バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 国語
問 次の文章の穴を埋め、短文を作りなさい。
『まさか(    )ろう』

姫路瑞希の答え
『まさか、真面目だった彼があの事件の加害者だったなんて、誰も想像出来なかったであろう』

教師のコメント
正解です。言葉の使い方がよく出来ていますね。


岡崎大悟の答え
『まさか思いもしなかった……あの全校生徒から高嶺の華として尊敬されていた生徒会長が、今は一心不乱に僕の極太チ○ポによがる変態クソビッチと化したなんて! 『ねぇええん♡ もっとぉぉ♡♡ もっと激しく奥まで突いてぇぇええ♡♡♡』『おい! 誰が人間の言葉で喋ることを許可した!! お前は人間じゃねえ! ブタだ! どうしようもない淫乱ドスケベブタだろうが!! 何度言えば分かるんだよ!!』僕は更に腰を振るスピードを上げた。『みぎゃぁああっ! じょうでじだあああっ! わだじはぁっ! あなだざまのチ○ポとザ○メンがごの世でいぢばんだいじゅぎなぁぁあああーー!! どうじようもないマゾヒスト変態ブタなんでじだぁぁああぅぅうううっつ♡♡』最早彼女にかつての面影は無い。けどこれでいい。これでいいんだ。これが僕の計画―――全てを踏みにじった彼女に対する“復讐”なのだから』

教師のコメント
新しいエロゲーのシナリオか何かですか?


吉井明久の答え
『まさか、彼女のお手製のういろうを食べて、生死の境をさ迷う事になるとは思わなかった』

教師のコメント
そのレシピの内容が知りたいです。


土屋康太の答え
『まさかりかついだきんたろう』

教師のコメント
ある意味見事な解答に脱帽しました。






第七十三問 召喚獣の変化

 

 ―――side 明久

 

「―――そして、制限時間いっぱいまで使った俺達の寝技の攻防は続き―――ん? なんだお前ら。もうダウンか?」

 

 灼熱の最中繰り広げられた鉄人による悪夢のトークショー。

 当然マトモに耐えられるワケもなく、クラスメイト達は卓袱台に突っ伏して気を失っていた。

 なんとか大悟があと一歩のところまでいったのだが、あえなく鉄人に確保され、脳天をカチ割らんとする威力の拳骨をくらって亡き者と化していた。

 

「やれやれ、仕方ない。十分間だけ休憩を入れるとしよう。脱走なんてくだらないことを考えた自分を反省するように」

 

 そう言うと鉄人は大悟を乱雑に投げ捨て、教員用の椅子に座った。

 どうやら休憩時間は取っても教室から出ていく気はないらしい。僕らの脱走を警戒しての事だろうか?

 

「あの、明久君。何があったんですか? 皆さんとても苦しそうですし、岡崎君は西村先生に殴られてましたけど……」

 

 姫路さんがクラスメイトと一体の屍を心配そうに見ている。

 

「えーっと、なんていうか言葉の体罰というか、精神攻撃を受けたというか……」

「まったく、どうせくだらないことでしょ。脱走なんて考えたんだから、先生だって怒って当然じゃない」

 

 隣では美波がため息でもつきそうな顔で僕を見ている。

 

「そうは言うがな、島田。俺と明久の席は脱走を考えても仕方がないくらい酷いもんだぞ。日当たり最高で風通し最悪のワーストポジションだからな」

「酷いって、どれくらい酷いんですか?」

「明久の成績くらいだ」

「人間の耐えられるレベルじゃないわね」

 

 なんてことを。

 

「もしくは酒の入った凜花さんだ」

「そ、それは思ったより酷いですね……」

 

 うん、それは僕も否定しない。

 実際僕らはその時のカオスっぷりをこの身で嫌というほど味わっているから。

 

「でも、確かにこの席は雄二の性格くらい酷いんだよ。さっきペンのアルミ部分に触ったら軽く火傷しちゃったしね」

「火傷したの? どれどれ?」

 

 美波が自然な感じで僕の手を取ってくる。

 最近の美波は、以前と比べても攻撃的な時と優しい時の差が大きい。何かあったのだろうか。

 

「なんじゃ島田。お主、随分と明久に優しいではないか」

「そうですっ。美波ちゃんは明久君に近すぎますっ」

「べ、別にアキに優しいってワケじゃ……! ただアレよ、アキが怪我してたらウチが殴る時に手加減しなきゃいけないからってだけで……!」

 

