悪の幹部様は推しの雑魚ヒーローを特等席で応援したい!   作:月兎耳のべる

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遅くなっちゃった。
頑張って書くぞい書くぞい。


激硬! 怪人『ゲキカラバリバリン』! ガキーン倒れる!?

 サンダーヘッド――本名、本郷雷都は間もなく大学デビューを果たす多感な18歳である!

 身長は全国平均より5cm程高い中肉中背の彼は、恵まれた身体能力と高めのIQ、更に親の企業である「カロウシー」からのバックアップを受けて、包丸町のみならず、様々な町で活躍! 悪の軍団を退け続けている実績がある!

 

 頭部のイナズマのマークが示しているように、彼は電気の力を使って戦う!

 彼の一挙一投足は電流の一撃であり、また全身に自ら微量の電気を流す事でツボを活性! 常人では捉えられない速度を発揮して敵を翻弄(ほんろう)し、倒す!

 

 その速さ、その強さ――まさしく稲妻が如く!

 

 圧倒敵な強さの前に人々の信奉も厚く、地方紙も彼の活躍をこぞって取り沙汰すので日本全国に知名度もある!

 

 そんな彼の人気の一因は、強さだけではない。その華にもあるだろう!

 デザインのよいユニフォーム。一挙一投足の洗練さ! そしてそして――定期的に披露される「カロウシー」開発部が命と睡眠時間を削って作成した新商品!

 

 未知なる武器に人々は否応なく期待を寄せる!

 今までも結果としてその武器で相手を派手に倒してきたのだ!

 そんなの人気が出ない訳がないだろう! 個人で戦うガキーンは涙を流して羨むくらいだ!

 

 故に人々はサンダーヘッドに期待と安心を寄せる!

 怪人が現れても彼がいるなら平気だ――そう思わせるのはまさしく「ヒーロー」として求められるべき必須の素質! 彼はまさしくヒーローの役割を果たしていると言えるのだった!

 

 

 § § §

 

 

「――キャアアアアアアッ!」

 

 

 閑静な住宅街に突如広がった、絶望をありありと感じさせる叫び声!

 平和な一家で行われるであろうありふれた日常、それは容易く崩壊してしまった!

 

「イヤアアアアッ! 楽しみにしていたケーキが全部激辛堅焼きおせんべいになってるわぁーッ!? どうしてーッ!?」

 

「バーリバリバリバリッ、貴様らあんな甘ったるいものをばくばくと豚のように食いおってぇ! このゲキカラバリバリン様の硬くて辛いおせんべいを食べて発汗&顎を鍛えるがいいーッ!」

 

 炊事洗濯を終えて一休みをしようとした専業主婦、佳代子は絶望した!

 今日のおやつを食べようとした所、丸い煎餅の体に黒い手足が生えた謎の怪人がいきなりそんな事をのたまったのだ! これは堪った物ではない!

 

「これから町中の甘味という甘味を、激辛堅焼き煎餅にしてくれるわーッ、玄関はどこだ奥さんンンッ!」

 

「いひゃああああぁっ! つひははり(つきあたり)ひらりれふ(ひだりです)ぅぅっ!」

 

 口に咥えた堅焼き煎餅を涙を流しながら食べる佳代子は玄関扉に引っかかるゲキカラバリバリンを何とか押し出して脱出させると、怪人は器用にその丸い体で転がしながら街を疾走する!

 そして隣の家の玄関にチャイムを押してから侵入すると、再び家から悲鳴があがった!

 

 この怪人の目的は先述した通り住民の持つ甘味の撲滅! このまま奴をのさばらせていては包丸町は全員激辛好きという評判は逃れられないだろう!

 

 無秩序に暴れる怪人、響き渡る悲鳴の連鎖!

 一部の人々には好評だが、甘党や歯の弱い老人には余りにも辛い仕打ち!

 このまま辛さに悶え苦しみ、硬さに人々が顎をさする光景が包丸町全域に広がってしまうのか……と人々が絶望の淵から一気に叩き落されそうになった――その時だった!

