プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜   作:明日美ィ

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13 クレア流スライム退治

 夕食後自室に戻り、師匠から送られた手紙の封を切って中身を読んだ。

 私の師匠であるセイバはランク12でこのヴィレッジどころか国有数の冒険者で、国内外の依頼で各地に赴くことが少なく無い。

 

 手紙を読んで見ると、今回の依頼は隣国アルキミアの調査だったようだ。

 最近アルキミアで革命が起きたらしく、王城まで押し寄せた革命軍が王様と王妃を処刑、二人の一人娘であるアルキミア王女は行方不明らしい。また現在も王国軍と革命軍の内戦が続いており、その余波で難民が溢れアルキミアと我が国デーニッツの間にある関所はパンク状態になっている、とのことだ。

 この手紙も伝書鳩を経由して配送されたそうで、師匠はしばらく戻れないと書いてあった。

 

 王都から近いとはいえ田舎町であるヴィレッジは情報の伝播が遅く、この手紙で革命のことを初めて知った。

 きっと今頃王都はなかばパニック状態に陥り、王であるお父様は胃を痛めているだろう。

 

 一方私は借金のことで頭が痛い。

 冷静に考えればこんな田舎町で、冒険者が駆け出しを抜ければ出て行くような街で高額の依頼なんてそうそう無い。

 安請負やすうけおいした私が悪いのだが、それでも堪らずベッドで足をジタバタさせる。

 昔なら1000万なんて端金とはいかないけど、ものすごく高いとは感じなかったけどな……。

 後悔しても仕方ないので手紙は机の引き出しに入れて、部屋から出る。

 

 部屋を出ると宿に帰るヴァッツと出くわした。

 

「ヒロ、大丈夫か?」

「大丈夫ってなにが?」

「借金のことだよ1000万Gくらい俺の実家から出すことは造作もないぞ?」

 

 私は首を横に振った。

 確かにヴァッツの実家からお金を貸してもらうなら簡単に解決するだろう。

 

「オレが決めたことだし、自分でなんとかするよ。それに今のオレはヴァッツの婚約者じゃなくてただの冒険者だから、ヴァッツに頼るのは悪い気がするよ」

「そうか。ならおやすみ」「おやすみ」

 

 

 

 次の日から私たちは借金を返すために依頼をこなすことにした。

 

「といっても高額な依頼はそうそうないよな……」

 

 強力な魔物はとうの昔にあらかた狩り尽くされたせいで、例の巨人のような報酬の良い依頼は見つからなかった。

 となると数をこなすしかないか……。

 

「ねえヒロ、このスライム狩りとかいいんじゃない?」

「ええースライム?」

 

 クレアは一枚の張り紙を指差す。依頼の内容は街の南でスライムを退治するというもので、討伐数に応じて報酬を支払うというものだ。

 

 スライムは草原に生息する半透明でゼリー状な魔物で、攻撃しなければこちらに危害を与えない比較的穏やかな性格をしている。ただ畑の野菜を体内に取り込み吸収するため、畑を荒らす害獣として駆除してほしいとのことだ。

 ただスライムは物理打撃系はほとんど効かず、剣でも直接コアを破壊しないと倒せない。普通のスライムなら倒すのに時間がかかるだけだが、アシッドスライムが飛ばしてくる酸は武器や防具を溶かし皮膚に当たればただれてしまうため、新人冒険者が受ける依頼としてはあまり人気はない。稼げる依頼でもないため上級冒険者にも人気はない。

 

 要は割とめんどくさい魔物である。

 

「普通のスライムが1匹2000G、アシッドスライムが1匹5000G……数をこなせばそれなりの額になるんじゃねえか?」

「でもアシッドスライムと格闘して武器がやられると最悪収支がマイナスになりそうなんだよな……」

 

 量産品だって武器防具は決して安くはない。

 

「ふふん、ならあたしに良案があるのだけど。聞いてみる?」

「金欠だし、大してお金はかけられないぞ」

「そこは大丈夫よ。錬金術師のやりかたをみせてあげる!」

 

 クレアは胸を叩いた。

 

 

 

 スライムはヴィレッジの南の草原に生息しているため、私たちはそこまでバケツを何個も持って向かった。

 バケツには飼料用の岩塩と家々を巡回して集めた灰が詰められている。

 さすがに所持重量的にカテーナを背負うわけにはいかないので、カテーナは今日はお留守番だ。

 

 今の季節は春が終わり初夏が訪れたばかり。草木は青々と生い茂り、日当たりのいいところにいれば少し汗ばむくらいの暑さだ。

 

 スライムはこの時期なら草むらに数匹いるのが普通だが、退治にくる人があまりにもいなかったせいか大繁殖して少なくとも30匹以上はいる。そのせいでところどころ草むらがスライムの食害で禿げて地面が露出している。

 こいつらが農家の畑に一斉に突撃したら大損害を被るだろう。骨が折れるがなんとかしないと。

 

 私はクレアの指示通り岩塩の入ったバケツをもって普通のスライムの1匹に近づいた。スライムは膝くらいの大きさの半球の形をしていて、石ころくらいのコアが体内に埋め込まれている。

 

「で、これを被せるのか?」

「そう、とりあえずバケツの3分の1くらいでいいわ」

 

 岩塩をスライムにかけ、しばらくした後棒切れでスライムと岩塩を混ぜるようにつつきまわす。

 

 するとなんとスライムから水分がにじみ出し、縮んでいったのだ!

