バカとオタクとリーゼント   作:あんどぅーサンシャイン

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バカテスト 
問 人類の三大タブーと呼ばれるものを答えなさい。


姫路瑞希の答え
『①近親婚
 ②殺人
 ③カニバリズム』

教師のコメント
正解です。姫路さんに限っては心配はないと思いますが、絶対にこれらに手を染めてはいけませんよ。


土屋康太の答え
『①スカートの下にジャージ
 ②露骨な見せパン
 ③必要以上に盛った胸パッド』

教師のコメント
問題の答えとしては論外ですが、気持ちはわかります。


岡崎大悟の答え
『①さよならを教えて 
 ②ジサツの為の101の方法
 ③終ノ空』

教師のコメント
分からないからと言って三大電波ゲーを書き連ねるのはやめましょう。


吉井明久の答え
『①傲慢
 ②怠惰
 ③憤怒』

教師のコメント
あ○ない刑事ですか。



第七十六問 Shall we シャルピー?

 

 

 ―――side 明久。

 

 

 

『なんだありゃ……?』

『し、シャル、ピー……えっと、なんだって?』

『なんか凄そうな感じがするな』

『兄貴と土屋、何をするつもりなんだ?』

 

 

 

 クラスメイトだけでなく、その場にいた皆がどよめきだす。

 当然だ。いきなり教室を出ていったかと思えば、あんな仰々しい機械のような装置を携えて戻ってきたのだから。あまりにも予想外過ぎて困惑してしまうのも無理はない。

 そんな僕らの雰囲気をよそに、大悟が言う。

 

「さてまずお前ら。そもそもシャルピー衝撃試験ってものが何だかわかるか?」

 

 もちろんNO。聞いたことすらない。

 

 

「ふむ、シャルピー衝撃試験……確かフランスの技術者ジョルジュ・シャルピーによって考案された実験だ。角柱状の試験片に対して高速で衝撃を与えることで試験片を破壊し、破壊するために要したエネルギーと試験片の靭性を算出するというものだろう? 岡崎君」

「ハハ、さすがだな久保。その通りだ」

 

 

 隣にいた久保君の答えに僕は小さくおお、と声を漏らした。

 さすが学年次席。その称号を持つに相応しい博識っぷりだ。僕にはさっぱりわからないけど。

 

「そしてこれは今久保が説明したシャルピー衝撃試験を行う為の装置―――を、俺と同志の手で多少のアレンジを加えつつ、限り無く忠実に再現した代物になっている」

「……………出来映えはかなり、いいと思う(コクリ)」

「え? これ全部二人で作ったの?」

「おう。製図から部品加工、組み立てその他諸々だ。ま、もちろん専門の人間から技術と知識をちゃんと教わってからだけどな」

「……………かなり頑張った」

 

 自慢気にそう語る大悟とムッツリーニ。

 職人気質で手先が器用なのは知ってたけど、まさかこんな精密そうな機械を一から作り上げてしまう程に優れているとは思わなかった。

 

「でもさ、なんでこんなものを作ろうと思ったの?」

 

 

「そりゃあお前、俺達の活動を邪魔する輩の始m―――(ゲフンゲフン)ものづくりへの探求心だ」

「…………みー、とぅー(コクコクコクコク)」

 

 

「どうせそこまで言ったなら最後まで言い切りなよ。あとムッツリーニ。その相槌はタイミングが遅すぎて全く意味を為してないからね」

「……………っ!?(ブンブン)」

 

 うん。コイツららしい、キチンとしたゲスな理由だった。

 

「おい岡崎。余計なこと喋ってねぇでさっさと説明を続けろ」

「ん? おっと、そいつはすみませんね」

 

 坊主先輩に言われ、大悟が再び皆に向き直る。

 

「まずこの装置の使い方だ。まずはコイツをな―――」

 

 大悟が説明を始めた。

 その使い方が、

 

 

 ①レバーを引き上げ、ハンマーを所定の位置に持ち上げる

    ↓

 ②ハンマーを落下させる

    ↓

 ③振り上がりの高さを測定する

 

 

 

 こういう感じだ。

 

 

「―――とまぁこんな感じだ。試験片が無いだけでほとんど本家の使い方と一緒だ」

 

 いや変わらないと言われても、そもそも本家を使った事がないんだけど。

 

