プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜   作:明日美ィ

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9 カテーナの正体

 3日後に熱が引いて、私は冒険者ギルドに来た。

 

 ギルドに入ると馴染みの冒険者のおっさんたちが私に声をかけに来た。

 

「ヒロちゃん、先日はよくやったな!」

「さすがヴィレッジいちの怪力女だな!」

「怪力女はやめてよ……」

 

 ヴィレッジは初心者向けの街なので、ここの街にいる冒険者は基本的に駆け出しか実力が足りずにくすぶっているベテランしかいない。

 ランク8以上になるとあの4人とセイバ師匠しかいなくて、そのうち4人は外から来た冒険者である。だから私みたいな街に住んでいる人が例の巨人を討伐できたのは快挙といってもいいらしい。

 

 おっさんたちに今度一杯奢るぞ、と約束されながら私はヴァッツとカテーナがいる席に向かう。

 

 

 

 酒場のテーブルの1つで私たち3人は依頼の清算をした。

 

 カテーナも無事で以前のように深緑のローブを着ている。ただ少し落ち着きがないのか時折私やヴァッツをチラチラと見ている。

 

 ヴァッツはテーブルの上に、すでに受付で受け取った報酬の札束を6つ載せた。

 

「で報酬を受け取ったわけだが、なんだこれは?」

 

 ヴァッツは札束を手に取り、そのうち1枚を抜き取ってひらひらさせる。これは紙幣と呼ばれていて、植物製の紙の上に金額が記入され中心には人物の絵が描かれている。

 本来お金は金銀銅などの金属から鋳造ちゅうぞうされた貨幣を指し、それぞれ金貨、銀貨、銅貨と呼ばれる。私は紙幣もよく使うがヴァッツはそうではないらしい。

 

「あれ、ギルド紙幣を見たことない?」

 

 ギルド紙幣は通貨の一種でギルド内ではこれが貨幣の代わりになる。基本的に依頼の報酬はギルド紙幣で支払われて、希望があるなら紙幣を貨幣に交換してもらえるのだ。

 

「紙幣の存在は聞いたことはあるが、本気で報酬をこれで支払うとは思わなかった。国が認定した機関以外で貨幣を製造するのは重罪だが、冒険者ギルドはそれを理解しているのか?」

「うーん、確かに『金属製のお金』の製造は禁止されているけど、『紙のお金』は法律でそもそも貨幣として定義されていないはずだよ。それに別にここの支部だけじゃなくて国内の支部のほとんどでギルド紙幣は利用可能だし、国も黙認しているんじゃない?」

「いやそれは法律の穴をついたグレーゾーンだと思うが……」

 

 ヴァッツは頭を抱えた。

 私はこれでも王族としての教育を受けていため、冒険者になる以前の法律ならそれなりに覚えている。数十年前まで紙を量産する技術は無く、国も紙幣が通貨になるとは想定していなかった。紙の量産が可能になるとギルドが即座に紙幣を量産し、それに法律が追いついていないのだ。

 

「まあ普通に使えるし大丈夫じゃない?」

 

 カテーナもまじまじと紙幣を見つめた。

 

「私わたくしも初めて見ました。これで買い物ができるのですか?」

「紙幣は基本的に冒険者ギルド内で使うものって考えてくれればいいけど、この街ならほとんどの商店で使えると思うよ」

 

 この街は冒険者が魔物討伐の拠点として開拓した街の1つで、経済の中心も冒険者ギルドが中心となっている。そのため街中なら紙幣と貨幣両方の通貨が利用できるのだ。

 ただギルド紙幣での支払いでは割引が効くため普段私は紙幣を使い、紙幣が使えない本屋では貨幣に交換している。

 

「となるとヒロさん、武具防具はこの紙幣で購入が可能なのですか?」

「できるよ、でもカテーナは武器とかいるのかなあ……」

 

 魔法使いだし、彼女がつけているローブも杖も一級品である。

 

「いいえ、せっかくだし明日買いにいきますわ。ヒロさんとヴァッツさんもご一緒にどうです?」

「いいよ」「よろこんでご一緒しましょう」 

 

 ヴァッツはいつも通りである。

 

「でこの報酬600万Gは3人分まとめてきたけど、どう配分する?」

「本来討伐に参加していないヒロの報酬は少ないらしいが……。正直俺はヒロに命を助けられたし自分の取り分は無くてもいいと思っている」

「だったら3等分しようか。あ、借りた剣も返さないとね」

「剣は予備として持っておけ。また折れたらどうする気だ」

 

 カテーナは何が面白いのか、口に手を当てて微笑う。

 

「ふふふふ、お二人は本当に仲がよろしいのですね」

「ああ、ヴァッツとオレは一応?幼馴染の関係といっていいのかなぁ?」

「あぁ、いいですわね……。その話、もっと詳しく教えてもらえませんか?」 カテーナが身を乗りだす。

「えっと……昔からこいつの屋敷に遊びに行ったりして、一緒にチャンバラとか山の散策とかしていたな」

「ヒロは昔から負けず嫌いで俺に勝つまで諦めなかったからなあ……。あの時と比べると成長したよな」

 

 ヴァッツはじみじみと語る。

 

「あぁ……すばらしい関係ですわね。そして職員の方から少しお伺いしたのですが……今のお二人の関係は……」

 

 カテーナは白い頰を赤くさせ、モジモジと尋ねる。おいヴァッツ、噂が広まっているぞ。

 

「えっとそれは……まあ否定はできないかな」

「まあ!さすが人間!我々エルフの何歩先も制度が進んでおられるのですね!ヒロさん、ヴァッツさん、あなたたちの行き先は険しい道かもしれません。ですが!このカテーナ・アイツベルグの名にかけてお二人の愛の旅路を祝福しましょう!」

 

 カテーナが不意に立ち上がり、まるで風に煽られる草のように全身をうねらせる。

 その度にバラの香りが強烈に立ち込める。ちょっときつい。

 あれ……なんか違和感を感じる。『何歩先も進んでいる』?『行き先は険しい』?

 その違和感はヴァッツも感じているらしい。

 

「おい……念のために言っておくけど、ヒロは女だぞ」

「そして身分の差や性別などの障害を乗り越えて二人は晴れてゴールイン!そして二人は幸せなキスをして……へ?」

 

 カテーナの動きが止まった。一体何が起こっているんだ。

 

「え?ヒロさんは女性?おほほほご冗談を……、へえ?!」

 

 あれ、私今まで男だと思われていたの?

 

「あれ……里を出る時にお父様が人間の男性は髪は短くズボンを履いて、女性は胸があって髪は長くドレスを着ているとおっしゃっていましたが……」

「ああ……確かにヒロはその条件だと男に判断されるのか。いやそれでも人間の男女の区別がつけられないのかよ……」

 

 確かにエルフの年齢は人間の私からは判別できないし、エルフは中性的な顔立ちの人が多いらしいからそれはお互い様かもしれない。

 

 いやそれ以上の問題があるのだが。

 

「か、カテーナは男同士の恋愛で妄想していたのか……?」

「はい!私わたくしは殿方同士の恋愛を見るのが大好物なのです!」

 

 カテーナはにっこりと笑った。

 

 は?

 

 月の光のような銀髪に、白い肌に整った顔立ち。見た目は可憐な美少女なのにその内面は想像もつかないくらい腐っていた。

 


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