バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 世界史

問 次の(  )に正しい単語を入れなさい。
ロシアの作家ドストエフスキーは著書『( ① )の兄弟』や『( ② )と罰』の中で、信仰心を失った近代人の虚無主義的な姿を描いた。


姫路瑞希&岡崎大悟の答え
『①(カラマーゾフ)の兄弟
 ②( 罪 )と罰』

教師のコメント
正解です。この二作品と『白痴』、『悪霊』、『未成年』はドストエフスキー五大長編と呼ばれる名作ですので、興味があればそれらを読んでみるのも良いでしょう。


土屋康太の答え 
『①( マーゾ )の兄弟』

教師のコメント
なんてところをピンポイントで覚えているんですか。


吉井明久の答え
『②(  ムチ  )と罰』

教師のコメント
マーゾの兄弟大喜び。




第七十五問 TOSATU行進曲♪

 

 

 ―――side 明久

 

 

『おーい! 誰かそこの釘をとってくれー!』

『暗幕足りないぞ! 体育館からひっぺがしてこい!』

『ねぇ、ここの装飾って枯れ井戸だけでいいのー?』

 

 

 翌日、文月学園の新校舎では肝試し用の改装作業で大いに賑わっていた。

 どうやら僕が美波に折檻を受けている間に雄二が学園長に話を聞きに行ってたらしく、例の召喚獣の妖怪化現象はこのイベントの為のものだったらしい。

 

「それにしても、まさかAクラスまで協力してくれるとは思わなかったよ」

「Aクラスとてワシらと同じ高校生じゃ。勉強ばかりでは息がつまるじゃろうからな」

「そりゃそっか。遊びより勉強が好きな高校生なんてそうそういないもんね」

 

 肝試しに使う教室はA~Dクラスだ。

 折角やるなら、広さがあって涼しさを演出出来る教室を、と思ってダメ元で提案したんだけど、まさか本当に使わせてもらえるとは。

 秀吉の言う通り、いくら勉強熱心なAクラスでも限界があったのだろう。このイベントに対して真面目にかつ楽しく取り組もうとしているのが分かる。

 

 けど、全員が全員そうじゃないようで、

 

 

「わ、私は出来れば、お勉強の方が……」

「だ、大丈夫よ瑞希。どうせ作り物なんだし、お化けはウチらの召喚獣なんだから、怖いことなんて何もないわ」

「それはそうですけど、それでもやっぱり苦手です……」

  

 

 あまり気乗りしていない様子の姫路さんと美波。

 

 

「図に乗るなよバカめ。俺の使うベヨネッタ姐さんに勝てるなど幻想も甚だしい」

「……………笑止。俺のメタナイトこそ絶対だ」

「ハッ! 大悟もムッツリーニも須川も、戯れ言は俺のピカチュウを倒してからほざくんだな!」

「言ったな坂本! なら見せてやる! 俺の操るゲーム&ウォッチの強さを!」

 

 

 何故かAクラスのシステムデスクを勝手に使ってスマブラをやっている大悟、ムッツリーニ、雄二、須川君のバカ四人。

 多分根っから肝試しに興味がないんだろう。当の雄二もイベントの手回しだけはちゃんとして後は勝手にどうぞというスタンスらしい。にしてもやれやれ、アイツらは揃いも揃って何を言ってるんだか。僕の使うフォックスこそ最強無敵であるというのに。まあ、アレはほっといていいかな。

 

「ア、アキはこういうの平気なの?」 

「僕? 僕は特にお化けとかは大丈夫だよ。美波こそ、こういうのは苦手じゃないの?」

「そ、そんなことないわよ! ウチだってお化けなんて、怖くも何ともないから目を瞑っていても平気なんだから!」

 

 いや、目を瞑っている時点で苦手な証拠なんじゃ……。

 よし、ちょっとからかってみよう。

 

「そう言えば美波、噂で聞いたんだけど」

「な、何よ」

「この学校の建っている場所って、実はワケありらしいよ」

「わ、ワケあり……?」

「なんですか、それ……?」

 

 隣の姫路さんも不安げにこちらを見ている。

 

「あははっ。それはね―――本当にお化けが出るんだってさ!」

 

 

「きゃぁああああっ!」←姫路さんの悲鳴

「いやぁああああっ!」←美波の悲鳴

 

 ボキィッッ……。

 