「どうすか、先輩ら」

「思ったよりは単純なんだな」

「ああ。もっと複雑な使い方をすると思ってたが。中身は高校レベルの物理学と変わらねぇな」

「一応目的は罰ゲーム用っすからね。わざわざそれに不必要な機能を付けるワケがねぇでしょ。時間も予算もねぇし」

 

 あ、これポケットマネーで作ってるんだ。

 

「んで、コイツでどう罰ゲームをやるんだ?」

「まさかこれで仲良く物理のお勉強をしましょうってワケじゃねぇんだろ?」

 

 常夏コンビが大悟に次々と聞く。

 対する大悟は、もちろんと返しコクリと頷いた。

 

「じゃあ実際にやってみるか―――雄二、これを」

「ん?」

 

 

 ポフッ

 

 

 大悟が雄二に何かを投げ渡した。それは―――枕サイズのクッションと紐?

 

「おい大悟。こんなもの何に使うんだよ」

「いいからそのクッションを腰に巻いてセンサーのあるあそこの位置に立て」

「?」

 

 首を傾げながらも、雄二は大悟の言う通り、クッションを紐で腰の位置に巻き付けて装置のハンマーとちょうど対面になる場所に移動した。

 

 

「立ったぞ。次はどうす―――」

 

 

 ガシャン!

 

 

「―――は?」

 

 

 ガシャン! ガシャン! ガシャン!

 

 

「「「―――へ?」」」

 

 急に装置から鎖のようなものが飛び出し、雄二の手足をガッチリと固定した。え、なにこれ?

 

「……………準備完了(コクリ)」

「悪いな雄二。ちょっとばかし大人しくしててもらうぞ」

「……は? おいちょっと待て大悟、ムッツリーニ! なんだよこれ!」

「いやー、助かるぜ。実はまだコイツ作ったばっかでテストプレイしてなくてよ。どのくらいまでの強さと速さまでなら対象物が耐えれるかとか、そういうデータも何も無くてよ。せっかくだからデモンストレーションも兼ねて今取らせてもらうぜ」

「……………一石二鳥」

「話聞けよコラ! テメェら、俺に何をするつもりなんだ!?」

 

 がなりたてる雄二を無視し、こちらに顔を向ける大悟とムッツリーニ。

 その表情は怪しげな微笑を浮かべ、どこか楽しそうな目つきをしている。僕は知っているぞ……ああいう顔をする時の二人は―――何かとんでもない悪巧みをしているとっ!

 

「さて先輩方。そして野郎共。本格的な罰ゲームの説明だ」

「お、おぅ」

「まず罰ゲームを受ける人間をこうして装置の前に立たせ、手錠と足枷でしっかりと固定する。絶対に逃げれないようにな」

 

 

 なるほど。固定された雄二に腰回りのクッション。そして目の前にはとんでもなく重そうなハンマー。にしてもあのハンマー、あんなのが当たったらとんでもなく痛いだろうなぁ……………ん? 

 

 

 ……………おい待てよ。嘘だろ。まさかアイツら……!

 

 

「そして罰ゲームを与える人間が装置のレバーを操作し、ハンマーを好きな高さまで吊り上げてロックをかけて固定する。そして最後に、レバーの先端についてるこのスイッチを押せばロックが解除され、ハンマーが重力に従って振り子のように落下する。するとどうなるか―――」

 

 

 

 

 

 

 

「重力と質量と自由落下による加速によってパワーアップしたハンマーが―――対象者の股間を直撃する(ニヤリ)

 

 

『『『フザけんなぁぁあああーーーーっ!!!』』』

 

 

 

 思わず僕と雄二、そして常夏コンビが同時に叫んだ。

 やっぱりそうか!! さすがの僕でもこの条件下ならどんな罰が執行されるのかは容易に想像が出来た! コイツら、なんて恐ろしい事を考えやがるんだ……!!

