プリンセスヒーロー 〜冒険者になったけど仲間に変人しかいないのですが〜   作:明日美ィ

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8 閃き

「ヒロ!足元を見ろ!黒い靄が足の部分だけ薄くなっているぞ!」

 

 足元を見ると、確かにヴァッツを蹴った方の足から瘴気が消えて緑色の地肌が露出している。もしや……。

 

「ヴァッツ、もしかしたらこれで呪いを解除できるじゃない?!」

 

 押し売りの少女に買わされたポーションは聖水並みの効果があるのなら、これで巨人にかけられた呪いを外すことができるのではないか?実際に瘴気に侵食されていたカテーナの一命を救った実績もあるし、信用できる気がする。

 

「でも近づいて液体を全身にかけるなんて無理だ!そもそも量が全然足りねえぞ!」

「だったら飲ませる!」

「はあ?お前バカなんじゃねえの?!高さ何メートルあると思ってんだよ!」

「でも勝機はこれくらいしかないよ。だったらそれに賭ける!ヴァッツ、時間を稼いで!」

「あーわかったよ、どうやって飲ませるかはわからんが任せたぞヒロ!」

 

 すれ違い様にヴァッツの残ったポーションを回収して、私の半分残ったやつと中身を合わせて1本分のポーションを作成する。空になった容器には水をいれて、私は近くの木に登る。

 その間ヴァッツはこぶし大の氷の塊を巨人に投げつけ、距離を取りつつ時間を稼ぐ。カテーナの魔法より明らかに威力が高いが命中精度が低く、体に当たる場所はランダムで時折外れることもある。

 木に登った私は比較的高く張り出している枝に移り、まず水だけが入った容器を手に取る。そして巨人の口の中に狙いを定め、剛腕に任せて全力で投げる。

 投げられた容器は放射線状に弧を描いて、巨人の口から大きく外れ肩にあたって割れた。

 

「おい外れたぞ?!」

「今のは練習!」

 

 ヴァッツが牽制しているおかげで巨人は移動していない。だから次は外さない。

 ポーションが入っているほうの容器を取り出し、さっきの練習を参考に軌道を修正して再び投射する。

 投射されたポーションは今度はうまく口の中に入り容器が割れた。

 その瞬間、体をまとう黒い瘴気の大半が晴れ緑色の地肌が露出した。そしてはじめて魔物の正体が判明した。

 

「あれはトロル!嫉妬深い巨人で、自分より小柄で美しい人を見つけると執拗に襲い掛かる性質があるわ!」

 

 要は人間を見つけると襲い掛かる魔物か、めんどくさいやつだ。

 

 私は2本目のポーションを取り出し、同様に投げる。これも口の中に命中しかかっていた呪いが完全に解け、瘴気も消え失せた。反面傷も回復したらしく、巨人は疲れを見せずにヴァッツに攻撃を仕掛けるが先ほどよりは攻撃に精彩を欠いていた。

 しかしヴァッツは回復手段を失い、防御魔法も切れかかっているせいか次第に疲れが見え始めてきた。

 

「xxx……、【炎弾ファイアボール】!」

 

 その時カテーナが飛ばした石ころほどの大きさの炎の球が巨人の胸に命中して小さく爆発する。

 

 巨人はじっとカテーナを見つめ、疲れて隙を見せたヴァッツを跳ね飛ばして彼女に向かって走り出す。カテーナはほとんど身じろぎせずにそのまま巨人の手のひらの中に捕まってしまった。手を自分の目線と同じ高さに持ち上げた巨人は手に力を込め、ミチミチと彼女を潰しかかろうとしている。

 本来なら抗う力も装甲もない魔法使いはこのまま握力で潰されるに違いない。

 だがカテーナは装備している全身鎧の装甲に加え自身に防御魔法をかけているおかげで魔法使いとしては異常なくらい硬く耐えることができた。

 

 鎧を着た魔法使いはフッと笑った。

 

「……本来金属の鎧を着ていると攻撃魔法はうまく使えません。ですが接触した状態で使う魔法ならばそれでも十分な威力を持つものも少ないですが存在します。魔法を修めて30年、私わたくし渾身の魔法をくらいなさい。【体力吸収ドレインタッチ】!」

 

 その瞬間彼女を掴んでいた巨人の腕が細かく震え、腕だけが急にやつれたように細くなる。カテーナが巨人の体力を吸い取っているのだ。

 

 すでに木から降りた私はをバスタードソードを構えて巨人の方に走り出す。

 

「ヴァッツ、氷で足場作って!腕を斬る!」

「はあ?無茶言うなよ!こっちだって息上がってるんだぞ!」

「いいから!お願い!」

「まったく、分かったよ。【氷結フリーズ】!」

 

