プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜   作:明日美ィ

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12 クレア

 クレアと握手した時、彼女の体臭が気になった。

 

「クレアちょっと臭い。いやかなり臭い」

「え?確かに一週間以上体洗っていないけどそんなに臭い?」

 

 クレアは体をすんすん嗅いでいる。二人もそう思うのかカテーナとヴァッツはそっぽを向いている。

 

「正直ノミだらけの野良猫のような匂いがする。オレの家で体洗いなよ、ついでに納屋を見に行こう」

 

 本当は師匠以下略。

 

 

 

 家の鍵を開けると、玄関に手紙が置いてあった。配達の仕事をしている冒険者がドアの隙間から滑り込ませたのだろう。

 宛先はセイバ師匠からだった。手紙の中身は一旦置いといて風呂場に向かう。

 

 風呂場は大理石でできた浴槽とシャワーが設置されており、浴槽とシャワーのタンクに水を張ってから火の魔石のかけらを入れるとちょうどいい感じのお湯になる仕組みだ。

 

 風呂を沸かして更衣室でクレアの服を剥ぎ取る。仕立ての良い服で、クレアの以前の生活が想像できる気がした。

 

「ええっと……私一人で風呂入れるから……」

 

 クレアは猫耳をヒクヒクさせる。

 私としては王女時代に飼っていたラシアンブルーの猫を思い出す。あの猫はたまに大浴場で洗ったが嫌がって暴れるから結構苦労した覚えがある。クレアはどちらかというと街にいる雑種の野良猫に見えるが。

 

「大丈夫だってほら耳とか背中とか自分だけじゃ上手く洗えないところとかあるでしょ」

「ちょっとあたし猫扱いされていない?!」

 

 私はクレアを濡れ鼠にした後、植物油の石鹸を取り出し泡だてて彼女を丹念に洗う。

 

 

 

 背中を洗っていると、クレアが恐る恐る私に話しかけてきた。

 

「……ねえ、ヒロはあたしのこと恨んだりしないの?」

「恨むって何を?」

「何ってさっきの契約のことよ。別に騙したつもりじゃないけど、色々とそっちが不利なことを伏せたりして……。あたしも事情が事情だし、できるだけ自分に有利な契約が取れるようにあんな態度をとったのよ?それにヒロは人が良すぎ。コロッと騙されたり、またいつか面倒ごとを持ち込まれるわね」

 

 ハハハ、否定できねえ。

 現時点で使えるか分からない全身鎧魔法使いとか、借金持ちの錬金術士とか面倒臭い仲間をどんどん引き入れているから、今後もありえなくはない。

 

「——でも、オレはクレアに感謝している」

「へ?」

 

 私は例の高額ポーションを飲ませたおかげでカテーナやヴァッツの命を救うことができ、呪い解除の効果を利用して巨人を倒せたことを話した。

 

「確かに6本30万Gは高かったけどそのおかげで2人を救うことができたから、安い買い物だったと思っている。それにクレアに恩があるからいつか報いたい……とか思っていたよ」

「別に恩にきる必要はないわ。あたしは物の価値に応じた対価を要求しただけ」

「それでも、だ。ありがとう」

「……なんかちょっと照れるわね。実はあたし、錬金術師をやる前は両親と行商人をしていたの。——錬金術師になるときに親と別れちゃったけど、両親はきっとどこかで旅をしていると思うわ。だから交渉ごとはあたしに任せてよ。多少は力になれるわ」

 

 タダ働きの上にサービス産業を積み上げる感じかしらね、とクレアは小さく呟いた。

 

 

 

 シャワーをかけて泡を落とした後、二人で一緒に風呂に入った。

 クレアは猫と違って水を嫌がる様子はない。

 

「はぁ〜生き返るわ。こうしてお風呂に入るのはいつぶりだっけ」

「オレも最近は風呂沸かさずに、水で汗を流していたからなあ。久々な気がする」

 

 湯船はそこまで大きくはなく、二人が入るといっぱいになる。

 

 クレアは両手を組んで天井に向けて伸ばして、大きく伸びをした。

 

「そういえば契約が破棄されたら借金の返済をどうするつもりだったんだ?」

「どうするも何もほぼ完全な詰みよ。お金を借りて建てた工房は差し押さえられ、ポーションが作れなかったしね」

「冒険者は冒険者ギルドに魔物の素材やポーションを納品できるからわざわざリスクを冒す必要はなかったんじゃない?」

「あそこケチだから1本5万Gで売れるわけがないでしょ。それに真っ先に試したけど、これまでにないポーションを納品するのだから審査をするため2、3ヶ月待ってほしいって言われたわ」