 

「待ちやがれテ……!」

「ハーッハッハッハ! 今度はお煎餅の怪人だってぇ!?」

 

「バリバリバリーッ!?」

 

 突如現れた2つの黒い影が町中を駆けるゲキカラバリバリン(長いので今後ゲキバリと略す!)に飛びかかった!

 一般人か!? はたまた新たな怪人か!? いや違う!

 どちらも普通の人に比べれば余りにも特徴的なシルエットを持っているではないか!

 片やまるでショーに参加したは良いものの整備もメンテナンスもされずに長年放置されたようなコスチュームに際し、片や今まさに作られたばかりの美しくも洗練されたコスチューム! それらを(まと)った二人が同時に現れたのだ!

 

「なな、なんだぁ、貴様ァ! このゲキバリ様に歯向かおうと言うのかーッ!」

 

「応とも、なんだか辛そうな怪人よ! 市民の好みは人それぞれ、それを否応なく一つのものに押し付けようとする事など、許せるはずがないな!」

「え、あれ……な、何か来るの早くねえか……!? あ、えーっと、そ、そうだぞ! 好みは人それぞれで――」

 

「とぅっ!」

 

「バリババー!? アバーッ!?」

 

 目にも留まらぬ早業でゲキバリを吹き飛ばす人物と、まさかの予想外だと言わんばかりに狼狽する人物!

 相対的な二人の登場に、配布されていた激辛煎餅を涙を流しながら食べていた市民らが叫ぶ!

 

「はひっ、はひっ、あ、はのすがは(すがた)は――!」

 

「あ、あのひゅはは(すがた)――まひゃか……さんりゃーへっほ(サンダーヘッド)!」

 

さんりゃーへっほ(サンダーヘッド)!!」「さんりゃーへっほ(サンダーヘッド)らぁ!」

「ありがほうさんりゃーへっほ(サンダーヘッド)さんんんん!」

「たすかっはわ、もう(バリッ、ボリッ)歯が限界だったのッ!」

 

 

「サンダーヘッド推・参っ! みんな待たせて悪い、もう激辛せんべいに(むせ)び泣く必要はないぞ!」

 

「お、俺も来てるからな! ヒーローガキーンだ!」

 

 毎度お馴染みサンダーヘッドと、ヒーローガキーンだった!

 なんと包丸町ご当地ヒーローの二大巨頭が今まさに同時にその場に現れていたのだ!

 市民たちはサンダーヘッドに尊敬と信頼の眼差しを向け、彼に溢れんばかりの称賛を送る! ちなみにその背後で慌ててポーズを取るヒーローガキーンには視線も言葉すらも向けられてはいなかった! コレが知名度と人気の差という物か! 泣くなよガキーン!

 

「まさかお前がこんなに早く現場に来てるとはな……サンダーヘッド」

 

「あぁ。ここ最近の怪人の出現頻度と傾向、そして出現場所のデータから予測できるようになったんでね。で、バキンだっけ」

 

「ガキーンだ!」

 

「……まあ何でもいいや、下がってろよおっさん。今日はもう俺が来たんだからお前の出番は必要ないぞ!」

 

「ちょ、お、おいっ、俺だってヒーロー……」

 

「ば、バリッ、バリババーッ?!」

 

 ガキーンが言い返そうとするや否や、既にサンダーヘッドは敵怪人に踊りかかっていた!

 紫電を纏ったサンダーヘッドの攻撃は怪人ゲキビンに容易く当たる! 逃げようとしても逃げられず、反撃しようにも捉えられない、怪人とサンダーヘッドの実力の差には開きがありすぎた!

