プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜 作:明日美ィ
次の日の午前中は丘のふもとの訓練場でカテーナとヴァッツと3人で訓練することにした。
訓練場といっても何もない原っぱがあるだけだが、筋トレをしたり武器を振るうには十分な空間はある。
「いぃーーーーーーーーーー……ペシャ」
カテーナの希望により(というより鎧を着るとあまりにも役立たずなので)、筋力をつけるためにトレーニングを施すことになった。
そしてそのカテーナは腕立て伏せの1回目、それも体を地面まで下げたところで筋肉が体重に耐えきれず崩れてしまった。
「さすがに体力なさすぎないか?」
「ハァハァ……魔法使いに体力を求めないでよ」
「でも騎士は見習いの時から鎧を着て全力疾走したり、武器を振るうんだぜ。あんたも鎧を着るなら最低限筋力はないと身動きすら取れないということはよくわかっているだろ?」
今のカテーナは鎧でもローブでもなく動きやすい運動服を着ているが、すでに汗が吹き出して服が張り付いている。
ヴァッツはカテーナの姿をじっと見て、時折腕立て伏せの姿勢についてアドバイスをしているようだ。
さすが騎士団長の息子と見直していたが、
「ほれいーち、にー、さーん……。ほらもっと激しく腕を、全身を上下に動かして」
「ねえ、なんか一点に目線が寄っているのだけど」
どうやらカテーナの腕立て伏せをするたびに激しく揺れる豊かな胸を凝視していたらしい。ヴァッツの評価をさっき上げた分だけ下げる。
一方私は訓練場に転がっている岩の1つを肩の上に背負ってスクワットをする。これ1つで70kgはあるが、なにせ取り柄が怪力しかないため弟子入りした時からこういうことをやらされ続けていた。
「11、12、13、14……」
「ヴァッツさん、私わたくしもあの程度筋肉をつけるべきでしょうか……」
「いやあれは異常だから」
「……28、29、30!」
「ヒロ、お前人間か?」
「ちょっとひどくない?」
ヴァッツは私を信じられない目で見ているが、いくらなんでもその言い方はひどいと思う。
というか知っているよね?
そしてしばらく淡々と3人で筋トレをしていた。
「もう無理……」
30分後カテーナは限界がきたようで地面に体を預け、腕や足はピクピクと痙攣している。
「やっぱ体力と筋力の鍛錬が急務か」「なら休憩しない?」
皮袋に入った水を飲んで軽く休憩する。
その後私は剣の素振りの練習をする。
——お前の取り柄は怪力しかない、と私は修行を始めてすぐ師匠に言われたことがある。
お前の魔法の才能は皆無。剣術のセンスもない。だが魔物を圧倒できる筋力がある。それを存分に活かした戦い方をしろと。
それを言われてから腕力だけでなく、全身の力を使い敵を両断する技術を中心に磨いてきた。
でもヴァッツは魔法も使えるしきっと剣術のセンスもある。私はヴァッツの才能に嫉妬している気がする。
だからその差を埋めるために私はある画策をする。
用意するのは長剣とボロ布、それに度数の強い蒸留酒と火打ち石だ。
「……ヒロ、お前何するつもりだ」「ちょっと見てて」
ボロ布を長剣の刃の部分に巻きつけ、蒸留酒を布に染み込ませる。それに火打ち石で火花を飛ばせばお酒に引火して剣が青い炎を立てて燃え上がる。
「ジャーン!名付けて【火炎剣フレイムソード】!ねえヴァッツどうどう?」
素振りをすれば剣に沿って炎の青い軌跡が描かれる。
「ヴァッツが【氷結剣アイシクルソード】なら対抗してオレは【火炎剣フレイムソード】にする、ってあっつ!」
炎によって剣が熱せられて、握っている柄つかの部分まで熱くなり私は思わず剣を落とした。剣は地面に落ちて、やがて燃料のお酒が切れて炎が消えた。
「バカかお前は。魔法じゃないんだから持ち手が熱くなるのは当然だろ」
手がちょっとヒリヒリするのでヴァッツが魔法で作った氷で手を冷やす。
「だってぇ……」
「ヒロは昔から魔法に適性がないんだよ。カテーナ、魔法が使えない人が魔法を使えるようになる方法は知らないか?」
この道魔法を30年極めたエルフは思案するように耳をピクピクと動かす。
「……多分ない、わね。魔法に適性があるものが魔法を習得する方法は何種類かあるけど、適性がないものが後天的に適性が発現したというケースは聞いたことがないわ」