 

「よし、説明も終わったし、早速テストを」

「待て待て待て!!! ちょっと待ちやがれ岡崎!!!」

「あ? なんすか。何か質問でも?」

「質問どころか文句しかねぇよ!!! 岡崎テメェ! それはどう考えても罰ゲームの範疇を明らかにこえてんじゃねぇか!! あんなモン、人間の股間程度で受けられるワケがねぇだろ!!!」

 

 坊主先輩の言う通りだ。

 あんなハンマーをマトモにくらおうものなら、睾丸どころか下半身の骨もろとも確実に粉砕されることだろう。

 

「大丈夫大丈夫。死にはしないから多分」

「……………仮に金玉が潰れても、激痛と恥辱と男としての尊厳を激しく失うぐらいで済む。どこにも問題はない」

「それが問題だっつってんだよ!!! 万が一これのせいで股間が再起不能にでもなったらどうしてくれるんだ!!?」

「「……………?(キョトン)」」

「「ハッハッハ―――」」 

 

 

 

「「―――それがどうした?」」

 

 

 

「「うおぉぉい!!?」」

 

 こ、コイツら……なんて澄んだ瞳を……!? 男にとって最も大切な身体の部位を容赦なく奪い去ることに対して、なんの罪悪感も疑問も浮かんでいないというのか!? サイコパスだってさすがにこんな悪逆非道じゃないぞ……!

 

「おい大悟! ムッツリーニ! さすがにこれに関しては俺もあのセンパイらと同意見だ! 芸人でももっと優しい難易度でやるぞ!」

「そうだよ大悟! これじゃ罰ゲームじゃなくてただの公開処刑だよ!」

「ハッハッハ。ノープロブレムだ。罰ゲームってのはこれくらいのスリルがあるぐらいがベストなんだよ。それにな―――」

「「それに?」」

 

 

 

「―――どうせお前らに股間(ソレ)を使う機会があるワケでもねぇ(ニヤニヤ)」

 

 「「喧嘩売ってんのかゴラ」」

 

 

 

 これほどまでに僕の怒りと憎しみを呼び起こした発言が今まであっただろうか。

 

 

「んじゃ、これで罰ゲームはいいかい先輩方」

「フザけんな! こんなモンやるワケねぇだろ!」

「全くだ。イカれてるぜ」

「ふーん、そうか。ならいいぜ。その代わりアンタらが清涼祭で竹原とつるんで学園乗っ取ろうとした事、包み隠さずバラさせてもらうわ」

「……………証拠の写真と音声も、しっかり残ってる(スッ)」

「「なっ!!?」」

「あ~あ~。かわいそうだなァ~。この時期にィ、そんな暴露されちゃったらァ、内申どころの話じゃないなァ~wwwもしかして停学かぁ? いいや、最悪学校を辞めさせられちゃうかも知れないなァ~wwwそうなったらお先真っ暗だなァ~人生台無しになっちゃうなァ~wwwwwwだ、け、どぉ~もぉ~し罰ゲームの内容に賛同してくれるんならァ~綺麗さっぱり、水に流しちゃおっか、ぬぁ~~~!!?」

「……………同じく(フッ)」

 

「「こ、このクズ野郎共がァ……!!」」

 

 大悟のウザい顔とバカにしたような言い方に青筋をピクピクと目尻に浮かべる常夏コンビ。

 なんだろう。少しだけあの二人に同情の念を感じる。

 

「あとは明久と雄二。お前らだ」

「「絶対に断る!」」

 

 誰が進んで金玉を犠牲にするものか!

 

「え、やらんの?」

「「やるワケないだろ!」」

「……………本当に?」

「やらねぇの?」

「しつこいな! だからやらないって―――」

 

 

 

 スッ←(僕が凛花さんと野球拳をしてる時の写真(両方ともほぼ全裸))

 スッ←(雄二が天ちゃんとイッキ飲み対決をしてる時の写真(両方とも完全なる全裸))

 

  

 

「「……………」」

「「本当の本当の本当に?(ニヤニヤ)」」

「「……や、やり……………ます……!!(ギリギリギリ)」」

 

「「よろしい」」

 

 口から血の味がするぐらい下唇を噛み、クズ二人に対しての怒りを抑える。

 よし、コイツら後で絶対に惨たらしくシバき殺してやる。

 

「よし。全員の了承も得たところで、早速俺達二年を使ってテストプレイに入るぞ」

「クソ、なんで俺らがこんな目に……!」

「そうだよね。せめて最後まで雄二の股間がもてば良いんだけど……」

「ああそうだな―――ってうおぉぉい!? なんで俺が全部引き受けるみたいな感じに言ってんだ!? せめて全員で一回ずつだろ!?」

 

