悪の幹部様は推しの雑魚ヒーローを特等席で応援したい! 作:月兎耳のべる
(!? この画像……そうか、そういう事だったのか!)
某日某所! とあるマンションの一室にて!
悪の軍団、メチャバッド団の幹部「クルーニー伯爵」はある事に気付いてしまった!
いつものように朝に弱い敬愛すべきミネルヴァ、彼女を朝起こしにいった伯爵は見てしまった!
PCに突っ伏して寝ていたミネルヴァ、そのPC画面上に映されたガキーンの盗撮画像の数々! それらを
「うぅぅん……ガキーン様……むにゃにゃ……」
冷静沈着を地で行く伯爵! 数瞬の間たじろいでしまう!
だがしかし軍団一のキレ者と呼ばれる彼女は、その聡明なる頭脳を持って一瞬で全てを理解をすると、何も見なかったと言わんばかりに彼女の部屋を後にした!
(ミネルヴァ様がまさかあのような者に入れ込んでいるとは……しかしそう考えると今までの行動も納得出来る。戦闘データ上にも必ずと言っていいほど乗るが、弱すぎて脅威対象外としてきた雑魚ヒーローが……なるほど、今までのヌルい怪人はそのために)
とうとうバレてしまった……いや、バレていなかった事がおかしいと言うべきか!
ミネルヴァが隠し通そうとしていた真の目的、いや真の趣味がついに身内に露見してしまった!
奇しくもその相手がキレ者の伯爵であることは不幸と言わざるを得ないだろう! 彼女は3年間もの長きのヌルい侵攻は全てガキーンを相手取るためだったという事を悟ってしまう……という事は――
(ミネルヴァ様。もしや貴方は侵攻などどうでもいいのですか……?)
――そうような帰結に
ようするに私欲に走って目標を達成せず、ただガキーンにかまけて遊び呆けている……それがミネルヴァの行動だと写ってしまうのはどうしようもない事!
これではメチャバッド団の掲げる今期スローガン「焦らずコツコツ着実に! そこそこ迷惑じわじわ侵攻!」が果たせないどころか、今まで掲げてきた理念も目標にも貢献出来ていないという事だ!(尚前期スローガンは「短期勝利より長期的勝利! 市民と共に仲良く成長!」)
あぁ、伯爵の目に
(ミネルヴァ様――何故そのような事を……!)
伯爵がこの世に生を受けて19年――思えば6歳の頃から悪の道に走り出したミネルヴァのお世話係であったクルーニー伯爵は、今までを振り返りながら、一路博士の元へ急ぐ。
自由
「ん。何じゃ伯爵。朝っぱらからしかめっ面をしおってからに……ミネルヴァ様はまだ起きられぬのか?」
パジャマ姿に身を包んだ博士が歯ブラシ片手に眠たげに反応する中、伯爵はソレを見ても穏やかな気持はなれず。つい低い声で博士へと応対してしまう!
「じきに目が覚めるそうだ。それよりも博士、お前に頼みがある」
「……
「そんなくだらん話ではない。今日の侵攻についてだ」
「侵攻……? まさか、伯爵貴様。怪人を変えろと言うわけではなかろうな!? パズル怪人パズルンルン! 適度な硬度に適度な崩壊しやすさ! そして適度に
「……いや、そういう話でもない。ミネルヴァ様もしかし無理を言うものだな……」
「なんじゃ、だとしたら何だと言うのだ!」
「なあに簡単な話だ。今回の戦いにだな――」
伯爵の話を聞いた博士の顔に
あぁ一体彼女は何を企んでいるというのだろうか――!
§ § §
「――キャアアアアアアッ!」
毎度ご存知! 閑静な住宅街に広がった、お昼時のTVの声をかき消す悲痛な叫び声!
せっかくの祝日、まさにこれからがピークだと言わんばかりの時間帯に、それは起こってしまった!