 

 手っ取り早く稼ぐにはリスクを冒してでもポーションを直接冒険者に売るのが一番だとクレアは言った。

 

「そんで商業ギルドにバレて、こっそり作った工房も何もかも取られたから、どうしようかって思ったときにあんたの顔が思い浮かんだのよ。ちょうど冒険者ギルドで話題になっていたから、試しに契約を持ちかけたのよ」

 

 その時、クレアは言葉を切り耳が少し動いた。

 

「……窓の外、人が1人。多分男。足音は隠しているみたいだけど」

「……?……分かった」

 

 私は意図を理解し、石鹸を掴んで窓に手をかける。窓は曇りガラスになっていて外の景色は見えないが、ミスリルサッシにはめ込まれているため左右にスライドさせて開閉が可能だ。

 そして窓を半分スライドさせて、その隙間から石鹸を外へ全力投げつける!

 

「覗きやっているんじゃねえー!アホー!」

「ぐあぁ!」

 

 外の男は当然ヴァッツだ。

 石鹸はヴァッツの頭に直撃した……と見せかけて、例の全身鎧のヘルムに当たり粉砕四散した。それでも衝撃はそれなりだったらしく、ヴァッツは尻餅をついた。

 

「おいヒロ!俺は偶然通りかかかったかもしれねえだろ!冤罪だ!」

「ヘルムだけ被った不審な格好でよくそんなこと言えるな!スケベ!遭難しろ!」

 

 私はビシャッと窓を閉じ、厳重に鍵を内側からかけた。

 

 

 

 風呂の後は夕食を支度をする。

 クレアが現状金なしホームレスなので、部屋が余っている私の(師匠の)家の空いた部屋に泊めることに決まった。そしてクレアと私のご飯を作るついでに夕食を4人分にして作ることにした。

 

 実は私はこれでも料理は得意な方だ。というのも王女時代は料理のりの字も無かったが、冒険者になってからは師匠と私の飯を作る必要があった。それに加えて騎士道物語はともかく最近の軽本ラノベにでてくる主人公ヒーローは戦闘だけではなく料理も優れている人がいるから、私はそれをなぞって練習したからという理由もある。

 最近は一人で食べることが多いから外食も多かったが、今日はヴァッツはともかく人が多いので腕が鳴る。

 

 牛肉の赤ワイン煮込みにポテトとチーズのグラタン。バゲットは温め直しておく。

 どうせ次の日の朝も同じものを食べればいいので多めに作ったのだが、

 

「なんか俺だけ量が少なく無いか?!」

「少ないなら自分でよそえばいいでしょ、ふん!」

 

 ヴァッツだけ料理の量が他の人と比べて絶賛7割引されている。

 料理は余っているので足りないぶんは自分でよそえばいいが、公爵家の生まれであるヴァッツは下働きに任せるため自分で料理を盛り付けたことはなかったはずだ。

 さっきの覗き疑惑に対する私からのささやかな意趣返しである。

 

「ヒロさんはいわゆる『ツンデレ系オカン受け』かしら。フフフ」

 

 カテーナがなぜかニコニコしているが、私はそれを無視する。

 

 リビングに置かれた大テーブルを4人で囲むが、これでもテーブルには余裕がある。

 

「神々の恵みに感謝を」

 

 手を合わせ、食事の挨拶をする。一応食事前に挨拶をするのが正式らしく以前は毎回していたが、こっちに来てからは忘れていた。

 

「いただきまーす!…………。おー、おいしいじゃん!」

「牛肉も短時間でよく煮込まれてトロトロになっていますわね」

 

 クレアとカテーナには大好評のようだ。

 

「信じられん……。泥団子が『私の得意料理だ』と言っていたあのお前が?幻術の類かなんかじゃ無いだろうな……?」

 

 ヴァッツはなんだか信じられないというような顔つきをしている。ひどい。嫌なら食べなければいいのだが、ヴァッツは恐る恐る口に料理を運ぶ。

 

「……お、普通にうまいじゃん」

「普通って何よ、ふつーって」

 

 それでも褒められるのはちょっと嬉しい。師匠はいつも「食える。問題ない」としか言わないし作りがいがあまりないのだ。

 

 さすがに3割だと量が足りないらしく、ヴァッツは慣れない手つきで器に牛肉の煮込みをよそった。

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