 スライムも暴れ出すので棒切れで押さえつける。体内の水分が抜けて行くに従ってスライムの動きが悪くなり、最終的には固まって弾力のあるボールのようになってしまった。

 

 このスライムボールは後で回収してギルドに買い取ってもらい、余ったやつはクレアが研究材料にするとのことだ。

 

「クレアすごいじゃないか!」

「これは体の中と外の『浸透圧』の差を利用した方法よ。外の方がしょっぱいから、スライムの中から外に水分が染み出して縮んだのよ」

 

 クレアは得意そうに鼻をこする。

 

「【凍結フリーズ】、【凍結フリーズ】、【凍結フリーズ】……。やっぱこっちの方が速くないか?」

「ヴァッツは魔法が使えるからなあ……」

「誰でも魔法を使えるって思わないでよ」

 

 一方ヴァッツは剣をスライムに突き刺して剣の先端から氷魔法を放って体内から凍らせていた。樹氷状にできた氷はスライムの中で成長し、核を貫くため一瞬で倒すことが可能である。

 確かに圧倒的に速いし、魔力の消費も少ないため大量にスライムを捌けることはできるが魔法を使える人じゃないとできないやり方である。

 

「じゃあ普通のスライムはヴァッツに任せて、あたしたちはあのアシッドスライムにしましょ。ヒロ、岩塩と灰を持ってきて。最初に灰をかけてから岩塩をかけて混ぜるのよ」

 

 実際に挑戦するとアシッドスライムは攻撃に反応して酸を吹き出すが、棒に酸が触れても溶けずに残っていた。

 クレアの言うには、スライムが出す酸と灰の『アルカリ』とが中和することで酸を無力化できるということだ。

 

「確かにこれなら武器も壊れないし、安全に倒せるな」

「じゃあ後は2人に任せるわね〜。あたしは休んでいるから」

「え、ちょっと?!」

「だってあたしは錬金術師で非戦闘要員よ?それに、こういう知られていない新しい技術には高い情報料がつくのよ。少なくともあたしが働く以上の価値がある情報だと思うわ」

 

 そう言ってクレアは木の陰に座って休み始めた。

 

「あー暑い暑い」

「俺たちも少し休もうぜ」

 

 あれからスライムを20匹ほど倒した。太陽は高く昇ってかなり暑くなり、少し動くだけでも汗が流れる。ヴァッツから水筒を手渡されて、水を一口飲む。

 

「あースライムスライムスライム、スライム飽きた!ドラゴンと戦いたい、精霊王と殴り合いたい。せめてここにいるスライムが集まって合体して巨大スライムになったりしないかな」

「本当にそうなったら俺は逃げるぞ。酸対策で普段の装備は宿に置いておいたからな」

 

 暑い暑い、と言いながら残りのスライムを処理しているうちにクレアはいつの間にか眠ってしまったようだ。

 

 スライムを全て倒した時、クレアが寝ていた方から悲鳴が聞こえた。

 振り返ると緑色のスライムが木から垂れ下がり、柔らかい体がクレアの全身にまとわりついていた。

 彼女には目立った外傷はないが着ている服のところどころの繊維がほぐれ、スライムの体内に取り込まれているのが見えた。

 

「あ、あれは『服だけ溶かすスライム』!滅多に見られないレアな魔物で、文字通り服だけを溶かしてそれ以外は一切溶かさないと言う性質を持っているスライムなんだよ!」

 

 いやなんだそんな目的がピンポイントな魔物は!

 

「それは大変じゃん!ヴァッツ、クレアの肌があらわになる前にあのスライムをひっぺがえすぞ!」

「ちょっとまって!『服だけ溶かす』ということは服の繊維だけを選択的に溶かして、かつ人の皮膚は溶かさないっていうなかなか珍しい特性を持っているじゃない!先にこのビンにサンプルを取るから、その後スライムを剥がして!」

 

 クレアは何を言っているんだ!

 

 

 

「ううう〜しょっぱい」

 

 サンプルを採取後、岩塩をクレアごと全身にかけて縮んだスライムを回収した。

 帰宅途中、クレアは焦点の定まらない目でトボトボと歩いていた。

 幸い素肌を見せずに済んだが、着ていた服に穴が何個も空いてしまって、髪や肌は岩塩とスライムの体液でキラキラテカテカと光っていた。

 少なくとも女の子がそうなっていい光景ではない。

 

「大丈夫か?」

「どう見ても大丈夫に見えねえけど」

「——この服、あたしの友達から初めてもらった服なのよ。なのにこんな風にしちゃった……。あと持っている服これしかない……」

 

 私はクレアの言葉に少し表情を緩める。彼女は出会った時からお金お金言っていたので、まるでクレアは拝金主義者であると勘違いしていた。でも友達からの贈り物を大切にするその姿からその考えを改めた。

 

「服の修繕費ってパーティー全体の予算からでる?」

「依頼の最中に発生した損害だと考えれば……でるんじゃないかな」

「ホント?あーよかった。この服結構高いから修繕費いくらになるか見当がつかないのよね」

 

 クレアはさっきまでと違ってぱっと表情を明るくした。

 さっきの考えを撤回する。金のことしか考えてねえ。

 そもそも服のこと気にしているのだって、友達からタダでもらったものだからじゃない?それにもらったものしか服を着ないのなら持っている服が1着しかないのも当然だと思うぞ。

 

「それにスライムの体液を浴びたところの皮膚がつやつやしているから、もしかしてこれって美容効果があるんじゃないかしら?これは持ち帰って研究しないとね」

 

 どうやらクレアの機嫌が良くなったらしい。

 

 ポジティブで何よりです。

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