―――side 大悟
もう嫌だ。なんで俺こんなことしてんの?
ババァ主催の目的の分からん催し物に参加させられて。
こんな朝っぱらから黒ずくめの集団から逃げさせられて。
あげくの果てには同じ会場でやってるのにも関わらず、アニソン界の女王と名高いお二方のライブを見ることが出来ない。
何なの神様? 俺のこともしかして嫌いなの?
それか好きすぎて意地悪したくなる男子小学生的なヤツなの? だとしたら気持ち悪いわボケ!
そうやって罪の無い若者を痛め付けて、どんだけサディスティックな性格してんだよコンチクショウ!
あーもういいわ。俺抜けるわ。
カヤ様とLiNA様をお姿を見られないと分かった以上、もうこんなモンに真剣に付き合う意味はねぇ。もうホント馬鹿馬鹿しい。
ミッション? ハンター放出? 知るかんなもん。
放出でも何でもすればいいじゃない!
そしてこの俺をさっさと捕まえればいいじゃない!
あ、そうしよ。
ここから動かないでいればその内ハンターに見つかって捕まえてくれるでしょう。そしてさっさとエスケープしてやる!
おい! どうせそこら中のカメラから見てんだろ! 如月グループのお偉いさん共! スポンサー連中!
そして
よくもこの俺の純情を弄んでくれたな! 悪いがもう俺はここから一歩も動かん! そして一切の抵抗もなくハンターに捕らえられてやるからな!
叩きたければ好きなだけ叩けばいいじゃない!
俺はもうやる気ゼロだから知らん。
もうどうにでもなれバーカウンコウンコ!!
……………って、思ってたんだけどよ。
「……? もしもーし、聞こえてないのかな……?」
「……………」
……はは、すげぇや。
カヤ様のお顔がこんなにハッキリと映ってやがる。
そうか。これがかの有名な走馬灯ってヤツなのか。
「おーい?」
ペチペチと頬を叩く走馬灯のカヤ様。
すげぇな。皮膚の感触まで再現してくれんのかよ。
「ねぇ、聞いてるー?」
鼻孔をくすぐるシャンプーのいい匂い。
おいおいマジか。走馬灯ってのは、ここまで人間の五感に刺激してくるものだったのか。
まるで本物のカヤ様が目の前にいるようで―――
―――んん? 本物?
「……あの」
「あっ、やっと喋った。おーい、私の事分かる?」
「……貴女はもしかして、本物のカヤ様……?」
「え? うん。私は一応水樹カヤだけど……本物ってどういうこと?」
「……本当ですか?」
「うん」
「……そうですか。本物のカヤ様でしたか……、走馬灯じゃなかったんですかぁ……そっかそっかぁ……」
「え、えぇっと……大丈夫?」
……………………………………………………………………………………………………………………。
「◆▨♡▽◣♢♤◉▨◁!!?(ドバババババ)」
「きゃぁぁああーっ!? ちょ、ちょっと君ーっ!?」
俺は口から体液という体液をブチ撒けながら果てた。
―――side 雄二&秀吉
「む、雄二ではないか! 無事じゃったか!」
「ん? おお、秀吉か。そっちも無事みてぇだな」
運良く合流した、木下秀吉と坂本雄二。
「秀吉はミッションには行くのか?」
「うむ。多少のリスクはあるが、さすがにこんな序盤でハンター10体放出は避けたいからの。このまま向かうつもりじゃ」
「そうか」
「雄二はどうするつもりなのじゃ?」
「もちろん俺も行く……、と言いてぇ所だが、今は様子見に撤することにする」
そう言って物陰に身を潜める坂本。
それに続いて秀吉も後ろに隠れた。
「何故じゃ? ミッション終了まで時間がそんなに無いのじゃぞ?」
「分かってる。だが逃走中ってのはミッションの内容に一癖も二癖もあるのが大きな特徴だ。いくらまだ序盤とはいえ、そんな簡単な条件でクリア出来るとは到底思えねぇんだよ」
「つまり……コンサート会場に行くだけじゃクリアにはならん可能性があるってことかの?」
「ああ。それにあのババァの事だ。絶対に何か仕掛けてるに違いない」
さすがはFクラスの知略派にして元神童。
即断即決を避け、冷静に物事を判断し、緻密に行動を取るようだ。
