悪の幹部様は推しの雑魚ヒーローを特等席で応援したい!   作:月兎耳のべる

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とある画像に触発されて書いたシリーズ第二弾。
頭空っぽにして楽しんでね。


戦慄! 怪人『フロカビランラン』! 風呂場に忍ぶ白い影!

 時は西暦2020年!

 

 世界経済は混迷の一途を迎え、世界人口の爆発的上昇、環境問題、紛争問題が声高に叫ばれる昨今! その行く末に絶望した人々が悪の道に染まる事は少なくはなかった!

 

 そして悪意という物は広がり、集まり、強くなり、更に拡散する傾向にある!

 連綿と続く悪意の形成によって拡大したそれは一大組織となり、人々はそんな平和を脅かす集団を『悪の軍団』と称して恐れ、(おのの)き、忌避した!

 

 『悪の軍団』は政府の手も警察の拘束も振り切り日常を侵食する!

 市民を守るべき存在がいるのに、その網をすり抜けてしまうのでは人々は昼も夜も安心して寝られない!

 嗚呼彼らの悪の手が伸びるのを待つばかりの日々を力なく過ごす他ないのか!

 

 否! ――答えは否である!

 

 この現状を良しとしない、熱い心を持った少数の人々は、平和を取り戻そうと『悪の軍団』に立ち向かうとその拳を掲げたのだ!

 

 ある人は持って生まれた特殊な才能を駆使し!

 ある人は未知なるエネルギー源を使って!

 ある人は最先端の科学技術の結晶を用いて!

 

 人々はそんな『悪の軍団』に立ち向かおうとする集団を『ヒーロー』と称して頼り、(すが)って、応援した!

 

 

 この物語は『悪の軍団』と『ヒーロー』達の因縁の戦いを、とある地方の小さな町、包丸(くるまる)町にスポットを絞ってお伝えするものである!

 

 

 

 § § §

 

 

 

「――キャアアアアアアッ!」

 

 

 閑静な住宅街に突如広がった、絹を切り裂くような声!

 平和な一家に訪れるはずの団らん、しかしそれは今日に限って迎える事は出来なかった!

 

「イヤアアアアッ! お風呂場がカビで真っ白になってしまってるわ、どうしてーッ!?」

 

「グケケケケーッ、ご苦労だったなぁ、貴様が風呂掃除を怠ったおかげでこのフロカビランラン様も大きく成長出来たぜぇ!」

 

 少しサボり気味の風呂掃除をしようとしていた専業主婦、佳代子は絶望した!

 自宅の風呂場に突如現れた、全身が白くふわふわの何かに包まれた謎の怪人がいきなりそんなことをのたまったのだ! これは堪った物ではない!

 

「これから街中の風呂カビを成長させて、街中の風呂嫌いを促進させてくれるわグケケケーッ! 玄関はどこだ奥さんンンッ!」

 

「いやあああぁっ! 突き当りを左ですぅぅっ!」

 

 風呂窓の狭さから窓から脱出することを諦めた怪人は、フローリングの床に白い足跡を残して比較的乱暴に扉を開けて家を飛び出す!

 そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!

 この怪人の目的は先述した通り住民の風呂嫌いの促進! このまま奴をのさばらせていては包丸(くるまる)町は全員不潔という(そし)りを受けても仕方なくなるだろう!

 

 無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!

 力無き一般人では謎怪人相手に抵抗などできる筈もなく、このまま包丸町が『不潔』という二文字の汚名が刻印されてしまうのを、のうのうと眺めるしか無いのかと市民が絶望しかけた――その時だった!

 

「待てテメェコラァ!」

 

「ケケケーッ!?」

 

 突如黒い影が町中を駆けるフロカビランラン(長いので今後フロランと略す!)に飛びかかった!

 一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!

 両腕の無骨な金属アーム! ホームセンターの安全靴に、膝パッド! ホームメイド感溢れる金属鎧に、灯油缶に穴が開いてるとしか見えないヘルメット!