 

「おいおい、クソダサ仮面、言われた通り下がっとけって! またやられるぞ!?」

 

「そうだぞ、後はサンダーヘッドさんがやってくれるんだ。お前の出番なんて来るわけないだろ!」

 

「それよりもお前もこの煎餅食わねえか? 激辛だけど結構いけるぞ」

 

「バリボリ食いながら野次飛ばしてんじゃねー! っていうかお前らはさっさと逃げろよ! 危ないぞ!?」

 

 咀嚼(そしゃく)音の合唱を響かせる一般人に対して、正論過ぎる指摘に胸を傷ませながら最低限の義務は果たそうと観衆を逃がす働きかけをするヒーローガキーン!

 その間もサンダーヘッドと怪人の戦いは続いているが、もう怪人ゲキバリの体は度重なる攻撃でひび割れだらけ! 勝負はもう着いてると言っても過言ではない状態だった!

 

「へんっ、メチャバッド団だっけ? お前も含めあそこの所の怪人は全くもって大したことないな!」

 

「ば、バリリーッ、貴様ぁ、ただ速いだけで良い気になりおってぇぇぇッ! くらえっ、激・せんべい手裏剣ーッ!(注:攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

 戦い甲斐がないと挑発するサンダーヘッドに対し、ゲキバリは背中から取り出した円形せんべいをその手に持つと、まるで手裏剣じみた軌道でサンダーヘッドへと攻撃! 様々な軌道を描いたせんべいはそこそこに硬度がある! 当たれば割と痛い事には違いないだろう! ――しかし!

 

「遅いんだよッ!」

 

「バリィッ!?」

 

 せんべい手裏剣であってもサンダーヘッドを捉える事は出来ない!

 撃った時にはその場におらず、ただただ壁に叩きつけられたお煎餅が軽い音を響かせて割れていくのが続くのみ!

 

「激・センベイスロー!(注:攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

「はっ!」

 

「激・センベイフリスビー!(注:しつこいようですが攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

「ふんっ!」 

 

「うわっ、ちょっ……おいサンダーヘッド! もうちょっと考えて避けてくれっ、いたっ!? いてててっ!?」

 

 怪人ゲキバリの攻撃は乱射されるせんべい弾を市民から守ろうと、ヒーローガキーンが身を(てい)してダメージを受ける以外、全くの効果はなかった!

 

「アババババーッ! なぜだ、なぜ当たらないィィ――ッ!!」

 

「へへっ、遅すぎる遅すぎる! それに弱すぎだぜ怪人。それじゃそろそろ決めてやりますか!」

 

「おぉ、来るのか! サンダーヘッドシューター!(バリボリ)

「長い、長いぞあれは……サンダーヘッドシューターにしては長すぎる!(バリボリ)

「いやいやアレはいつもの違うぞ……多分、新兵器だ!(ボリバリバリ)

 

「い、いいからお前らはさっさと避難しろっての!? 巻き添え食らうかもだからっ……!」

 

 背中に取り付けられた身の丈以上に伸びる伸縮性の棒を、勢いよく取り外して構えるサンダーヘッド! 一本の白く細長い棒のように見えたそれは表面に幾何学模様が象られ、サンダーヘッドと同じく、いやそれ以上に稲妻を纏っている! 

 彼が卓越した棒捌きで回転させれば、電撃が周りに撒き散らされ、お煎餅の咀嚼音よりも遥かに強い電気の爆ぜる音が、辺りに響き渡った!

 

「さぁーて、これぞ新武器ライティングブレイカー! 粉々に砕かれる準備は出来たか!?」

 

「ひっ!? こ、このモース硬度4*1の体を持つこのゲキカラバリバリン様に、ソ、ソソソ、その程度の攻撃が通じるとでも!?」

 

「うおおおおおかっけぇ!!」

「新武器の中で一番格好いいかもしれねえ!」

「やっちまえーっ、サンダーヘッドー!」

 

「……」

 

 そんな観衆が見守る中、一人の少女が彼らに紛れて非常に不機嫌そうに動向を見守っていた!

 今まさに怪人が撃退されるという瞬間であるのになぜそのような顔をするのだろうか!?