 怪我してても殴ることにかわりはないんだ……。

 

「じゃがまぁ、お主達の席は確かに暑いのう。脱走を企てるのも無理はないのじゃ」

「あれ? 秀吉は脱走の話は聞こえなかったの?」

「いや、ワシはお主らとは別で大悟とムッツリーニの三人で脱走しようと話し合ってたのじゃが、残念なことに残りの二人があんな感じになったからのう……」

「ああ、そうだったんだ」

 

 そう言って秀吉が視線をある方向に向ける。

 先にはピクリとも動かない大悟とムッツリーニがいた。

 

「大悟もそうだが、ムッツリーニの想像力は常人の比じゃないからな。さっきの恐ろしい話を聞いただけで鉄人とブラジル人の暑苦しいレスリングが脳内で鮮明な画像になって浮かび上がったんだろ」

 

 そ、それはひとたまりもないな……。

 

「まあでも、僕はちょっと安心したよ」

「安心した? 何をじゃ?」

「秀吉が脱走に乗り気だって事だよ。ほら、秀吉って僕らなんかよりは真面目なタイプだからもしかしたらって思って。やっぱり一緒につるんでるバカ仲間としては、五人の誰か一人でも欠けちゃったら寂しいじゃないか」

「! そうじゃったか……」

 

 こういうことは姫路さんや美波は誘いにくい。

 仲は良いけれど、バカ仲間とは違う気がするから。

 

「? 秀吉、嬉しそうだね」

 

 秀吉が若干、嬉しそうな顔を浮かべている。

 

「うむ。正直なことを言えば、バカ仲間と言ってもらえるのは嬉しいぞい。最近のお主はワシを女やら男の娘やらとして見ている節があるからの。外見が姉上に似ておるという部分以外はどうでもいいのかと、少々気にしてきたところじゃ」

「? 秀吉もおかしな事を気にしているね」

「いや、最近のワシの扱いを鑑みれば決しておかしくはないと思うのじゃが……」

 

 木下さんも秀吉は確かにそっくりだし、どちらも凄く可愛いけど……

 

「外見以外はどうでもいいなんて、そんなワケないじゃないか」

「じゃが、ワシは」

 

「秀吉が可愛いのは事実だけど、それだけでこうして一緒にいるのは違うよ。一緒に遊んだり、勉強したり、バカやったりしてさ、その中で秀吉の良いところをいっぱい知っているから、一緒にいるんだよ。一番秀吉と付き合いがある大悟なんて、尚更そう思ってるんじゃないかな」

 

「……………っ!」

 

 見た目で友達を選ぶなんて、そんなのはおかしい事だ。

 大悟はもちろんのこと、僕も雄二もムッツリーニも、そんな理由で秀吉と仲良くはしてないつもりだ。

 昔、大悟からこんな言葉を聞いたことがある。

 

 

『秀吉は見た目こそあんなだが、中身は正真正銘の漢だ。何があろうと決してブレねぇ芯をここに持ってる。メンタルも俺なんかより全然強ぇしな。それで何度アイツに助けられたかわからねぇ。だからよ……マジでアイツと親友になれて幸せって思うんだ。俺は』

 

 

 その時の大悟の表情は真剣そのものだった。

 ヤツはつまらない嘘は決してつかない男だ。二人がこれまで親友として積み上げてきた信頼関係と、秀吉の人間性の良さがあってこそ出た、心からの発言なんだろうと僕は思っている。

 

「ん? どうしたの秀吉」

「こ、こっちを見るでないっ」

 

 なぜだか秀吉は、隠れるように背を向けてしまった。

 

 

「瑞希……。木下ってずるいわよね……。女の子みたいに扱われてるくせに、こういう時だけ異性を感じさせないであんなこと言ってもらえるんだもの……」

「ですよね……。私、頑張ってるのが虚しくなってきちゃいます……」

 

 

 姫路さんと美波はため息混じりに何かを愚痴りあっていた。

 

「それにしても暑いな……。さっきから全然汗が引かないぞ……」

「そうだよね……こんな環境だと勉強する気なんてさらさら起きないよ」

「なによアキ。アンタ、この間の期末試験の時とはやる気が全然違うじゃない」

「この前のは姉さんを撃退する為だったから例外だよ。元々勉強はあんまり好きじゃないし」

 

