バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 政治・経済  

日本国憲法第76条『裁判官の職権の独立』について、以下の(  )に正しい語句を記入しなさい。
『すべての裁判官は、その(    )に従ひ(    )してその(    )を行ひ、この(    )及び(    )にのみ拘束される』


姫路瑞希の答え
『すべての裁判官は、その( 良心 )に従ひ( 独立 )してその( 職権 )を行ひ、この( 憲法 )及び( 法律 )にのみ拘束される』

教師のコメント 
大変よくできました。これは日本国憲法における重要な条文の一つですね。裁判官の権限の行使にあたっては、政治的権力や裁判所の上級者からの指示には拘束されないことが憲法上保障され、それによって独立して職務を執行できるということです。この内容には裁判官の身分保障なども含まれていますね。豆知識として覚えておくとよいでしょう。


岡崎大悟の答え
『すべての裁判官は、その( 良心 )に従ひ( 独立 )してその( 職権 )を行ひ、この( 憲法 )及び( 法律 )にのみ拘束される』

教師のコメント
岡崎君は社会科目においては完璧ですね。その調子で他の教科も頑張ってくれると嬉しいです。


吉井明久の答え 
『すべての裁判官は、その( ピー )に従ひ( ピー )してその( ピー )を行ひ、この( ピー )及び( ピー )にのみ拘束される』

教師のコメント
憲法第76条が大変なことに。


土屋康太の答え
『すべての裁判官は、その( 本能 )に従ひ( 脱衣 )してその( 全裸体操 )を行ひ、この( 現行犯により警察の手が )及び( 手錠 )にのみ拘束される』

教師のコメント
全ての裁判官の皆様に対して誠意のある謝罪文を要求します。




第六十四問 吉井玲登場

 ―――side大悟

 

「何があるんだろうな」

「ムッツリーニや大悟と違って明久は滅多に隠し事をせんからな。何があるのか楽しみじゃな」

「……………隠し事なんて何もない」  

「ちょっと待ってくれ。俺もか?」

「当たり前だろ」

「大悟は昔から秘密主義な所もあるからの」

「そんな……」

 

 明久の家に向かう道中。明久を除く面子はペチャクチャと楽しそうに会話をしながら歩いていた。

 ちょっと待ってくれ。同志はともかくどうして俺まで秀吉にそういう風に見られているのだ。非常に納得がいかないぞ。確かに色々と世間様に堂々と公表出来るようなアレやコレやソレなどの代物はいくつか持ってはいるがそれだけだ。俺はダチに対しては清廉潔白だと言うのに……!

 しかもまさか、それを長年の付き合いがある秀吉から言われたのが更にダメージに上乗せしてくる。

 

「そんな……酷いぞ相棒。お前が俺をそんな風に思っていただなんて……見損なった!」

「……………同志を泣かせるのは許さない……っ!」

「な、何故じゃ! 何故ワシが責められておるのじゃ!?」

「気にするな秀吉。バカの戯れ言だ」

「むぅ……」

 

 その場に体育座りをして俺はシクシク泣き出す。クソォ! 雄二はともかく秀吉だけは俺の事を信用してくれていると思っていたのに、こんな仕打ちはあんまりじゃねえか! おお神よ! 俺が一体何をしたというのですか……。

 すると流石に言い過ぎだと思ったのか、秀吉が申し訳なさそうな表情で俺の肩にポンと手をやる。

 

「わ、悪かったのじゃ……だからそう泣くでない」

「なら責任とって俺の嫁になれ!」

「何故そうなるのじゃ!? そもそも嫁ではなく婿の間違いじゃろう!」

「それも違うと思うが」

「嫌だ嫌だ! 俺は秀吉が嫁になって○○○して●●●からの□□□□してフィニッシュは△△△△△してくれると言うまで絶対にここを動かないんだよぉぉおお!!」

「!? ○○○して●●●……っ!(ブッシャァァアア)」

「道の真ん中で何を言っておるのじゃお主は! ―――ってどさくさに紛れてワシに抱きつくでないわー!!」

「うおおおおおおおーーっ!!」

「おーいお前ら。茶番は早く終わせろよー」

 

