プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜   作:明日美ィ

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18 ローリー

 それは次の日の午前に判明した。

 私たちは彼女を冒険者として申請するためにギルドに向かっていた。

 

 宿を出た冒険者たちは依頼を探すために私たちと同じ方向に歩き、彼らに果物や軽食を売りつけるために露店がいくつも並び大通りは活気にあふれていた。

 

「ヒロさん!」

 

 その時果物屋の店主に呼びかけられた。先日巨人狩りの際に助けたフキノのその父親だ。

 

「ああ、ご無沙汰しています」

「うちの娘を助けてくれてありがとうな。さすがセイバさんの一番弟子だ。娘からヒロさんの勇姿は何回も聞かされたぜ」

「あぁ……はい」

 

 一番も何もセイバの弟子は私だけなのだが。

 

「このリンゴ美味しい」

「そりゃなんて言ったってそのリンゴは今朝とれたての新鮮なやつだから……ん?」

「ん?」

 

 ローザは露天に置いてあるリンゴを1つ勝手に手に取って、シャリシャリと口いっぱいに頬張っていた。おまけに腕に何個もリンゴを抱えている。欲張りだ。

 

「ちょっとまって!それはお金を出して買わないといけないんだよ!」

「お金?買う?」

「お嬢ちゃん、お金を見たことがないのかい?これが紙幣でこっちが貨幣。これとリンゴを交換してもらうことを『買う

』って言うんだ。お店で買うときはお金を出さないとダメだからな」

「おとうさんすみません……」

 

 店主は昔を懐かしむように語り続ける。

 

「さすがヒロさんの仲間だな。ヒロさんも昔はお嬢ちゃんみたいに『お金とはなんだ?ここの果物は食べ放題ではないのか?』とか言って食い逃げしようとしたよな……。あのときはなんだあのクソガキって思ったが、今は本当に冒険者にはもったいないくらいのいい娘に成長したな……」

「本当にすみません……」

 

 申し訳なくなり頭を下げる。

 あのときは街に降りてすぐでお姫様感覚が抜けていないせいで貨幣制度がよく分かっていなかったのだ。

 あの後店主に捕まり罰として1日店番をやらされた。この店は多分世界で初めて王族が働いた果物屋だろう。

 

「ヒロ、お前……」「うるさい」

「まあヒロさんには娘の命を助けてもらった恩があるし、好きなだけ持って行きなさい。このくらい娘の命に比べれば安いものさ」

「ありがとうございます……」

 

 果物屋の店主に頭が上がらない。

 

「お前、昔とはえらい違いだな」「うるさい」

 

 何が面白いのかヴァッツはニヤニヤとしている。

 

 店主と別れて再び大通りの人の流れに合流する。

 いつからかは分からないがローザは長い間地下に監禁されていたため、世間の常識を知らないのだろう。今後は彼女の教育も視野に入れないといけないようだ。

 今後の課題に頭を巡らせながら歩いていると、今度は昨日も会ったポチと出会った。

 

「わふ、ヒロさん」

「ポチ!昨日のリンゴはちゃんと教会に届けておいたぞ」

「ありがとう、ございます」

 

 ポチはぺこりと頭を下げる。

 確かにリンゴは渡したけどシスターに焼却されたことは黙っておく。別に嘘は言っていない。

 

 カテーナはポチを物珍しそうに見て、ヴァッツはこんな街にもコボルトがいるのかと頷いている。

 

「お、こいつコボルトか。王都だとたまに見たがこの街だと初めて見るな」

「ヒトの街では魔物も働いているんですね」

「冒険者ギルドが成立した時から友好的なやつは人間の社会に参加し始めたらしいし、3、40年前くらいからじゃないかな。王都でもたまに見るくらいだけどな」

「かなり最近の話なのですわね」

「あ、みんなに紹介するねこの子はポチで……」

 

 私がパーティーのみんなにポチを紹介しようとしたが、急に周りの空気が変わった。

 

「魔物、コロす」

「へ?」

 

 ドスドスドスとローザの腕からリンゴがこぼれ落ち、石畳にぶつかってリンゴの表面が潰れる。

 

 彼女は右腕を伸ばして手のひらをポチに向ける。その手のひらから火の玉が膨張と収縮を繰り返し、火の玉の密度を高めていく。

 魔法に疎い私でもわかる、圧倒的な魔力の奔流。

 そしてローザから発せられる圧倒的な殺意。その殺意さえあれば魔法の詠唱すら不要とでもいうのだろうか。

 

 突然の事態に恐怖で座り込むポチは、訳が分からずブルブルと震えている。

 

「コロす!」

「ちょっとまったあああああ!」

 

 私はローザを背中から抱えて、こぶし大ほどの火の玉を生み出す右腕を空高く挙げて魔法の軌道を上にそらす!