「イヤアアアアッ! ジグソーパズルの最後の1ピースがどうしても合わないわ、どうしてーッ!?」
「パーズパズパズパズーッ! 32ピースなんてぬるいジグソーパズルを楽しおってーッ! このパズルンルン様がいる限りぬるいパズルなど許すわけがなかろうパズーッ!」
息子の散らかしたパズルを暇つぶしに楽しもうとしていた専業主婦、佳代子は絶望した!
自宅のリビングに突如現れた、パズルブロックで出来た
「これから街中の家という家に侵入して、簡単過ぎるパズルを駆逐してくれるパズズズーッ! 貴様は暇を潰したいならこの『青空(3千ピース)』を楽しんでおくパズーッ、さぁ玄関はどこだ奥さんンンンッ!」
「いやああああパズルの違いが全く分からないいぃっ! 突き当りを左ですぅぅっ!」
佳代子に難解ジグソーパズルを渡して「まずは外枠から作るの定石だぞ、四隅を探すんだ奥さンンンン」「いやあああ!親切!」というやり取りをしたパズル怪人は、極端に少ない可動粋の手足を巧みに使って玄関を脱出! 一時は倒れそうになったりしたがえっちらおっちらと移動!
そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!
この怪人の目的は先述した通り街中の簡単パズルの駆逐! このまま奴をのさばらせていては包丸町は全員高難易度パズルに悩まされ、精神的に余裕のない日々を送る事になるだろう!
無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!
力無き一般人では謎怪人相手に抵抗などできる筈もなく、このまま包丸町が『知育玩具に翻弄される町』という誰向けのアピールをしているのか分からない呼び名がつく事をのうのうと眺めるしか無いのかと市民が絶望しかけた――その時だった!
「何が知性だ――ッ!」
「パズズズーッ!?」
突如黒い影が町中を駆けるパズルンルン(別に長くないので略さずに呼ぶ!)に飛びかかった!
一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!
両腕の無骨な金属アーム! ホームセンターの安全靴に、膝パッド! 一新されたのか凹みが見当たらない金属アーマーに、まるで新品もかくやの光沢を持ったおニューの灯油缶ヘルメット! そんな不思議な出で立ちの謎の人物が奴に飛びかかったのだ!
「なんだぁ、貴様ァ! このパズルンルン様に歯向かおうと言うのかーッ! 挨拶代わりの知恵の輪をくらえーッ!」
「折角の休日昼から騒いでんじゃねえ、何が知恵の輪だ、フヌ゛ゥン゛ッ!」
「パズーッ!? 脳みそを使って解け脳みそをーッ!」
渡されたリング状の知恵の輪を一息で引っ張って破壊する、知力の欠片もない振る舞い! 折角の知育玩具を破壊するある意味空気の読めない対応に、為すすべなく見守っていた一般市民が叫ぶ!
「あ、あのちょっとだけ見た目がよくなった姿は――!」
「お、お前――イモジャー仮面じゃねーか!」
「クソダサ仮面!」「知恵の輪マン!」
「いい加減何度言えば分かるッ! 俺はヒーローガキーンだ! あといつまでイモジャー引っ張ってやがんだコラァ!」
言わずと知れたこの男、清辻無郷(35)は『ヒーローガキーン』であった!
折角の祝日昼間、いつものように夕方頃の襲撃に備えていた彼はいささか慌てて飛んできたが、その戦意に陰りはない!
おしゃかになったアーマーもようやく新調! ヘルメットの輝きが増しているのはまるで彼の自信とやる気の現れのようにも思えるぞ!