 

 閑話休題。

 

 

「でも、何でしょうね? 明久君がそこまで隠すものって」

「何かしらね。あれだけ合宿でやらかしているのに、今更いやらしいものなんて隠したがるとも思えないし」

 

 話は再び明久が何を隠しているのか、という話題になる。

 俺達は一度覗き騒ぎを起こしてるからな。島田がそう思うのも無理はない。

 

「そうじゃな……。急に手作りの弁当を持ってきたこと、Yシャツにはアイロンがかかっておったことなども合わせて考えると……」

「考えると?」

「女でも出来たか」

 

 それはねえな。

 

「「……………っ!?」」

 

 が、女子の二人は分かりやすく驚いていた。

 

「あ、アキッ! どういうこと!? 説明しなさい!」

「む、むぅ……。明久に伴侶か」

「……………裏切りもの……っ!」

「僕、何も言ってないんだけど……」

 

 島田、秀吉、同志の三人がそれぞれ三者三様のリアクションを見せる。それに対し明久は呆れた表情をして言葉を返した。

 まあ明久に女、ましてや彼女なんて天地がひっくり返ってもあり得ない事だがもし仮にそれが事実であったとしよう。そうなると……、

 

 

 明久に女がいる。

   ↓

 だがブサイクな明久に彼女が出来るワケはない。

   ↓

 となると何かしら強引な方法を用いたに違いない。

   ↓

  違法性アリ

   ↓

 ①弱味を握って脅迫

 ②力ずくで無理矢理

 ③クスリで弱らせて

 ④催眠術

 

 

「明久。その方法は全部犯罪だぞ」

「何が!?」

 

 やれやれ、いくら女に縁がないからって流石に犯罪行為にまで手を染めるのはいかがなものかと思うぞ。俺は。

 なんて思っていると、後ろから姫路が優しい口調で言った。

 

「大丈夫ですよ。明久君が私達に隠れてお付き合いなんて、そんなことをするはずがありませんよ。そうですよね。明久君……

「あの、目が笑ってませんけど……」

 

 姫路のヤンデレ度が1上がった。

 もうコイツらそのままくっついちまえばいいのに。

 

 

 

 

   

 

 

 

    ☆

 

 そうこうしているうちに明久のマンションに到着した。

 

「ほら明久。鍵を開けろ」

「イ……イヤだ」

 

 まだ抵抗する気かコイツ。往生際の悪いヤツめ。

 仕方ない。ここは例の秘密兵器を、と思っていたら雄二が言った。

 

「明久。裸Yシャツの苦しみ、味わってみるか?」

「……………涙目で上目遣いだとありがたい」

「あ、なら靴下は履いたままで頼む」

「ムッツリーニ! ポーズの指定を出して何する気!? 大悟も意気揚々とスケッチブックを取り出して何する気!? 売るの!? 僕の純情を売る気なの!?」

「お前は一部のマニア達から結構な需要があるからな。出せば確実に儲かる」

「聞きたくないよそんな同人誌界隈の情報なんて!」

 

 ちなみにそのマニアの内の一人はすぐ隣にいるぞ。

 

「土屋君、岡崎君。できればYシャツのボタンの上二つは開けておいてもらえるとありがたいです」

「「了解」」

「姫路さんもオーダー細かいよ!? わかったよ! 開けるよ! 開ければいいんでしょ!」

「「ボタンを?」」

「鍵を!」 

「「「えー」」」

「そこのバカ三人! 露骨に不満げな顔をするな!」

 

 折角次のイベントで売ろうと思ってたのに、実に残念だ。

 そしてとうとう抵抗は無駄だと思い観念したのか、明久は家の鍵を開けた。

 