 そんな不思議な出で立ちの謎の人物が奴に飛びかかったのだ!

 

「なんだぁ、貴様ァ! このフロラン様に歯向かおうと言うのかーッ!」

 

「うるせえ不潔カビ野郎が!! 夜中に近所迷惑なんだよ!!」

 

「グケーッ!? ケーッ!?」

 

 ありったけの強力粉末洗剤を怪人にぶちまけるその謎の人物!

 口調の悪さにあるまじき常識的な判断に、為すすべなく見守っていた一般市民が叫ぶ!

 

「あ、あのあんまりなコスプレ――!」

「お、お前――クソダサ仮面じゃねーか!」

「クソダサ仮面!」「ダサ仮面だ!」

 

「うるせーッ! クソダサ仮面って呼ぶな! 俺はヒーローガキーンだ!」

 

 この男、本名:清辻(きよつじ) 無郷(むごう)(35)は『ヒーローガキーン』であった!

 自作スーツを身にまとう彼は、普通の一般人に関わらず日夜包丸町で暴れまわる怪人相手に奔走する自警団だ!

 ヒーローを自称するだけあって正義の心は誰よりも強いが、その戦闘力は今ひとつ! 粘り強さだけが彼の武器だ!

 

「おいおい、歯向かうのやめといて下がっとけって! またやられるぞ!?」

「サンダーヘッドは今呼んどいたから怪我しない内に下がろうぜ!」

「もう良い年したおっさんだろ、見ていてハラハラするんだよお前!」

 

「いいからテメェらはさっさと逃げとけやコラァッ!?」

「グゲゲゲッ、ゲーッ!?」

 

 ばっさばっさと粉末洗剤を投げつけるガキーン!

 しかし用意した粉末洗剤の量はそこまで多くない、すぐに弾切れになってしまう!

 怪人フロランも最初は悶え苦しんでいたものの、全身粉まみれになりながらも身震いさせ、ガキーンを睨みつける!

 

「き、さ、まぁ――ッ!」

「ぐああぁっ!?」

 

「ほらぁ!」「言わんこっちゃない!」

「お、おいおい救急車救急車!」

 

 怪人の白い腕が薙ぎ払われたと思えば、ガキーンのその体が吹き飛ぶ!

 見た目は滑稽とは言えそこは怪人、常人には出せぬ腕力に塀に叩きつけられ苦悶の声をあげ! 地べたに倒れ込んでしまう!

 

「フンッ、ミネルヴァ様から聞いておったが……期待外れだな、この街のヒーローは大した事ないカビッ! さぁ次はどこの家の風呂場にするカビぃ……?」

 

「ひぃっ、に、逃げろ逃げろ!」

「う、うちは新築なんだ、まだローンもあるから勘弁してくれぇ!」

 

 高みの見物をしていた住民も、その呆気なさすぎるやられっぷりに逃げ惑う!

 あぁこれでは包丸町の平和はどうなってしまうのか! 危うし包丸町!

 

 しかし安心して欲しい!

 ヒーローを自称するガキーン、この程度で折れる弱い心を持っておらず、よろめきながら立ち上がるのだった!

 

「げほっ……お、おいおい、まだ俺は倒れてねえぜ――!」

 

「ンンー? 雑魚が何をほざくカビ、さっさと消えろカビ!」

 

 しかして怪人の忠告も耳に貸さずガッシャガッシャと金属音を立て、徐々に速度をあげて怪人に向かうガキーン!

 フロランはそんなガキーンを馬鹿にした目で見る。無策にしか思えない突撃。また腕の一振りで吹き飛ばせると思ったからだ!

 

「いや、あれは狙っていますね――」

 

 逃げ惑う住民の中、一人残っていた黒髪三編みメガネの少女が一人ごちる。

 ガキーンの不屈の闘志をその目に、そして構えた一眼レフデジタルカメラに収めようとその身を乗り出して光景を見守る!