 あのテストでやらかしてしまった結果、姉さんと同居する羽目になってしまった。自業自得とはいえ最悪だ……。

 僕の自由は最早風前の灯火と言っていいだろう。成績の事について何も言われない家族がいる雄二や大悟が羨ましい。

 

「それに、期末試験を頑張った理由はもう一つあるからね」

「理由って、試験召喚獣の装備のリセットの事ですか?」

 

 姫路さんの言葉に僕はうん、と返す。

 実は期末試験前に、色々あって僕と雄二は学園長の部屋に行った……というより間違えて行ってしまった。

 その時学園長が、今回の期末試験は普段とは違って、成績によって召喚獣の装備が変更になる仕様にしたと言っていた。点数が高ければ高いほど強い武器や防具を手に入れられるが、逆に低ければそれなりのものに変わってしまうのだ。 

 

「僕や雄二の装備はめちゃくちゃ弱いからね。せめて金属製の武器が欲しいよ」

 

 武器が木刀なままなのはハッキリ言って限界だ。

 近くで見てる分、姫路さんや大悟の召喚獣が本当に羨ましい。

 けど僕はよりにもよってその大事な期末試験で記入ミスをやらかしてしまった。装備は多分そのままだろう。

 

「雄二はどうなのじゃ? お主は振り分け試験よりも点数が上がっておるのじゃろう?」

「ん? そういやそうだな。あんま気にしてなかったが」

 

 雄二曰く、自分は前線に立って戦う事がほとんどない分、自分の召喚獣の強さはさほど重要視していなかった。それよりも他の皆がもっと強くなってくれた方が、確実に戦争の勝利へとつながる事になるから、らしい。

 そう自然に思えるあたり、コイツはきっと根っからの指揮官タイプなんだろう。

 

「ワシも期末試験は出来が良かったからの。もしかしたら良い装備になっておるかもしれん」

「ウチも以前より問題文が読めるから、ちょっと強くなってるかも」

「すいません……。私はあまり変わってなかったみたいです……」

「いやいや。姫路さんはあれ以上の成績になったら凄すぎるってば」

 

 皆それぞれの結果に期待を持ったりそうでなかったりしている。

 姫路さんに関しては、今のままでも十分以上な点数だけど。

 

 

「―――あ。なら今から召喚獣を喚び出してみようよ。皆がどんな装備になってるのか気になるし」

「今から?」

「ほら、ちょうどそこに鉄人もいることだし。ねぇ雄二?」

「そうだな。次の戦争に備えて戦力の把握もしておきたいところだしな」

 

 雄二の同意を得たので、僕は椅子に座る鉄人に呼びかけた。

 

「どうした吉井。お前が俺を呼ぶなんて珍しいな」

「すいません。お願いがあったもので」

「お願いだと?」

「はい。ちょっと召喚許可を貰いたくて」

「……………」

 

 僕がそう言うと、鉄人は困ったような表情を浮かべた。

 

「どうかしたんですか」

「いや、その何だ……。いいか吉井。お前は観察処分者だ。人よりもずっと力があり、しかも物や人に触ることの出来る召喚獣を持っている。そんな危険なものをみだりに喚び出すことは感心出来んぞ。そんな余計なことを考えている暇があったら―――」

 

 ん? なんだろう、この鉄人らしからぬ歯切れの悪い返答は。

 いつもはもっと堂々とした発言をするのに。

 

「西村教諭。ワシらは別に悪巧みをしておるワケではないぞい。ただ、純粋に召喚獣の装備がどうなっておるのか気になるだけなのじゃ」

「あー……。しかしだな木下。試召戦争でもないのに召喚獣を喚び出すのはあまりいいことではないぞ」

「鉄人。どうしてそんなに召喚を拒むんだ。まさか、俺達の召喚獣に何か不具合でもあったのか?」

「いや、何もないぞ坂本」

「何もないなら、別に喚び出しても問題はないんじゃないですか?」

「それにウチらの召喚獣ならアキと違って物に触れられないし、危険はないと思いますけど」

「……さて、授業を再開するぞ」

 

 僕らを無視して教壇に戻ろうとする鉄人。

 うん、これは確実に何か裏がある感じだ。

 

「ちょっと待て」

「なんだ、坂本」

「アンタがそこまで言うなら無理に召喚許可を取ることはしねぇ。ただし、何が起きてるのかはその口からハッキリ説明してもらうがな―――起動(アウェイクン)っ」

 