 

「電光石火の一撃で、貴様の悪事は一刀両断だ! くらえっ! ゲキバリ! ライティング――!」

 

「うぇ、ひ、ば、バリバリバリバリーッ!?」

 

 夕方時の住宅街が、その瞬間だけ昼と見紛う明るさに包まれる!

 サンダーヘッドは声を置き去りにしてその体を加速! 塀に追い込まれる形で体を縮こまらせたゲキカラバリバリは自らの終止符を悟る――その、ハズだった!

 

 

「――はぶっ!?」

 

「おぉっ!?」

 

「えっ?」「は?」

「んんっ……?」

 

「バリィ……っ!?」

 

「……」

 

 ――その時、不思議な事が起こった!

 

 なんと攻撃をしようとしたサンダーヘッドが、その場で超高速で地面に転んでいたのだ!

 彼の片足だけが何故か()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事から、謎の力で足を(すく)われた事は明白であった!

 

 

「すぅっ―――きゃああああっ、サンダーヘッドがやられてしまいましたっ、助けてガキーン様ぁぁあ!!

 

 そしていつものお下げ髪の黒髪少女が声高々に叫ぶ!

 この場に彼しか救えるものがいないと、助けを求めた!

 その両腕に掲げられていたのは毎度手作りの応援旗に『ガキーン様! GO FIGHT! 初勝利を飾れ!』と書いた物を壊れんばかりに振って、抑えきれない欲望を応援力に昇華させていた!

 

「……」

「お、おい大丈夫かお前!?」

 

「さ、サンダーヘッド冗談だろ……!?」

「あ、あいつがや、やられただと馬鹿な……!」

「力を隠していたのか……!?」

 

「な、何が起こってるっていうバリ……?」

 

 現状を正しく理解出来ていないのはその他大勢である!

 唯一名前を呼ばれたガキーンは倒れ込んだサンダーヘッドに駆け寄るが、うつ伏せで片足だけ挙げたポーズのままのサンダーヘッドからの返答はない! 気絶してしまっているのか!?

 

「ガキーン様頑張ってぇぇぇ! 今の攻撃はそこのせんべい怪人による物よきっと! あんな凶悪な攻撃、貴方以外に攻略できないわっ! ファイトっ、ファイトガキーン様ぁっ!」

 

「ば、バリバリィ!? このオレサマにはそんな隠れた能力が……!」

 

「お、お嬢ちゃん……! いや、そうだな。倒れたなら仕方ない、とりあえずみんな逃げるんだ!」

 

 少女の主張に怪人ゲキバリが驚愕に身を包み、ガキーンがやる気を(みなぎ)らせ、安心の拠り所を無くした人々が逃げ惑う!

 おぉ! 土壇場で覚醒した怪人、倒れ込んだ絶対正義の味方! これで包丸街の平和の行方はまたもわからなくなってしまった!

 

「う……うぅ……お、俺は一体……何が?」

 

「……」

 

「――あがっ!? ごっ、ぐ、ぐあぁぁっ!?」

 

 人知れず目を覚ましたサンダーヘッドだが、少女が指先を上下するたびに宙に浮かんだ彼の武器が執拗に体を打ち付け、彼の意識は更に深い深い闇に潜ってしまい、起き上がる事は叶わなかった!

 

「……なんて恐ろしい攻撃! サンダーヘッドをあそこまで足蹴にするなんて! ガキーン様負けないでーっ!」

 

「えっ、ちょっ、攻撃えぐっ、容赦ねぇ……も、もう完全にダウンしてるぞ! 頭はいい加減やめてやれよ怪人!?」

 

「ちょちょっ、ちょっと待つバリ! この力、俺も制御できんバリィッ!?」

 

 攻撃にしては残忍かつ執拗過ぎ、ガキーンと怪人が慌てふためくが、二人ともはっと目を合わせると再度距離を取り――そして戦闘が始まった!

 

「とりあえず喰らいやがれやぁぁぁーーッ!!」

 

「バリィッ! 覚醒したゲキバリ様に勝てると思ったか愚か者がぁッ!」

 

 サンダーヘッドよりも遥かに遅いスピードで飛びかかるガキーン!