「お前、サンダーヘッドは復帰したって聞いてないのか? いい加減やめておけよなぁ…」
「おいおい、知恵の輪はそうやって解くもんじゃねえだろ! こうやってこう……あれ、難しいな」
「馬鹿。馬蹄型の奴なんて小学生の頃くさるほどやっただろうが……これはこう、こうしてだな……ん? 間違ったかな?」
「ママー、あの人。ニュースでやってた地面で寝てた……」
「しっ、見ちゃいけません。教育に悪いわ」
「え!? 俺ニュース出てたのか!? い、いや今はソレは置いておいてだな……簡単なパズルくらいやってもいいだろが!」
「パズパズパズーッ、愚問なり! 簡単過ぎるパズルなぞ人生の
「うわーっ、土産物でよくあるけど結局買わない奴! 土産物でよくあるけど結局買わない奴じゃねえか! ……いや、挑戦しねえよ!?」
勝手過ぎる持論を展開した怪人パズルンルンがガキーンめがけて投げつけた立派なひみつ箱! 条件反射的に受け取った彼は一瞬その巧みな仕掛けに目を輝かせて挑戦しそうになるが、すぐに顔を振ってソレを投げ返す!
しかしまさか投げ返されると思わなかったパズルンルン、ソレを受け取れずに地面に箱が落ち、バラバラに壊れてしまう!
「あ、ヤベ……いや、でも戦闘中にそんなもの投げつけて寄越すから……」
「貴様……ッ、一度ならず二度までもパズルを拒否しよって……! 遊び心のない不人気ヒーロー無勢があぁぁぁッ!!」
「なっ、ぐ、アァァッ!?」
パズル拒否をされたパズルンルン、パズルの顔で憤怒を表現すると唐突に怪人の体から飛翔する大量の物体!
拳大のそれは何かと思えば――それはやたらと手触りのいい色々な形をした木片であった! それがガキーンめがけて発射されたのだ! 唐突過ぎて反応が遅れたガキーン、もろにパズルの弾丸をくらってしまう!
「やっぱりかよ、お前大丈夫か!? 一体何をくらって……!」
「こ、これってまさか……旅館によくおいてあるパズル*2か!?」
「本当だ、これは旅館によく置いてあるパズル*3じゃねえか!」
「懐かしいな! 俺、T文字が組めなくていつも頭悩ませてて……」
「クッソ、地味に痛い攻撃しやがってよ……っていうかお前らはさっさと逃げろ! のんきにパズルを解いてる暇は……!」
「パーズパズパズッ、隙ありパズッ!?」
あぁ市民に気を取られてしまったガキーン! 間合いを詰めていたパズルンルンの姿に気がついていない!
無防備なガキーンにめがけて振る舞われるは奴のブロックの腕! ギリギリになって気付いたがガキーンだが時既に遅し、勢いを殺すこと無く腕は頭部へと吸い込まれてゆく! そして――!
響く軽質な金属音!
四方八方に散らばる何か!
そして衝撃に揺らぐガキーン!
さしもの一撃にガキーンも倒れ……いや、倒れてないぞ!
ダメージは受けているようだが周りに広がる何かを不審な目で見て、そして怪人へと振り返って更にその目を見開いたではないか!
「パズルンルンお前……その体っ」
「パーズパズパズ……ッ、何を驚いてるパズ?」
「お前、お前の腕っ、バラバラになってるじゃねーか!」
おぉ、なんと残酷な事か! パズルンルンがガキーンを殴ったその右腕が、無数の小さなパズルピースで出来ている体のせいかバラバラになっているではないか! しかも散らばったパズルは彼の体に戻る気配はなく、その体の中の空洞まで丸見えになっている!
「ふんッ、何をその程度のことで驚くパズ! 悪と正義の戦いである以上、傷を負う事など承知の上パズッ! 貴様もそうだろう!?」
「でもお前、その腕……! そんなダメージを受けてっ! も、戻らねえのか!?」
「1つ1つ組み上げん限り戻らんパズ!」
力強く宣言するパズルンルンに何一つ後悔の色はなく! 不利になったというのに冷や汗を垂らしながら残った左腕で手招きをする始末!
しかしてその腕すらもパズルで出来ている、今ガキーンが殴ってもしも左腕で受けたとしたら……間違いなく奴の腕はバラバラになってしまうではないか!