「みぎゃぁああああっ!」←驚いた美波に勢いよくハグされ、頸椎に深刻なダメージを負った僕の悲鳴

 

 まさかこんな形で反撃をくらうなんて。

 文字通り痛いほどに美波の恐怖が伝わってきたよ。

 

「み、美波……。冗談だから、離れて―――」

「……吉井」

「「きゃぁああああーーっ!」」

 

 

 あわや腰骨が砕けようかという時、誰かに背後から話かけられる。

 見ると、そこには学年主席の霧島翔子さんが僕の方を見て立っていた。

 

「だ、誰かと思ったら翔子ちゃんですか……。驚かさないでください……」

「……ごめん」

 

 申し訳なさそうに謝る霧島さん。

 

「それで、どうしたの霧島さん。僕に何か用?」

「……あそこにあるロッカーを動かしてほしい。吉井の召喚獣なら出来ると思う」

 

 そう言って霧島さんがAクラスの教室の隅にあるとても大きなロッカーを指差した。確かにあれを人の力で動かすのは難しいだろう。

 

「うん、全然いいよ。それじゃ、召喚許可を」

「……もう、あそこにいる田中先生に頼んである」

「オッケー。んじゃ、試獣召喚(サモン)っ」

 

 美波に解放してもらい詠唱を口にする。

 すると床に幾何学模様が描かれ、僕のデュラハンと化した召喚獣が姿を表した。いつもと違って手足が長いから、こういった作業の時は便利かもしれない。

 

「このロッカーをどければいいんだね?」

「うん」

 

 召喚獣をロッカーの前に立たせ、両手でがっしりと掴ませて持ち上げる。

 すると、その勢いで頭がコロリと落ちてしまった。

 

「「……………っ!?」」

 

 姫路さんと美波が息を飲む。周りは肝試しの為に薄暗い状態だし、そうなるのも無理はないかな。

 でも、やっぱりちょっとしたことで頭が外れちゃうのは不便だ。テープでも貼って固定しようかなとも考えたけど、そうなると召喚獣を消してまた喚び出す毎にテープを貼り直さなくちゃならないから手間がかかるし、首がついたままだと肝試しの意味がなくなってしまう。

 

 うーん……やっぱりこのままでいいや。折角だから今しか味わえないこの感覚を楽しむとしよう。

 

「じゃあ動かすよ。―――よいしょっと」

 

 頭は床に置いておく。

 あとはこのロッカーを適当な場所に―――

 

 

 ガンッ!

 

 

「!? 痛ッッ!! 何なに!? 急に頭から激痛がするんだけど!?」

「吉井明久……! ブタ野郎の分際でお姉様からの抱擁を受けるなど言語道断……その大罪、死を以て償いなさい……!!」

 

 

 見ると、僕の召喚獣の頭をDクラスの清水美春さんが思いっきり踏みつけていた。抱擁、とはさっき僕が美波に抱きつかれたことだろう。相当お怒りだ。

 

「し、清水さん。その足をどけて……!」

「では今から学校の外に出て、トラックに五回轢かれてから諦めてください」

「五回轢かれる意味がない!」

 

 どうあっても僕の死は免れないというのか……!

 

『待て清水! 吉井の頭を渡すんだ!』

『それ以上は看過できねぇな!』

 

 そこに横溝君率いる仲間達が助けに入ってくれた。 

 

「皆、ありがとう! 助かるよ!」

「ふん、邪魔をしないでください。このブタ野郎にはお仕置きが必要なんです」

『いいからそれを大人しく渡すんだ!』

『そうだ! 俺達に従え!』

『それはお前には預けておけねえ!』

「……邪魔をするな。と言ったハズですが……いいでしょう。なら吉井明久と一緒に貴方達もまとめて―――」

 

『『『お前は分かっていない! 俺達が本当の苛めを見せてやる!』』』

 

 ……………えっ。

 

「……ほう、本当の苛めですか」

『そうだ! 俺達はこれまで何回も吉井を酷い目にあわせてきた!』

『自慢じゃないが拷問や処刑の方法もお前よりは心得ている! 安心して俺達に任せてくれ!』

「わかりました。そこまで言うのであればこのブタ野郎の頭を託しましょう」

 

 まって清水さん! 託さないで! そんな極悪非道な連中に惑わされないで!