「それじゃ、あがってよ」

 

 何かを確認していたっぽい明久がそう言って俺達を招き入れ、リビングへと繋がるドアを開け放った。

 さてさて、2000本のエロゲーはどこにあるのかなと心の中でワクワクしていると、

 

「「「……………」」」

 

 

 

 目の前には、室内に干された女物の下着があった。

 

 

「いきなりフォローできない証拠がぁーっ!?」

 

 明久が慌ててその下着を取って別の部屋にブチ込んだ。しかし時すでに遅し。その光景は俺を含む全員が見ていたワケで。

 

「これ以上ないくらいの物的証拠ね……」

「そ、そうじゃな……」

「……………殺したいほど、妬ましい……!!」

 

 最早この状況で言い逃れは無理だろう。

 さようなら明久。お前のことは出来るだけ忘れないようにす―――

 

「ダメじゃないですか、明久君」

「え?」

 

 ―――ん?

 

「あのブラ、明久君にはサイズが合っていませんよ?」

「「「コイツ認めない気だ!」」」

 

 姫路が若干の濁った目で、明久にそう訴えかける。

 明久の近くに他の女性がいるという現実を受け入れたくないのだろう。姫路よ……お前はこの短期間でどれだけヤンデレとしてレベルアップしていくつもりなんだ。

 

「あら? これは―――」

 

 すると姫路の視線が違う方に移る。その先にはリビングの卓上に置いてある正方形の物体だった。

 

「なんだこりゃ?」

「これは化粧用のコットンパフじゃな」

 

 へー、そうなのか。でも化粧用ってことは女性が―――

 

 

「いいえ。それはハンペンです」

「「「ハンペェン!?」」」

 

 

 いや絶対に違うだろ―――というツッコミを入れたいがあの天災的な料理の腕と知識を持つ姫路ならハンペンと化粧品を間違えてもおかしくない。 

 やっぱり姫路は普通の人間とは次元が違うようだ。てかエロゲは? エロゲどこ?

 

「……………! これは……」

「なんだ? ムッツリーニ」

 

 今度は同志がキッチンで何かを見つけたようだ。見に行ってみるとそこにあったのは―――やけにヘルシーな中身をした弁当だった。

 姫路がそれに気づいて視線をやると、突然その場にヘタリと座り込んでしまう。

 

「しくしくしく……」

「ぅえぇっ!? どうして急に泣き出すの!?」

「もう、否定し切れません……」

「ちょっと待って! どうして女物の下着も化粧品もセーフなのにお弁当でアウトになるの!?」

 

 キャパオーバーなんだろ。

 

「はぁ……。もうこうなったら仕方がないよね……。正直に言うよ」

 

 泣いている姫路を見てもう隠し通すのはやめようと思ったのか、明久が観念して真実を話し始めた。

 

「実は今、姉さんが帰ってきているんだ……」

「姉さん? お前、姉貴がいたのか」

「ああ、そういや姉がいるって言ってたなお前」

「うん。まぁね……けどその姉さんというのが、ちょっとアレな人で……色々減点とかもされるし……」

 

 曰く、その人は恐ろしいほど常識が欠落しているらしい。なので一緒にいるのがとんでもなく苦痛で、何とかその姉と一緒にいなくていいように俺や雄二の家に泊まろうとしていたんだと。

 

「あ、アキが非常識って言うなんて、どれだけ……?」

「むぅ……。恐ろしくはあるが、気になるのう……」

「……………是非会ってみたい」

「そうですね。会ってみたいです」

 

 明久にここまで言わしめるほどの存在に、他の連中は次々と興味を持ち始める。……だが身内に関する事となると……ちょっと変わってくるな。

 

「あー……、なんだ。お前ら、そういう下世話な興味は良くないぞ。誰にだって、隠しておきたい姉とか()()とか、そんなもんがいるモンなんだから」

「雄二の言う通りだ。身内の恥ってのは他人が思ってる以上に当人にとっちゃ恥ずかしいものであることが大抵だ。だからこそ何よりも秘密にしておきたいんだよ」

 

 雄二と俺で助け船を出してやる。うんうん、やはり同じ傷を持つもの同士は助け合わなくてはな。

 けどなんで雄二まで助け船を出したんだろうか? コイツにもそういった身内がいるのか?

