バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

83 / 90
バカテスト 英語
次の単語を英訳しなさい。
『スペイン語』

姫路瑞希の答え
『Spanish』

教師のコメント
基礎英単語の一つですね。たまに頭文字のSが大文字になるのを忘れてしまう人がいます。そのようなケアレスミスには十分に注意しましょう。  

土屋康太の答え
『Speines―――』

教師のコメント
“Japanese”と同じような形で“Spainese”とでも書きたかったのでしょうか。残念ながら間違いです。

吉井明久の答え
『Spaget―――』

教師のコメント
どう解釈してもスパゲティと書こうとしたようにしか見えません。

岡崎大悟の答え
『spirytus』

教師のコメント
それはポーランド原産のウオッカの一種(※アルコール度数96%)です。危険ですので絶対に面白半分で口にしないように。



二年生VS三年生 肝試し編
第七十二問 灼熱の攻防


 

 

 ―――side 大悟

 

 夏―――それは俺達学生にとって待望の時期だ。

 なぜならそう、夏休みがある。一ヶ月半という長期期間学校に行く必要がなく、それぞれ自由に生活することが出来る学生にだけ許された最大最強の特権。この期間を利用して多くの学生達は様々な場所に足を踏み入れ、己の身で体感し、それらを思い出として記憶に残すのだ。

 彼女を作って海や山に出掛けたり、上の代が引退し、新生チームとなった部活動に一生懸命精を出したり、また敢えてどこにも出掛けず、エアコンの効いた部屋でゴロゴロしながらアイスを喰う。そんな多種多様のエンジョイの仕方―――それが夏休みの醍醐味であり、魅力だと思っている。

 

 

 そう。夏休みや学生にとっての天国であり、決して他者が犯してはならないものな筈なんだ。なのに―――

 

 

 

『―――ここで元の高さをhとした時、位置エネルギーが全て運動エネルギーに変換されたとすると、この時の速度vは重力加速度gと高さhにのみ依存する式となり―――』

 

 (……………!!!)

 (大悟。歯軋りがうるさいぞ)

 

 

 

 ―――どういうワケか俺達は、暑苦しい教室で鉄人の補修を受けていた。

 

 (フザけやがって……折角の夏休みだってのにやってられっかよこんなモン……!!)

 (仕方なかろう。ワシらFクラスは学力の面で他のクラスよりも圧倒的に遅れておる。だからこうして補修でもしないと釣り合いが取れんのじゃろうな)

 (だからって朝から夕方までみっちりってのは厳しすぎんだろうが! これじゃ普段と何も変わらねぇよ! うう、こんな不幸な俺をどうか助けてくれめるたぁあああん……)

 

 苛立ちと悲しみで思わず卓袱台を叩き壊しそうになるが、なんとかこらえる。

 ただでさえエアコンどころか扇風機すらない劣悪な教室なのに、現在やっている内容が俺の大嫌いな物理科目。そしてとどめに補修をやっているのが暑苦しいほどの筋肉モリモリマッチョマン、西村教諭だ。

 ここまで勉強に取り組む上で不向きな環境はないだろう。身体はともかく、精神的な方面がゲロを吐くレベルでキツすぎる。

 

 もうダメだ、そう思い俺は秀吉に耳打ちする。

 

 (もう限界だ……やるぞ相棒)

 (やる? 何をじゃ?)

 (決まってんだろ―――脱獄だよ。この最低最悪のクソゴミアルカトラズからな)

 

 鉄人に気づかれないよう、俺は声を最小限に抑えて秀吉にそう告げた。秀吉はそんな俺の発言に顔をしかめて答える。

 

 (本気か大悟よ。もしバレたら鉄拳制裁じゃ済まないかもしれんのじゃぞ)

 (んなことは百も承知だ。だかもうこんな地獄を味わされる方がよっぽどうんざりだ。いくら俺達が最底辺のクラスだって、夏休みという学生にとって数少ない貴重な時間までごっそり奪われていいはずがねえ。秀吉だってそう思うだろ?)

 (それは……確かにそうじゃが)

 (なんと言われようがやるぞ。このまま泣き寝入りなんざゴメンだ)

 

 出来るか出来ないかじゃない、やるかやらないかなのだ。

 失敗を恐れない強い心を持って行動した者だけが、新たな境地を切り開くことが出来るのである。全国の若人よ、今の俺の言葉、胸に一生刻んでおけ!