 

 そう、ガキーンは彼女の言う通り狙っていた!

 

 奴の大ぶりの一撃、それに合わせてスライディング!

 金属の鎧を地面にギャリギャリと高鳴らせながらも、大股をくぐり抜ける!

 

「グケェッ!?」

 

「っしゃおらコラァ!」

 

「!? あ、あれはまさか……まさかついに決まるのですか!?」

 

 不意をつかれたフロラン、慌てて振り向こうとするが時既に遅し!

 ガキーンの両腕のアーム、その末端に不意に点灯したブースターの青白い光!

 嗚呼刮目(かつもく)せよ、これこそが――これこそがヒーローガキーンの必殺技!

 

「――グレートパンチッ!!」

 

「カビビビィィッ!?」

 

「ひ、ひャアアァァアッ、ききき決まったぁ――っ!? ロイヤルフレートブースタパーンチィッ!!」

 

 辺りにそこそこ重苦しい音が響き渡り、フロカビランランの体がくの字に折れ曲がった!

 

 推進剤を元に威力が跳ね上がった男の正拳突き、それが深々と怪人フロランの腹部に突き刺さり、そして本人の必殺技申告よりも、怪人の悲鳴よりも、そして衝撃音よりも何よりも、見守っていた少女が大きく叫んだ!

 

「く、苦節26回目の戦闘! 不発13回に空振り10回、自爆による自傷2回で産廃もかくやと思われたあの必殺技がついに、ついに決まったァッ、あー眼福っ、ロマン技が過ぎて狙う意味ないとずっと思ってたけどいざ決まると実際ショボい! 威力は地味にありそうだけど倒れてないけどっ、でもそのポーズ、アングル最高ッ、ガキーン様こっち向いてっ、こっち向いて下さい!」

 

 喜びの余りぴょんぴょんと飛び跳ねて悦に浸る少女は、合間合間に嬌声をあげながら連射モードで撮影を繰り返す。

 悶絶して膝をつく怪人も、実際に必殺技を放ったガキーンも困惑を隠せずにいた。

 

「じょ、嬢ちゃんいつも応援と、あと的確な評論ありがとう……ま、まだ怪人は倒せてないから早く逃げてくれ! な!? あと今の技グレートパンチだから……」

 

「あっ、ガキーン様こっち見たァッ、はぁんっ、き、決めポーズ、決めポーズしてください! いつものアレでいいですから!」

 

「え、こ、こうか?」

 

「うわあああああダサい、ダサ格好いいッ!! 最ッ高ッ、たまりませんっ!!」

 

「あ、はは、はははは……」

 

 両腕を斜めの角度にあげてYの字をポーズに取るガキーンを見て少女が絶叫をあげる。

 ガキーンは困りっぱなしの苦笑いしっぱなしだ。しかしながら、そんな一幕もすぐに終わりを迎えてしまう!

 

「い、いい、今のは痛かった……痛かったゾォォォッ!!」

 

「うっ、が、があぁあっ!!」

 

「あぁっ、ガキーン!?」

 

 やはり怪人、一般人が頑張った攻撃程度ではどうにもならないのだ!

 痛みに青筋を立てた怪人フロラン、ガキーンの首根っこを掴んで地面に放り投げ、そしてその腹を蹴り上げ始める! 男の苦鳴、少女の悲鳴が同時に湧き立つ!

 

「か、カビの癖になんで耐久性高いんだよっ、ぐほっ!」

 

「グケケケーッ、やかましいカビーッ! 貴様の攻撃が貧弱だったカビカビーッ、あと燃やされなくてホッとしてたカビーッ!」

 

「あっ!? そうかカビは火に弱い……ぐへっ!? ちょ、テメッ、待て今ブースターで燃やして……ッ!? ぐああっ!」

 

「あぁ頑張れ、頑張ってガキーン! 負けないで! 今日は勝てる! 今日は勝てるわきっと! そいつ弱いし!」

 

 足蹴にされ続けるガキーン、なんとか敵の攻撃を避けようと思うが重い鎧と蹴りの威力になすすべもない!