 雄二の声に反応して白金の腕輪が起動する。

 試験召喚大会の優勝商品として雄二が手に入れたもので、機能としては、先生の許可がなくても召喚フィールドを展開することが出来る。

 これで準備は整った。僕は早速、召喚呪文の“試獣召喚(サモン)”と口にし、目の前に召喚獣を喚び出した。  

 のだが……、

 

 

 

「……あれ?」

「おいおい。明久にしちゃやけに贅沢な装備じゃねえか」

 

 

 

 現れたのは、いつもの学ランに木刀ではなく、白銀の甲冑に自身の背丈程もある大剣を携えているという、ファンタジー系の漫画やゲームに出てきそうな騎士を思わせる姿と化した召喚獣だった。

 またその召喚獣のサイズが、これまでは二頭身ぐらいだったのに今は僕と寸分違わぬくらいにまで大きくなっている。

 

「す、凄い! なんだかかなり強そうに見えるよっ!」

「いやはや……。コイツは驚いたな。試召戦争が本物の戦争みたいになりそうじゃないか」

「そうじゃな。これならば本物の人間とさして変わらんじゃろ」

 

 皆が僕の召喚獣に対して思い思いの感想を述べる中、

 

 

「あぁ……。クソ、頭痛ぇ……!」

  

 

 気絶していた大悟が起きてきた。

 

「クソったれがぁ……っ! せっかくめるたんがあんなに誠心誠意応援してくれたってのにこの体たらくよお……なんて俺は心底弱ぇ男なんだよチクショウがっ! こんなんじゃ今後、彼女に顔向けが出来ねぇじゃねえかよ……!」

「ちょうどよかった。見てよ大悟! 僕の新しい召喚獣を!」

「……あ? なんだ明久うるせぇな。今こっちは絶望にうちひしがれてんの―――」

 

 ガッ

 

「におっとっ」

 

 ゴンッ

 

「あ痛っ、ちょっと大悟。急に何するの―――」

 

 

 ポロッ、コロコロコロコロ……

 

 

「―――さ?」

 

 何かにつまずいたのか、大悟がよろけた拍子に僕の召喚獣の頭を弾いた。

 すると、その叩かれた頭が首から外れ、畳の上に落下した。

 

「えっ」

 

「なっ……」

 

「「きゃぁぁあああーーっ!!?」」

 

 その光景に姫路さんと美波が悲鳴をあげる。

 

「えぇぇっ!? な、何これ!? 僕の召喚獣がいきなりお茶の間にはお見せできない姿になっているんだけど!?」

「本当だな。待ってろ、今ホチキスを持ってくる」

「雄二、何を冷静に的はずれなことを言ってるのさ!? そこは普通接着剤でしょ!? ホチキスだと穴が開いて痛いじゃないか!」

「そういう問題ではないと思うのじゃが」

「…………」

「む? どうしたのじゃ大悟よ」

「……秀吉。母さんと天の事、頼んだぞ」

「?」

  

 Pi Pi Pi

 

「……もしもし警察ですか。友人を……殺めました」

 

「いやいや違うよ!? 僕じゃないよ! 召喚獣! あれは僕じゃなくてデフォルメされた召喚獣だから!!」

「……はい。そうです、即死です。エ○フェンリート的な感じで殺りました」

「やってないやってない! 確かに同じ首ちょんぱだけど、あそこまでグロテスクではないから!」

「秀吉。こんな殺人犯と化した俺を……親友と呼んでくれてありがとうな。俺はこれから二回目のお務めを果たしてくるからよ」

「何を一人で錯乱しておるのじゃお主は……」

「ああ天に召します主よ……。我が罪をお裁き下さい。そしてどうか、この愚かな私に手を差しのべ、天国へとお導き下さい……Amen」

「違うってば! だから右手で十字を切りながら神に赦しを乞うな!」

 

 

 

 ―――閑話休題

 

 

「んだよ。あれは召喚獣だったのか。ビックリさせやがってよ」

 

 僕は大悟に簡潔に事情を説明した。

 目が覚めたばかりで寝ぼけていて、僕と僕そっくりになった召喚獣の区別がついてなかったらしい。

 いや、だとしてもあんな簡単に小突いただけで人間の首が取れたって思うのは、早とちり過ぎると思うけどね。

 

