デュエルによって奪われた人生でした。▼とある方の小説に影響を受けました。

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私の一番欲しかったもの

俺の父親は売れないデュエリストだった。

 

デュエルを始めたのは結婚し俺が生まれて少し経ったくらいからで、それほど上手くない。

 

初心者過ぎてプレイミスは連発するほどで、周りからも失笑をもらうほど。

 

けど今は...。

 

母が家を出ていった。

 

俺は最初、何が何だか分からなかった。

 

俺は必死で母にすがり付いた。

 

出てって欲しくないし、もう一生会えないかもしれない。

 

子供ながら、俺はその時感じていたのかもしれない。

 

母はすがる俺を、冷たい眼差しで見る。

 

まるでゴミを見る目だった。

 

父と母は喧嘩ばかりしていた。

 

今になって思えば、離婚なんだと思う。

 

母は父を捨てたんだ。

 

仕事を辞めてデュエリストとして生きて行く父を。

 

その子供である俺のことも。

 

父は母を捨てた。

 

出ていった母を追い掛けることもなく。

 

だから俺はデュエルが嫌いになったんだ。

 

家族を引き裂いて、父も母も奪って行ったデュエルが嫌いだ。

 

父はカードのパックを買いに行き、母は家を出ていった。

 

俺は玄関で泣き、空腹で横たわってボーッと玄関を見ていると、扉が開いた。

 

父が帰って来たのか、母が戻って来たのか。

 

その期待は叶わなかった。

 

見知らぬ女の人。

 

その女は俺に駆け寄り、小さい子供だった俺を抱き締めた。

 

俺は無意識にママ、と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

テレビをつけたらたまたま流れていた。

 

名前を見ると俺と血が繋がってる男だった。

 

年齢は40代後半くらいの中年太りしていないものの、おっさんと言われそうな顔。

 

俺の父親だった人。

 

今やプロのデュエリストとして世界で名前を轟かせている。

 

学校でも言われた、あの人気プロデュエリストの子供だと。

 

とても嫌な気分になる。

 

母を捨て、俺を捨てた男がそんなに偉い事に、とても良い気分ではない。

 

父は10年ほどこの家に帰って来てない。

 

電話で話をすると、帰ってくるといつも言っている。

 

その言葉を信じていた最初の頃は、ドキドキしてワクワクもした。

 

クリスマスの日も、誕生日も、入学式や卒業式、体育祭、学園祭、そんな催しも父は来てくれず、代わりにあの女が来た。

 

父の新しい結婚相手、俺の義母。

 

嬉しく無かった。

 

周りは親が来て恥ずかしいだの、来て欲しくないだのと言っていたが、俺は一番来て欲しい人に来てくれないのだから、贅沢だなと思った。

 

そんな事を思っていると、義母がいった。

 

また勝ったんだ、格好いいね、と。

 

 

 

 

 

俺はデュエルが嫌いでカードも嫌い。

 

俺と母を捨てたあの男が憎い。

 

だから考えた。

 

どうやって復讐しようかと。

 

あの男と俺がデュエルをして、あの男を負かす。

 

そして、あの男を負かして言うのだ。

 

俺が誰なのかを。

 

 

 

 

 

 

 

いつしか、俺はデュエルの勉強するようになった。

 

あの男を負かすために。

 

義母は俺のそんな姿を見ても何も言わなかった。

 

あれほど、デュエルを嫌っていた事。

 

義母はもう俺のことなど、どうでも良いと思っているんだろう、と思いデュエルを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

いつしか、俺はデュエルキングになったあの男とデュエル出来るようになった。

 

ようやくここまで来た。

 

必ず勝つ。

 

 

 

 

 

 

 

勝った。

 

俺の勝ちだ。

 

あの男は負けても笑顔で言った。

 

君は強いね、と。

 

続けて言った。

 

一年ほど前から、帽子を被った少年がメキメキとデュエリストとして名を上げてきたのは知ってたけど、ここまで強いとは思わなかった。

 

今度またデュエルしよう。

 

君が新しいデュエルキングだ。

 

観客は騒いだ、新しいデュエルキングの誕生に。

 

俺は冷めた感情で男を見た。

 

こんなものか、と。

 

いつか必ず負かして、俺が誰なのかを言ってやると決意したのに、今は全くそう思わない。

 

俺は気付いたら口に出して言った。

 

こんなものか。

 

つまらない、がっかりだ。

 

俺はそう言って退場して控え室に戻った。

 

観客やあの男は、何を言っているのか分からないという顔や雰囲気を出していた。

 

しかし、そんな事はどうでも良かった。

 

控え室に戻った俺はデュエルディスク外して控え室に備えてあるゴミ箱につっこんだ。

 

デッキと予備のカードを含めてゴミ箱にいれようとして、僅かに思い止まった。

 

これまで戦ってきた事を思い出していた。

 

しかし、俺はそれでもカード達をゴミ箱に入れた。

 

そのまま、会場を出て家に帰った。

 

義母がいるあの家だ。

 

義母がお帰りなさい、と言ったが無視をする。

 

そのまま、自分の部屋に入る。

 

俺は思う。

 

俺は何がしたかったのか。

 

俺は父と母に、この家に戻って来て欲しい。

 

それだけだった。

 

俺がしたかったのは復讐じゃない。

 

あの男に、父に認めてもらいたかった。

 

頭を撫でて、良く頑張ったな、と言って欲しかった。

 

俺と一緒に遊んで欲しかった。

 

俺はようやく自分の気持ちに気付いた。

 

俺は寂しかったんだと。

 

「ママ、パパ...」

 

俺はタオルを取り、それを部屋のドアノブに巻き付ける。

 

さらに、反対側を俺の首に巻き付ける。

 

尻が床に着かないように調整をする。

 

そして、俺は...。

 

そのまま思い切り、座った。



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