 

「ゆ、雄二……! 大悟……! ありがと―――」

 

 ガチャ

 

 

 

『あら……? 姉さんが買い物に行っている間に帰って来ていたのですね、アキくん』

 

 

 

 ……今までの流れブチ壊しじゃねえか。

   

 

 

 

 

   

 

 

 

 ―――side明久。

 

 

 ……………え? 何このタイミング?

 

「うわわわわっ! か、帰ってきた! 皆、一刻も早く避難を―――」

「明久君のお姉さんですか……? ど、ドキドキします……」

「う、ウチ、きちんと挨拶出来るかな……?」

「ダメだ! 会う気満々だ!」

  

 皆がリビングの扉を見つめている中、僕はひたすら天に祈りを捧げる。

 頼む、姉さん……! 常識的な挨拶をして欲しいなんて贅沢は言わない……! だからせめて、せめてまともな服装を……!

 

 緊張の一瞬の後、扉が開かれた。

 

「あら。お客様ですか。ようこそいらっしゃいました。狭い家ですが、ゆっくりしていって下さいね」

 

 姉さんの格好は七分丈のパンツに半袖のカッターシャツ、その上に薄手のベストというごく普通なものだった。

 普通の格好に普通の挨拶。ごくごく一般的で常識的な姉さんの振る舞いを見て、拍子抜けしたような表情をしつつ雄二達は挨拶を返した。

 

「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私は吉井玲といいます。皆さん、こんな出来の悪い弟と仲良くしてくれて、どうもありがとうございます」

 

 か、完璧だ……! どこからどう見ても普通の姉だ。

 

「ああ、どうも。俺は坂本雄二。明久のクラスメイトです」

「……………土屋康太、です」

「岡崎大悟です」

「はじめまして。雄二くん、康太くん、大悟くん」

 

 三人に笑顔で挨拶を返す姉さん。

 ああ……なんて平和な光景なんだろう……。

 

(……おい明久、ちょっとこっち来い)

(ん?)

 

 大悟が僕に小声で話しかけてきた。

 

(どうしたの? 大悟)

(お前アレのどこが非常識な姉だよ。全然マトモじゃねえか。礼儀正しいし美人でグラマラスで色気もある。もうラブコメの姉キャラに必要な要素ほとんど揃ってやがるじゃねえか。ダイゴブックスの専属コスプレイヤーとしてスカウトしたいくらいだ。それなのに嫌がるとかお前どんだけ身内に求める理想高いんだこの贅沢野郎! ……いや、もしかしてアレか? ああ見えて実は実の弟であるお前を性的な目で見るような特殊性癖の持ち主(ブラコン)だったりするのか……? そういう意味合いでの非常識なのか? だとしたらもうコンプリートだぞ……)  

(や、やだなぁ。流石にそんなワケないじゃないか)

 

 ……多分。

 

(あはは……。でもふ、普通でしょ?)

(ああそうだよ普通だな! だからこそ納得いかねえんだよ! ふざけやがって……アレで非常識だってんならウチの母親は……ウチの母親は一体なんなんだよっ!)

 

 た、確かに凛花さんも本来の姉さんに負けないくらい相当なものだけど……。

 

(いいか明久! 非常識ってのはな! 三十路間近にも関わらず一晩中馬鹿な大学生みたいに呑み歩いて家に帰らず、朝方に近隣住民から酒臭い女がゴミ捨て場で爆睡しているとクレームを入れられ、最終的には警察のご厄介にまでなるようなダメ人間の事を言うんだよ!)

(わかったわかった! 謝るからそれ以上熱くならないで!)