 未知なる力を得たと考えて闘志を燃やす怪人ゲキバリ!

 

 一方的な試合展開から五分五分の展開……いや、怪人との自力の差から七分三分程度の形勢になり、途端にガキーンの鎧に新たな傷跡が刻まれていく!

 しかしガキーンも慣れた物! 肉を絶たれようとも骨を穿てばよい! カッチカチのお煎餅で体を叩かれ、うめき声を漏らそうとも三発に一発は確実に相手にダメージを与えていく! やるじゃないかガキーン!

 

「あっ、そう! そこですガキーン様っ! あっ、あぁっ! 踏ん張ってガキーン様それいい感じっ! そう、そこそこ! あーっ、煎餅この野郎アンタ飛び道具卑怯でしょ!? 正々堂々ガキーン様のフィールドで戦いなさいよ! ガキーン様そいつの背中っ! 背中の中心パンチしてパンチ! パンチしたら自動的にそいつの体が爆発四散するように作ったから! キックでもいいっ! パンチをっ、あっ、あ~~~避けてっ、避けっ! あっあっ、ああんっ!?」

 

 おさげ髪の少女は狂喜乱舞しながら思い切り声援を送る中! 二人の戦いはいよいよもって佳境を迎えつつあった!

 

「鬱陶しいバリーッ、貴様などサンダーヘッドの足元にも及ばぬわっ!」

 

「くっっ、たかが煎餅野郎が……!」

 

「その煎餅野郎にやられてるのは貴様だ、コスプレしただけで自分の実力を勘違いしたか? 怪人と人間には、明らかに強さに開きがあるのだーッ!! 喰らえ、激・センベイ手裏剣!(注:再三ですが攻撃に使ったおせんべいはこの後メチャバッド団が美味しく頂く予定です)

 

「ぐああああああぁ――ッ!!」

 

――だから飛び道具禁止つってんだろうがッ!!! あぁっ、ガキーン様ぁッ! 立って! 立って負けないでっ!」

 

 連射された堅焼きセンベイの嵐に、ついにガキーンが膝をついてしまう!

 少女の悲鳴と怪人の高笑いが同時に木霊するっ! 危うしガキーン! これは絶対絶命だ!

 

「ふんっ他愛もない……しかしサンダーヘッドがやられた今、この包丸町など攻略したも同然。ミネルヴァ様もお喜びになる事だろう……!」

 

「くっ……ま、まだ俺はやられては……!」

 

「馬鹿め、ヒーロー失格の貴様はもうおしまいバリッ、この俺の覚醒した技でトドメをさしてくれるわァッー!」

 

 よろよろと立ち上がるガキーンに下される非情なる宣言! 傍で動向を見守る少女の冷えた視線が怪人に注がれ続ける中、怪人ゲキバリが目の前の雑兵を吹き飛ばそうと強い思念で念じる――! 念じる! V8エンジンの如き唸り声を零しながら念じる――! しかし……!

 

「? ……へっ、き、効かないんだよ……そんな攻撃……!」

 

「な、何――どうなってるバリ!? 貴様、このゲキカラバリバリの攻撃が効かないというのか!」

 

 ――おぉ! 奇跡という物は常に挑戦する者に与えられるものなのか!

 

 凶悪過ぎるゲキカラバリバリから発せられた超能力を、しかし、ガキーンは耐えていた!

 ヨロイ部分が壊れて露出したあざだらけの腕を、痛みから引きずる足をそのままにじわり、じわりとゲキバリに迫っていく!

 さしもの光景にゲキバリは焦り、先程から一転して少女が目を輝かせる! 彼女の持つカメラもまた光を何度も瞬かせる!

 

「さぁ、どうした怪人……もう俺の間合いだ……ッ!!」

 

「バリバリバリバリーッ!! 貴様ァッ!」

 

「もう、遅いんだよっ!」

 

 片腕のアーマーの末尾からブースター音が響き渡る!

