プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜 作:明日美ィ
教会から出ると孤児たちが何人も集まっていた。
そのうちの一人が箱を差し出した。その中には貰い物なのか饅頭が3つあった。
「あげる」
「毒入っていない?」
クレアがいぶかしむので、私は1つ手に取り食べる。普通に美味しいチョコあんの饅頭だ。
「大丈夫だと思うよ」
そう、といってクレアも1つ饅頭を手に取り、口にするがその瞬間吐き出した。
「ちょっとまってこれ中にチョコレートクリーム入っているじゃない!猫獣人がチョコレートを食べたら中毒で死ぬんだけど!あんたたちまさか私を毒殺する気?!」
子供達は途端に表情を変えクレアを罵り出した。
「化け猫!」「銭ゲバ!」「チョコと玉ねぎとニンニクに当たって死んじゃえ!」
「ちょっとこのクソガキ!待ちなさい!」
「逃げろー!」「ポケットん中の小銭を隠せ!」「身ぐるみ全部持っていかれるぞ!」
孤児たちは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
依頼の受注のために教会に来た職員にローリーの申請書を渡したので、私たちは家に帰ることにした。
時間は午後2時。午後最も暑い時間帯で、歩く大通りの先は陽炎のように揺らめいている。
「クレア、嫌われたな」
私はクレアのことを心配したが、クレアは嫌われて当然よと言い切った。
「孤児院も寄付金で賄われているし、恨まれてもしょうがないわね。でもあの教会に取っても悪いことではないはずよ。もしこのままローリーを監禁し続けてそれが世間に露見したら、あのシスターは物理的に首が飛ぶだろうし、孤児院の子供達は露頭に迷うことになるからね。金銭的はダメージがあっても最悪の結果は免れたはずよ。それに、」
嫌われるのは初めてじゃないからね、と彼女は言葉を漏らした。
道の端を歩くクレアの顔半分に軒下の影がかかっていた。
数秒の間沈黙が続く。
彼女は金貨の詰まった袋を私に渡して、場の雰囲気を変えるためか話題を変えた。
「でもこれならヒロの借金の半分くらいは返せそうね。こんな短時間でこれだけ稼げたあたしってもしかしてすごい?」
クレアはえへんと胸を張る。
いやもう突っ込んだりしない。
私とクレアの間に挟まれて歩いているヴァッツはクレアの方をまじまじと見ている。
「なに?何か文句でもあるの?」
「いや……クレアの胸はいくら胸張っても全然盛り上がらないなって」
「はあ?何よ突然に。揉みたいならそっちにしなさい!」
「急に飛び火した!」
「いやどうせ揉むなら俺はカテーナちゃんのデカい胸が揉みたい!」
「「いい加減にしなさい!」しろ!」
ヴァッツの左右の大臀部に2人の蹴りが炸裂し、ヴァッツは倒れ顔面から石畳に直撃した。
師匠の家に帰ると、結界を解除したカテーナとローリーが出迎えてくれた。
「ヒロお姉ちゃんお帰りー!」
「皆さんお帰りなさい。あらヴァッツさん顔どうしたのですか?」
「君があまりにも魅力的だからさ」
「それで交渉とやらはどうなりましたか?」「完全にスルー?!」
私はことの顛末てんまつを話した。
「……なんといいますか、えげつないやり方ですわね。それでこのお金はどうするのですか?」
「とりあえずこれととオレが持っている報奨金200万Gを合わせて800万Gだから。500万Gは返済に充てて、残りは工房のために使おうと思うよ」
ローリーが回復職ではないことが判明したので、回復の要であるクレアの工房は急務の課題だ。
ギルドは真面目に借金を返済すれば金利は安い優良貸金なのでそれ以外の貸金、特に非合法なところを重点的に返せば当面は大丈夫だろう。
彼らにも負担を掛けることになるので、一応お金の使い方を相談しようと思ったのだが……。
「まあ俺は金に困っているわけでもねえし、それでいいなら構わんぞ」
「私わたくしも問題ありません。お金が必要なら実家から送金してもらいますし」
この金持ちめ!