「さて鉄人。これはどういうことだ。知っているんだろ?」

 

 雄二がわざとらしく目を背けている鉄人に問いかける。

 

「……俺にはよくわからんが、今喚び出される召喚獣は化け物の類いか何かになってしまうらしい」

「お化け、ですか?」

「お前らも知っての通り、試験召喚システムは科学技術だけで成り立っているワケではない。幾ばくかの偶然やオカルト的な要素も含まれているんだ」

「??? つまり、どういうことですか?」

「あー……。要するに、だな……」

「調整に失敗した、と」

「……身も蓋もない言い方をするな」

 

 雄二の台詞に仏頂面で答える鉄人。

 僕の召喚獣を見る限り、どうやらその調整でオカルト部分が色濃く出ているのか。

 

「化け物ねぇ……じゃあ明久のコイツは、首なし騎士……いわゆるデュラハンあたりをイメージしてんだな」

「うん、でもなんで僕の召喚獣はデュラハンなんだろう」

 

 お化けなら日本の妖怪とかもたくさんいるのに。

 

「学園長の話を聞く限りでは、どうも召喚者の特徴や本質で決まるらしい」

「特徴や本質? てことはデュラハンと明久が何かしらリンクしてるって事っすかね」

「そういう事になるな」

 

 大悟と鉄人がそう会話をかわす。

 ふむ、デュラハンと僕の似通ったところか。そうなると一つしかないな。

 

「なるほど。つまり僕がデュラハンに選ばれたのは、僕の騎士道精神が召喚獣に反映されているんですね」

「おい明久。現実から目を背けるな」

「え? 違うの? そうなると他に考えられるのは……そうか! 甲冑の似合う男らしさとか、大剣を振るう力強さとか―――」

 

 

「頭がない=バカだからだろ」

「ふむ、バカだからじゃな」

「……………バカだから、一択」

「バカで雑魚か」

「バカだからでしょ」

 

 

「言ったぁー!! 僕が必死に目を逸らしていた事実を、姫路さん以外の皆が包み隠さず言ったぁー!!」

 

 しかも若干一人更に酷く罵倒してきやがった!

 クソぉ……! まさか召喚システムそのものにまでバカ扱いされるなんて! 真実は時として残酷だ……!

 

「そう気に病むな明久。デュラハンはアニメやゲームじゃ敵組織の幹部とか結構強キャラとして扱われる事が多いんだ。そんな存在に選ばれるってのは考えようによっちゃ、ラッキーなことじゃねぇか」

「大悟……」

「いくらお前の元の召喚獣は物に触ることしか能の無い、いてもいなくても大して戦力に影響を及ぼさないウンコ以下のクソ雑魚ナメクジっつう揺るぎようのない事実だとしても、ある程度のキャラクター補正はあるだろうぜ。うん、多分、きっと……………だからまあ、元気出せ。ほら、飴ちゃんいるか?」

「大悟。慰めてるようで余計に傷口を広げるのはやめてくれないかな。あと飴はよらう」

 

 最初の自己紹介の時といい姉さんの時といい、どうしてこのキモオタは素直に友達を励ます事が出来ないんだろうか。

 あ、この飴コーラ味だ。

 

「じゃが、こうして見ると以前よりは強そうに思うがのう。装備も鎧に大剣じゃし」

 

 そう秀吉がフォローを入れてくれる。

 そ、そうだ。特徴や本質はともかく、強くなってる事は喜ぶべきだ。

 

「そうか? 俺には強くなったようには見えないけどな」

「む、なんだよ雄二。その言い方は」

 

 横から雄二が水を差すような事を言ってきた。

 

「その取り外し出来る頭が問題だ。考えてもみろ。戦っている最中に頭が取れたらどうなる?」

「……狙われるね。絶対に」

「リンチ確実だな」

 

 つまり、僕は頭が無防備の状態にならないよう、どちらかの手で抱えながら戦わないといけないことになる。

 ただでさえフィードバック機能があるのに、そんな自分に不利すぎるハンデを背負わないといけないなんて、これじゃ強くなってるどころか大きなマイナスだ。というか、自分の頭が他人にボコされる姿とか悲し過ぎて見てられない。

 

 僕らがそうやって話していると、他のクラスメイトが数人こちらにやって来た。

 