(お前に分かんのか! その度に色んな人に頭を下げ、好奇の視線に晒されてるそのダメ人間を恥ずかしさと情けなさに耐えながら回収しに行かなくてはならない子供の気持ちが……、俺と天の、気持ちが……っ!)

 

 大悟が悲痛な表情で嘆いているのをよそに、姉さんの挨拶は続く。今度は秀吉みたいだ。

 

「ワシは木下秀吉じゃ。よしなに。初対面の者にはよく間違われるのじゃが、ワシは女ではなく―――」

「ええ。男の子ですよね? 秀吉くん」

「……………っっ!!」

 

 秀吉が驚いた顔で姉さんを見上げた。

 

「わ、ワシを一目で男だとわかってくれたのは、主様だけじゃ……!」

 

 なんだかよくわからないけど秀吉が感動している。そんなに男と見抜いて貰えたのが嬉しいのだろうか、なんて思っていると姉さんが秀吉に優しく微笑みながら答えた。

  

「勿論分かりますよ。だって、うちのバカでブサイクで甲斐性なしの弟に、女の子の友達なんてできるわけありませんから」

 

 なんて嫌な確信の仕方なんだ。

 

「ですからこちらの二人も男の子ですよね?」

 

 などと、今度は姫路さんと美波の方に向かって失礼極まりない発言をした。

 

「ちょ、ちょっと姉さん!? 出会い頭になんて失礼なことを言うのさ! 三人ともきちんと女の子だからね!」

「明久! ワシは男で合っとるぞ!?」

「待てコラ明久! 秀吉は女の子なんかじゃねえ! 正真正銘の男の娘だ!」

「それも違う! ええい大悟! ワシは男の娘などではないと何度言えば分かるんじゃお主はぁあーっ!」

「いでででで!? 事実なんだから仕方ねえだろう! 髪を引っ張んな! 髪をーっ!」

「こんな時代遅れの髪型などメチャメチャにしてやるのじゃああーっ!」

「お前ら本当仲良いな」

 

 秀吉と大悟の平和なやり取りはどうでもいいとして、僕は姫路さん達が男の子だとのたまった姉さんの発言に真っ向から反論を呈した。

 すると、そんな姉さんがゆっくりとこちらを向いた。あれ、なんか雰囲気が……。

 

「…………()()()、ですか……? まさかアキくんは、家に女の子を連れてくるようになっていたのですか……?」

「あっ」

 

 ぐぁっ! ま、マズい! 女の子を家に呼んだことが気に入らないみたいだ!

 手を繋ぐだけで不純異性交遊と見なすような厳しい人だ。きっと怒っているに違いない。

 僕はなんとか弁明の為に事情を説明しようとすると、

 

「……そうですか。女の子でしたか。変な事を言ってごめんなさい」

   

 意外にも姉さんは僕を怒るどころか無視し、もう一度頭を下げて姫路さんと美波に謝罪した。

 あ、あれ……? 

 

「どうかしましたか、アキくん?」

「い、いや……。姉さん、怒ってないのかな~、って思って」

「? あなたは何を言っているのです? どうして姉さんが怒る必要があるのですか?」

「え、あ、うん。そうだよね」

 

 な、なんだ。僕の取り越し苦労か……。良かった……。まぁ、女の子とはいえ友達が家に遊びに来るくらいは普通のことだもんね。確かに怒る理由はないよね。

 内心ホッと胸を撫で下ろしていると、姉さんが笑顔のまま僕に告げる。  

 

「ところで、アキくん」

「ん?」

「お客様も大変いらっしゃるようですし、アキくんが楽しみにしていたお医者さんごっこは明日でもいいですよね?」

「「!?」」

 

 ああそうか……。この人、きっと僕を自殺に追い込む気なんだ。

 

「ね、姉さん何言ってんの!? まるで僕が日常的に実の姉とお医者さんごっこを嗜んでいるかのような物言いはやめてよ! 僕は姉さんとそんなことをする気はサラサラないからね!?」

「あ、明久君……。お姉さんとお医者さんごっこって……」

「アキ……。血の繋がった、実のお姉さんが相手って、法律違反なのよ……?」

「いやぁぁあっ! やっぱり誤解されてるぅううっ!」

 

 おのれ姉さん! 直接暴力に訴えるならまだしも、周りにコイツはアブノーマルな変態だと思わせる事で僕を精神的に追い込むなんて陰湿かつ残酷なやり口なんだ!

