プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜 作:明日美ィ
石を削ってできた階段を降りると、地下特有のひんやりとした空気に包まれた。
地下階に到着すると廊下に沿って空の牢屋がいくつもあった。ここで囚われていたのは罪人かそれとも魔物なのか。
先導するシスターは
「こちらの部屋の先に
こちらも装飾の1つもない鉄の扉で鍵もかけられている。
孤児院の子供達が悪いことをした時は反省させるために懺悔室に閉じ込められるというが、それにしてはあまりにも厳重すぎる。
鍵を開け、シスターは扉を開いた。
物が何もない部屋だった。
装飾品の類はおろか、家具の類や食器らしき木の器以外道具の一切がない部屋だった。部屋の中に明かりはなく、ただ空気孔からヒューヒューと空気の流れる音だけが聞こえた。
その中に彼女はいた。
長い間日に当たっていなかったからだろうか肌の色は透き通るように白く、体はひどく虚弱であるように見えた。
そしてその細い腕には鉄の手かせを、足には足かせが付けられていた。
彼女は横たわっていたが、私が部屋の中に入ると気が付いたようでゆっくりと起き上がった。
「だれ?」
私の目の前で目をこする彼女は、あの夜見た赤いシスター服を着て金の瞳を持った女の子に間違いなかった。
ただ声は老婆ではなく年相応の、幼い女の子の声だった。
どこからどう見ても可憐な女の子で、彼女に付けられた鉄のかせはあまりにも異様だった。
どこからどう見ても彼女にしていいしうちではない。
「ちょっと待ってください、なんなんですかこれは!おかしいですよ!何をしたらあの子はこのような仕打ちを受けるのですか?!」
私は思わず彼女に駆け寄り抱きしめる。
彼女は驚いてすこし身じろぎするが、彼女のかせに付けられた鎖がジャラリと鳴った。
彼女が着ている赤いシスター服は自浄作用がある高級品らしく、体がひどく汚れているわけではなかく体臭も気になるほどではなかった。
だから分かった。どうして教会がこれほどまでに厳重に彼女を閉じ込めている理由が分かってしまった。
彼女からは、微かながらコボルトのポチの同じ匂いがした。
ハッとなり女の子を解放し、入口に立ち中に入ろうとしないシスターへと振り返った。
「シスターさん、彼女は……」
「……詳しい話は外でします」
「分かりました。じゃあね、お姉ちゃんはちょっと外でお話しするから」
「おねえ、ちゃん?」
「そう。お姉ちゃん。いってくるね」
彼女の髪を撫でると金の髪の毛は柔らかく、女の子はちょっとくすぐったそうにした。
私が部屋から出ると、シスターは外に出て再び扉を閉め鍵をかけた。彼女はため息をひとつつくとゆっくりと口を開いた。
「
彼女は淡々と話し続け、首を少女がいる部屋の扉の方に向けた。
「そして
まるで捨てたくともも捨てれない粗大ゴミの処分に困っている、とでも言うかのように彼女は語った。
「
手や足を拘束したのはつい最近のことで、シスターが目を離した隙に少女は教会から抜け出したので今後脱走を計られないようにするためだそうだ。
彼女は罪のない少女を地下に幽閉し手足を拘束する、到底人の所業でないことをさも当然のように行っている。
狂っている、と私は思った。
だが抑揚もなく淡々と話すシスターからは狂気の兆候は見られなかった。
単に私と彼女の認識の間に明らかな隔たりがあるだけだった。
「——というわけで思わず連れて帰ってきちゃったけど、どうしよう」
「いやヒロ何しているんだよ。バカかお前」
あまりの惨状に彼女を引き取ると申し出た。
母親はすでに獄中死したらしく、制度上は彼女は孤児という扱いになり引き取りが可能だった。
シスターは「あなたはセイバ様の弟子で、冒険者としてこれまでの業績を考えると信用してもいいでしょう」と言って割とすんなりと了承してくれた。
教会は単に彼女の扱いに困っていたからだけでなく、魔物抹殺を目標に掲げている派閥のせいか普段から魔物を狩る冒険者に対しての信頼が妙に厚いから、という気もする。
結局ギルドに立ち寄らずそのまま師匠の家に持ち帰り、またやってしまったと頭を抱える。
以前も捨て犬よろしくコボルトの子供を拾って、セイバ師匠の目から隠して飼っていたことがあった。当然師匠に見つかってボコボコにされた挙句、引き取り手を探して街中を散々歩き回った記憶がある。
というわけで今は4人+1人でリビングのテーブルを囲んで夕食を取りながら、会議をしている最中である。
「で、どうするのさ」
「
カテーナは魔力を確かめると言って少女の頰をプニプニと指でつつく。
「——多分かなり高い魔力の出力を持っているわ。ぱっと見るだけじゃどの魔法に適性があるかはわからないけど、到底ヒトとは思えないわね」
「ホント?!このままじゃあたし
ヴァッツは呆れたようにため息をつき、クレアは急なライバルの登場で自分の立場が脅かされることにおののいた。
みんな三者三様の反応をしていたが、少女はというと……。
「——————お姉ちゃんおかわり!」
彼女に与えられていたご飯(教会曰くエサ)はよほど少なかったらしく、少女はスプーンすら使わず手で掴みで私の料理をむさぼるように食べた。
「はいはいおかわりね。ちょっと口が汚れているんだけど」
あまりにも彼女が勢いよく食べているせいで服やら顔やらに食べかすが飛び散っている。服に当たった汚れは自浄作用で消えるが、顔はそのまま食べかすが付着しているのでタオルで彼女の顔を拭く。
「俺もおかわり」
「ヴァッツは自分でやって。私はこの子の面倒で忙しいのだから、あんたもそのくらい自分でできるでしょ」
「へーいへーい」
クレアはいぶかしむように私たちを見た。
「いつのまにか子供を世話する妻と亭主みたいな感じになっているけど、やっぱりあなたたち付き合っているんじゃないの?」
「「違う」」
「そーですか。いや別にいいけど。それでこの子、名前とかあったりするの?」
「ローザ・リーヴィス。教会の人達はそう言っていたけど」
「リーヴィス……確か昔聖女の名前で聞いたことがあるな。その親戚か」
ヴァッツも知っていたらしい。
「まあ細かい話はまた後でするよ……問題なければこのままうちのパーティーに加えたいと思うけど大丈夫だよね?」
彼女が半魔であることはとりあえずこの場は伏せる。
『我々は
シスターはそれがまるで世間の常識のように語った。
ローリーに話すかどうかは一旦保留しておいて、彼女がいないところで事情は話そうと思う。
「——まあ偽名を使って冒険者登録すれば足はつきにくくなるみたいだしな。聖女リーヴィスは表舞台から降りた聖女だしその娘なら問題ない……のか?」
ヴァッツは頭をひねるが了承するようだ。他の二人も(クレアは怪しいが)大丈夫なようだ。
「おかわり!」
料理に舌鼓を打ちニコニコと笑う彼女を見て、同時にホッとした。
いままで私のパーティーメンバーは残念ながら変な人しかいなかった。
剣も魔法の腕も優秀だけど下半身に正直な男、元婚約者ヴァッツ。
魔法も魔力も一流だがそれを投げ捨てて鎧を付けた、腐れエル
錬金術師のくせに先に借金を
この3人に比べれば経歴こそ重いが、まだ幼い純朴な少女で今後思う存分魔法の才能を開花してどうにでも成長できると想像していた。
ローザは可愛い
だが私は完全に失念していた。
彼女はマルフィリア過激派の被害者だが、同時にマルフィリアの一員であることに気がつかなかったのだ。