 

『感謝するぞ清水。それじゃあ行くぞ皆! 女子に抱きつかれるという裏切り者への、血の制裁を始めよう! 試獣召喚(サモン)っ!』

 

『『『試獣召喚(サモン)っ!!!』』』

 

 召喚フィールドにゾンビの大群が溢れる。

 

『よし、いくぞー。目指せオリンピック!!(ゴンッ)』

「なでしこジャパンっ!?」

『よく言うだろ。友達はボールだ……ってなぁ!!』

「逆だよ! それを言うならボールは友達じゃないのあだぁっ!?」

『ま、俺達はお前を友達として認めてないがなぁっ!(ゴンッ)』

「だったら蹴るなうぎゃあぁっ!?」

『サッカーやろうぜ!!(ゴンッ)』

「いい加減にしろごぉおおっ!?」

 

 僕の頭でゾンビ達がサッカー。これを地獄絵図と言わずしてなんと言おうか。

 だ、誰か助けて……!

 

 

 

「待つんだ。それ以上吉井君を苛めるのなら、僕が許さない」

 

 

 

 アレは……久保君!

 まるでピンチの時に現れるヒーローのような颯爽とした彼の登場に、僕は心から安堵した。

 

「ありがとう久保君。助かるよ……!」

「気にしないでいいよ吉井君。何故なら君のことは僕が守るから―――いつまでもね」

 

 いや、別に今だけでいいんだけど……。

 

「Aクラスの久保君……でしたか。美春達の邪魔をしないでもらえますか」

「そうはいかないよ清水さん、そしてFクラスの皆。君達が束になってこようとも、僕は一歩も譲るつもりはない。守るべきものの為に……ね」

 

 久保君と清水さんが同時ににらみ合い、やがて話し合いは無理だと悟ったのか、互いに召喚を開始した。

 仕様によりどちらも等身大の姿になってるけど、何故か装備は全く同じだ。

 

「秀吉。あれは何の妖怪か分かる?」

「ふむ……、格好から察するに、迷ひ神あたりじゃろうか」

「迷ひ神?」

「人間を迷わせる妖怪で、一説によると道に迷ってそのまま果ててしまい、成仏せず同じ道連れを探している人間の魂、と言われておるの」

 

 つまり、妖怪の特徴としては人の道に迷ってしまい、他者を自分と同じところに引きずり込もうとするというところか。

 うーん、清水さんは思い当たる節があるから理解出来るけど、どうして真面目な久保君まで同じ召喚獣なんだろう? 

 

 

 

「者共! 一斉に久保利光にかかるのです!」

『『『おおーーっ!!』』』

「来るなら来い! 僕は絶対に負けない!」

 

 

 ゾンビ軍団&迷ひ神 VS 迷ひ神の戦いが始まった。

 

 久保君の迷ひ神がゾンビの群れに襲いかかり、清水さんの迷ひ神率いるゾンビ軍団がそれに対抗して叩き、噛みつき、引っ掻く。

 それによってゾンビの四肢がちぎれ、肉が飛び散り、緑色の汚い血があたり一面に飛び散る。その光景はまるでバイオハザードのラクーンシティを彷彿とさせた。

 

 

「「「きゃぁああああーっ!」」」

 

 

 姫路さんや美波はもとより、クラスにいた他の女子生徒達も悲鳴があがる。まあ、グロテスク過ぎて普通の女の子にはキツいよね……。

 

 

 

「あ、雄二テメエ! それは俺が狙ってたスマッシュボールだぞこの野郎!」

「んなモン知るか! こういうのは早い者勝ちなんだよ―――ってうぉおいムッツリーニ! なんつうタイミングでスマートボム投げてくれてんだ! 解除されちまったじゃねえか!」

「……………油断した方が悪い(ニヤリ)」

「人間の屑がこの野郎……!」

「いいな! やっぱり戦いってのはこうでなくっちゃ面白くねえ!」

 

 

 

 向こうは向こうで別のことで盛り上がっているようだ。

 

『こ、こっちに来ないで!』

『大丈夫かミホ!? チクショウ、俺の彼女をよくもビビらせてくれたな!』

『彼女だと……? コイツ今俺の彼女って言ったぞ! 裏切り者だ!』

 

『『『殺せぇえっ!!』』』

 

 あっという間に広がる混乱の輪。

 今やこの教室は阿鼻叫喚ただよう妖怪&スマブラ大戦現場と化していた。さすがに騒ぎすぎだ、そう思った時、

 

 

 

 

バンッ!