 黒髪の少女もカメラではなく、大きな横長の紙にカラフルに『ガキーンLOVE! 今日こそいけるぞ!』と書いた応援用の旗を掲げてぴょんこぴょんこと声援をあげる!

 少女の願いは通じるか! それともガキーンは精根尽き果ててしまうのか! この固唾を見守る展開どうなってしまうのか!

 

 

「はーはっはっは、今度はカビの怪人だって!? とうっ!?」

 

「グギャアァァッ!」

 

 紫電が走る一撃! この表現は全くの嘘ではない!

 辺りに雷が落ちた音が響いたと思えば、周りに小さな稲妻を残してガキーンを足蹴にしていた怪人フロランが吹き飛んだ!

 洗練されたデザイン、全身を纏うスレンダーな金属鎧に、ヘルメットの特徴的な稲妻のマーク。あれは、あの姿は!

 

「お、おぉぉ! サンダーヘッド! サンダーヘッドが来たぞ!」

「やったぁサンダーへッドだ!」「助かったぁ!」

 

「みんな、待たせて悪かったな! ライトニングヒーロー、サンダーヘッド推・参!」

 

 公認ヒーロー、サンダーヘッドだ!

 誰も知らないが、正体はIT財閥「カロウシー」の一人息子、「本郷(ほんごう) 雷都(らいと)(18)」!

 お調子者であるが彼もまた正義感の強い熱血漢! かつ戦闘の才能に優れており、カロウシーが秘密裏に作ったイナズマスーツを身にまとって戦う、現役最強ヒーローと名高い存在だ!

 

 サンダーヘッドの登場に隠れて見守っていた住民が一気に群がる!

 声高々と彼の登場に歓喜の雄叫びが響きわたり! サンダーヘッドも洗練されたポーズで返礼する!

 

「大丈夫かよヒーロー……えっと、ゴキンだっけ?」

 

「あ、悪……助かったぜサンダーヘッド。あとガキーンな」

 

「いやいや、これっきりにしてくれよなぁ本当……もうおっさんなんだから、怪我してもアホらしいだろ? 正義の心は分かるけど、あとは全部俺に任せろって、な?」

 

「……」

 

 倒れたガキーンを手を引っ張って起こすサンダーヘッド。

 忠告に呆れと疲れが見えるのは、もう何度となく繰り返された証か。

 

 彼はさっさと起こしたガキーンを押しやると、木にぶつかってよろめく怪人フロランに対峙する!

 

「それじゃ、さくっとそこの不潔怪人をやっつけてやるか、雷速で――なッ!」

 

「グギャッ、ギャァッ、グケケケーッ!? カビビーッ!?」

 

「うおーデター! 雷速拳と雷速蹴の連続技!」

「すげぇ、見えねえ! やっぱやべぇぜサンダーヘッド!」

「敵がピンボールみたいに、やってやれサンダーヘッド! いけえぇー!」

 

「……はぁ、もう来たの。空気読めない奴」

 

 ガキーンとやるよりも遥かに盛り上がる戦闘の場!

 やることのなくなったガキーンが地面に手をついて不測の事態に備えて周りに目を見晴らせる中、先程まで騒ぎまくっていた黒髪の少女は、冷めきった表情でカメラと応援幕をしまい込んで撤収の準備をしていた。

 

「ガキーン様、怪我は?」

 

「ん、あ、あぁ。大丈夫だこんな物、へっちゃらだ」

 

「……無理はしないで下さいね、って言っても貴方はやるんですもんね」

 

「あぁ。俺はヒーローだからな、まあこんな弱っちいけど困っている人が居る限りは」

 

「ふふっ、そう云う所、本当に尊敬してます。貴方がその心を持つ限り、私も応援し続けますからねっ」

 

「悪いなお嬢ちゃん、だが、戦闘現場はいつも危険だから、できるならもっと遠くから……って、また居ないよ。いつもあの子は帰る時が早いな」

 

 夜の激闘の傍ら、ガキーンが少女に語りかけた時にはその姿はなく。

 そして彼らのやり取りの裏で怪人フロランは撃退、爆発四散していた!