 そんなの決まってる。僕が受けたくないからだ。

 それに雄二の方が僕よりも股間頑丈そうだし、いけるいける。

 

「ちなみにテスト回数は4回だ」

「え、そんなにやるの?」

「ああ、しっかりしたデータがほしいからな」

 

 大悟いわく、こんな感じでいくらしい。

 

 

 

 

 一回目:データが無い為、とりあえず一番高い位置から落とす。

 

 二回目:一回目のデータと相手の反応を元にし、位置を下げて落とす。

 

 三回目:二回目のデータも考慮した高さで落とす。

 

 四回目:三度のデータを用いて、ギリギリの高さで落とす

 

 

 

 

 ふむ、なるほど。ということはつまり……

 

 

((((―――一回目は確実に死ぬ!!!))))

 

 

 なんとしてでも一回目にくらうことだけは避けなければ!

 

「うし。じゃあ準備が出来てる雄二から」

「そうだね」

「……………わかった」

「待て待て待て!! 勝手に決めんな!」

  

 雄二が手錠の鎖をガチャガチャと揺らしながら抵抗する。

 

 

「なら俺より三次元(現実の女)に興味の無い大悟の方が適任だろ!! 股間を失ったところで大して現状は何も変わらねぇ!」

「あ、それは確かに一理あるね」

「……………(コクリ)」

 

 大悟を見る。するとヤツはやれやれ、といった感じで肩を竦めて見せた。

 

「何を馬鹿なこと言っているんだ雄二よ。いいか? 俺の股間は大事なんだ」

 

 

 

「―――俺をお兄様と慕う我がマイエンジェル葉月ちゃんの為にも」

 

 

 

「よし、コイツからにしよう」

「……………異議なし(コクコク)」

「犯罪に走る前に僕らの手で破壊しておくべきだね」

 

 

 あんな可愛らしい葉月ちゃんの輝ける未来をこんな俗物によって汚されるなどあってはならない。

 社会と島田家の秩序と平和の為、コイツには今ここで男として死んでもらおう。

 

「よし、ムッツリーニ。鍵を外してくれ」

「……………ああ(ガチャガチャ)」

「助かった―――よしお前ら、早速ロリコンを捕らえて処刑するぞ!」

「や、やめろ! 離しやがれ!」

「うるさい! 誰がやめるかこの性犯罪者予備軍め! 大人しく粉砕されろ!」

「それが世の為人の為ってモンだ!」

「いやだぁぁあああっ!!!」

 

 僕ら三人がかりで拘束しようとするも、大悟はやられまいと激しく抵抗する。

 クソっ、相変わらず力だけは強いなこのキモオタめ! 

 

 

「ま、待てお前ら! なら真っ先に明久をやるべきだと思うぞ!」

「あん?」

「……………その理由は?」

 

 

 僕の方を見て大悟がニヤリと笑う。

 ハッ、嫌な予感っ! だがそうはさせるかっ!

 

 

 

「いずれコイツはその男根を使い、姫路と島田に手を出―――」

 

 

 

「爆ぜろ!!(バチバチバチ)」

 

 

 

「あべらっ!!?」

 

 

 

 

 バタッ……

 

 

 ふぅ、危なかった。

 念のために改造済みスタンガンを山下くんから借りておいてよかった。

 

 

「さ、大悟も同意したことだし、実験に入ろうか(ズルズル)」

「お、おう」

「……………明久。存外に鬼畜」

 

 ハッハッハ、気のせい気のせい。

 

 そして大悟が気絶して動けなくなっている間に、所定の位置まで引きずってクッションと手錠と足枷を装着させた。よし、これでオーケーっと。

 

 

「―――っ! おい、テメェら待て! コイツを解きやがれ!」

 

 

 チッ、目覚めてしまったか。けど残念、時すでに遅しだ!