 もう姉さんにこれ以上余計なことを言わせないようにしなくては!

 

「姉さん! お説教なら後からいくらでも受けるから、さっきの台詞を訂正してよ!」

「それよりアキくん。昨日渡していた姉さんのナース服はどこにありますか?」

「このタイミングでそんなことを聞くなぁーっ!!」

「それと、不純異性交遊の現行犯として減点を150ほど追加します」

「150!? 多すぎるよ! まだ何もしていないのに!」

「……『まだ』? ……200に変更します」

「姉さんのバカぁーっ!」

 

 もう挽回が出来ないような点数になってるんだけど!

 

「……明久。お前も苦労してたんだな……」

「なんか……贅沢野郎とか好き勝手言って、すまん。……さっきの全部訂正するわ」

「……雄二、大悟……」

 

 僕は生まれて初めて、この二人に心の底から癒された気分になった。

 

「……不純な同性の交遊ですか……。それなら許しましょう」

「そんなんじゃないからね!?」

「10点プラスしてあげますね」

「嬉しくないからぁああーっ!」

「「……明久。お前……」」

「やめて! 二人ともそんなドン引きするような目で僕を見ないで!」

 

 やっぱり、姉さんの思考は難解過ぎて理解出来ない。

 

 

 閑話休題

 

 

「ごめんなさい。話が逸れてしまいましたね。お二人のお名前を伺っても宜しいですか?」

 

 姫路さんと美波に詫びつつ、名前を尋ねる姉さん。

 

「あ、はい。私は姫路瑞希といいます。明久君のクラスメイトです」

「ウチは島田美波です。アキとは―――」

 

 チラッ

 

「?」

「―――友達、です」

 

 どうして一瞬言葉を区切ったのだろう。もしかしてクラス替えの時の挨拶みたいにサンドバッグなんて言う気だったりとか?

 

「瑞希さんに美波さんね。はじめまして」

 

 終始笑顔で対応する姉さん。 

 やれやれ。こういうところはまともだから、逆におかしな言動がより信憑性を高めてしまう。本当に悩みの種だ。

 

 そんな姉さんの手には、アサリやベーコンなどの食材がたくさん入った袋が提げられている。聞くと夕飯の買い物に行っていたらしい。

 けれどそれにしては随分と量が多い。一家庭分にしてもまだ余るくらいだ。とても夕飯だけで二人で食べきれるような量じゃない。その事を姉さんに指摘すると、

 

「いいえ。その量で合っています」

 

 と、少し不機嫌そうに口を尖らせて反論をしてきた。姉さんにしては珍しいリアクションだ。

 さては、料理が苦手なくせに慣れない夕飯の買い物なんてしてきたもんだから、分量を間違えたな? 図星を指されて不機嫌になるなんて、あまり姉さんらしくないけど。

 

「折角皆さんがいらっしゃったことですし、お夕食を一緒にいかがでしょうか? 大したもてなしはできませんが」

 

 まるで最初からそのつもりだったと言わんばかりに皆を夕食に誘う姉さん。どうあっても分量を間違えたことを認めたくないらしい。

 

「それじゃ、ありがたく好意に甘えさせてもらうとするかな」

「せっかく食材まで揃えて頂いたんだ。その心遣いには感謝こそすれど無下には出来ない。てことで俺もお願いします」

「……………御馳走になる」

「迷惑でなければワシも是非相伴させて頂きたい」

「ウチも御馳走になろうかな」

「じゃ、じゃあ、私も……」

 