 弓のように引き絞った腕は、今まさに暴力の解放を求めて震えていた!

 

「あっ、きたっ、きたきたきたぁっ、何この激アツ展開っ、あっ、あっあーっ! (はかど)るっ! ガキーン様いって! お願いイって! やっちゃって! 私に見届けさせてっ! 貴方の勇姿っ、記念すべき勝利をっ! 訪れる平和を! 私に感じさせてっ!」

 

 黄昏時の住宅街っ、ヒーローと、怪人と、少女だけの空間で!

 その瞬間は――訪れたッ!

 

「貴様のフニャフニャな悪事など――鉄()()粉砕()()あああ!」 

 

「バ、バリリリーッ!!?」

 

「ひ、ひやぁぁぁロイヤルフレートブースタパン――あああああぁぁんっ、か、噛んでるぅぅッ!?」

 

 決め台詞の暴発! それはヒーローとしてあるまじき失態!

 しかして限界以上に痛めつけられたガキーンを責めるのは酷というものであろう!

 その代償のお陰か否か、ガキーンの必殺技は当たって、当たって……!

 

「しかも何で避けてるのよこのクソセンベイがああぁあああぁぁッ!! そこは当たる所だろうがあぁぁああぁぁあああぁッ!!」

 

「ひ、ひぃっ!? う、うるさいバリっ、この小娘がっ! この俺様の体はセンベイだぞ! 割れたらどうしてくれる!?」

 

 ――当たっていなかった!

 

 彼の全力を振り絞った大ぶりの一撃は、悲しいことに身を(かわ)した怪人ゲキバリに(かす)ることもなく! しかも外したガキーンは、ブーストの勢いに煽られて無様に倒れて込んでしまっていた!

 

「ふ、ふんっ……少しは焦ったが、所詮この程度というものよ! くくく、雑魚ヒーローめ、ここでこの俺様がそこの口うるさい小娘に激辛センベイを無理矢理食べさせるさまを見ておくがよい!」

 

「あ゛?」

 

「う、ぐ、よ、よせっ……っ! そ、その子に手を出すな……!」

 

 倒れて動けないガキーンを足蹴にする怪人ゲキバリの次なるターゲットは、最後まで残っていた黒髪の少女のみ! 持てる力を振り絞ってもその足すら振りほどく事すら出来ないガキーン! 少女はさしもの宣告に表情を変えてしまう!

 嗚呼駄目なのか! ここまでなのかガキーン! 包丸町はそして、応援に来ている少女は奴の毒牙にかかってしまうのか!

 

 

「バリバリバリ……ッ、さぁ少女よ、この硬くて辛いお煎餅を口いっぱいに頬張り……っ、はばびっ!?

 

「……」

 

 しかし、奴が少女に手を伸ばした瞬間! ゲキバリが突如すっとんきょうな声を出したかと思えば動きが止まってしまったではないか!

 少女が身動き一つしない中、ゲキバリは苦悶の声を小さく漏らしながらその体をバラバラと瓦解させていく! これは一体……お、おぉ、見よ! 怪人の背中に鉄パイプが突き刺さっているッ!

 

 その突き刺さった場所は他ならぬ、少女が先程宣告した通り奴の中心部、つまり弱点!

 少女は幸運な事に怪人の毒牙から身を守ることが出来たが……これは偶然なのだろうか!?

 

 

 そしてその場には倒れた二人のヒーローと大量の煎餅の残骸、少女のみ残された。

 ガキーンは健闘むなしく気絶しており、静かになったこの場所で、少女は無感動に崩壊した煎餅を見下ろしながら、携帯電話でどこかに連絡を取リ始める。

 

 

「あ、私だけど……うん、うんそうやられた。やっぱり駄目だった」

 

「え? あぁうん、いや。割と戦略はムカツクやつだったけど傾向は良い感じだったわ。博士、おしおきはしないであげる」

 

「ただし、警戒して。厄介なのがこの町に来てるかも」

 

 少女は残骸の中心に突き立つ鉄パイプをしげしげと眺めていた。

 怪人の背中を容易く突き破り、地面にまでめり込んだ鉄パイプ――これは超能力によるものではなく腕力による物であると少女は推察していた!