 ガキーンは称賛されるサンダーヘッドの様子をひとしきり眺めた後、一人自宅まで戻っていくのだった! ヒーローの戦いは、時に孤独なのだった!

 

 

 

 § § § 

 

 

「怪人フロカビランランがやられたか……」

 

「ふん、だから言ったのだ。あんな小物程度作っても意味がないと」

 

「前回は怪人チワワンだぞ、あれよりかはまだ強かっただろう」

 

「えぇいどっちも小物だ! いい加減、もっと強い怪人は作れないのか!」

 

 

 ――同日。某所、闇が広がるとある空間に様々な声が木霊する。

 ノイズのかかったような機械音声、ねっとりとした異質な声。地獄の底から聞こえる昏い声等。

 そう、彼らこそメチャバッド団、その幹部達である! 彼らは今日企んだばかりの侵略の失敗について喧々囂々(けんけんごうごう)と語り合っていた!

 

「包丸町のような小さな町程度、さっさと攻略できんとは、嘆かわしいぞ貴様ら!」

 

「言わせておけば、伯爵。それもこれも作戦指揮が悪いのでは?」

 

「然り。サンダーヘッドの秘密はまだ探れていないのか? これでは勝てる戦いも勝てないだろう」

 

「黙れ黙れ黙れ! 博士、大体貴様が中途半端な怪物しか作れないのが悪い!」

 

「何をおっしゃる! どの怪物もミネルヴァ様の命令の上で作った一品ですわい!」

 

「ふん。ミネルヴァ様の命令どおりに作れてないのでは。貴様の忠誠は足りないの一言だ」

 

「時代錯誤の騎士風情が――!」

 

 怪物達は殺気立ち、部屋の中の空気が歪む!

 常人なら数秒で失神するそんな環境の中、周りの声に相反する軽快な鼻歌が響き渡り続けていた。

 

「ふふふん、ふん、ふふん……♪」

 

 小柄な体格ながらも見損なわないスタイルの良さに、その美しいボディを包むビキニアーマー。

 目鼻整い、ツリ目がちでルビィを思わせる真紅の瞳、鈍色に光る八重歯に、頭部の特徴的な山羊角。艶やかな背中まで伸びる黒髪。

 持ち主は()()()()()()()髪の先端を指先で弄りながら凛とした美しい歌を零し、悦に浸っていた。

 

 そう、彼女こそ、彼ら恐ろしい怪物を束ねるミネルヴァであった。

 彼女は彼らのいさかいに興味がないのか、先程からずーっと宙を眺め、時々ふひっと笑いを浮かべていた。

 

 

「……ミネルヴァ様。ミネルヴァ様?」

 

「ふん、ふふん♪ ふーん……ふふふん……♪」

 

「ごほんっ! ごほん、ごほんっ! ミネルヴァ様ッ!」

 

「んふー、ふーん……♪ ……ん? 何? どしたの?」

 

 注目を集めたミネルヴァは再三の呼びかけでようやく反応する。

 怪人たちの視線が集まる中、その声色には何の特徴的な感情も持ち合わせはいなさそうだった。

 困惑する一行、その中で博士が代表で言葉を運ぶ。

 

「まずは、この度の失態誠に申し訳ありませんでした。つきましてはこの処罰如何様にも――」

 

「え? あー、なんだっけカビ怪人ね。うん、どんまい。次頑張ればいいよ」

 

「……」

 

