プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜 作:明日美ィ
「あたしはクレア。錬金術師よ。あなたたちがこの街有数の冒険者であることは噂で聞いているわ。それで頼みがあって来たの」
「おいヒロ、誰だあいつ。お前の知り合いか?」
「巨人と戦った時にヴァッツに渡したポーションの製作者」
「ああ、あのバケモンみたいな効果のポーションを作った人か」
クレアと名乗った少女は頷いて、薄い胸を張った。
「そう!あの〈セイハイポーション〉を作ったがこのあたし!あのポーションはあたしの何年もの年月をかけて製法を築き上げた努力の結晶の一つなんだけど……ここ何日も食べていないから詳しい話は食べてからにしない?できればそっちの奢りで」
クレアは力なく床にぺたりと座った。
あ、うん。
何日も食べていないのは本当らしく料理が出来上がるまでの間、クレアは「浄化魔法で磨き上げた水ね。味気も何もないわ」とか文句をつきながら無料サービスの水をがぶ飲みしていた(水がタダなのは冒険者ギルドだけである)。
そして恐るべき速度で料理を平らげたクレアは少しは落ち着いたようで本題を話し始めた。
「で本題に入るのだけどあたしを雇ってくれない?」
「雇うっていっても、オレたちは冒険者だぞ?不老不死を求める貴族ならともかく、オレたちには錬金術師を雇うメリットがないと思うが?」
「違う違う。あたしは錬金術師として雇って欲しいわけじゃないの。パーティーの回復職メインヒーラーとして雇って欲しいのよ?」
「回復職メインヒーラー?」
回復職は冒険者パーティーには必須の職業の1つだ。
戦場で負った傷を即座に回復させ、戦線復帰を促しパーティーの継戦力が増強する。
そのため回復効果がある神聖魔法を扱う神官プリーストは需要が高く、冒険者から引っ張りだこである。それ故に固定メンバーにつく神官プリーストは少数で、依頼ごとに契約してその場限りの仲間になることの方が多い。
競争率が高いと言うことは当然神官プリーストを雇う金額も高額で、冒険者が頭を悩ます種の1つである。
「……その場限りの関係ではなく、固定メンバーとして雇って欲しいということか?」
「そういうこと。あの〈セイハイポーション〉を使ったなら解るでしょうけど、あたしが作るポーションは回復職メインヒーラーにも不足ない能力があると思っているわ。あとそこの彼氏があなたたちのリーダーなのよね?」
「ヴァッツは彼氏ではないぞ」
「その男が率いた冒険者一行は魔物に神官プリーストと魔法使いが真っ先にやられてせいで危うく全滅しかけたと、ここのギルドの職員から聞いたわ。でもあたしならポーションを作るだけで、戦闘に参加しなければ死ぬことはないし、今の容器はビン製だけどいつか割れない素材に差し替える予定だからその点は安心して!それ以外にもアイテムでの補助も色々できるわ!」
クレアは胸をトンとたたく。
——確かにそれは道理かもしれない。
神官プリーストも人である以上死ぬリスクは常にある。そして一度死ぬと戦線が崩壊するため、前衛は必死になって回復職を守るのだ。そのリスクがないことは非常に大きい。
カテーナもヴァッツも回復魔法が使えないから、クレアの提案は渡りに船だ。
と言っても私はリーダーではないので決定権はないのだが……。
そう思案に暮れていると、カテーナが私を見ていることに気がついた。
「私はリーダーの意向に従うわ」
あれ、いつのまにか私がリーダー?
助けを求めてヴァッツを見る。
「俺も仲間を死なせたから、しばらくリーダーはこりごりだ。ヒロ、お前が決めろ」
え、ヴァッツも?
先日の死闘でランクが上がったものの私はまだランク6で、ランク8と10の2人のどちらかがリーダーをやった方が依頼を取る上で都合がいいのだが……。
「あら、あなたがリーダーになったのね。それでお互いに利益のある提案だと思うけどどうかしら」
魔物から守るリスクがない、支援も可能な固定メンバーの回復職。一見すると都合が良すぎるように思えるが……。
「でも錬金術師の賃金は高いのだろう?」
「条件を飲んでくれれば、あたしはただ働きでも構わないわ」
へ?
「まず1つめの条件はあたしの借金の肩代わりをしてくれること。大体1000万Gくらいかしら」
「それはタダとは言わない!」
「そう?まともに錬金術師を雇ったら給与2年分にも満たないのだけど?その気になれば5年でも10年でもこき使っていいわよ」
「でもポーションを売ればそのくらい捻出できるんじゃないのか?」
「ああ、それね。あたしの工房ごと街の商業ギルドに差し押さえをくらったのよ。冒険者には販売許可が下りないから、あたしは見つからないようわざわざ真夜中に露店を開いていたのに、あいつら全部持って行ってしまったのよ」
差し押さえを食らったのかよ。
冒険者、つまり冒険者ギルドに属するものは商業ギルドに加入することはできない。
自衛能力がある冒険者が行商人と護衛を1人で兼ねると行商人の仕事が奪われるので、冒険者ギルドと商業ギルドが互いの利益の確保のために協定を結んでいるのだ。
露天も農夫がリンゴを売るとからならともかく、何万Gのポーションを売るなら商業ギルドから目の敵扱いされるのは当然である。
「ん?クレアは冒険者登録しているのか」
「ランク1だし、いわゆるなんちゃって冒険者だけどね。お金を手っ取り早く借りるには冒険者になるのが一番だし」
おい!ギルドからも借りているのかよ!
