』を始める。まずは基本的なルール説明を行う。前方のステージに注目したまえ》

 

「ステージ?」

「…………」

 

 その声に従い、前方にあるステージに顔を向けた俺達。

 すると、一般的な学校でもよく鑑賞会や発表会などで使われるであろう大きなスクリーンが天井から降りてきた。

 

「あれは……スクリーンみたいだね」

「何が始まるんでしょうか?」

「ルール説明とかって言ってたけど……あ、なにか映ったわよ」

 

 

 

 

《ルール説明》

 

・これより君達12人は『逃走者』となり、『ハンター』と呼ばれる存在から制限時間一杯まで逃げ続けなければならない。

 

・ハンターに捕まればその場で失格。牢獄送りとなりゲームからリタイアとなる。

 

・見事逃げきった逃走成功者は、賞金として百万円を受け取る事が出来る。

 

・指定されたエリアの外に逃亡したり、ハンターへの妨害行為(暴力、取り押さえ等)は禁止。もしこれらを行ってしまった場合は問答無用で強制失格となる。

 

 

 

 見た感じ、どうやらオーソドックスな逃走中のルールの様だ。

 その中でも、俺達が特に注目する点としては、

 

 

「嘘!? 賞金百万円!?」

「百万円って……かなりのお金ですよ!?」

「……凄い」

「へぇ、さすがは如月グループ。随分太っ腹だね~」

「学生のアタシ達にもちゃんと賞金って出るのね。意外だわ」

 

 

 そう、逃走成功時の賞金の額だ。

 それを見て他のヤツら、特に姫路や島田は驚いた様子を見せる。無理もない。百万円なんて額、学生にとっては夢のような大金だ。

 

「ひゃ、百万円もあったら、これまで欲しかったゲームや漫画も買えるし、普通どころか豪華な食生活にもありつけれるじゃないか……!」

「百万円か……最新鋭の防犯設備を揃えるだけじゃなく、AL○OKも雇えるな……」

「……………最新の撮影道具が一式買える」

「百万円ともなると、使い道が多くて迷うのじゃ……」

 

 もちろん俺達男子勢も興奮せざるを得ない。

 しかし百万円か……それだけあれば現在絶版になってしまいプレミア価格と化したエロゲーをはじめ、まだ持ってないアニメBlu-rayBox、最新版のペンタブ、ゲーミングパソコン、未購入のアニメグッズ、フィギュア……全て一括で揃えられるじゃないか! ああ、想像しただけでヨダレがとまんねぇぜうひひひひ……。

 

 

《そして今回の逃走中は特別ルールとして、ステージを二つに分けて行う。第一ステージの舞台となるのはここ、文月学園の敷地内全てだ》

 

 

「え? 文月学園全部がステージになるの?」

「ほう。そりゃあ面白ぇ」

「随分と壮大じゃのう」

「……………(コクリ)」

 

 なるほどな。どうりで学校内に生徒も教師もいないわけだ。

 しかし、まさか学園の敷地内全てを逃走エリアにするとは。久保の言ってた通りババァもこの企画には本気の様だな。

 そして、淡々と放送が続く。

 

《君達逃走者には、我々が指定したとある一ヶ所のルートを見つけて、この文月学園を脱出してもらう。制限時間は10分だ》

 

 

「10分?」

「結構短いですね……」

「へぇ。最初からかなりトばして来るね~」

「笑ってる場合じゃないわよ、愛子」

 

 

 

《そして、もし制限時間内にクリア出来なかった者は、その時点で強制失格とし、第二ステージに進むことは出来ない》

 

 

 

「失格だと? そりゃあまたハードだな……」

「いきなりキツいのが来たね……」

 

 隣で明久と雄二がそう呟く。だがまさにその通りだ。

 文月学園はたかが一教育施設のくせしてそれなりに規模があり、建物が旧校舎、新校舎などと幾つかに別れている。10分という限られた時間の中で、そこからたった一つの出口を探すとなるとかなり骨がいる作業だ。それに加えエリア内を徘徊するハンターに見つからないように移動しなくてはならない為、逃走者は必然的に苦戦を強いられることになるだろう。

 さすが逃走中。分かってはいたがやることがえげつねぇなぁ……。

 

 

《それでは、これよりハンターを二体投入する、再びステージに注目したまえ》

 

 シュゥゥウウ……バンッ!