 その瞬間、火の玉は超高速で発射され上空で大爆発を起こす。もし軌道をそらさなかったらポチどころか私たちも巻き込まれて危なかった。

 

「ポチ逃げて!」「は、はい!」

 

 ポチは弾む鞠まりのようにその場から駆け出し、大通りから外れた裏路地に逃げた。

 大通りは一時騒然になった。魔物とはいえ、彼は居住を許された町民の一員である。仮に冒険者が町民を襲うことがあればそれは冒険者の信用に関わる。それだけでなく人目のある場所で乱闘騒ぎを起こせば、他の冒険者が最悪加害者を殺害してでも止めることだってあり得るのだ。

 

「申し訳有りません……申し訳有りません……。ほら、ローザも謝って!」

「どうして」

 

 振り返って、どうして、と不満げに彼女は言った。彼女からすればそれが当然とでも言うかのような態度だった。

 そこで私は初めて気がついた。あの教会の影響を受けているため。彼女の思想はマルフィリアに限りなく近い。

 ただマルフィリアの連中は街中で騒ぎを起こさないと言う分別がつくように教育されるため、街中で魔物に出くわしても唾を吐きかけることはあるがいきなり襲いかかったりはしない。

 だが中途半端に思想を受け継いだローザは、さっきみたいに分別なくいきなり襲いかかっても良いのだと、そう考えているようだ。

 

 残念ながら彼女もまともな人ではなかったようだ。

 

 事態はこのままでは収まる様子は見せない。彼女の魔力の出力は常人を遥かに超え、その彼女が騒ぎを起こしたのだ。いくら私でもこれを収められない。冒険者たちは今にも剣を抜くか否かという状態で、周辺の空気は一触即発だ。

 

「ちょっと待ってほしい」

 

 その時私の隣にヴァッツが現れ、冒険者たちを制した。

 

「俺はここのバスタード領の当主ラウンド・バスタードを父とするカイト・バスタードだ。今は訳あって冒険者の身だが、今回の事態は俺の監督不行き届きも原因の1つだ。幸い今回死傷者は出なかったため、できればこの場を穏便に収めてほしい」

 

 ヴァッツがそう言うと、少し場の空気が緩んだ。

 冒険者は名目上その出自を問わず平等であると、冒険者ギルドの規律に書いてある。そのため本来いくら公爵家の息子だとしても、冒険者が貴族の権力を行使するのは褒められたことではない。

 しかし今回は被害者が出ず、ヴァッツが高慢な態度を取らず対等な目線で語りかけたためこの場を鎮めるができたのだ。

 

「あれ、この街ってバスタード領だったの?」

「いやお前住んでいて分からなかったのかよ?!」

 

 騒動の原因であるローザは事態を把握できていないのか、頭に?を浮かべ困惑していた。

 

「いい?魔物は殺していい魔物と殺したらダメな魔物がいるんだ。オレだってたくさん殺しているけどそれは殺していい魔物だけを殺しているんだよ。だから街中でいきなり魔物を殺そうとして騒ぎとか起こさないで」

「…………?わかった?」

 

 彼女は本当に理解しているか怪しいが頷いてくれた。

 私も殺していい魔物とダメな魔物の違いはさっぱり分からないが、とりあえず問題は解決したということにしておこう。

 

 

 

 ギルドになんとかたどり着き、彼女を冒険者登録するために申請書に書き始める。

 とはいえ書くべき事項は名前と担当する予定の役職だけなので本来そこまで時間はかからない。

 

 ただ今回彼女の申請は難航していた。

 名前は本名のローザ・リーヴィスのままにはするわけにはいかないので、冒険者名もとい通り名を考えないといけないのだ。

 

「で、やっぱり名前はかっこいいやつにしない!?アルトリウスとかヘレクレスとかランスローとか!」

「お前バカか。女の子にそんな名前つけたら近所の子に笑われるぞ。もうちょっと無難な名前にしろよ」

「あんたたちいちいち子供の名前を考える新婚夫婦ムーブかまさなくていいから。もう名前と苗字を合わせて『ローリー』とかでいいんじゃない?」

「ローリー、いい名前なの」

「いやその名前でいいのかよ」

 

 ローザ改めローリーはその名前が気に入ったのか頷いている。

 本人が大丈夫ならいいのかな?

 

 カテーナはギルドで販売していた魔力適性検査用のクリスタルをローリーの頰に押し付ける。

 

「カテーナ、ローリーの魔法適性はどういう風になっている?」

「——攻撃魔法、それも炎の属性に特化しているわね。それ以外の適性はほぼ皆無ね」

「回復魔法もダメか?」

「だめね。魔法の出力はヒトならトップクラスだと思うから火力担当メインアタッカーとしては逸材と思うわ」

「火力担当メインアタッカーの神官プリか……聞いたことがねえぞ」

 

 ついでに私もわずかな期待を込めて魔法適性の検査をしたら、適性は一切なかった。悲しい。 

 

「それと……分類しにくいけど、神聖属性の自己強化?みたいな適性があるわね。これ天から直接マナが送られているのかしら。もしかしてこれ、憑依ひょうい魔法?珍しいのを持っているわね」

 

 カテーナ曰く憑依魔法とは自分の体に自分以外の物、例えば霊魂を降ろして体の支配圏を一時的に譲り、霊魂に語らせる魔法だそうだ。

 私はそれに心当たりがあった。

 

「それってもしかして神も降ろせる?」

「可能ね。非常に少ないけど神を降ろせる人は種族問わず存在するわ。歴史上そのような人は俗に『預言者』と呼ばれ、未来に起こる大災害を予測できると言われているわ。だから周囲の人は神の代弁者として彼らを崇め奉るのよ」

 

 私は以前ローリーと面識があり、その時彼女は自らを叡智の神ミーティスを名乗りヴァッツの跡を追えと預言らしきことを告げられたと話した。

 そこに今まで話を聞いていただけのクレアが首を突っ込んできた。

 

「その預言者って実はかなり価値があるってことじゃないの?!それって大発見よね!ヒロ、ローリーの登録は明日にしない?」

「ん?なんでさ」

「あたしにいい考えがあるの。こんな可愛い子を地下室に押し込める教会をギャフンと言わせて、ついでに大金をゲットする画期的アイディア、閃いたかも!」

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