「まずは状況分析だ。この会場でミッションの他に何かイベントが起きている事を把握する。それがミッションクリアの鍵になる第一歩だからな」
「イベント……そういえば、さっき通行人の方が気になることを言っておったぞ」
「気になること?」
「うむ。なんでも今日はここでアニソン歌手のライブイベントがあるとかどうとか……」
「アニソンライブか……。あの
「うむ。確か名前は……水樹カヤとLiNAじゃったかな……?」
秀吉の言う通り。
今日は如月ハイライトパークにて、水樹カヤとLiNAによるアニソンスペシャルライブが開催される。
しかしその二人は現在、パーク内を迷子になっており、会場に辿り着けていない。
「水樹カヤとLiNA……二人とも紅白にも出場してるくらい有名なアニソンシンガーじゃねぇか」
「知っとるのか? 雄二」
「ああ。ちょくちょくテレビにも出てるのを見るからな」
「そうなのか。ワシは大悟と違ってそういう事に疎いからよく分からんのじゃ」
「まぁ、俺もあくまで人並みに知ってるだけだ。こういうことはアイツの方が断然詳しいからな。だが二人のアニソンライブか……もしかしたらこのミッションに関わってるかもしれねぇな」
「確かにその可能性はあるの―――っ!?」
突然何かに気づき、急に黙り込む秀吉。
「あ? 急にどうした秀吉?」
「……………(ヒョイ)」
そーっと秀吉が前方を指差す。何があるのかと坂本がその方向に視線を向けると、
『……………(キョロキョロ)』
―――周りを見渡している、ハンターだ。
雄二もすぐに声と物音を殺す。
「「……………(ジーッ)」」
物陰からハンターの動向を観察する二人。
ハンターと二人の距離は、およそ20メートル。
もし見つかってしまえば、逃げきるのはかなり困難となる。
(チッ、何してやがる。さっさと消えろってんだ……)
(気づかんでくれよ……)
『……………(テクテクテク)』
ここにはいないと思ったのか、別の場所へと歩きだすハンター。
上手く、切り抜けた様だ。
「……行ったか」
「……その様じゃな」
ハンターが完全に視界から消えたのを確認して、物陰から出てくる二人。
「すまねぇな秀吉。助かったぜ」
「なに、礼などいらぬ。当然の事をしたまでじゃ」
ハンターは神出鬼没。
いつどこから現れるか、分からない。
「とりあえず、ワシは大悟に電話をかけてみるぞ。ヤツならワシらよりももっと情報を掴んでおるかもしれんからの」
「おう、頼んだ」
逃走者の中で、一番こういった事への知識が豊富な岡崎を頼ることに決めた秀吉。持っていた携帯電話から、彼の番号に着信を入れる。
しかし、
プルルルルル……プルルルルル……
「アッアッアッアッアッアッ……(ビクビクビク)」
「岡崎君って凄く身体鍛えてるんだねー。まるでボディービルダーみたいでカッコいいと思うなー(ペチペチ)」
「ッッ!!? カヤ様の手が俺の筋肉に触れ……!? アァァアアーーッ!!?(ブッシャァァアア)」
「うぇっ!? ま、また鼻血!!? ああ倒れた!? しっかりして! 岡崎くーん!?」
―――彼は今、電話どころではなかった。
―――side ムッツリーニ
「……………(ジー)」
アトラクションエリアのお化け屋敷近くにて。
坂本達同様身を潜めながらも、徐々にコンサート会場へと向かう土屋康太―――もといムッツリーニ。
どうやら彼も、ミッションに参加する様だ。
「……………動くか」
人一倍警戒心の強いムッツリーニ。
その危機察知能力と動体視力は、ハンターにも引けを取らない。
「……………(キョロキョロ)」
入念に周囲を伺いつつ、ハンターがいないのを確認して着々と目的地のコンサート会場へと歩を進めていく。
すると、
「おい! そこの坊主!」
「!?」
急に誰かに大声で話しかけられた。
驚きつつも声のした方を見てみると、そこには迷子センターがあり中には一人の女性警備員がいたのだが、
「……………凜花さん?」
「あ? なんでお前アタシの名前知ってんだよ。どっかで会ったことあったか?」
「……………? いや、会ったも何も、同志の母親で」
「同志? 母親? 知らねぇな。人違いかなんかだろ……。まぁいいや。それよりもお前持ってねえ?」