「つまり魔法の適性は先天的、血筋とかで影響するのか?」
「半分はそうね。エルフはみんな適性がある種族だから、ヒトの王族は一族とエルフを婚姻させて魔法適性のあるヒトの子供を産ませた、とお父様から聞いたことがあるわ。もう半分は突発的に適性があらわれる場合ね。ヒトなら10人に1人くらいに魔法の適性があるらしいわね」
ゆえに王族から遠くとも血筋を引く貴族は魔法の適性を持つ人が多く、王族に近い人ほど魔法の適性が優れているという。公爵家の次男坊であるヴァッツはその一例だろう。
一方王女でありながら魔法の適性がない私は周囲から色々と言われたのだが……あまり思い出したくないので考えを打ち切る。
「だぁーやっぱり魔法は無理かあ。ヴァッツはいいよなぁ、魔法が使えて」
「といっても使えるのは氷の属性だけどな。カテーナ、魔力を上げる方法とか魔法の扱いが上手くなる方法とか知っているか」
「そうですね、私わたくしが教えられることは大したことはないでしょうけど……」
「大学で魔法を学んだんだろ?俺らとは素質も知識も段違いなはずだ。俺たちが知らないことなんていくらでもあるはずだ」
そうではない、と彼女は首を振った。
「立場上、私わたくしの口からは話せないのです」
「話せない?」
「エルフの高度な魔法技術は軍事的な秘匿事項に触れる可能性があるのですよ。かつてヒトの国が私たちの里に攻め入ったのはヒトにとってははるか昔の話かもしれませんが、私たちにはまだご存命の人がいます。長老の中ではまだヒトに対してあまりいい感情を持たない人がいるのです」
500年ほど前まだ小国だった我が国デーニッツ王国はエルフの里を取り囲み焼き討ちにした。しかし森の中でゲリラ戦術を取り抵抗したエルフに追い帰された。ただ撤退戦の途中でエルフの王子を捕虜にすることに成功し、交換条件でエルフランドは降伏し、属国になる代わりに自治権を認められたという歴史がある。
要はかつて里を燃やした種族ヒトに自分達の魔法技術は簡単には渡せないということらしい。
「特にヴァッツさんは公爵家の一族で軍事に関わる一族であるなら教えるわけには……」
カテーナは言葉を濁しながらもはっきりと断った。
ヴァッツはそれでもと詰め寄った。
「それでもお願いできないか?俺は今後騎士団に所属するつもりはないし冒険者を続けていくつもりだし……」
ヴァッツは私に振り返ってちょっと見た。なんのつもりだろうか。
「俺はもうこれ以上仲間を失いたくないから、強くなるためなら手段は問わない。頼む。なんなら口外しないと俺の父ラウンド・ヴァスタードに誓ってもいい」
そういってヴァッツはカテーナに頭を下げた。
仮にも公爵家の息子である彼が頭を下げるのは珍しい気がする。
カテーナは彼の頼みを聞いて、ため息をついた。
「そこまで言われると仕方ありませんね。全てとはいきませんが一部はお教えしましょう。それでヴァッツさん、何をお教えすればよろしいのでしょうか」
「前に巨人と戦った時に、呪文の直前に何か詠唱を挟んでいただろう?それにあの時は『あの速度で正確に命中させた』と言っていたよな。もしかして魔法の制度をあげるのがその詠唱なのではないか、と思ってな。学校では教えてくれなかったから、あれはもしかしてエルフの秘伝なのかもしれないと思ったんだ」
カテーナは一瞬驚いた表情を見せ、それを頭の中から振り切るように首を振った。
「……あの時の私の言葉を耳にして、しっかりと覚えていましたか。ヴァッツさんは思ったよりも侮れない人ですね。あれは『制御魔術』と呼ばれるものです。攻撃魔法の威力をを犠牲にして命中精度を高めるための魔法技術の一つです」
——ヴァッツはスケベではあるがバカではない。
彼は騎士団長の息子であり、冒険者学校で優秀な成績を収め、そして元々目端の利く人物である。
才能に溢れ、仲間を思いやり、努力を惜しまない。そうヴァッツはまるで——主人公のような人だ。
私が主人公みたいになりたいのに、ヴァッツの方がその適性があるのは面白くない。
「……ヒロ、お前なんで膨れているんだ?」
「別に」
「ふふふ、せっかくですしヒロさんも講義を聞いていきますか?」
「もちろん」
私は魔法は使えないが、ヴァッツに対する対抗心から頷いた。