 

「「「お前らうるせぇんだよ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

『『『え?』』』

 

 

 いきなり誰かが大声で怒鳴り込んできた。

 それにより全員(スマブラ連中は除く)がピタリと戦いと騒ぎを中断して、声のした方を見る。

 

「騒がしいと思ったらやっぱりまたお前か! 吉井!」

「お前はつくづく目障りなヤツだな……!」

 

「あ、貴方達は! ―――あ、ああ……えっと、誰だっけ?」

 

「「うぉおい!!?」」

 

 名前がすぐに出てこない。ええっと、顔は見たことあるんだけどな……。

 

「常村と夏川だ! 名前くらいしっかり覚えとけ!」

「常村と夏川……、ああ。あの変た―――変態先輩でしたっけ!」

「全然違ぇよ! つうか今言い直そうとして途中でやめたよな! お前俺達を心の底から変態だと思ってんのか!」

「いや全く。ブラジャーを頭に被ってた変質者ぐらいにしか思ってないですよ」

「なんでそういう事だけはしっかり覚えてやがんだ!? つうかアレは俺じゃなくてお前らのせいだろ!」

 

 そうだそうだ。ようやく思い出した。

 清涼祭で僕らの中華喫茶に根も葉もないクレームをつけて凛花さんにボコられ、Aクラスの妹メイド喫茶では大悟と雄二にボコられ、最終的には召喚大会の決勝で僕らに勝利をくれた二人組じゃないか。懐かしいなぁ。  

 

「それで常夏先輩。どうしたんですか?」

「テメエ……名前を覚えられないからってまとめやがって……!」

「さすがは吉井だ。脳みその容量がチンパンジーレベルだぜ」

 

 なんて失礼な。

 

「っていうかお前らさっきからギャーギャー喧しいんだよ! 俺達への当てつけかコラ!」

「夏期講習に集中出来ねえだろうが!」 

 

 他の三年生達も「そうだそうだ」と騒ぎ立てる。

 なんだか殺気立って見えるのは、受験勉強でピリピリしているからだろうか。そんな時にぎゃあぎゃあ騒がしくされたら怒るのも無理はない。ここは僕らに非があるのだから素直に謝っておくのが得策だろう。

 

「すみません。まさか上の階まで響いてるとは―――」

 

 

「ああっ!! チクショウ!! 同志に復帰邪魔されたぁ! 残りストックもう一機しかねぇよ!」

「ムッツリーニ……テメエまさかこのゲーム、こっそりやりこんでやがったな!」

「答える必要は無い(キリッ)」

「クソオッ! 俺が一抜けかよ!」

 

 

 ……………。

 

 

「……まさか上の階まで響いてるとは―――」   

 

 

「よっしゃあ!! ここからは三つ巴の戦いといこうじゃねぇか雄二、同志! 泣いても笑っても勝者は一人だ!」

「……………受けて、立つ……っ!」

「上等だ! 二人まとめて吠え面かかせてやるよ! 覚悟しやが―――」

 

 

 ブチッ

 

「いつまでやってるんじゃぁああああっ!」

 

 

「「「ああっ!!?」」」

 

 召喚獣でバカ四人の方角に向かって全力タックル。

 システムデスクごとゲーム機をぶっ飛ばした。

 

「おい明久。いきなりなんてことしやがる」

「……………折角盛り上がってたのに」

「男の勝負に横槍を入れるなんて無粋なヤツだな」

「黙れバカ共! 呑気にゲームなんてやってる場合じゃないだろ! 状況を見ろ状況を!!」

「「「状況?」」」

 

 僕の言葉に、ようやくコントローラーを置いて周囲の様子を見回す雄二、大悟、ムッツリーニ。

 

「おい明久。なんで三年がこんなところにいるんだ?」

「それになんか揉めてるっぽいけどよ」

「…………何かトラブル?」

「実はかくかくしかじかで」

 

 僕は三人に事の顛末を説明した。

 

「なるほどな。俺達のバカ騒ぎに怒って乗り込んできたと」

「そうなんだ」

「ハッ、そりゃまた随分と酷い言いがかりじゃねぇか」

「え?」

 

 雄二の発言に首を傾げる。

 言いがかり? どういうこと?