 高さの異なる2本の氷の柱が目の前に現れ、私はその氷の柱を足場にして高く飛び上がる。

 剣先の加速度を徐々につけ、巨人の腕が目の前にきたところで最上段に振りかざす。

 そしてバスタードソードを全体重を乗せて巨人の二の腕めがけて振り下ろす。

 最高速度で振られた剣は巨人の腕をいともたやすく切断した。

 切られた腕の断面からは紫色の血液が吹き出し、カテーナごと地面に落ちた。

 私は落下しながら剣先の速度を維持するために剣を旋回させ、地面に着地する直前に巨人の足首を斬り飛ばす。巨人は片足を失いバランスを崩してうつ伏せに倒れこむ。

 

 さすが騎士団長の家にあった剣、切れ味も耐久も全然違う。それだけでなく呪いを解除したことで全身が弱体化したのに加えて、カテーナの【体力吸収ドレインタッチ】で腕が細くなり斬れやすくなったおかげらしい。

 

 巨人は片腕も片足も失いながらもなお暴れていたが、息を整えたヴァッツが氷をまとわせた剣で心臓のあたりを刺してとどめをさした。

 

 ランク8の冒険者を2名屠り、パーティーを一度壊滅させた魔物はついに討伐された。

 

 

 

「ついに……終わったのか。ハハハ、やっと終わったんだ」

 

 ヴァッツは緊張が解けたのか膝から崩れ落ちた。肉体的疲労だけでなく仲間を失い、リーダとしての責任の重圧をを2日間受け続けたのだから当然である。

 カテーナも恐怖をごまかすために今まで強気を張っていたらしく、ほとんど泣きそうな顔していた。雨が降っていてわからないが、もしかしたら本当に泣いていたのかもしれない

 

 騎士道物語の代表的な敵の一つで、私が長年戦うことを夢見た巨人討伐を果たせたのだが、その結果は苦いものだった。

 

 私も疲れてその場に倒れこむ。強く降り注ぐ雨が髪や服を濡らす。早く街に戻って乾いた服に着替えないと風邪をひきそうだが動く気力はほとんどなかった。それどころか昨日ほとんど眠れなかったせいか急に眠たくなった。

 

 そしてその眠気に抗うことができず、私の意識は深い闇に吸い込まれてしまった。

 

 

 

 次に私が目覚めたのは冒険者ギルドに併設している宿の一室のベッドの上だった。

 どうやら風邪をひいたらしく全身が火照って、おでこには濡れたタオルが乗せられていた。それ以外に体に異常はなく、服も乾いたパジャマを着せられているようだ。

 

 首だけを動かすとヴァッツが私のベッドに上半身を乗せたまま眠っていた。妙に掛け布団が重かったのはそのせいらしい。

 脇には水が入ったたらいが置かれ、彼の指先が赤くなりふやけていた。どうやら私のタオルを取り替えてくれたのはヴァッツらしい。

 こういう仕事は貴族社会なら従者や医者がするのが当然なので珍しい感じがする。

 

 やがてヴァッツは目を覚ました。

 

「ん、起きたか」

「ヴァッツ……」

「今回の討伐依頼の細かい話は風邪を治してからにするぞ。喉が渇いたなら水差しとコップはこの台の上にある。パジャマは最初は俺が着せたが汗で濡れたなら着替えはこっちにある」

 

 着替えもヴァッツがやったのか。そこであることに気がつき、火照った顔がさらに熱くなる。

 

「ちょっとまって、意識を失った女性の服を勝手に脱がすのはダメだっていったよね?!」

「おいまて!だけどあの時ギルドの職員はカテーナの鎧を魔道具で外すのに総動員されていたし、朝早いせいで女性の冒険者もほとんどいなかったんだ。だからできるのが俺くらいしかいなかったし、俺とお前が婚約していることを話してみてなんとか部屋に入れたんだよ」

 

 ヴァッツは左手の中指にはめてある指輪を見せる。確かに私たちが婚約した時の指輪に違いないが、実際には婚約は破棄されているし多分私がプリステアであることはバレないだろう、多分。まあ後で若干めんどくさくなる気がするのだが。

 

 ヴァッツの弁明を聞いて私はため息をつく。

 

 ヴァッツの弁明を聞いている限り、彼の主張は納得できなくはない。しかし忘れてはいけない。彼はあのスケベのヴァッツである。

 婚約者時代から私にしてきたセクハラはあまた知れず、その度に私が彼をぶっ飛ばした思い出もあまた知れずである。

 

 現に胸に巻いていたはずのさらしがない。そのため普段よりこんもりと胸のあたりが盛り上がっている。

 

「プリス、お前中身は全然変わってねえけど体はそれなりには成長したんだな!」

「ばかぁ!」

「がはぁ!」

 

 ヴァッツが病室から廊下まで吹き飛ぶ。

 どうしてヴァッツは評価を上げた後で自ら下げるのだろうか。

 体は成長しても中身は全然変わらないのはヴァッツの方じゃないか。

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