やっぱり金銭面は二人に頼ったほうがよかったかもしれない。
とはいえ自力で返すと言った以上、助力はもらうとしてもお金を借りるのはやめておこう。
家のリビングに戻りクレアに300万Gを渡すと、彼女は事前に用意していたらしく発注用するための魔法のスクロールとカタログを取り出した。
「こういう瞬間って人生で三番目くらいにワクワクするのよねえ〜〜。やっぱ一番は錬金術の研究だけど」
カタログをパラパラと開きながら、注文する品物と数量をスクロールに書き込んでいく。
「予想通り予算はほぼ300万Gくらいかしら。オーダーメイドで欲しい器具があるけど、それは後回しね」
「本当に300万G使うのか……送料だけで10万Gもするし」
「それはこの国の王都から馬車で運ばないといけないからね。冒険者の護衛料も加算されるし。届くのは3日後だけど、もし今日中に欲しいのならワイバーン便で空から直送してもらって100万Gくらいはかかるわよ」
高い。注文書を見ても『シャーレ』、『カンテン』、『ラクトなんとか』とかよく分からないものが多いため、いまいち適正価格が分からない。それも1つ数万Gとかするから、正直金銭感覚が狂いそうになる。
最後にクレアが代金分の金貨を紙の上に乗せ、スクロールの右端を人差し指で突く。すると事前にスクロールにかけられていた魔法が発動し、つけられた指の指紋が赤色に浮かび上がりそこから燃えるように紙と金貨が消え失せた。
「これで注文終了と。3日後の午前中に荷物が来るから、その前にあたしは納屋の掃除をして荷物を搬入する準備をするね」
クレアは立ち上がってリビングを出た。
クレアが器具を発注してから次の日、私は今日も仕事を探しに冒険者ギルドに向かうと、ギルドの依頼の掲示板の前に冒険者が何人も集まっていたのに気がついた。その掲示板には魔物の目撃情報が貼られていた。
「モウンタイン山脈中腹でドラゴンの影……?」
街の北にある森の先、モウンタイン山脈にドラゴンらしきものを見かけたらしい。
ドラゴンといえば3年前私を襲ったドラゴンを思い出すが、今回の影はそれよりはるかに小さい個体らしい。
だが小さいとはいえドラゴン、ここには対処できるものがいなかった。万が一ヴィレッジまで押しかければ街丸々滅ぼされるかもしれない。
そういう不安は冒険者の間で広まった。
「ドラゴンさすがに俺らじゃ力不足だべ」
「せめてセイバさんがいればなあ……」
「ヒロさん、セイバさんはいつ帰って来るか知っているか?」
手紙の内容は極秘事項かもしれないので答えだけを簡潔に出す。
「すぐには帰ってこられるか怪しいなあ」
「そうか……。下手したらこの街から移動したほうがいいかもな……」
私の師匠のセイバはそれほどまでに慕われている存在なのだ。田舎町のヴィレッジには駆け出し冒険者しかいないため、ランク12の師匠は文字通り街の守り神なのだ。
彼がいない今私がやるしかない。
私はその張り紙の隣にある依頼書を手に取り、ギルドの受付のおばちゃんに渡す。
「おそらくセイバ師匠はすぐには戻れないので、オレたちが代わりに調査依頼をしたいのですが」
例のドラゴンの調査依頼だ。調査依頼は魔物の討伐が目的ではなく、その下準備としてその魔物の情報収集を行うタイプの依頼だ。今回なら山に出向き、脅威度の測定や巣穴の居場所の特定をして情報を持ち帰る。
「ヒロちゃん、大丈夫かい?今の所ヒロちゃんのパーティーがこの街にいる冒険者で一番安心できるんだけどね。ほらカイトくんやカテーナさんもいるし、ね?」
「大丈夫ですよ。オレはこの街を守りたいし、それに……」
ドラゴン退治とか最高にワクワクするじゃないか、そう言おうとした瞬間誰かに肩を掴まれた。
「おい待てヒロ。まさか調査依頼という名目でドラゴン退治に出かけたりしないだろうな」
「…………そんなつもりないよ」
「おい待てその沈黙は、またお前やらかすつもりか!」
ヴァッツは肩から手を離し今度は耳を引っ張る。
「痛い痛い!」
「お前一週間前に巨人討伐で同じことをしでかした覚えがあるぞ。今度は本当に死ぬぞ!」
「冒険をしてこそ冒険者でしょ?」
「バカか!それは無謀って言うんだ!とにかく今回の依頼はなしなし!また王都から高ランクの冒険者を呼べばいいだろう!今日は帰るぞ!」
「痛いから痛いから!」
私はヴァッツにギルドの外まで耳引っ張りながら連れ出された。