 

「確かに俺達が騒がしかったのは認める。けどここは新校舎だ。古くてボロい旧校舎ならともかく、試召戦争という騒ぎを前提としてつくられた建物で、下の階の騒ぎ声程度が上の階の戸を閉めた教室にまで届くワケがない」

 

 あ。言われてみれば確かに。

 普通の学校でさえもそういう音が漏れにくい作りになってるもんね。

 

「? つまりアレか。この三年共は難癖でもつけにきたのか?」

「だろうな。大方、その夏期講習とやらに飽きてフラフラしてるところで俺達二年が楽しそうに騒いでるのが気に入らなくて、八つ当たりしにきたってところじゃないか?」

「「……………っ!」」

「その反応、図星みたいだな」

 

 雄二がそう三年生に言い放つ。

 常夏コンビや他の三年はバツが悪そうに目をそらした。

 

「それで、何か弁明はあるか先輩よぉ」

「ご、ごちゃごちゃうるせぇ! それじゃあ逆に言わせてもらうが坂本! お前らは迷惑極まりないんだよ! 学年全体の覗き騒ぎに、挙げ句の果てには二年男子が全員停学だって!? お前らのせいで俺達三年までバカだと思われたらどうしてくれんだ! 内申に響くじゃねぇか!」

「だいたいお前ら二年は出来の悪い連中が多すぎんだよ。観察処分者にA級戦犯に元囚人のキモオタ野郎。学園祭で校舎を花火で破壊したのだってそこのクズトリオだしな」

「だってさ雄二、大悟。謝りなよ」

「は? お前と大悟のことだろ」

「いいや違うね。明久と雄二が言われてんだろうよ」

「お前ら三人ともだ」

 

 

「「「嘘だッッッ!!!」」」

 

 

「いや当然だろ」

「むしろお前ら以外にいねぇよ」

 

 思わずひぐらしのレナちゃんみたいな反応をしてしまった。

 待ってくれ。こんな人でなしとキモオタが僕と同列だって? 実に不愉快極まりない。どうやらこの先輩達、人を見る目はあまり無いようだ。

 

「フッ、やれやれこの俺も下に見られたものだ。こんなカス共と一緒にされるなんてよ」

「分かるぜ。俺もお前らみたいなゲス共と一括りにされるとストレスで禿げそうになる」

「そうだよね。君達のような人間の底辺を体現したような存在と一律にされるとか、自分で頸動脈を切って死にたくなるくらいの屈辱だよ」

 

 

 

「「「…………!!!(ゲシゲシゲシゲシ)」」」

 

 

 無言でガンを垂れ、それぞれの足の脛を蹴り合う僕ら。

 ええい往生際の悪いヤツらめ! どうしてそう自分達の事を素直に客観視出来ないんだ! そんなんだからいつまでたっても他人からバカ扱いされるんだよ! by 観察処分者

 

「美春もこのブタ野郎は気に入りませんね!」

 

 いつの間にか近くに来ていた清水さんが僕にだけ蔑むような視線を送りつつそう言い放つ。うう、やっぱり嫌われてるなぁ……。

 

「おお。そこの縦ロールは話せるみたいじゃねぇか」

「黙りないブタ先輩。気安く話しかけないでくれますか。家畜臭いですっ!」

「いいぞ。もっと口汚く罵ってやるがいい清水」

「わかりました先生! さっきから聞いていれば美春達人間様に対して日本語を使っているようですが、不敬も甚だしい! お前らみたいなブタはそこの吉井明久と一緒にさっさと人里離れた家畜小屋で屠殺されて出荷されて食卓で残されて最後には肥溜めに生ゴミとして捨てられるのがお似合いですね! 分かりましたかこの人間の姿形をしたゴキブリ以下のキ○ガイブタ! お前らといると鼻がもげるぐらい臭っせぇんですよ!! はい! 屠ー殺♪ 屠ー殺♪(パンパン)」

「屠ー殺♪ 屠殺っ♪(パンパン)」

 

 

「「T、O、S、A、T、U、TOSATU♪ T、O、S、A、T、U、TOSATU♪ 屠ー殺っ♪ 屠殺屠ー殺、解体♪ 屠ー殺っ♪ 屠殺でグロテスク~♪♪(タンタンタンッ)」」

 

 

「っ、ンメェら……!!!(ギリギリ)」  

 