「吉井、さっきからなんか面白そうなことをやってるな」

「これ吉井の召喚獣か? 特徴や本質がどうとか言ってなかったか?」

「なるほど。だから吉井の召喚獣は頭がないのか」

 

 コイツらにだけは言われたくない。

 

「そう言うならそっちも喚び出してみなよ。きっと僕のより酷い召喚獣が出てくるから」

「フッ、何をバカなことを言ってるんだ」

「俺たちがバカの世界チャンピオンであるお前に負けるわけないだろ?」

「俺の本質はなんといってもジェントルマンだからな。きっと貴賓に溢れたエレガントな召喚獣が出てくるに決まってるさ。いいか、見てろよ―――」

 

 

「「「試獣召喚(サモン)っ!!」」」

 

 

 

 

 ……ズズズズズ ←ゾンビ登場

 ……ズズズズズ ←ゾンビ登場

 ……ズズズズズ ←ゾンビ登場

 

 

 

 なるほど。根性が腐っているからか。

 

「こ、怖いです明久君……っ」

「あ、アンタ達! その汚いものを早くしまいなさいよっ!」

 

 自分の本質を汚いと言われた三人はお互いの肩を抱き合って泣いていた。

 

「しかしまぁ、これはこれで面白いもんだな。お前ら三人はどんな召喚獣だ?」

「ふむ、なら試してみようかの」

「おう。どんな姿に変貌してんのか楽しみだぜ」

「……………うん」

 

 

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

 

 ……ポンッ ←猫又登場(秀吉)

 ……ポンッ ←ヴァンパイア登場(ムッツリーニ)

 ……ポンッ ←鬼登場(大悟)

 

 

 三人が詠唱すると、それぞれに応じた召喚獣が喚び出される。

 まずは秀吉から見ていこう。

 

「へぇ~。秀吉は猫のお化けか。可愛いね。秀吉によく似合っているよ」

「どうやら秀吉の召喚獣は『可愛い』ってことらしいな」

「そりゃ、秀吉の特徴っつったらそれが一番妥当だろ」

「……………疑いの余地なし」

「う、うぅ……遂に召喚システムにまでそんな扱いをされておるのか、ワシは……」

 

 どうやらお化けと言っても怖いのだけじゃないみたいだ。

 

 次にムッツリーニの召喚獣を見る。

 黒いマントを羽織った顔色の悪いタキシード姿の少年。うん、完全にヴァンパイアそのものだ。口元から牙も見えるし。

 

「確かにいつも血を欲しているイメージがあるからな」

「若い女が好きという点も酷似しておるしの」

「吸血鬼か……。それなら隣にはセーラー服に銀の槍持った女子中学生の後輩が欲しいところだなぁ」

「……………もちろん、その子のボイスは種○梨沙」

 

 うん、それ違う吸血鬼だね。第四真祖の方だね。

 でもあのアニメ見てみたけど、どう考えても主人公の能力がチート過ぎると思うんだ。特にあの空間を食い破るヤツとか。

 

 さて、最後に大悟の召喚獣だけど……。

 

「こ、これが岡崎君の新しい召喚獣ですか……」

「け、結構大きくて迫力あるのね……」

「……というかおい、これ確実にあれだろ」

 

 思わず大悟が呟いた。

 恐ろしい顔つきに筋骨隆々な体と鯰髭。頭から生える双角。龍の鱗のような刺青。手には巨大な金棒を携えている。その姿はまるで、

 

 

「カ○ドウだね」

「ああ、カイ○ウだ」

「うむ、ほぼ○イドウじゃな」

「……………間違いなく、カイド○」

 

 

 どう見ても某海賊漫画に出てくるアイツをリーゼント風な髪型にアレンジしたようにしか見えなかった。

 多分これは日本の代表的な妖怪である鬼をモチーフにしているんだろうけど、ここまで露骨に寄せてくるとは驚きだ。

 学園長ってもしかして、ワン○ース好きなのかな?