組合ギルドの互助制度の一環で、冒険者はギルドからお金を借りることができる。
かつギルドで申請すれば審査すらなく冒険者になれるので、冒険者ギルドは手軽にお金を借りられる街金として有名である。
その反面借金の支払いが滞れば、各街にあるギルドの情報範囲網の広さと冒険者という無数の戦力のおかげで、たとえ山林に逃げ込んでも冒険者が催促に押しかけてくるのだ。
そして一度捕まれば借金を返すまで鉱山で働かされるとか娼館に身を落とすとか噂で聞いたことがある。
つまり借金を肩代わりすると言うことは、ギルドから追われるリスクも負うことになるのだ。
問題は山積みだが、なんといっても私は冒険者。仕事次第だが報酬は悪くない。
巨人討伐で600万G稼いだし1000万Gくらいなら割となんとかなる、と思いたい。
「な、なんとかしよう」
「それが問題ないならもう1つ。さっきも言ったけど工房も取り上げられちゃったし、新たに立てる必要があるからその経費や開発費は請求させてもらうわ。これは今すぐじゃなくていいけど、あたしをフル活用させるならオススメするわね」
「それは……多分問題ないな」
借金1000万Gに比べればいくらかインパクトは少ない気がするし、今すぐ調達する必要はないので多分大丈夫だろう。
「それ以外に質問はある?」
「工房ってどんな場所に立てればいいんだ?」
彼女いわくある程度の閉鎖的な空間が必要で、かつ万が一爆発事故が起きても周囲に被害が及ばないように周辺に建物がないことが条件らしい。
この条件だと冒険者ギルド周辺に建物が集中し、ある程度離れると建物がなくなるヴィレッジだとかなり限られてくる。
クレアもそのことは理解していたらしく、以前の工房は裏路地にこっそりと作っていたらしい。そのため爆発の危険性がわずかでも錬金術の実験はできなかったそうだ。
「となると……オレの家の納屋とかどうかな?」
街から遥か離れたボロ小屋や馬小屋を除き、私が思いつくのはそれくらいしかない。
厳密には私ではなく師匠の屋敷にある納屋だが、屋敷からそれなりに離れているため都合がいいだろう。勝手に使うことになるが、まあ屋敷が無駄に広いせいで納屋も使い切れていないし多分大丈夫だろう。
もっともこの後師匠が帰ってきてから、死ぬほど叱られたのだが。
「これ以上なければ契約を結びたいんだけど。ほら口約束だけじゃあたしが不当にタダ働きさせられているって訴えるかもしれないわよ?」
借金を肩代わりさせた上で訴えるつもりかよ!
……なんとなくカテーナと別方向だがやばい感じがするけど気のせいだと信じたい。
契約内容は私が借金を背負う代わりに、クレアは私たちのパーティーで回復職として働く。賃金以外の必要経費は私が負担して、彼女が生産したものは私たちが自由に扱っていい。
要約すると以上のようになった。
全員に確認を取り契約は締結された。
「これで契約よしっと。ではよろしくねあたしのパトロンさん。あたしはクレア、立派な錬金術師になるのが夢なのよ」
「オレはヒロ。冒険者で、いつかはオレを助けてくれた英雄みたいな人になりたいんだ」
「私わたくしはカテーナ・アイツベルグ。放浪修行ヴァルツ中の魔法使いよ」
「俺はカイト・バスタード。なぜかみんなから『ヴァッツ』て呼ばれている」
ああ、なんというかこうやって仲間が集まっていくのってすごく冒険をしているように感じる。
私は師匠の元で修行していてもなかなか強くなれず、同期の冒険者は先に町の外に出て行ってしまったから仲間ができることがすごく嬉しい。
「それで俺から質問なんだが、工房を建てるのにいくら必要なんだ?」
「ん〜最低300万Gくらいかなぁ。できれば500万くらいは欲しいけど贅沢は言えないわね。研究費は月に100万Gあると嬉しいけどそこは予算を決めてからね」
え、1000万以外に300万?さらに月に100万?!
「質問されなかったし別にいいのかなあって思っていたから、わざわざ話さなかったけどね。改めてよろしくねあたしのパトロンさん」
クレアはにっこりと笑ったがその笑顔が怖い。
神様、どうせ仲間を与えてくれるならまともな仲間をください!