 どこからか取り出したタンバリンを叩きながら、Va○illaのリズムでテンポよく常夏コンビをけなし尽くす清水さんと大悟。にしてもVa○illaって……また随分とマニアックな曲のチョイスだなぁ……。確かにあの曲、不思議と一度聞いたら頭に残るけどさ。

 

『そうだそうだ! さっさと帰れ!』

『何が先輩だ! ただ一年早く産まれたってだけだろ!』

『失せろ! 小暮先輩だけ連れてきてそれ以外は失せろ!』

 

『ンだと二年コラァ!』

『覗き魔共が調子に乗りやがって! 第一お前らなんかに小暮は不釣り合いなんだよ!』

『礼儀ってもんを教えてやろうか!』

 

 

 清水さんを皮切りに二年(主にFクラス)と三年が一触即発の雰囲気と化す。

 ああ、これらまた一争い来そうだな。そう思った時、

 

 

 

「そこまでにしときな、ジャリ共!」

 

 

 

 

「「―――あ?」」

「あ、学園長」

 

 そこに現れたのは白髪の山姥―――じゃなく学園長だ。

 

「なんだババァ。何しに来やがった」

「学園長と呼びなクソガキ」

 

 雄二の罵倒を意に介さず、学園長は続ける。

 

「やれやれ……。肝試しの準備がどこまで進んでるかと様子を見に来てみれば……本当にトラブルの絶えない連中だねアンタらは」

「トラブルっつうか、向こうが勝手に俺らに喧嘩売りに来ただけっすけどね」

 

 確かに。

 

「でも学園長! コイツら先輩への態度ってもんがまるでなってなくて―――」

「黙りな。夏期講習をサボって後輩の行事につまらない茶々を入れるようなヤツが偉そうに態度がどうとかなんてほざくんじゃないよ」

「うぐっ……」

「人の事をとやかく言う前に、まず自分の行動を省みるこったね。それが出来ないようじゃ、いざ大学生になった時に大きく恥をかくことになるよ」

 

『『『……………』』』

 

 一気に押し黙る先輩方。

 さすがベテランの教育者だ。言葉の重みが違う。

 

「……けど、ずっと机に向かって勉強漬けで、鬱憤が溜まってるのも分かるね。少しくらいは息抜きが必要だろう―――よし、決めたよ」

「?」

 

「今回の肝試し、三年にも参加してもらおうじゃないか」

 

「「は?」」

『『『えっ?』』』

 

 突然の提案に、その場のほぼ全員が聞き返す。

 

「三年生にも肝試しに参加してもらう……ですか?」

「ああ。こんなところでつまらない小競り合いをして後々余計なトラブルを起こされても困るからね。だったら休息も兼ねて、そうした方が有意義に時間を使えるってもんだろう」

 

 そう言って学園長が常夏コンビに目を向ける。すると二人は心の底から嫌そうな表情を見せて答えた。

 

「冗談じゃねぇ。こんなクズ共と仲良く肩を並べて肝試しなんかやってられるか」

「だよな。胸糞悪い」

「悪いけどこれは決定事項さ。明日の夏期講習と補習の最終日は二・三学年合同の肝試しにするよ」

「「な……っ!?」」

「もちろん補習と講習の参加者は原則全員参加だよ。これはあくまでも授業の一環だからね。いいね。じゃあ、あとは頼んだよ」

 

 そう告げると、学園長は満足したように颯爽と教室を出ていった。

 

「なんだか、どんどん面倒なことになってるね」

「全くだ。だがこうなったら仕方ねぇ……そういうワケでセンパイ。楽しくやろうぜ?」

「うるせぇ! お前らなんざと仲良くするなんざご免だ!」

「だろうな。俺達もアンタらは気に食わねぇ―――ってことで、こういうのはどうだ?」

「あぁ?」

「驚かす側と驚かされる側に分かれて勝負をする。適当な罰ゲームでもつけてな。これならわざわざ仲良くする必要も全くないし、手っ取り早く勝敗をつけられる。良い案だろ?」

 

 確かにそれなら無理して仲良くする必要はない。更に溝は深まるとは思うけど。

 

「それで、どっちがお化け役をやるかだが―――」

「決まってら! 当然俺達だ!」

「お前らにお灸を据えてやらなきゃならねぇからな」

「ああ。別にそれで構わない」

「決まりだな。それで、ルールと罰ゲームの詳細は?」

 