「……………?」
「酒だよ酒! いやぁ警備の仕事ってずっと監視カメラ見張ってるだけだからマジで暇だからよ~。酒でも飲まねぇと退屈過ぎてやってらんねぇのよ。てことで、持ってねぇか?」
何故か彼女はベロンベロンに酔っぱらっており、傍らには大量の空の酒瓶が転がっていた。
仕事中にも関わらず飲酒とは、かなり不真面目な人のようだ。
「……………いや、持ってないです」
「んだよ、持ってねーのかよ。使えねーな」
「……………す、すみません」
なんとも自分勝手な言い様である。
「んじゃしゃーね。ならちっと頼まれてくれねえか?」
「?」
「今から金渡すからよ。売店に行って何本か酒買ってきてくれや。それも出来るだけ度数高めのやつがいい」
そう、エリアには一つだけ売店があり、そこではホットドッグやポップコーン、ジュースといった軽食は勿論のこと、マスコットキャラクターのグッズやパンフレット。果てはアルコール飲料まで置いてあるという完璧な品揃えなのだ。
場所は遊園地の入場口から向かって右側にあり、もし買いに行く場合はコンサート会場を一回通りすぎなければならない。
「……………いや、今はそんな事をしてる場合じゃない」
「えー、そんな冷たい事言わずに頼むよー」
「……………俺はミッションがあって」
「そんな事言わずに頼むよー(ガシッ)」
「……………ミッションがあって」
「頼むよー(グググ)」
「……………ミッション」
「おい」
ギチギチギチ……!
「このままハンターに取っ捕まるよりも怖い目に遭いてえのかテメエ……(ギロリ)」
「……………っ、っ!?(バタバタ) は、はい……、行っで……ぎまずぅ……!」
「おーそーか! 行ってくれるか! ありがとな!」
「……………ゲホッ、ゴホッ」
女性警備員に懇願(物理的に)され、お使いを引き受ける事にしたムッツリーニ。
しかし、何故無関係な彼女がハンターの存在を知っていたのだろうか?
「ほい、これで頼むな。アタシはこの迷子センターにずっといるから」
「……………(コクリ)」
「んじゃ頼んだぜ坊主! さーて、それまでやることねぇし一眠りすっか……」
椅子にもたれかかるように腰掛け、あっという間に眠りについてしまった。
最早警備員としての仕事すらやるつもりも無いようだ。
「……………」
そんな彼女の姿を見て、彼はポツリと呟いた。
「……………同志も、苦労が絶えないな……」
―――side 明久
「ついた!」
「あそこがコンサート会場ね!」
なんとかハンターに見つかることなく、目的地のコンサート会場まで来ることが出来た。
「吉井君! 無事で良かった!」
「あ、久保君! それに木下さん達も! 皆こそ無事だったんだね!」
「ええ、なんとかね」
「……うん」
仲間との再開を喜ぶ明久。
だがそんな事をしている場合ではない。ミッション終了まで、あと僅かだ。
「ねえ吉井君。島田さん。どこかで大悟を見なかったかしら? ずっと探してるのよ」
「「…………さ、さぁ?」」
「あら、見てないの。全くどこに行ったのよアイツ。電話も全然出ないし……」
木下優子の質問に気まずそうに目をそらす明久と美波。
ライブが見れないことにいじけたので面倒だから置き去りにしてきた、とはさすがに言えないようだ。
「そ、そんな事よりアキ。早くミッションに行かなきゃ」
「ああそっか。指紋認証装置は……」
「いや、残念だがそれは不可能だ。あそこの入り口の警備員が邪魔をして入れないようになっていてね」
「え!? 警備員が入れてくれないって、どうして!?」
「それがその理由すら頑なに教えてくれないんだ。だから僕達もどうしていいか分からないんだ……」
「えぇ……」
「いやいや、そんなのおかしいわよ! それじゃあどうやったってミッションなんてクリア出来ないじゃないの!」
「落ち着くんだ島田さん。君の気持ちは十分にわかっている」
状況の理不尽さに声を荒げる島田を久保が諌める。
ミッションクリアの為には、指紋認証装置を使いハンターボックスをロックしなければならない。
