残念ながら今回も過去編なRTA、はーじまーるよー。
本当はもう無印始めちゃおうかなあって思ってたんですけど、原作キャラが出てくるサブイベのダイジェストを編集してたらJack編が予想以上に長くなっちゃって……
戦闘とかもあって見所さん満載だったので…纏めちゃいました。
すまんな、もうちっとだけ続くんじゃ。
前置きはこの辺にしといて、さっきも言いましたが、今回やるシナリオは東京喰種のOVAに当たる『東京喰種-Jack-』
Jackの二つ名を持つ無敗の捜査官、有馬貴将の青年期にスポットライトを当てた、喰種の中でも随一に有名な番外編ですね。
ざっと言ってしまうと、高校生の有馬とその同級生である富良が13区内で暴れる喰種『ランタン』を追う、という物語。
気になった方は見てみてね!でも、この作品は紙媒体は無くてweb漫画かアニメしかないから注意するんだゾ!
とまあ、媚を売ったところで。
時間も惜しいですし、目標をちゃちゃっと説明して早速ストーリーを進めちゃいましょう。イクゾー!デッデッデデデデ!
さあやってまいりました13区。
今回のストーリーは種族で始まり方が異なるんですが、人間だと有馬たちと接触するところから、喰種だと大森八雲、後のヤモリですね。彼と接触するところからのスタートです。
あらすじのところでは全く触れなかったんですけど、JackではCCGに捕まる前で性癖がねじ曲がってないヤモリも登場します。
綺麗なヤモリ、劇場版ヤモリとでも言いましょうか。
まあ、この時でも人殺しまくってますし、なんなら普通の喰種よりかは凶悪なんですけどね。
無印のヤモリが酷すぎるんで、此方のヤモリが輝いて見えるだけです。
お、そんなこと言ってたらホモくんもヤモリと接触出来ましたね。
今回はホモくん、アオギリに入ってるんで、会話中の選択肢の中に『アオギリに勧誘する』コマンドが入ってます。そちらをポチっと。
ヤモリは別に今じゃなくても後々勧誘出来るんですけど、ここで加入させることでアオギリ所属にして、部下持たせたり、行動範囲を管理したりすればCCGに捕まるイベントを回避出来るのでここで誘います。
さっきも言いましたけど、ヤモリはCCGに捕まっちゃうと性格が豹変して極度のサディストになりますからね…そこに生来のエゴイストっぷりも加わって、ただただ御し辛い。
なので、私のチャートではもうここで勧誘しちゃってます。
さて、この後も会話は続いて、文面上だとヤモリは入ることを拒絶してますが、ゲーム的にはこの選択肢を選んだ時点でイベント終了後に確定で加入させられるので、もう事実婚みたいなものです。
もう!ヤモリってぱツンデレなんだから!(ニコ並感)
おい、ホモくん同類だろ。この雰囲気なんとかしろよ。
……ストーリー進めていきましょう。
ヤモリのフラグは立てたので、今度はランタンの番ですね。
この時期のランタンは人間を装って有馬たちと喰種狩りを行っているので、学生が自由に行動できる時間…すなわち放課後や休日なんかに裏路地に行ったりすると遇うことができます。
行動範囲としては13区内のみとまだ狭い方なので、喰種の膂力をもってすれば平均して3日くらいで見つかります。
万一、時間かかっても原作開始前なのでロスというロスでもないです。そりゃあ早く終わるに越したことはないですけど、急ぎすぎてミスっても世話ないですから。
平静を保ってゆきましょう。なんてったって公式チートさんとの戦闘も控えてますしね(小声)
be cool ボクゥ…
……お、見つかりましたね。2日で見つけられたのでまだ早い方です。
件のランタンですが、此方には気付いていない様子で路地裏をてくてくと歩んでいます。
やっぱこうして見るとただの可憐な女子高校生にしか見えませんね、ランタン。
まあ、それは置いといて、気付かれていないのは丁度いいです。後ろからランタンに話しかけて__
と、そこで背後から足音が二つ。振り返ってみれば、男が金属バットを振りかぶっていました。冷静に回避しましょう。
『チッ、避けられたか……』
金属バットで殴りかかってきたのは、制服を随分と着崩した金髪の青年でした。彼こそ後の上等捜査官、富良太志。
そして__
『太志は下がって。俺がやる』
富良の後ろから時間差で突っ込んでくる、死神。
彼はクインケ『ユキムラ』を二刀、展開しながら更に加速。回避後で体勢が崩れてますし、避けきれません。赫子を前面に発現させて受け止めます。
少しの鍔迫り合いの後、有馬が退きました。あのまま続けてたら先に折れていたのはユキムラの方ですから賢明な判断ですね。