 これだよ、と怪人たちの思いがその時だけ一致した。

 今まで順調に進んできたというのに、ここ包丸町という小さな町の攻略になった途端、冷酷、苛烈なミネルヴァ様の態度が大きく変わったのだ。

 

(失敗に寛容になったというか、攻略を諦めているというのか? いや、それにしても怪人はどんどん作れと言うからやる気がない訳ではないが――)

 

「じゃあ次どんな怪人にしよっか。カビが駄目なら次は……うーん、ガガンボ怪人とかどう? 脆そうだし」

 

「お、お待ち下さいミネルヴァ様! おかしいです!」

 

「何? 何がおかしいのよ」

 

「怪人を作れ、と言われればワシは喜んで作りますわい。しかしながらミネルヴァ様がお選びになる題材はその、最近どんどん、なんと言いますか、弱い因子を持つ物ばかりではありませんか!」

 

「それが?」

 

「そ、それが、ではありませんぞ! た、例えばカブトムシや、マグロ、果てはライオンも勿論、もっと強い怪物を作るのも容易ですわい、なのにどうして」

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 博士と呼ばれた怪人に、ミネルヴァは分かりやすくため息をついた。それはそれは深いため息だった。

 

「わかってないなー博士。そんな強いの作ったら駄目だよ。風情がない、風情が。侘び寂びが」

 

「は、はぁ?」

 

「程々に楽しむんだよ。苦戦する程度でじわじわと。倒せるくらいの絶妙さでね。そうじゃないと見てて楽しくないんだよ、分かる?」

 

「……」

 

 博士も、そして他の怪物も黙り込む。

 倒せるくらいの絶妙さ? それは一体どうして侵略に関係する?

 享楽主義者のミネルヴァ様とは言え負けてばかりでは意味がないはずなのに――。

 

 そうした中、一人の含み笑いが部屋に響く。その発生源は騎士と呼ばれた怪人の物だった。

 

「ククク……いや、失礼した。誰も彼もがその真意に気付いてないのでね……皆はまだ気付かぬのか、ミネルヴァ様の策略が。これだから忠誠が足りんと言うのだ」

 

「なんだと……」

 

 その物言いに周りが殺気立つが、優位を得た騎士はとうとうと語る。

 

「ミネルヴァ様はこうおっしゃっておられる。つまりだ、油断させているのだよ、弱い怪人を頻繁に出撃させ、我々の実力を誤解させる。するとどうなる? 言わずもがな分かるだろう、奴らは我々を見くびる――そこに我ら珠玉の怪人を投入すれば、クク……!」

 

「お、おぉぉ……」

「そうか……そう云う事か……」

「なるほど、それならば確かに」

 

 周りの動揺と納得の声。

 博士も、周りの怪人も含め改めて尊敬の目がミネルヴァに突き刺さる。

 

「あーうん。まーそゆことかも。うん、まだまだだね君達」

 

 ミネルヴァはそんな視線を受けて、鷹揚(おうよう)に頷くと彼らもまた一斉に頭を下げるのだった。

 恐るべしミネルヴァ! 恐るべし悪の結社! 包丸町の危険は、まだ消え去ってはいないのだった!

 

 

(……あー今日のガキーン様マジ良かったわ。必殺技見れただけで本当最高。大分弱めの怪人作った筈だったけどやっぱまだ実力的には難しいかなー。でも割といい感じ、やっぱり今度は物理に弱いタイプの怪人にしよう。で知能レベル目一杯下げていってね。ガキーン様でも苦戦してなんとか勝てる相手を用意して、その勝利を特等席で写真目一杯撮ったろ。あー勝利に喜ぶ姿早くみたい、(たぎ)るわー。ガキーン様の怪我、来週になったら治ってるかな? 来週また怪人出させよ、うん。)

 

 

 危うし包丸町! 危うしガキーン!

 ミネルヴァの興味が尽きぬ限り、町に平和は訪れない!

 今後一体どうなってしまうのか! 次回を座して待て!

 

 




多分続く。
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