 

 (まあ、無理にとは言わねえが……どうする)

 (……そこまで言うのならわかった。ワシもお主に付き合おうではないか。旅は道連れ世は情け、さすがにこの暑さにはワシも耐えきれんと思っていたところじゃ)

 (さすが相棒。そういうところ好きだぜ。さてあとは―――おい、聞こえるか同志)

 (……………?)

 

 俺は近くの席に座る同志に声をかけた。

 

 (……………何だ)

 (手短に言う。逃げるぞ、準備しろ)

 (……………本気か?)

 (おうよ)

 (……………時を知らせろ)

 

 そう言って互いに小さくサムズアップを交わす。

 多くを語らずとも気持ちは一つで繋がっている。さすがは我が同好の志だ。

 

 (しかし大悟よ、どうやって抜け出すつもりじゃ? 鉄人の目を掻い潜るのは至難の技じゃと思うが) 

 (それについては大丈夫だ。秀吉、ほれ)

 (む?)

 

 

 (じゃあ雄二、この人数なら全員で一斉に逃げるって作戦でどうかな)

 (人海戦術か。単純だが、確実な作戦だな……。よし、乗った)

 (みんなもそれでいいよね? 誰が捕まっても恨みっこなしってことで。問題がなければ小さく頷いてもらえる?)

 (((了解)))

 

 

 そんな会話が聞こえてくる。

 どうやら明久と雄二、そしてクラスメートの野郎共も俺達同様にここからの脱出を謀っているようだ。そして作戦はさっき雄二が言った通りに人海戦術。全員で一斉に脱出することで鉄人の意識を個々ではなく全体に集中させ、一人ひとりが捕まる確率を極力少なくしようという魂胆らしい。多少大雑把な作戦だが、今の状況ならそれが最適だろう。

 

 (ヤツらに乗じて俺達三人も逃げるんだ。さすがの鉄人でも、四十九人もの人間を捕獲するのは物理的に不可能だからな)

 (……今さらじゃが、このクラスは良くも悪くも結束力だけはピカイチなんじゃのう)

 

 それが我がFクラスの売りだからな。しゃあない。

 

 (聞いてたな同志、鉄人が背を向けた瞬間が合図だ)

 (……………心得た)

 

 同志に脱出のタイミングを伝え、俺は鉄人の様子を伺う。

 ヤツは今俺達の方を向いて教科書の内容を読んでいる。下手に動けば即死だ。勝負は一瞬、抜かるなよ……!

 

 

『―――つまり、物体の落下速度というものはその物体の質量に依存しないということになる。だが、理論とは違って現実には空気抵抗というものがある』

『『『……………』』』

 

『綿毛と鉄球が同様の速度で落下しないのはこの空気抵抗によるものが大きく、式に表すと―――』

 

 スッ

 

 ! 鉄人が背を向けたぞ! 今だ!!

 

 (行くぞ同志! 秀よ―――)

 

 

 

 「全員動くなぁっ!」

 

「「「―――っ!!?」」」

 

 

 腰を上げた瞬間、いつもより更にドスの聞いた鉄人の声が教室を支配する。

 思わずそのままの姿勢で動きが止まった。

 

「貴様ら……。脱走とはいい度胸だな。そんなに俺の授業は退屈か?」

 

 背を向いたままの鉄人に図星を突かれ、俺含む野郎共は生唾を飲み込む。

 そんなバカな……コッチの行動が読まれていただと!? ヤツに感づかれるような兆候やヘマはなかった筈なのに! クソッタレ! ヤツは見聞色の覇気の使い手か何かか!?

 まずい、これじゃあ逃げるどころの話じゃないぞ。ここからどう弁明するか、そう考えていると、

 

「そうか。お前らがそこまで退屈してるとは気がつかなかった。これはつまらない授業をしてしまった俺の落ち度だな」

 

 意外にも、鉄人はそんな返しをしてきた。

 なんだ、怒ってねぇのか? てっきりブン殴られんのかと思ったが。

 

「その詫びとして、俺から一つ面白い話をプレゼントしてやろう」

「お、面白い話?」

「ああ……。だが姫路、島田、木下は耳を塞げ」

 

 そう言われ、不思議に思いながらも耳を塞ぐ三人。

 なんだ、女共には聞かせられねえ話……猥談でもするつもりか? いやいや、あの筋肉にステータスを全振りし、性に一切興味がなさそうなリアルゴリラーマン男にに限ってそんなドスケベトークなんか出来るワケが―――

 

「そう。あれは、十年以上前の夏―――」

 

 

 

