プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜 作:明日美ィ
私達以外誰もいない原っぱの訓練場で、カテーナは説明を始めた。
「それでまず魔法の基礎は知っているかしら?」
「学校で習ったことはある。ただあいにく魔法使いコースではなく魔法剣士コースだったから、完全に知っているとは言えないが」
私はもちろん習ったことはない。
「そうですか。でも魔法の基礎知識のおさらいを一応しますね。魔法は空気中のマナを体内の取り込み、そのマナを利用して現実世界に物理現象として発揮する一連の流れを指します」
マナを取り込む手段は呼吸と体表面からの吸収の2つがあり、魔法使いはこの両方を最大限生かすためにマナの通しの良い布地を使ったローブを着るのが普通だ。
そして物理的現象としてマナを利用するために呪文が存在する。
「エルフの古い伝承によりますと、かつての私わたくし達は呪文を使わずに魔法を使っていたと言われています。当時はそもそも言語体系が完成されておらず呪文がそのそも存在しなかったため、術者の思念によってマナを操っていたらしいです」
「思念?イメージとかそういうの?」
「そうですね、基本的にそのような考えでいいと思います。思念を使って魔法を形成する方法を古代魔法と呼んでいます。私わたくしも大学で古代魔法を習ったので試して見ましょうか」
そう言ってカテーナは右手の人差し指を立てて、少し俯いて瞼を閉じる。
しばらくしてポッと彼女の突き立てた指から炎が燃え上がった。
その炎はそよ風に揺られて、炎の大きさが大きくなったり小さくなったりした。
カテーナはその炎を宙に投げつけるように腕を振った。
投げつけられた炎はふよふよとゆっくりと飛んで、何メートルか空中を進んだ後で消えてしまった。
「これが古代魔法です。昔の人たちは炎の魔法なら炎のイメージを頭の中に作り上げて魔法を形成していました」
「これと呪文がある魔法とはどう違うんだ?」
「呪文とは魔法の効果を一定にするために使われるのです。呪文なしでも魔法は使えますがこちらの方が魔法は安定するのです。【火球ファイアボール】」
カテーナは今度は呪文を唱えて魔法を唱えた。
すると彼女の指先にこぶし大の火の玉がともった。鎧を着ていた時と比べてできた玉の大きさが圧倒的に大きい。
今度の火球は風に揺られても形を保っている。
それを彼女が飛ばすとまっすぐに飛んで行った。
飛んだ先には訓練用の案山子(高耐久)がありそれに直撃し、案山子は一瞬燃え上がった後一部が黒焦げが残って鎮火した。
「これが呪文付きの魔法です」
「なるほど、こっちの方が戦闘に向いているのか」
「そうですね。発動は呪文の方が早いですし、それに加えてこちらの方が間違えようがないというのも長所です。イメージだけに頼ると、イメージがぶれてしまえば炎の魔法のはずが氷の魔法にになったり、逆に回復の魔法のはずが炎の魔法になったりすることもあり得ます。そのため呪文で魔法の効果を制御するのです」
エルフは大昔に魔法を呪文によって『言語化』し、魔法の使い手として世界中で一世を風靡したと言い伝えられている、と彼女は言葉を続けた。
「そして呪文の前に詠唱をつけ、呪文のみよりもさらに制御性をあげた魔法。それが『制御魔法』と呼ばれるものです」
カテーナは今度は腕を先ほどの方角とは逆の方向に向け、魔法の詠唱を始めた。
「xxx……【火球ファイアボール】」
呪文の前に聞きなれない呟きを添えて彼女はまた火球を生成し、発射した。
当然先ほどとは真逆の方向に飛んでいったが、途中で軌道を180度変えてこちらの方に向かって飛んで行った。
そしてそのまま私たちのそばを通り過ぎ、背後にあった先ほどの案山子に直撃した。
つまり彼女は背後にあった標的に、火球を正確に命中させたのだ。
「xxx……【火球ファイアボール】、【火球ファイアボール】、【火球ファイアボール】」
こんどはバラバラの方向に火球を発射したが、火球はどれも途中で放物線状に軌道が変化し、その全てが案山子に命中した。
「……すごいなこれは」
これにはヴァッツも驚嘆の声をあげた。
「ヒトの魔法使い達のカリキュラムがどうかはわかりませんが、これがエルフに伝わる『制御魔法』です。ヴァッツさん、これはヒトの街では見たことがないということでいいですか?」
「ああ、初めて見た。すごいな。でもこれがエルフの軍事機密にどう関わるというんだ?」
「ではお二人に聞いてみますか。ヒロさんは魔法は何を重要視するべきだと思いますか?」
「火力と破壊力!」
ヴァッツは何を行っているだお前というような表情でため息をついた。
「燃費。人間はエルフと比べるとマナの消費が大きいから、体内のマナの消費を考えずに魔法を連続して使うと息切れがするし威力もガタ落ちする。だからいかにしてマナの燃費を良くするかを考えるようにと学校の先生が言っていた。それに急激にマナを消費すると心臓が耐えきれずにショック死を引き起こすとも聞いたことがある」
やっぱりお前は魔法は向いていねえなとヴァッツが言い放った。
私が余計なお世話だとむくれると、カテーナはクスッと笑った。
「なるほど、ヒトの街ではそのようにお考えになるのですね」
「エルフは違うところを重視するのか?」
「ええ。私わたくし達は『正確さ』を重視します。正確に敵の急所に魔法を当てて敵を倒すこと、これがエルフ式の魔法の真髄です」
「なぜ正確性を求めるんだ?エルフは魔法が得意で、魔力のコントロールができるのなら範囲火力に特化して敵をなぎ倒すことももできるだろう?」
「私わたくし達の里は森の中にあります。そして森と共に暮らしています。ですので……」
「広範囲の魔法をつかえば森に被害が出るということか」
「そういうことです。例の戦争の時もそうでしたが、私わたくし達は森の中に引きこもって奇襲を繰り返すことを基本戦術とします。魔法使いは木陰や茂みに潜み、別部隊の陽動に誘い出された敵を各個撃破します。その時にできるだけ森への被害を少なく、かつ効率的に敵を倒すために魔法の正確性を求めるのです」
「ふーん、わかった」
「お前は理解しているか怪しいな」
「ひどくない?」
「で、俺が呪文に詠唱をつければその制御魔術は使えるのか?」
「ええ。ヒトには本来教えてない技術ですが、私わたくしの真似すればおそらく可能だと思います」
「なら教えてくれ。頼む」
この後ヴァッツはカテーナの指示を受けながら制御魔術の練習を始めた。
カテーナ曰く、制御魔術は目標の位置を正確に把握することが第一であり、詠唱は単純に言うと『その位置に向けて攻撃魔法を当てるための』魔法の呪文にあたるらしい。
ヴァッツは手の平を前方に伸ばし、魔法の詠唱を始める。
「xxx……【氷柱アイルニードル】!」
ヴァッツは呪文の前に詠唱をつけて氷の塊を発射する。打ち出された氷の塊は遠くにある案山子に向かって飛んで行き、急所の顔をかすめて通り過ぎてしまった。
「さすがに最初はうまくはいかねえな」
「練習あるのみですわね。ヴァッツさん」
今日の練習の残りはひたすらヴァッツの魔法の練習に明け暮れた。
その間魔法適性のない私はヴァッツを見ていることしかできなかった。
1話と2話と間を埋めるために 2話と2.5話(旧2話)に分割しました