プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜   作:明日美ィ

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10 白銀鎧の魔術師

 次の日私たちは武器屋に買い物をしに行った。

 店内には数多の武器や防具が展示されており、奥の工房から鉄を打つ音が響いてくる。

 展示されている武器は値段が数千G程度の安物から数十万Gの比較的高級なものまで揃っているが、田舎町にある武器屋であるためか一級品の武器は無い。

 この店も冒険者ギルドと提携しており、ギルド紙幣で買い物が可能である。

 

「あ、この武器かっこいいじゃんこれにしようよ」

「バカ。お前は以前も武器壊したからもっと丈夫なやつにしろ、あと鎖帷子くさりかたびらでもいいから鎧くらい買っておけ」

 

 ヴァッツはそう言って私に分厚い剣と鎖帷子を押してつけた。

 

 カテーナは武器には目をくれず防具を見比べていた。

 

「すみません、ここにある防具の中で一番防御力のあるものはありますか?」

 

 カテーナはカウンターから工房にいる職人に声をかけた。

 

「んあ?なんだお前さんは。あんたは魔法使いだろうが」

 

 応じた職人は髭面のドワーフの親方だった。彼の身長が子供の背丈くらいしかないが、横幅が筋肉質でがっちりとしていた。

 親方は魔法使いが防具を求める事に首をかしげたが「ちょっとまってろ」と工房に戻ると、しばらくして白銀の全身鎧を持ってきた。

 

「ミスリルのプレートメイルだ。魔法金属製だから防御魔法のノリはいいし、重量も鉄製よりはだいぶ軽い。正確にはこの工房で製作したわけでは無く、数年前にとある冒険者がうちに売却したやつだ」

 

 親方はポンポンと鎧を叩く。この鎧どこかで見たことがあるような……。

 

「これってオレのセイバ師匠が、王宮で報酬としてもらってきたけど自分に不要だから、って買い取りに出した鎧じゃない?」

「そうそうのセイバさんだよ。いやぁこれは俺が鍛えていないというのが悔しいくらいの逸品だが、これの価値を理解しているやつは全然いねえのさ。いや別に冒険者の悪口を言っているわけじゃねえが、これの価値を理解している冒険者が少ないのがなぁ。まあ値段もかなり張るからこの田舎町だと買い取り手もつかないのさ……」

「それでおいくらでしょうか」

「500万Gだ。俺は最低でもそのくらいの価値があると思っているから、これ以上の値下げはできん」

 

 かなり高い。冒険者ランクが上がれば買えなくはないが、それより先に冒険者たちは別のギルド支部に移ってしまうため買い手がつかないのだ。

 

「なら買います。報酬以外にも実家からの持参金もありますので払えます」

「お嬢さん魔法使いだろう?どうしてこんな鎧がいるんだ?」

 

 親方はカテーナをじっと見つめた。

 

「新しい魔法使いの形の模索、のためでございます」

 

 カテーナはそう断言した。

 

「新しい形?」

「通常の魔法使いは防御の低いローブを着て前衛に守られます。ですがいざという時に自身を守れないといけないと先日の戦闘で理解しましたわ。ですので私わたくしは鎧を着て防御を固めます」

 

 ……へ?

 

「お嬢さん、金属と魔法の行使は相性が悪いのは知っているだろう?しかも全身鎧を着るとほとんど魔法が使えなくなると聞いているぜ?」

「いいえそれなら問題ありませんわ。この鎧を調整してもらいたいのですが何日くらいかかります?」

「本気か?まあ調整はしなくとも、ある程度の体格の差なら自動で調整してくれる機能付きだ」

「ありがとうございます。では試着してみますね。【装着】」

 

 一時的にミスリルの全身鎧の所有権をカテーナに移してから呪文を唱えると、即座に鎧が装備された。

 カテーナはヘルムを外し、テーブルに置いておいたとんがり帽子をかぶった。そのせいで全身鎧に杖と魔女帽というチグハグな見た目になってしまった。

 

「頭部が心持たないのですが……、放浪修行ヴァルツ中は卒業した学校の帽子を着用する事が義務付けられてますからしかたありません。それにしてもいい鎧ですわ。防御魔法のエンチャント度合いがローブと全然違いますね」

「……カテーナさん」

 

 それだと戦士職なのか魔法職なのか全然わからないよ。

 

「では紙幣と貨幣の両方でお支払いしますね」

 

 お金が入った袋を取り出し、カウンターで支払いに行こうとしたようだが。

 ——カテーナは一歩も動けなかった。

 

「あ、あれおかしいですわ?!」

 

 親方はため息をつく。

 