「―――俺がブラジルの留学生とレスリングをやっていたときのことだ」

『『『「うぎゃぁああああああああああーーーーーっ!!!」』』』

 

 

 

 ―――俺は恐怖のあまり絶叫した。

 だが、鉄人は構わず話を続ける。

 

「相手は身長195センチ、体重120キロの巨漢、ジョルジーニョ・グラシェーロ。腕の太さが女性のウエストくらいはありそうな男だった。だが、俺とて負けはしない。188センチ、97キロの鍛えに鍛えた肉体でヤツと正面からぶつかり合い―――」

 

「グォオオオオオアアアアッッッ!!? クソがぁアア!! 頭が!! 頭が割れるように痛ぇぇエエエ!!!」

 

 最悪だ!! 脳内の奥底にまでその光景、ヴィジョンが鮮明に浮かび上がる!! 

 ―――若かりし頃の鉄人。

 ―――爽やかな笑顔を浮かべるブラジル人のマッチョ。

 ―――そして、相対する二体のマッチョが試合開始の合図と共に取っ組み合い、ネットリジットリと見つめ合い、己の肉体をさらけ出し、汗という名の体液を撒き散らし、ゼロ距離で密に絡み合う。

 

 ……そんな、鬼でさえも裸足で泣いて逃げだすであろう、地獄絵図が。

 

 

 

「うがァァああーーーーーっ!!! 消えろ!! 消えろ!! 消え失せろ!! 今すぐ俺の頭から跡形もなく出ていきやがりゃァァああーーーーーっ!!! ゴアごアゴあごあゴアごアゴアごアゴォォォォォオオオオア!!! スクリィィィィイイイミングショォォオオオオウ!!!!」

 

 ドゴンドゴンドゴンドゴン!!

 

『ま、まずい!! 兄貴が発狂しながら床に向かって頭を乱打し始めたぞ!!』

『やめろ鉄人!! やめてくれぇーっ!! このままじゃ兄貴がおかしくなって死んじまうよぉおおーっ!!』

『脳が、脳が痛ぇよっ!!』

『ママァーッ!!』

 

「―――しかし、ヤツはレスリングと柔道を勘違いしていた。腕ひしぎを仕掛けてきたんだ。だがこの俺の自慢の上腕二頭筋には勝てるわけもない。汗にまみれ、血管を浮き上がらせながらも俺は腕を伸ばしきることなく抵抗し続けた。すると向こうはすかさず俺の頭上にまわり、その分厚い大胸筋で俺の顔を圧迫しつつ上四方固めを―――」

 

『ぐぁああああーーーーーっ!!! い、嫌だ! 目を閉じたくない! 最悪のビジュアルが瞼の裏に張り付いて離れない!』

『起きねぇ! 福村が起きねぇよ! おい、しっかりしろよ!』

『おい! 兄貴と土屋がもう虫の息だ! 返事がねぇ!』

『空気を! 新鮮で涼しい空気をくれ!!』

 

 

 俺含め野郎共による阿鼻叫喚の嵐。

 恐怖と絶望……そんな苦しみの感情がこの場を完全に支配している。

 見てる余裕はないが、明久と雄二も同じくこの精神汚染攻撃に悶えているのだろう。

 だが、鉄人はそんな俺達には目もくれず、お構い無しとばかりに語り続けている。あ、悪魔だァ……!

 

 

 (……ああ、もう無理だ。頭が痛ぇ、吐き気もする……視界もぐらつくし、このままじゃ確実に意識トばすなぁ……)

 

 (……だが仕方ねぇ。これが俺の、運命ってヤツなんだろう、な……)

 

 

 そう自らの限界を悟った。最早、指一つすら動かない。

 そして瞼を閉じ、真っ暗な闇の中に己の意識を沈ませ始める。すまねぇな、秀吉、同志―――

 

 

 

『………お兄ちゃん! 大悟お兄ちゃん!』

 

 

 なんだ。今微かにめるたんが俺を呼んだ様な……?

 ……いや、そんなわけねぇか。どうせ幻聴か何かの類いだろう。

 

『……起きて! 起きてよ、大悟お兄ちゃん! 死なないで!』

「!」

 

 いや! 違う! 幻聴なんかじゃねぇ!

 今この耳でハッキリと聞こえたぞ! これは間違いなくめるたんの声だ! 

 

「め、める、たん……?」

『そうだよっ! 私だよ! しっかりして、大悟お兄ちゃん!』

「ど、どうして声が……?」

『魔法の国から直接私の声を届けてるのっ。大悟お兄ちゃんが大変なことになってるからいてもたってもいられなくて!』

 

 こ、こんな俺の為にわざわざ、だと……!? 