 

 一体、この攻撃は誰が行った物なのか!?

 少女の発言の真意とは一体?! 謎が謎を呼ぶ展開! 待て、次回!

 

 

 § § § 

 

 

「ミネルヴァ様……か、硬いです……硬いですぞコレ……」

 

「うるさいな、作ったのは博士なんだから文句言わず食ってよ」

 

「ふん。博士、やはり貴様は(バリッボリッ)軟弱物……ッ(バリッボリッ)、この程度のものも食べられないとは、忠誠が(バリッボリッ)ッ、く、辛」

 

「貴様らもの喋りながら食べるな! はしたないだろうが!」

 

 ――同日。某所、闇が広がるとある空間に様々な声が木霊する。

 ノイズのかかったような機械音声、ねっとりとした異質な声。地獄の底から聞こえる昏い声等。

 そう、毎度おなじみメチャバッド団、その幹部達である! 彼らは今日企んだばかりの侵略の失敗について、大量の激辛煎餅を囲んで語り合っていた!

 

「しかし……サンダーヘッド以外のヒーローの影、ですか……」

 

「うん。怪力系のね、誰か何か覚えある?」

 

「……ヒーッ、ヒーッ、か、からっ……! からいですぞっ、からいっ!」

 

「愚かな……辛い時はマヨネーズなりバターなりを口に含むと辛くなくなるのだ、そんな事も分からんのか」

 

「後で持ってきてやるからまずはお茶を飲め博士。……ふむ、この伯爵の知識では怪力系は兎に角数が多いため……」

 

「そうだよねぇ……」

 

 幹部の長たるミネルヴァがだるそうに頬杖をついて聞く中、幹部らが煎餅を頬張りながら意見を出し合う。

 しかしてその話し合いも特に強い成果は得られる気配はなさそうだった!

 

「ま、いいか。サンダーヘッドは大分痛めつけたしね」

 

「はぁ……はぁっ……いや、意外でありましたな。ワシの考えではあの怪人では倒せる見込みは全く……」

 

「なんだ、偶然の産物だったというのか? 折角貴様を見直しかけたというのに……やはり貴様の忠誠心は」

 

「やかましい騎士無勢が、貴様はさっさとノルマ分の煎餅を食べ続けておればよい!」

 

「……我は既に三個も食べた」

 

「ワシも三個は食べたわい!」

 

「はい二人は喧嘩やめなさーい、煎餅はたっくさんあるんだから仲良く食べなさい、ね?」

 

 二人の違うそうじゃないという顔をスルーしながらミネルヴァは思考にふける。

 

(サンダーヘッドの仲間のヒーローか? いや、奴は単独だって言ってたしなぁ……多分可能性があるとすれば「カロウシー」のサポート部隊の攻撃とか……でも鉄パイプだもんね。それも可能性低そう。だったら誰だ? 誰があんな攻撃をする? それも怪人の弱点を正確に貫けるほどの攻撃を?)

 

 悪の幹部ですら分からぬ謎の存在! その存在はこれからの侵略のネックになりそうだとミネルヴァは考える!

 しかして、困難はあればあるほど面白いと考えるミネルヴァの口元には、相反して獰猛な笑みを浮かべてしまうのだった!

 

 

「ミネルヴァ様、ちなみに貴方も食べて貰いますので悪しからずです。家中お煎餅だらけなのですから、一日ノルマ五個ですよ」

 

「……私辛いの嫌いだからみんなで食べていいよ」

 

「駄目です」

*1
物体の硬度を表す単位。モース硬度4はナイフで傷をつけられる程度の硬さ。あずきバーはモース硬度9

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