「今まで魔法一筋で生きてきたんだろう?お嬢さん、この鎧は鉄より軽いと言っても全身で20kg以上はある。訓練された戦士ならこのくらい大したことはないだろうが、ろくに体を鍛えていないのならいきなりプレートメイルは重すぎるはずだ。最初は無理しなくていいから、例えばこの鎖帷子くさりかたびらだけとかにしておいたほうが……」

「いえ私わたくしは問題ありません。この程度のことで諦めたらアイツベルグの名がすたれ……」

 

 カテーナがそれでも無理に動こうとして片足をあげると、まるで人形のようにその姿勢のまま倒れた。

 

「この鎧は鎧のパーツ同士の隙間が少なく弓矢も通せないのだが、そのぶん関節の自由度が低くて慣れないと身動きが取れなくなることもあるんだ。お嬢さん、無理は言わねえ別のやつにした方がいいと思うぞ」

「……いいえこの程度問題にもなりませんわ。ヒロさん、できれば起こしてもらえないでしょうか」

 

 問題しかないのですが。

 しかしこう見えてカテーナはプライドが高いというか負けず嫌いというか……。

 

 結局ギルドまで私が背負って運ぶことになった。その間ヴァッツがプレートメイル以外に必要なものを用意してくれるらしい。

 

「カテーナはローブの上から直接鎧を着ているが、本来はそうじゃねえ。下着の上に鎧下よろいしたていう専用の服を着て、その上に鎖帷子くさりかたびらをつける。で、鎧の上にはサーコートを着る。【装着イクイップ】とかいう魔法を使って一瞬で装備していたが、普通は従者が何十分もかけてつけるもんだ」

 

 さすが騎士団長の息子。鎧に関しては詳しい。

 

 

 

 武器屋を出た時は12時くらいになっていた。ヴァッツと合流したらご飯にするか。

 背負ったカテーナの重さは最初に背負った時と比べて気持ち軽くなったかな?と思える程度の違いだ。

 

 カテーナを運んでいく途中で気になることがあったので尋ねてみた。 

 

「もしかして、怖い?」

「怖いって……なにがですか?」

「魔物との戦闘。『新しい魔法使いの形の模索』とか大仰なこと言っていたけど、本当は死ぬのがとても怖くて、魔物と戦うことすらもうしたくない。でもどうしても戦う理由があるから防御を上げれば大丈夫だって自分に言い聞かせよう、とか思っているんじゃないかってね」

 

 今まで見てきた通り魔法使いに鎧、特に全身鎧は相性が悪い。

 それを知っていて当然のカテーナが急にそういうことを言い出したのだ。前の戦闘のトラウマが影響していないわけがない。

 

「はい。長い間大学で魔法の勉強をしていましたが、恥ずかしながら私わたくしは実践の機会がほとんどなかったのです。それで巨人に襲われた時、私わたくしがもっと持ちこたえていれば最悪の事態は防げられたのではないかと思いまして……」

 

 背中でカテーナが少し震えた。

 

 トラウマというよりも自分に足りないものを何とかして補おう、という彼女の姿勢が感じられた。

 

「やっぱりこういう魔法使いはおかしいですかね?」

「うーん、全身鎧を着た魔法使いなんて聞いたことないよ。もしかしたら前代未聞じゃない?誰も歩んだことのない道を進むのはすごいことだと思うよ」

 

 可能かどうかはここでは置いておく。

 ついでに言うと鎧を着ない方が10倍有能であることも置いておく。

 

 なにせ機動力は置き物同然、魔力も人間の魔法戦士であるヴァッツにも劣り、肝心の防御面も重戦士と比べて体力が圧倒的に劣るのである。

 

 正直さっさと諦めてくれないかなと内心では思っている。

 

 ただ、

 

「ヒロさんはお優しいのですね」

 

——私は英雄ヒーローは紳士的な存在だと思うから言わないことにする。

 

 とはいえ、このままだと話の流れで彼女を受け入れる流れになりそうなのが気が重い。

 まあ彼女のトラウマが解消されるまで気長に待つことにしよう。

 

 

 

 

 冒険者ギルドにたどり着き、更衣室でなんとかしてプレートメイルを外したあたり(かなり時間がかかった)でヴァッツと合流した。

 その後、私たちはギルドの酒場で料理を注文をしようとしたとき、バンと勢いよくドアが開く音がして、一人の少女がこちらに近づいてきた。

 

 肩にかかるくらいの赤毛、上着と短ズボンを履いているが女の子らしさを残した服装で肩と腰からバッグをつけていて、猫獣人の特徴である猫の耳と尻尾がついた少女に私は見覚えがあった。

 

 彼女はダンと私たちがいるテーブルを叩いた。

 

「ねえ、あたしを雇ってくれない?」

 

 数日前、ヴァッツと再会した日に高額なポーションを売りつけた、あの押し売りの子だった。

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