しかし、現在警備員が入り口を厳重に固めているため通行は不可能。これではいたずらに時間ばかりが過ぎ、やがてハンター10体が解き放たれてしまう。
ミッション終了まで……残り1分。
「どうしよう、もう時間がない……そうだ! 木下さん! もう一度エス○リボルグを貸してくれないかな?」
「え? いや、この状況で何に使うのよ吉井君」
「そりゃあもちろん力ずくで通るんだよ」
「いや無理に決まってるでしょ。なにバカなこと言ってるのよ」
「大丈夫! キチンと死なない程度におさえて殴るから!」
そういう問題ではない。
(けどどうする……。島田さんの言う通りこれでは確実にハンター放出は免れない。ヒントでもあればいいんだが……さっきのメールにもそれらしき文面は無かったな。……いや、もしかしてもう既に、僕らが見落としているであろうヒントがどこかにあったりするのか……?)
顎に手を当てて考え始める久保。
すると、
「あ! あそこだよ! コンサート会場!」
「「「ん?」」」
遠くの方から誰かのそんな声が聞こえた。
見ると工藤愛子が一人の女性を連れてこちらに向かってきていた。
「工藤さん! 無事で―――って、その人は?」
「ごめんね! 話は後でっ!」
「あのー、ごめんなさーい! 遅れましたー!」
『あ! LINAさん! 良かった! 間も無く本番が始まりますので急いでください!』
「はーい!」
すると、今まで頑なに退かなかった警備員がすんなりと道を開けた。そこを通りすぎる工藤愛子と彼女に手を引かれているLINAと呼ばれた女性。
それを見て他の逃走メンバーは驚きを見せた。
「えっなんで!? なんで工藤さんは通れるの!?」
「というかLINAって、あの超大人気アニソン歌手の!? なんでそんな大物が愛子と一緒にいるのよ!?」
「……そういえば、さっきアニソンのライブがどうとか言ってた」
「……なるほど。つまりさっき工藤さんと一緒にいたあの人がミッション攻略に必要だったんだね。まあいい、とにかく通れたのなら何でも構わない、工藤さん! 急いで指紋認証装置を!」
「オッケー! 任せといてよ!」
コンサート会場に入り、中を見回す工藤。
「ええと……指紋認証装置は……。あっ! アレだね……ってうわっ! ホントにハンターが10体も入ってるよ……」
その視線の先には、二つの指紋認証装置と巨大な檻の中に仁王立ちで立っている10体のハンター。
その一切人間味を感じさせない雰囲気は見ているだけで恐怖がある。
「これが全部放出されるところだったんだね。そんなの考えたくもないなぁ」
そう言いながら工藤は指紋認証装置に近づく。
そこには電光掲示板に『指紋ヲ認証セヨ』の文字と共に二人の人物名が記されていた。
『LINA』
『水樹カヤ』
「なるほどね。この二人の指紋が必要ってコト。でも水樹カヤって誰だろ……? まあいいや、LINAさん。ちょっとここに手を置いてもらっていいですか?」
「手を置く? うん、いいけどこれ何?」
「まあまあ。いいカラいいカラ♪」
「?」
不思議がりながらも装置に手を置くLINA。
するとピーッピーッという読み取り音が流れ、
『指紋認証成功』
『ハンターボックス OFF』
「やった!」
装置にLINAの指紋を認証させたことにより、ハンターボックスの鍵が一つロックされた。
これで残す認証装置はあと一つ。ミッション成功か!? それともハンター放出か!?
最後の年内投稿はずっと止まっていた逃走中編でした。お待たせして申し訳ありません。なんとかこっちの方も少しずつ進行させていけるよう頑張ります。
それではこのあたりで。2022年もよろしくお願いします。
原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?
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入れろ、絶対に
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別に入れなくてもいいよ