とまあ、こんな感じでランタンみーっけ!と思って近付くと、思いっきり奇襲をかけられます。
何故かと言いますのも、喰種狩り集団の戦術の基本パターンが『人間のふりをした可愛いランタンちゃんに囮になってもらい、彼女に釣られた喰種を男性陣が後ろからタコ殴りする』ってものだからですね。
ホモくんは、絶賛その作戦中に近付いたもんだから攻撃されてしまったというわけです。
しかしまあ、奇襲と言えど分かっていれば当たりませんので。しかも片方は戦闘に関してはズブの素人ですし、私が操作するホモくんに敵うわけがありません。こんなの初見で見切れて当たり前。ここでミスって死ぬ人はRTA向いてないです(2敗)
さて、画面の方では現状はお互いに出方を窺っている、という感じ。強キャラムーブをしつつ、このままデュエル開始……にはなりません。逃げます。
ランタンを助けるだけだったらここで有馬と富良を殺しゃいいんですけど、このRTAのレギュ的に出来ませんからね。
有馬が主要キャラじゃないわけないだろ!いい加減にしろ!なんなら富良さんも主要キャラだよ!
じゃけん、ランタンに唾つけてから大人しく逃げましょうね~。
なァ、ランタンちゃんよォ……明日、ヤモリん家で待ってッからよォ。来ねぇと…分かってるよなァ……と去り際に彼女の耳元で囁いてから帰りましょう。
翌日、夕暮れ時。
約束通りランタンが来てくれましたね。ヤモリには何も言ってなかったのでなんやかんや喚いてますけど無視無視。だって共通に把握できる待ち合わせ場所お前の家しかないんだもん。
と、ここでランタンになんで正体に気付いたのか問われますんで適当に返しましょう。
私は、膨大な施行回数によって得られたデータをもとに、文字の入力スピードと好感度上昇値を考慮して、いつも『臭かったから』と答えてます。もし走る方がいらっしゃれば参考に、どうぞ。匂い立つなァ…。
そんなことを言っている間にも会話イベントは更に進んで、ランタンも『アオギリに勧誘する』コマンドが出てきますんでポチッ。
すると、今度有馬と富良を殺す作戦があるから、それ手伝ってくれたら入ってやってもいいよ(要約)と言ってきます。
勿論回答はYesで。決行日は3日後だと言うのでそれまでフリーです。好感度上げるなりレベリングなりして待ちましょう。
そして3日後、夜。決戦の日です。
作戦の概要は、ランタンが有馬と富良にヤモリを標的にするように仕向け、ヤモリを尾行させる。そして、人気の無いところまで誘導ができたら、ランタンが裏切って挟み撃ちをするというもの。
ホモくんの役割は戦闘が始まった後、敵に気を取られている有馬に奇襲をかけて殺すことです。まあレギュの都合上出来ないんですけど、そんなこと言えないので暗殺する体で話を合わせて待機しとります。
てか、彼女はこの時点で有馬が自分の手に負えないってことには気付いてるんですよね。さすがランタンちゃんは賢いなあ。
そんなことを言っていたら戦闘が始まっちゃいました。
とはいえ、有馬を殺す気はさらさら無いですし、下手に介入して有馬が富良を助けられなかったら不味いので、とりあえず有馬が床ぶち抜いてヤモリをグサー!するところまでは傍観しましょう。
___いや、しかし。いつ見てもこの頃の有馬は速いですね。
有馬を含め、半人間は肉体的に非常に早熟なんで肉体はともかく、反射神経なんかの全盛期は言うなればこの時期。クインケがユキムラなのでまだマシですがこの頃にフクロウとか持ち出してたらエンカウント=死だったんじゃないかなあ…
交戦しているランタンも単体でSレートに数えられるくらいなので絶対に弱くはないんですが、これは…正に次元が違う。
襲いかかる赫子を受けるか躱すか判断、そしてそれと同時に本体に一撃、その後の相手の動きから次の攻撃パターンを予測。このサイクルが1秒と少しの時間で何回も何回も行われている。
サイクルの最後に行われる予測行動によって、次のサイクルの始まり、則ち『相手の攻撃への対処』はどんどん無駄がなく、洗練されたものになっていく。
つまり、1サイクル目よりも2サイクル目、2より3、3よりも4…と時間が経過すればするほど有馬の動きは円滑に、苛烈になる。
そして、それは相手の焦りを掻き立て、致命的な隙を生じさせるに至る___
…決まりましたね。
大振りになってしまったランタンの攻撃は有馬に完全に弾かれ、体勢を崩された。もう、何をするにも遅い。
神速の斬撃が彼女の胴を無慈悲にかっさばく。
ついでに死角からヤモリも貫かれる。
ほんとこいつ、RTA走者のお手本みたいなムーブしてんな。正体TASかなんかか?