 

「まあ見た目はともかくとして、大悟が鬼ってのは普通に納得だな」

「そうか?」

「ああ、見た目の凶暴さとか、腕っぷしの強さとかな。まさにお前の特徴そのものだ」

「……………カ○ドウにそっくりなのも、二次元が好きっていう影響かもしれない」

「それに鬼も○イドウも酒好きなイメージがあるからのう。これも大悟を表す特徴としてピッタリではないか?」

「ちょっと待て秀吉。それについては大きな誤解だ。酒は母さんとかに無理やり飲まされてるからそうイメージがついちまってるだけで、本来の俺の本質とは何の因果関係にもないワケで」

「大悟。頭にパッと思い浮かぶ酒はなんだ?」

「スピリタス」

「量は」

「樽」

「飲み方は」

「ストレート」

「全部即答じゃねえか……」

「完全に毒されておるのう……」

  

 ふむ、つまるところ大悟の特徴は『見た目の凶暴さ』、『腕っぷし』、『二次元』、『酒』ってことになるらしい。あ、あとロリコンね。

 最初の三つはともかく、召喚システムにまで酒の事を認知されてるなんて、コイツは普段からどれだけの量を飲まされているんだろうか。まぁ、思い当たる節はいっぱいあるし、そもそもお母さんがあんなブッ飛んだ人だから仕方のない事なんだろうけど。

 

 

「……鬼なら萃香ちゃんみたいな見た目の方がよかったんだが」

 

 

 それは絶対ない。

 

 

「うし。じゃあ後は女子勢だな」

「あ、はい。ならまずは私からやってみますね」

 

 そう言って姫路さんが立ち上がる。

 優しい彼女のことだ。きっと天使とか女神が出てくるに違いない。

 

「対魔忍アサギとか出ねえかな」

「……………感度3000倍」

 

 出てたまるか。

 

「それじゃいきます。……試獣召喚(サモン)っ」

 

 

 

 ……ボンッ ←サキュバス登場

 

 

 

「「ブフォオオーーっ!!」」

「きゃぁあああーっ!? 見ないで! 見ないで下さぁああーーいっ!」

 

 召喚獣を見た瞬間、噴水の様に鼻血を出した僕とムッツリーニ。

 す、凄すぎる……。プールの時もそうだったけど、改めて姫路さんってとてつもないボディの持ち主なんだと認識したよ。

 

「コイツはいいな。わざわざコスプレしてもらう手間が省けた。姫路の体つきにサキュバスってのは少しありきたりな気もするが、まあそこには目を瞑ろう。特にこのもふもふな尻尾は俺的にポイント高ぇぞ(カキカキ)」

「岡崎君!? だ、ダメです! こんな恥ずかしい格好をスケッチしないで下さいっ!」

「安心しろ。モデル費用はちゃんと払う」

「そういうことを心配してるんじゃありませんっ!」

 

 さすがだよ大悟。

 こんな時でも冷静さを失わず、僕ら消費者の望みを叶える為にすぐさま行動してくれている。これこそクリエイターの鑑だ。あとであのイラスト売ってもらおう。

 

「……………ナイス、同志(ダラダラダラ)」

 

 ムッツリーニも同じことを思ってたみたいだ。

 

「にしても、随分と分かりやすい本質だな」

「そ、そんなっ! 確かに私はちょっと太ってますけど、特徴になるほど大きくなんて……」

「よすんだ姫路さん! それ以上言うと特定の誰かを傷つけることに手首が捻れるぅぅぅううーーっ!? うぎゃあぁぁあああーーっ!!」

「言いたいことがあるなら聞くわよ、アキ?」

 

 いつの間にか美波に右手首を捻り上げられていた。

 せ、折角気を使って止めたのに……。

 

「全く。瑞希ってば、そんないやらしい身体つきをしてるからいけないのよ」

「はううっ! 美波ちゃん、あんまりです……」

「その点、ウチにはなんの心配も要らないわ。とびっきり可愛いのが出てくる筈だから見てなさい―――試獣召喚(サモン)っ!」

 

 

 

 

 

 

 ゴゴゴゴゴ…… ←ぬりかべ登場

 

 

 

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

 

 

 

 (((((ダメだ……。今笑ったら殺される……)))))

 

 

 

 

 




今回の登場人物
明久←召喚システム公認のバカ。そのうちギネスにのるかも?
大悟←やっぱり鬼といえばカイ○ウだよね。
雄二←ほぼ原作と同じくだりでよろ。
姫路←そんなにおっぱい大きくないもん! ホントだもん!
島田←ああ……うん、御愁傷様。
秀吉&ムッツリーニ←まあ、妥当な変化ですな。
根性が腐ってる連中←涙拭けよ。きっといいことあるさ。


感想、意見などありましたらよろしくお願いいたします。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ

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