 

 

「それじゃあ二人とも、実験の準備を急ぐよ!」

「「おうっ!」」

「待て! いいから一旦俺の話を聞け! 実は俺は―――」

「明久! 測定準備完了だ! レバーの角度、高さ共に最大値にセット!」

「……………機材の不調なし。いつでもいける……!」

 

 

「よしいくぞ、実験開始!!」

 

 

「おう!! 落下スイッチ―――ON!!」

 

 

 

 ポチッ

 

 

 

「やめろ! よせ! 早まるなぁああああ!!!」

 

 

 

 

「一同、英霊岡崎大悟に対し敬礼!!!」

『『はい!!』』

 

 

 

 

 

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーっ……………!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――一回目、測定終了。

 

 

 

「170度は高すぎたみたいだな」

「そうだね。もう少し低くしてやってみようか」

「……………(コクリ)」

 

 

「……!! ……………!!!(ビクッビクッビクッビクッ)」

 

 

 大悟の文字通り身体を張った犠s―――測定のおかげで、中々に良い結果が取れた。

 このデータを基準として今後は進めていこう。

 

「さて、次は誰がいこうか?」

「そうだな。なら―――」

 

 

「ま、待ちや、がれ……! テメェ、らァ~……!(プルプルプル)」

 

 

「ん?」

 

 あ、生きてた。

 でも今までにないくらい表情が苦悶に歪んでいてとても痛々しい。いや実際かなり痛かったんだろう。ハンマーが股間に当たった瞬間グシャリっていう生々しい音もしてたし。

 

「どうしたの、大悟。キツいならそこで寝てて良いけど」

「いいや、その必要はない……それよりも、だ……次の……被験者は……俺に選ばせろ……!」

「なに?」

「俺にはその権利がある……! 次の実験台は―――」

 

 大悟が一点を見つめる。

 その視線の先には―――ツンと逆立った赤い髪が特徴の悪友がいた。

 

 

 

「―――お前だァっ!!!」

 

「「よし、任せた」」

 

「なぁああっ!!!?」

 

 

 

 二番手は雄二で決定だ。

 

「待て待て待て!! あんなモン見せられてそんなすんなり出来るワケねぇだろ! せめてじゃんけんとかくじ引きとかで後腐れなく決めようぜ!」

「なに言ってるのさ。偉大なる英霊の直々のご指名に背くなんて許されないよ」

「……………黙って従え。雄二に拒否権はない」

「このゲス野郎共がぁ!」

 

 なんと言われようがこれはもう決定事項だ。

 雄二には大人しく生n―――いや実験台となってもらう他ない。

 

「大悟! 俺達友達だよな! 何とか言ってやってくれ!」

「……フッ、お前ならそうゴネると思ってたぜ雄二。安心しろ。実は今まで黙っていたんだが俺はな―――とある物を持っている」

 

 

 そう言って大悟が取り出したもの、それはクリップで留められた髪の束だ。

 

「本当のシャルピー衝撃試験の結果を纏めたレポートだ。特別にコイツを使って雄二は測定しよう」

「え、そんなものあったの?」

「ああ。大学の知り合いのツテを使って入手したもので見ろ。計算式もバッチリこの通り書いてある」

 

 レポートを受け取って中身を拝見すると、確かにそこには難しそうな数字や記号を用いた計算式が羅列して書いてあった。

 どうやらコレは言葉通りの本物みたいだ。

 

「つまりこの書いてある通りにやれば……」

「無事で済むってことか! それは助かるぜ大悟!」

「……おう」

 

 思いがけないブツの登場に、雄二が安心したような表情を浮かべる。

 なんだぁ、雄二だけそんなもの使えるなんてずるいじゃないか。

 

 そう思いながら、雄二を装置に拘束する。

 

「このレポートだと、高さは138度っていう答えだね」

「……………このくらい?」

 

 ムッツリーニがレバーをあげる。

 

「結構高ぇんだな」

「お、おい大悟。大丈夫なのか? さっきと大して変わらない気がするんだが……」

「大丈夫だ。ちゃんと向こうの教授の添削も入ってるからな」

「そ、そうか。ならいいんだが……」

 

「じゃあいくよー。スイッチオン」

 

 

 カチッ

 

 

「ちなみに雄二」

「あん?」

「このレポートなんだが……教授からの添削結果はこうなっている」

 

 

『大間違い!! 再提出!!』

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――二回目、測定終了。

 

 

「俺は正しいレポートだなんて一度も言った覚えはない」

「うん、確かに言ってないね」

「……………嘘はついていない」

 

「……!! ………!!!(ビクッビクッビクッビクッ)」

 