理論的には可能だけど、行動を無意識に動けるレベルまで体に刻み込むとか、時間経過による集中力の低下をなくすとかの到底不可能なことやってる辺りガチでTASくさい。
まあ、TASだろうが何だろうがランタン助ける為には挑まなきゃなんですけどね。いっちょやってみっか!
てことで、颯爽とランタンの前に登場。(一人に)しないよ(イケボ)
『……お久しぶりです』
ばっちぇ警戒してますね、有馬くん。
流石に前の戦闘のとき余裕で捌きすぎたかな。敢えて食らってたら油断させられてたかも。まあ、誤差でしょ。
本気有馬の速度とはいえ、うちのホモくんはボタン一つ押すだけで行動させられるんじゃい。それに化け物クラスの再生もあるから多少の無理も出来る。地力が違いますよ。ちゃちゃっと撃退しちゃいましょう。
てめえがついてこい__!!
と、啖呵を切ったはいいんですけど、こいつやっぱ強い。それに私の調子も良くないのかもしれません。
さくさくっと撃退してランタン連れて帰ろうと思ってましたが、撃退せずにどさくさ紛れで回収して逃げちゃうのもアリだな。
とりま攻撃を受けつつ反動でランタンのとこまで接近を__ってぇ!!
一体誰ですか!私に石投げて来た人は!人に石投げちゃダメって小学校で習わ……あ、やべ有馬から目離しちゃ__
____あぁ~…!!チルチルすんなぁ~!!
いや、まさかここで富良くん乱入してくるとは。有馬との戦闘が長引けば乱入確率上がるとか書いてありましたね、そういえば……
試走でも全然来なかったからこの可能性完全に捨ててましたよ。
そんで虚を突かれて首チョンパ。
異能で『驚異的な再生力』選んでなかったら死んでましたね。やっぱ人権スキルですよこいつは。デメリットもあるけど……まだ大丈夫やろ(震え声)
うん、RTAなら多分、大丈夫。
回生を果たした(違う)ホモくんを見て、有馬くんも富良くんも流石にビビってますね。
なら、今の内にランタン回収して逃げましょう。サラダバー!
ふむ、追ってくる気配は無いですか。見た感じユキムラの耐久値が限界そうだったのでそれも有るかもしれないですね。運が良いのやら悪いのやら。
さて、山場を越えたところで、こっからはピロートークもとい後書きですね。見所さん無いんで倍速します。
えーと、アオギリにランタン持ってって回復させて……後は二人の後日談こなして……
うし!ランタンは傷で動けないので半強制的に、ヤモリも流石にCCGを恐れたのか、再度勧誘したらすんなり了承してくれました。
これでどっちもアオギリ入り完了で、Jackイベは終了、今回の動画もここらへんで終わっときましょうか。
ちょっと予想外の自体はありましたが、結果的にガバることなく、やりたいこと全部出来ましたし良かったです。
次こそ無印、原作に突入するんでお楽しみに!