 

 

『『『!!』』』

 

 放送の声がそう告げた途端、演出用のスモークが一気に噴出し、ステージを包み込む。

 皆の視線が一気に集中する中スモークを分けて現れたのは、電話ボックスぐらいの大きさをした二つの箱であり、それぞれその中には、

 

 

「あれが……ハンターっていうの? なんだか怖いわね……」

「そうですね、美波ちゃん。私もちょっと不気味に思います……」

 

 

 二体のハンターが、無表情で俺達の事を見下ろしていた。

 上下黒のスーツにサングラスという見た目と、一切表情を崩さないまるでロボットのような顔つきは逃走者達に言い知れぬ恐怖感を与えていた。

 初めて生で見たが……うん。アレに追いかけられるのはさすがの俺でも怖ぇわ。

 

「………きゃー、怖ーい」

「待て翔子、どさくさに紛れて俺に抱きついて来ようとするな。明らかにカタコトだし怖がってないだろお前」

「……そんな事は無い。雄二は乙女心が分かってない。だからモテない」

「分かるかんなモン―――ってだからって今度は腕を引っ張るんじゃねぇ! 胸に当たってんだろうが!」

「……雄二は冷たい」

 

 こんな時でも霧島は相変わらずだなぁ。そして後ろでは明久と同志が血の涙を流しながら『逃走中の前にコイツを殺す……!』って顔で睨んでやがる。全く喧嘩っ早いヤツらよ。三次元ごときでそこまで取り乱す事も無かろうに。

 

「木下さん。ゴメン。ちょっと開始前に身体を温めておきたいからエスカリボルグを貸してくれない?」

「アタシ? 別にいいけど……はい吉井君」

「待て木下姉! 今の状態のそいつにソレを渡すな! 俺の命に関わる!」

 

 ちょい待ち。そもそもなんで優子今エスカリボルグ持ってんの?

 

「ありがとう木下さん。お礼に良いことを教えてあげるよ」

「良いこと? 何かしら?」

 

 む、良いことはなんだ? 俺も気になるぞ。

 すると、明久は俺の方をチラ見して優子に言った。

 

「うん。実はこの間、木下さんに内緒で大悟が秋葉原で女性コスプレイヤーと仲良く会話をしてて」

「唸れ俺の黄金の両足! 必殺高速エスケープ!(グシャッ)」

「へぇ~。ソウナンだ。教えてくれてアリガとう。吉井君(ゴゴゴゴ)」

「足首の骨がぁぁああーーっ!!?」

 

 駆け出した瞬間。俺の右足首がショットガンのような速さと威力で蹴り砕かれた。明久テメェ! それ絶対優子には内緒っつっただろうがぁぁあ!  

 

「大悟。アタシ何度も言ってるわよね? アタシの知らない所で他のメス豚と喋ったら許さないって。どうして約束を守ってくれないのかな? カナ?」

「メス豚だと!? 優子テメェ! あの方はなぁ! コスプレ界隈では知らぬ者無しと言わしめるほどの伝説の女性コスプレイヤー様なんだぞ! そんな神に等しき存在である彼女を侮辱するのは俺が許さ(ベキャッ)」

「質問にはキチンと答えなさい?」

 

 残った左足首まで蹴り砕かれた。

 なんて事を! そうやって無抵抗の人間を痛めつけるなんて、かつての優子はそんな悪逆非道な人間じゃなかったのに! チクショウ誰が! 一体誰が彼女をこんな風にしやがったんだ!