「それは良かったです」

 

 全員が首を縦に振って姉さんの提案に賛成の意を示す。今日は大人数での夕飯が決定した。

 姉さんから材料の入った袋を受け取る。

 

「ではアキくん。お願いしますね」

「うん。了解」

「え? アキが作るの?」

「うん。そうだけど」

 

 そう言うと、姫路さんと美波が驚きを見せた。なんでそこまで驚くんだろう。

 

「そう不自然なことでもないだろう? 俺だって料理くらい作るしな」

「……………紳士の嗜み」

「前にも言ったが料理上手はお兄ちゃん主人公としての基本ステータスだ。会得していて当然だろう」

「わ、ワシは、その……あまり得意では……」

 

 雄二と大悟とムッツリーニの腕前は披露済みだから、それについては驚いていないみたいだ。

 

「大悟とムッツリーニはともかく、雄二はやっぱり家で夕飯作って覚えたタイプでしょ」

「おう。その通りだが……やっぱりってのはどうしてだ?」

「あはは。だって、雄二は家の中で一番地位が低そうだもん。大悟もそうかも知れないけど」

「? お前は何を言っているんだ?」

 

 雄二が僕の発言に疑問を投げ掛けてきた。

 何を言っているんだ、なんてそんなの決まっているじゃないか。

 

 

「―――夕飯って、家の中で一番立場の弱い人が作るもんなんでしょ?」

 

「「「「……………」」」」

 

 

 何故か皆から可哀想なものを見る目で見られた。

 

「母の方針で、我が家ではそういうことになっています」

 

「そ、そうなんですか……」

「アキのお母さんって、なんかパワフルな人っぽいわね……」

「普通は立場に関係なく、作れる人が作るもんなのじゃがな……」 

「え!? 普通の家では違うの!? おのれ母さん! よくも今までずっと僕を騙し続けてくれたな!?」

 

 皆から指摘を受けて、母さんに言われていた事が世間一般と大きくずれていることに気づく。

 おのれ……そんな嘘を物心つく前から吹き込んでまで息子を雑用係に仕立てあげるなんて、あの人は母親として僕のことを一体何だと思っているのだろうか。

 やり方がやり方なだけに、ある意味姉さんよりも質が悪い気がする。

 

「―――明久。お前のその気持ち、分かるぜ……痛いほどな」 

「ああ―――全くその通りだ」

「……うん。ありがとう……二人とも」

 

 そんな僕に大悟と雄二が同情してくれた。

 母親に難を持つ者同士。今だけはこの二人の存在が本当にありがたく感じる。

 

「んじゃ、先に夕飯の支度から始めるか。明久、手伝うぞ」

「俺にもさせてくれ。大人数で押し掛けたんだからそれぐらいはしねえとな」

「……………協力する」

「あ、うん。ありがと三人とも」

「あのっ、それなら私も」

 

「「!!?」」

 

 !!?

 

「いや、コッチは僕達だけで大丈夫だよ」

「え、でも……」

「姉さん、その間姫路さん達を相手してあげて」

「はい。分かりました。よろしければアルバムでも見ますか?」

「え、いいんですか?」

「はい。恥ずかしい写真を」

「それはやめて!」

 

 よし! なんとか危機は回避したぞ! ちょっとアルバムの件は気になるところだが、今はコッチの方が大事だ。

 

(((明久グッジョブ!)))

 

 三人が僕によくやったと目配せする。あ、危なかった……。

 ちょっと強引なやり方で姫路さんには悪いけど、これも皆に安全な夕飯を提供する為だからね。

 

 

「流石に……、ハンペンと化粧品を間違えられたら……な……」

 

 

 全くだ。

 




少しでも早く前ぐらいまでの投稿ペースに戻さないとなぁ……。


感想、意見などありましたらお待ちしています。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
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