お疲れ様でした。
「うちの馬鹿娘が二区でどんぱちやってくれたお陰で知名度上がったもんで、ちょっと有名所の奴らでも勧誘しようと来てみれば面倒な事に巻き込まれちまってよ」
男は、眼前の光景を眺めながら悪態をつく。
「素人かと思ったら、クインケ持ってるわクソ速いわで名前聞いてみたら有馬だと。和修の駒じゃねえか。一応見に来てはみたが、奇襲なんざ成功しねえよ」
物陰から顛末を見届けながら、誰ともなしに呟かれた言葉はまた、何者でもない暗闇へと消え去った。
男が目にしているのは、およそ男の半生においては見慣れたであろう人と喰種との殺し合い。強いて珍しいことを挙げるとすれば、人間側が徒党を組んでいないことか。
人間と喰種の間にはどうやっても埋まらない、種としてのスペックの差がある。それはこの世に生きる上で誰しもが知り得る事実であり、故に人は数の利を重要視するのだが。
この場にある死合いの状は、喰種と人間が一対一で向かい合うというものであった。
喰種に人間が襲われている、のならこの光景は納得が出来るだろうが、しかし。人喰いの悪鬼に目をつけられた筈の人間、有馬には恐怖も諦観もなく。
さも立ち向かうことが当たり前だと言うように、刀を手にし、薄い鏡を通して触手を手元で遊ばせる喰種の女を冷ややかに瞥していた。
やがて、劇の幕が上がる。
述べた通り、圧倒的な種としての差がある筈の戦闘。並みの人間であれば生きている内にその肢体に触れることすら叶わず、臓物を弄ばれるのが精々であるが、しかし。
此処に有ったのは、人間による完膚なきまでの蹂躙であった。
可憐な花は二刀の下に手折られ、家守は尻尾に刃を突き立てられる。それを成した人間には、僅かに頬に一筋の切り口が残るのみ。
歴戦の猛者である男の目でなくとも容易に勝敗が判る程の惨劇。男の目をもってすれば尚の事明らかであった。
「…分かっちゃいたが、あの嬢ちゃんには無理だったな。金髪も合流したし……もうダメかね。悪いが見捨て___」
そんな結末に少し残念そうに、憐れみを送るように眉根を下げて。
男が去ろうとしたその時だった。
何があったのやら、倒れ伏していた喰種の女が立ち上がったのだ。文字通り、命を燃やして。
その瞳は宵闇に爛々と赫く輝き、激情に魅せられている様に男には見えた。誰が、何故、彼女をそうさせたのかはやや離れた所から見届けていた男には知り得ない。故に興味が湧いた。
付き合いは数日間ほどと短いものではあったが、その中でも、彼女がこうして感情を有るがままに吐露することは男の目には新しかったのだ。
死の間際で彼女はどんな言を放つのだろうか、と。不謹慎を思う感情こそあれど、死という概念に慣れすぎた男にそれは、行動を縛る枷にはなり得なかった。
ある者は無感情に、ある者は悲しげに。各々が各々の心持ちで見つめる中で喰種の女、ランタンは口を開いた。
発されたのは、彼女の願いの丈と、行動理念。
強者として、種を喰らう者として生まれながらも、彼女が焦がれたのは群れなければ何も出来ない、生まれついての弱者としての日々だった。
だが、どれだけ願ってもそれだけは叶わない。種族の差とは今世の内に乗り越えられる代物でなく。どんなに焦がれ近付いても、それは近付くだけであり、永遠に交わることのない漸近線。
だから、主軸線上に在りながらそれを恵まれていると満足せず、凶行、横行に走る人間種が赦せなかったのだと。
それを愚かだと断じてしまうことは簡単である。
願いを、ではない。そも願いとは、個人が誰かに一心不乱に想うものなのだから、どんなものであっても馬鹿になど出来よう筈もない。
憧れるのは自由なのだ。実際にそういった願いを持ち、人間社会に紛れる喰種も一定数いる。
しかし、彼女の愚かなのは行動であった。
彼女の焦がれた『一般的な人間』は、少なくとも人を簡単に殺めることはしないのだ。殺すにしろ、えもいわれぬ理由が有っての末だ。
いけすかないから殺した、だのはまさしく彼女が異形の化け物だということを自ら示していた。
ランタンは言いきって崩れ落ちる。
元より回復すらままならず、血を垂れ流しながらの絶叫。死に体の身体に鞭打つ行為。彼女にそう時間は残されていなかったのだ。
もうどう転んだとしても死ぬ。放置されていてもいつか事切れるだろう、刀で貫かれても死ぬだろう。