 測定の結果、二回目も一回目と対して変わらなかった。しっかりと股間から破裂音はしたし、雄二もちゃんと死にかけてる。

 

「それで、三回目の被験者はどっちだ」

「ムッツリーニからだよね?」

「……………いいや、明久に譲る」

 

 

「うぅ……う……! テ、テメェら……!」

 

 

 よろよろと雄二が立ち上がる。

 

「? どうした死に損ない」

「言い遺す言葉でもあるの?」

「んなワケあるか……! 大悟……そのレポート。俺に見せてみろ……」

「これか。別に構わんぞ」

 

 ほらよ、と言って大悟が雄二にレポートを渡す。

 それを受け取った雄二は中身を見て、顎に手を当てて何か考え始めた。

 

「……なるほどな」

「どうしたの雄二。そんな難しい顔して」

「このレポートだが……計算式自体は間違ってはないみたいだ」

「え?」

「途中でミスしているだけで、それさえ修正すればちゃんとした答えが出る。それだから待ってろ。俺が一から解き直してやる」

「雄二。お前シャルピー分かるのか?」

「ああ。内容だけなら高校レベルの物理の問題だからな。楽勝とはいかないが俺でも解けるぞ」

 

 そう言って持っていた紙に新しく計算式をスラスラと手早く書き始める。

 すごいな。物理が苦手な僕には絶対に出来ない芸当だ。

 

「ところで、次は誰にすんだ?」

「ムッツリーニでいいだろ」

「…………!!?(ブンブンブンブン)」

 

 全力で拒否を姿勢を取るムッツリーニ。

 

「駄目だよムッツリーニ。過去に散った英霊のご指名なんだから」

「そうだぞ同志。男なら潔く受け入れろ」

「……………や、やめろ……! 放せ……っ!(バタバタ)」

 

 早速僕と大悟でムッツリーニを装置に固定する。

 雄二や大悟と違って小柄で非力だからとっても簡単だ。

 

「―――出来たぞお前ら。正しい答えは134度だ」

「わかった。高さを合わせる」

 

 ガチャッ

 

「じゃあ、134度始めるよー」

「おう」

「いつでもいいぞー」

「……………(ビクビク)」

「おいおい。そんなビビんなってムッツリーニ」

「そうだぜ。神童の知識を信じろ」

 

 

「いくよー、スイッチオン」

 

 

 そう言うと同時に、スイッチを押す。

 その瞬間ふと、雄二が作った計算式の答えが目に入った。

 

 

 

 『101度』

 

 

 

 ……………あれ?

 おかしいな。さっき雄二が言っていたのと全然違う値が記載されているぞ? 

 見間違いかと思い、もう一度目を凝らして確認する。

 

 

 

『101度』

 

    

「……………(チラッ)」

 

 

 

 

 現在の高さ………134度

 

 

 

 

 

(ゆ、雄二のヤツ……平然と嘘を……ッ!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――三回目。測定終了。

 

 

 

「……!! ……………!!!(ビクッビクッビクッビクッ)」

 

 

 

「さあ明久。残るはお前だけだな」

「せっかくだから明久は133度あたりでいってみるか?」

「いやいやいやいや!!!」

 

 ズズズと迫ってくる二人に僕は必死で拒否の姿勢を取る。

 今確信した。コイツらはもうデータの収集なんてどうでもよくなってる。確実に僕と僕の股間を沈めにかかってきているんだと。

 

「もう101度って答えが出てるじゃないか! なのになんでわざわざ高くする必要があるのさ!」

「なんでってそりゃあ……決まってるだろ。なぁ大悟」

「え?」

 

 雄二が怪しい笑みを浮かべて言う。

 

「この問題にはな……最後に一つの係数をかける必要がある」

「ひ、一つの係数……?」

 

 

「そう―――憎しみの係数ってヤツをな」

 

 

「さらばだっ!!」

 

 こうなったら取るべき手段は一つ……逃げる!