 坊主先輩が聞くと、雄二は制服の懐からプリントを取り出した。既に今回の肝試しのルールを考えておいてくれたらしい。

 僕も常夏先輩同様、それを受け取って中身を確認する。

 えーっと、どれどれ内容は――

 

 

 ~~肝試し、ルール~~

 

 ①原則二人一組で行動する。尚、一人になっても失格にはならない。

 ②二人のうちのどちらかが悲鳴をあげてしまったら、両者ともに失格とする。

(悲鳴の大きさがマイクで拾える音声の一定値以上になった時点でアウト)

 ③チェックポイントはA~Dの各クラスに一つずつ。合計四ヶ所とする。

 ④チェックポイントでは各ポイントを守る代表者二名と召喚獣で勝負し、撃破でチェックポイント通過となる。

 ④一組でもチェックポイントを全て通過出来れば驚かされる側、通過者を一人も出さなければ驚かす側の勝ちとする。

 ⑥驚かす側の一般生徒はあくまでも驚かすだけにし、召喚獣でのバトルは行わない。

 ⑦立会人の教師は各クラスに一名ずつ配置する。

 ⑧通過の確認用として驚かされる側はカメラを用意する。

 

 

 

「へぇ~。結構凝ったルールだね。面白そうだよ」

「あとはこれに設備への手出しを禁止するって項目を追加する予定だ。ババァがうるさそうだからな」

 

 確かに、それは僕も激しく同意する。

 

「坂本。このチェックポイント毎の勝負科目はどう決める?」

「それについては既にこっちの方で決めさせてもらった。安心しな、ちゃんと有利不利がないように、受験で使うであろう科目がほとんどになってる」

「そうか。それならいい」

「坂本よぉ。それよりさっさと負けた側の罰を聞かせろよ」

 

 

 坊主先輩がいやらしい笑みを浮かべて言う。あの顔はなんとしても僕らをはめてやろうって顔だ。

 

「そうだな。じゃあ負けた側は二学期にある体育祭の準備や片付けを相手の分まで引き受ける、ってことでどうだ?」

「体育祭の準備と片付けだぁ? おいおい坂本。お前にしちゃ随分とヌルい提案じゃねぇか。さてはテメェ、勝つ自信がねぇな?」

 

 確かに、雄二が提案したにしては簡単すぎる罰ゲームだ。てっきりもっと凄いものを想像してたんだけど。

 

「―――ああ、俺も先輩と同意見だ」

「ん?」

 

 すると、大悟が坊主先輩に乗っかる形で口を開いた。その事に雄二が少し驚いたような顔をして聞き返す。

 

「なんだ大悟。これじゃ不服だってのか?」

「いや不服も何も、()()()()じゃ罰ゲームにならないだろって言ってるんだ」

「何だと?」

「いいか雄二。罰ゲームってのは互いが絶対にやりたくないと思わせるほどの“恐怖”と“衝撃”を備えていることが必要だ。たかが学校行事の準備とか片付けのパシりぐらいじゃその条件をほとんど満たせていない。どうせやるんならよ……もっと徹底的にいこうぜ。ちょっと待ってろ。同志、悪いが運ぶの手伝ってくれ」

「……………もしかして同志。例のアレをここで使う気か?」

「おう。その方が罰ゲームとしては最高にハードで面白ぇだろ」

「……………確かに(コクリ)」

 

 大悟とムッツリーニがそんな会話をしながら教室を出ていってしまう。

 なんだろうと疑問に思いつつ、しばらく待っていると、

 

 

 ガラッ

 

「おまっとさーん」

「……………お待たせ」

 

 ガラガラガラ

 

 やけに大きな台車を押して二人が帰ってきた。

 その台車の上には―――一本の角ばった柱にレバーのついたメーター、それとハンマーのついた大きな振り子が装着されているという、見たことのない謎のマシンが乗っかっていた。なんだあれ……?

 

「…………初お披露目。心が踊る」

「俺もだぜ。てことで待たせたな野郎共。コイツこそ俺とムッツリーニで秘密裏に開発した最大最強の罰ゲーム装置。その名も―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――シャルピー衝撃試験マシンだ」

 

 

 

 

 




次回、この場にいる誰かのムスコが死にます。


感想、意見などありましたらよろしくお願いいたします。

原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ

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