どちらが長く生きていられるかすら彼女には関係が無かった。最早痛みすらも感じないが、しかし身体も動かせない。何秒生きていようが同じことである。
本人を含め、誰しもが彼女の生を諦めた___ただ一人、男を除いて。
彼女の行為は、紛れもない彼女自身の思いと反する行い。矛盾である。愚行であった。
しかし、確かに願いは本物だったのだ。
では、それを果たせないまま逝ってしまってもいいのか。断じて否である。
彼女の行いは事実として許されない、罪だ。しかし、彼女が成就せぬ願望を抱いたその日から、苦しんでいたこともまた事実だ。
では、その分くらいは救われても罸は当たらないだろう。いずれ自らの罪と向き合う日が来るとしても、その日は今日ではない。
___男はそう思った。
女は意思を手放す前、最後に。
喉を何かが通っていくのと、傍に在る英雄の姿とを認識した。
「……お久しぶりです」
死神は俄に笑う。
「ああ、俺の出る幕じゃないんだろうが我慢してくれ。この手のヤツは刺さるんだよ。俺は優しいからな」
男の纏う気迫は、鋭利な刃物の様に尖っている。その剣気は相手を射抜き、死神に自らの死を幻視させる程であった。
対して死神と呼ばれた___いや、そうあれかしとされた青年、有馬はただ無感情に見つめ返していた。
清流と激流。沈静と胎動。静と動。殺す者と生かす者。極端に在り、拮抗する。
互いの出方を窺い、読み合う間は時間にして1、2秒の事であったが、傍観者にとっては永遠にも思えた。
やがて、先手を切ったのは有馬だった。
以前相対した時のように、誰その血に濡れた刃を振るい、接近する。
それでいて以前と違い、初めから全速で。悲鳴を上げる足を無視し、腕をしならせ、斬り裂くは首。
「____ッ…!」
男は僅かにたじろいだが、しかし。脅威の反応で、上身を捻らせ躱して見せた。
喰種の身体能力が可能にした超人技。並みの相手ならとうに終わっていた一撃。
どちらも絶技と呼ぶに相応しい。
しかし、当の両者は共にその業に感嘆することもなく、次の動きへと身体を滑らせていた。
有馬は、虚空をかいた刀に力を込め、下から上へと振るう。
逆袈裟の形である。
___ぞぶり、と。避ける暇も与えず、有馬の刃は確実に男の肉を、骨を裂いた。
腕の可動域的に首を断つには至らないと考え、胴に通した選択は間違いではなかった。男の腹は斜めに斬られ、完全に離れている。おまけに左腕も成り行きで持っていった。
後は心臓でもいい、首でもいい、脳でもいい。回避する術を持たぬ者の命を絶つのは、有馬にとって些か簡単が過ぎる。
___故に無意識に気が抜けた。
とは言っても、常人のそれではない。有馬の全力と比べ、たかが2秒ほどだけ離別の一撃を放つのが遅れただけである。
しかしその2秒は、致命的な隙だった。男が自らの肉と肉を繋ぐのには充分すぎたのだ。
有馬が仕留めようと切っ先を向けたそのとき。目の前に在ったのは、断面すらも見えないほどに綺麗に結合された男の肢体。
有馬にも、再生力の高い喰種との戦闘記録はあるが、しかし。ここまでの再生、異常とも言える再生とは予測をしていなかった為、一瞬だけ動きが止まる。
有馬が見せた初めてにして唯一の隙であった。
男はそれを見逃さず、当たり前のように己と有馬とを瞥すると、赫子を瞬く間に発現させ、自らの身を裂いた一刀を触腕で掴む。
有馬は己の一刀が折られることを察した。
そして、焦った有馬は無意識に、渾身の力を込めたもう一刀で男の赫子を叩き斬った。
焦ったのだ、焦ってしまった。
それに気付いた時には遅い。男の次の行動を躱しきれない、と悟った。
「___ハァッ!」
男の攻撃はただの蹴りであった。人間の膂力の何倍か、という一点を除けば。男の蹴りはヒトの生身を貫き、死に至らしめる。
しかし有馬も流石に天才。反射で蹴りを刀で受け止める、が___細身の刀身では防ぎきれない。吹き飛んだ。
一時的に距離を取った両者。
有馬は、辛うじて保っているとはいえ掴まれてボロボロの一刀を捨て置き、懐からもう一刀を取り出した。そして、展開。
彼のクインケの銘はユキムラ、『ユキムラ1/3』である。刀は全部で三振あったのだ。
対する男は、落ちた左腕を無造作に左肩に押し付けつつ、有馬に近付く。
しばらくして男が手を離せば、肩口は何事も無かったかのように腕と結合していた。
男の特異性、異常回復の面目躍如である。先程から男の命を救ってきたのも『それ』であった。