 こんなアホみたいなところで僕の大切な遺伝子を失ってたまるか―――

 

 

「どこへ行くんだぁ……? 逃亡なんて重罪だぜぇ……?(ガチャリ)」

 

 

 ああクソっ! 大悟にいつの間にか先回りされて鍵をかけられている! ならば―――

 

「た、助けて姫路さん! 秀吉! 美波―――ってあれぇ!? なんでいなくなってるの!? というか他の皆や常夏コンビも消えてるし!」

「ああ、もう放課後だからとっくに全員帰したぞ。ここにはもう俺達四人だけの空間だ」

「そ、そんな……! や、やめろ! 来るなクズ共―――」

 

 

 ガシッ

 

 

「……………逃ガさナイ。死ヌ時は……皆イッショ(グググ)」

「ムッツリーニ……!!」

 

「さぁ、楽しい楽しい実験の再開といこうぜ明久ァ……!」

「まだまだ時間はたっぷりあるからなァ……!」

 

 

「いやぁああーーーーっ!!! 誰か助けてぇぇえええーーーっ!!!」

 

 

 僕の必死な叫びもむなしく、瞬く間に捕らえられ処刑台に固定される。

 やがて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あーーーーっ!!!」

 

 

 

 

 さようなら、僕のムスコ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――???

 

 

『あ、明久が泡吹いて死んだ!』

『……………やり過ぎたか』

『いや、まだ息はあるし金玉は辛うじて潰れてない! 教師連中に見つかる前に水でもぶっかけて起こすぞ!』

 

 

「うふふ……。いつ見ても楽しい子達ですわ」

 

 

 そう呟き、カタカタと自室のパソコンを操作する一人の少女。

 高校生離れした凹凸のあるスタイルに口元の黒子がチャームポイントで、大和撫子を体現したような美貌をもつ女子生徒だ。

 

 画面に映っているのは二年生が四人。何やら仰々しい機械を使ってバカ騒ぎをしている様子。教室にしかけておいた、とある後輩の男子生徒から購入した小型カメラを通じてこの光景を見ている。要するに盗撮だ。

 

 

「……むぅ。わたくしと話している時よりも楽しげではありませんか」

 

「女性の気持ちを弄ぶなんて、相変わらずいけない人ですわ。岡崎君……」

 

 

 しかし、彼女はこんな後輩達の悪ふざけを見るためにわざわざ盗撮なんて真似をしているのではない。

 その目的は……彼らの中にいるリーゼント頭と筋肉が特徴の男子生徒を眺める為に他ならない。年下だが、彼は彼女にとって特別であり、今の自分を形作ってくれた“恩人”とも呼ぶべき存在だ。それこそこうして犯罪まがいの行為に手を染め―――異性としての感情を抱いてしまう程に。

 

 

「清涼祭の時は高城君の手前、大人しくしていましたけど……わたくしこう見えてやる時はやる女ですのよ?」

 

 

 彼は間違いなく、自分のことなどこれっぽっちも覚えていないだろう。今の彼にとって私は『高校の一先輩』程度の認識しかないワケだ。

 けど構わない。彼が忘れていてもこっちはしっかりと覚えている。彼によって与えられたものは、色褪せることなくこの記憶の奥深くに鮮明に刻みこまれている。それだけで今は十分だ。

 

「岡崎君……やっぱり貴方は、わたくしの思った通り―――()()()から何一つ、変わっていない。見た目も中身も……何もかも」

 

「嬉しい反面ちょっぴり妬けてもしまいますが……まぁ、それは追々気づいて頂ければよいこと。焦る必要はありませんわ」

 

「せっかくのこの機会……わたくしも思う存分、羽目を外させてもらいますわ」

 

 

 そう言ってパソコンを閉じた。その瞳はトロンとして妖艶ながらも、どこか獲物を狙う獣のような鋭さも感じさせる。

 

 そんな彼女の名前は―――小暮葵。

 文月学園の三年次席の才女にして―――恋にときめく乙女である。

 

 




今回はぐらんぶる名物『シャルピー衝撃試験』を組み込んでみましたが……案外形になるものですね。面白いとまではいかなかったものの、ストーリーとしてはどうにか成り立ってると思います。それでも楽しんでくれれば幸いです。

あと最後に小暮先輩出しました。この肝試し編で彼女と大悟の関係性に進展があればいいなぁ……まぁ、結局は僕のやる気次第だなんけどなぁ。

ちなみに書いててめちゃくちゃ楽しかったです。


感想、意見などありましたらよろしくお願いいたします。





原作七巻の野球大会編、入れるかどうか迷ってるんですけどどうしましょう?

  • 入れろ、絶対に
  • 別に入れなくてもいいよ

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