 最高過ぎるじゃねぇか。推しが自分の事を心配してくれるなんざ、めるたんファンとしてこんなにも嬉しい事はねぇぞ……!

 

「めるたん……俺は」

『ごめんね。本当はそっちに行って助けてあげたいけど、今の私の力じゃこんな事しか出来ないの……けど』

 

 

 

『私、信じてるから……。大悟お兄ちゃんは、あんなゴリラ魔人の卑怯な攻撃なんかに負けないって! そう、お兄ちゃんは誰にも負けない……』

 

 

『―――世界で一番、強いんだから!!!』

 

 

「っ!!!」

 

 ……そうだ。

 俺はこんなところで死んでなんかいられねぇ。

 最後まで彼女の勇姿を……めるたんが一人前の魔法少女になるのをこの目でしっかりと見届けるまで、俺は何があろうとくたばるワケにはいかねえんだったな!

 

 ……ありがとう、めるたん。俺に大切なことを思い出させてくれて!!

 

 

「ぐ……ぐぅ……ぐぉぉおお!!」

 

 目を見開き、気合いを込め、重い身体を持ち上げようとする。だが、

 

「頭が……張り裂けそうだ……!!」

 

 俺の意志とは裏腹に、身体が言うことを聞きやがらない。

 クソぉ……何してやがる岡崎大悟!! 立て! 立ちやがれ!!

 何をもたついてやがるんだ!! 苦痛ごときに怯んでんじゃねえ!!

 愛しのめるたんが俺なんかの為にあそこまでしてくれたんだぞ!! 本気で俺の事を信じて、あまつさえ涙まで流してくれたんだぞ!! そんな彼女の気持ちに応えてやらないで、何が宇宙一のめるたんのお兄ちゃん(ファン)だ!!! ふざけんじゃねぇ!!!

 

 その言葉に嘘偽りがねぇんだったらなぁ……とっとと立てってんだよぉおおーっ!!

 

 

「う、うぐぁァァああーーーーーっ!!! ハァ、ハァ……!」

 

『っ!! あ、兄貴!?』

『兄貴が、兄貴が立ったぞ!』

「」

 

 気合いのこもった雄叫びをあげ、やっと立ち上がることに成功した。

 だが現状はジリ貧だ。精神的ダメージによる消耗が激しく、少しでも気ぃ抜いたら確実にブッ倒れるのがわかる……だが、もうそんなヘマはしねぇ!

 

 愛する幼女の涙……それが、俺の原動力なのだからなぁっ!!

 

 

「俺の生き様……見ててくれよ、めるたんっ!!」  

 

 スタ……スタ……

 

 一歩、二歩と出口に向かって歩を進める。

 周りからは相変わらず悲鳴と怒号がけたたましく響いており、中には既に事切れて机に突っ伏している野郎までいる。クソッ、同志までもヤツの毒牙にかかってやがるじゃねぇか……!

 

 

 (すまねぇ同志、野郎共よ……だがお前らのその犠牲は無駄にはしねぇ! テメェらの分まで……俺は生き残ってみせる!!)

 

 

 ガシッ

 

 そして、扉の取っ手に手をかけた。

 

 

 (勝った……!) 

 

 

 勝利を確信し、小さく微笑む。

 長いようで短かった戦いももうすぐだ。もう俺を阻む壁は何もねぇ。あとはこの扉を開け、持てる力の限りを使って逃げるのみ。

 

 

 ~~♪ ~~~♪♪♪ ~♪♪

  

 

 ふふ、いいぞ、いいじゃないか。

 今、俺の脳内にユニコーンの完全勝利BGMがフルサウンドで流れている。これはもう文字通り勝ち確。風は今、俺に向かって吹いている!

 

 (クハハ! 俺の勝―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PON

 

「ち?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堂々と正面突破とは大した覚悟だな、岡崎(ニヤリ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴォオンッ!!

 

 

 

 

 

 ―――悲し~みの、向こうへと♪ 辿り~、着けるなら~♪

 ―――僕は~もう、要らないよ♪ 温もりも明日も~~♪

 




お久しぶりです。例のウイルスにかかり、しばらくくたばってた男です。
さて、遂に原作6巻の肝試し編に入りました。ここで遂に三年生とのバトルが始まるのですが、果たしてどんな展開が待ち受けているのか? あの例のドスケベな先輩はナニをどうしてくるのか? どうぞご期待ください。


感想、意見などありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。