今まで相手をしてきた怪人一の
「何を
「ぐぅ……っ、いや物理攻撃じゃなくて遠距離攻撃をしかけるのはどうだ!? 何かこのままだとお前は無駄にやられて……」
「そっちがこないなら、こっちから行くパズゥゥゥッッ!!」
「うわ、馬鹿やめろっ! そんな不安定な足と腕を振り回して転んだらお前、お前の体は……命が惜しくないのかお前っ!?」
「パーズパズパズッ!! 怪人に生まれたこの生命、パっと咲かせて見せるのが怪人道よーッ!」
それは半ば命を捨てたような特攻! ぶんぶんと片腕を振り回すパズルンルンに戸惑い、オロオロしてしまうガキーン! 何とか攻撃をやめようと腕を掴もうにも、掴んだ先で崩れる腕のパーツ! これでは止め終わる頃には無惨なパズルの山が出来ているだろう!
「やめろーッ、怪人ーッ、命は投げ捨てるもんじゃねーッ」
「パズルを……高難易度パズルを町中に広げる夢はどうするっていうんだよーッ!」
「ガキーン攻撃するなー負けろー! そいつの命を無駄にするのは俺が許さねえー!」
「お前らはどっちの味方だよ!?」
刹那的な生き方を良しとする覚悟の決まりすぎた怪人の特攻に市民も声援を惜しまない!
これにはガキーンも困惑を隠せず、攻撃どころか防戦すら出来てない状態! 危うしガキーン! 奴を攻撃すれば評判が更に下がるぞ!
――しかして奴の攻撃は長くは続かなかった!
「よせ、悪さしなければ命を捨てる真似なんて……!」
「パーズッズッズッズッ、防いでばっかりでいいパズ!? このままではパズルンルン様が勝利を……パズァッ!?」
突如としてパズルンルンの顔が無数のパズルの欠片となって崩壊したではないか!
取っ組み合う二人、その片割れの急な崩壊!
「ぱ、パズルンルン……だ、誰がこれを!?」
「――」
振り返ったガキーンが見たのは……やはりお前かヒーローサンダーヘッド!
――いや待て、少し違うぞ!?
あの特徴的な光沢イエローのボディが月のない夜を思わせる程黒く染まっているではないか! この姿は一体……!?
「お、お前……サンダーヘッドなのか? どうしてこんな事を!」
「――どうしてだと? そんなの相手が怪人だからに決まっている! 貴様こそ何故そこの怪人に手心を加えようとした!」
「あいつはほとんど無害な奴だった! 攻撃しても攻撃されてもボロボロになるような弱っちい奴だ! それなら倒す以外の道もあった筈だ!」
「倒す以外の道など――ある理由がないだろう! メチャバッド団の怪人というだけでこいつは
そこには今までのサンダーヘッドが見せていたおちゃらけたムードや明るさなどどこにも見当たらない! 仮面越しでも感じられそうな強い恨みを声に、そしてオーラに乗せるその姿は、正義と言うには歪で、また遠いように思えた!
「サンダーヘッド……?」
「さ、サンダーヘッドなのか……?」
「真っ黒になったサンダーヘッド? 姿形はそのものだが……あんな激しい事を言うなんて……」
「サンダーヘッド……? 違う、俺はもうその名は捨てた!」
住民らの動揺も切り捨てて、その男は叫ぶ!
黒一色のスーツに頭部に刻まれた黄の稲妻が、昼間なのにギラリと光る!
「――俺の名はブラックサンダー! メチャバッド団を葬る、地獄からの使者だ!」
強い怒りと恨みを身に纏ったその姿に、その場の全員が顔に驚愕を刻みこんだ!
ココアクッキーとプレーンビスケットをチョコレートでコーティングした製品と全く同じ名前をしたヒーローの登場に否応なく緊張感も高まる! あのサンダーヘッドに一体何があったというのだろうか!? そして伯爵のたくらみとは一体!? 後半を乞うご期待あれ!