共に態勢を立て直し、向かい合う。戦局は第二ラウンドの様相を呈していた。
先程までの激しい闘いが嘘であったかのように、沈黙が場を覆う。
両者共に、初めと同様相手の出方を窺っている。
さても、今回口火を切ったのは男の方であった。喰種の驚異的な身体能力でもってして肉薄する。
有馬は刀を構え、応戦。まともには打ち合わず、受け流すようにして男の攻撃を捌いていく。
動きにも殺意にも、無駄や不足は一切なし。
その上で、有馬の全速力も男の再生能力も、お互いに知るところとなった。初見殺しはもう、ない。
___打ち合いは続く。
有馬の攻撃は速い。
が、男程の手練れであれば反応は出来る。不可避の状況に陥ることは有れど、そこは身を斬らせて押し通った。男にしか出来ない芸当である。
男の攻撃は確かに重い。
が、有馬を仕留めるには鈍重が過ぎた。有馬の真核を貫くに能わない。
端で眺めていた富良には、彼らの戦闘はいっそ永遠に続く舞にすら見えた。
洗練された殺しの技術と技術のぶつかり合い。有馬は速いが僅かに浅く、男は強いがやや重たい。お互いの力がほんの少しだけ相手の命に届かない。
故に奇妙なバランスを取り持って、打ち合いこそすれ拮抗状態に陥っている。
結末は、集中力欠如によるどちらかのミスか、相討ちか。
富良はどちらでもダメだ、と思った。
前者は不確定であり、どちらが致命的ミスをするかなど分からない。後者は無論ダメだ、有馬が死んでしまう。
どちらも有馬に死のリスクが伴うのだ。
___何か、ないか。安全に、友の勝ちを引き寄せる為の何か。
そうして思案を続けた富良は、やがて活路を見出だす。
富良の目に移ったのは、先のランタンとの戦闘の余波で彼女の赫子が削り取った、廃ビルの外壁。もっと言えば、その削られたコンクリートだった。
___それを投げて男に当て、注意を惹く。
簡単そうに見えて、これが中々どうして難しい。
ミスは許されない。ミスをすれば逆に有馬が窮地に陥る可能性がある。
そんな無数の最悪な可能性が富良の頭を巡る。伸ばした手を降ろしてしまいそうになる。意思を曇らせてしまう。
しかし、それでも富良は震える指先で手頃な塊を手に取った。そんな富良の背後では、今も有馬と男が闘っている。
闘っているのだ。
有馬にはそんな気は無いと分かってはいるが、事実として有馬によって富良は喰種から守られている。
富良には、その事実が有るだけで充分だった。己なら出来ると確信した。
根拠と呼べるものはたった一つだけ。自分を奮い立たせる為の慰めの言葉すら必要ない。そんなみっともないことしなくたって、絶対に当てられる。
なぜなら___
___必死こいて戦ってる、ダチの為に投げるからだ!!
根拠と呼ぶには剰りに合理性に欠けている。
それでも。
富良の投げた意思は、男のこめかみを撃ち抜いたのだ。
喰種の皮膚は頑丈で、人間の腕力で投げられた石では傷一つ付かない。
しかし喰種だとしても、一定量の質量が顔に当たれば、当てられた者の目線と意識はブレる。
天才相手にその隙は致命的だった。
「……ナイスボール」
残像すら浮かぶ、神速の刹那。
赫色の凶刃は、やっと辿り着いたと言わんばかりに。男の首の肉を喰らい、脈を千切り、筋を断ち、骨を穿つ。
有馬一人では至る事の出来なかった業。
生命を刈り取る、会心の一撃。
だが。
「___悪いが、死ねぬのよ。その程度じゃ」
まだ、死なない。いや、死ねない。そこに男の意思は介在せず、ただ存命であるという結果のみ。
男は傷一つ無い自らの首を撫でながら、あっけらかんと言い放った。
「人間喰種問わず、首が胴と別れても何秒かは意識があるもんだ。脳を動かす新鮮な血が、頭に数秒分残ってるからな」
「その数秒。常人なら意識があるだけですぐ死ぬんだろうが……俺は意識があるうちに再生しちまうから、悪いな」
理屈は解るが実践されては堪らない。
富良も、有馬ですらも『化け物』と呼ぶ以外の言葉を持てない。
呆気に取られる二人を尻目に、男は興が冷めた様子で倒れ伏していたランタンを担ぎ、言う。
「久しぶりに楽しかったぜ、お前ら___じゃあな」
男は闇夜に消えていく。
青年らはその後ろ姿を呆然と、目で追うことしか出来なかった。
擬音ぞぶり。好きですねえ。
有馬くんとの戦闘が書きたすぎたけど数ヶ月明けにこんなの出したら怒られそうだったから意地で書き上げました。