 

「お主じゃろ」

「お前だろ」

「……岡崎だと思う」

「……………同志で間違いない」

「岡崎ね。間違いなく」

「あははっ、相変わらずだね。優子も岡崎君も」

「えっと……愛情にも色々な形がありますから、元気出してください」

 

 

 皆ひどいや。

 

 

――――――閑話休題

 

 

 

 

《それでは、第一ステージを開始する。ハンター放出まで、残り十秒前、九、八……》

 

「えっ!? もう始まるんですか!?」

「ま、待って! ウチまだ心の準備ができて……」

「しかも十秒って、全然猶予が無いじゃない!」

「と、とにかくここから離れるのじゃ!!」

「……………散会……っ!」

 

 ダダダダダッ

 

 一斉にその場から走り出し、散り散りに逃げ出す逃走者達。

 だが、俺はまだ動かない。何故なら俺には慌てなくても確実に逃げる事の出来る作戦を思い付いたからだ。

 

《六……五……四……》

 

「……む? 明久、雄二。お前らは逃げないのか?」

「ああ。ついさっきいい作戦を思いついてな。これを実行すれば俺は安全確実にハンターから逃げられる」

「奇遇だね。僕も同じ事を考えていたよ」

「フッ……俺達、やっぱり似た者同士ってワケか」

「全くだな」

「そうだね」

 

《……三……二……》

 

 やれやれ、俺も焼きが回ったもんだぜ。まさかこんなバカ共と同じ思考回路になっていたとはな。つくづく環境は人を大きく変えるものだ。

 だが……丁度いい。全員が()()()()だというのなら話は早い。

 

《一……》

 

「「「……!」」」

 

 俺達三人はそれぞれの顔を見合わせ、コクリと小さく頷いた。そして下半身に深く力を込めながら姿勢を低くし、呼吸を整える。よし、準備万端だ。

 後はそのタイミングを……しっかりと見極めろ!!

 

 

《……ゼロ!》

 

 ここだぁっ!

 

 バッ

 

「「「死に晒せぇぇええーーっ!!!」」」

 

 

 ハンター放出と同時に、俺と明久と雄二はそれぞれめがけて拳を放っていた。

 

「テメェら! やっぱりそういうつもりでいやがったなこの野郎!」

「テメェらこそ卑怯な真似しやがるじゃねぇか! この恥知らず共!」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるっ!」

 

 コイツら! 真横にいる俺に蹴りを食らわせて気を失わせ、そこをハンターに狙わせて自分は逃げようとするなんて、なんて人情の欠片もないゲス野郎共なんだ! ぜってぇ許せねぇ……!(※特大ブーメラン)

 

「上等だ! ならハンターの前に貴様らを片付けてやらぁ!!」

「「それはこっちの台詞だぁっ!!」」

 

 態勢を立て直し、間髪入れずに二人に掴み掛かる。

 不意討ちが不発だった以上、この二人を沈めるには正面から正々堂々叩き潰すしかねぇ! だがコイツらは日に日に喧嘩の腕を上げていやがるから、生半可な攻撃は通用しない。

 この勝負……一番最初にマウントを制した者が勝つ!

 

 

『あの、美波ちゃん。明久君達を止めなくてもいいんですか?』

『いいのよ瑞希。それよりもウチらが逃げ切る事が大事なんだから。バカはほっときましょう』

 

 

 どっかからそんなやり取りが聞こえたような気がするがどうでもいい。それよりもまずはこのバカ共をひねり潰すのが先だ! 

 

 

「「「くたばれカスや《二体のハンターが起動。そして真っ先に視界に捕らえたのは……岡崎大悟、吉井明久、坂本雄二の三人だ!》なにぃぃいいっ!?」」」

 

 

 一旦手を止めてステージの方に目をやる。

 すると、放送の声の言葉通りハンターが二体とも俺達に向かってダッシュで迫ってきていた。

 

「クソっ! これは喧嘩なんざしてる場合じゃねぇぞお前ら!」

「分かってる! ここはひとまずヤツらから逃げるぞ! 続きはその後だ!」

「オーケー! 一時休戦ってわけだね!」

 

『『……………(ダダダダダ)』』

 

 

 背後から段々と聞こえてくる二つの足音に背を向け、俺達は急いで体育館を抜け出した。

 さぁ、恐怖の鬼ごっこの始まりだ。

 

 

 

 

 




今回からアンケート一位となったオリジナルストーリー、逃走中編のスタートです!
正直何話で終われるか分かりませんし、グダグダな内容になるかも知れませんが、よろしくお願いいたします。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
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