悪の幹部様は推しの雑魚ヒーローを特等席で応援したい!   作:月兎耳のべる

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強襲! 管理人『黒雨美智留』! 差し伸ばされる優しい手!

「……っす」

 

「あーおはようございまー……ヒッ!?」

 

「……っす」

 

「おーっす、おはよう……うわっ!? んだソレ!?」

 

「……っす」

 

「おう、清辻かぁ? お前そんなナリしていつも声が小さ……うおっ!?」

 

 早朝、清辻の通う板金工場にて!

 仕事の準備にかかろうとしている彼らが思わず声を詰まらせた!

 

 彼らの視線の先にいたのは毎度お馴染み、清辻無郷(35)! 確かに彼が強面であるのは間違いない筈だが、普段見慣れている従業員の彼らがどうしてそこまで極端に反応するというのだろうか!

 

「お、おいおい清辻お前……何があったんだよお前、えぇ……?」

 

「……階段から転びました」

 

 その答えは彼の姿にあった!

 松葉杖をつき! 片腕は包帯をぐるぐるに巻き! 顔には絆創膏が縦横無尽!

 まかり間違っても階段から転んだとは思えない有様!

 言うまでもないがこれは先日の怪人『ゲキカラバリバリ』との戦いの傷痕である!

 これには普段彼の顔に慣れた筈の従業員たちも戦慄(せんりつ)せざるを得ないだろう!

 

「お前よぉ……そんなんで仕事出来るのかよ、えぇ?」

 

「……っす。大丈夫っす」

 

「大丈夫って、びっこ引いといて仕事になると思ってんのか?」

 

「移動は問題ないっす。今日だけっすから……」

 

「今日だけってお前なぁ……あぁもう、お前、今日は帰れ」

 

「えっ? いや、待ってください工場長……!」

 

「待ても何もないんだよ、一日で済むってんなら一日休んでこいっての! もしものことがあったら困るだろ!?」

 

「……」

 

「お前が何も言わねえからこっちも黙ってるがよぉ、毎度毎度何かしら怪我してんじゃねえか! 何かヤバいことしてんじゃねえだろなぁ、えぇ!?」

 

「い、いいえ……」

 

 実はヒーローやってます――なんて事、言える訳もない!

 本人としてはヤバイ事ではないと否定したいところだが、世間一般的にヒーロー活動はヤバイ事である! 世間体を守るためにも、そして職を続けるためにも彼は嘘をついた!

 

「だったら今日ぐらい休めってんだ! 上司命令だ! 今日中に治してこい! いいな!?」

 

「……はい、すみません」

 

 繰り出される荒くも厳しい、そして無茶振りに近いお言葉――しかしてそれは当然と言えば当然かもしれない! こと仕事においては作業をするだけでは足りない、体調管理もまた仕事の内!

 諦めることを知らないガキーンは無茶してナンボ、無理してナンボな生き様! 弱さ故に生傷が耐えない彼にとって体調管理という言葉はあってないような物に等しいだろう!

 

「清辻さん、今日は一段とやべえな……あんな顔ボロボロって本当何したんだ」

 

「腕も足もボロッボロのボロだしなぁ……クマと戦ったとか?」

 

「クマは出ねえだろクマは……いいところ怪人じゃね」

 

 「はっはっは、まっさかー」なんて他の従業員のひそひそ声を耳にしながら清辻はたどたどしく帰路につく他なかった!

 

 太陽が登り切る前から地肌にじりじりとした熱を与え続ける朝の9時、子供達は既に登校済みで、普段以上に人気のなくなった小道をゆっくりと、確実に歩く清辻! 

 彼は考えていた! 急に訪れた休日、その使い道をどうしようかと真剣に考えていた!

 

「……急に休みになってもなぁ……っ」

 

 ――そう、やる事がないのである!

 

 娯楽が筋トレとヒーロー活動である清辻!

 そのどちらも体を資本とする物しかないが故に! 

 怪我をした今、やる事がないのである!

 

 本もテレビもインターネットもない、目指さぬ内に極貧生活の主になった清辻にとって本日の休みは「何もせず動くな」という命令に等しい!

 体を休ませるのは当然だが、かなり暇になりそうな予感を彼はしていた!

 せめて折角ぶっ壊れた鎧を直そうかと考えていたが、それすら出来ないとは……せめて無事な腕だけでも鍛えるべきか、なんて考え込んでいたが、非情にも工場と彼の家との距離は近場。

 思考もまとまらぬ内に彼の我が家である「しなび荘」に着いてしまう!

 

 しかして、いざ家の扉をくぐった彼!

 そんな彼はその扉の先に驚愕の展開が待ち受けているとは考えもしなかっただろう!

 

 

「あ……っ」

 

「え……? か、管理人さん……?」

 

 

 ――扉を開けた向こうは人妻だった!

 

 自他ともにおじさんだと言わしめる清辻より5つ年上なのに、歳を感じさせないその美貌! そしてTシャツにジーンズと色気から遠く離れたラフな格好でも思わず唾を飲み込みそうになるわがままボディの持ち主! 黒雨美智留(40)が何故か彼の家の中に鎮座しており! そして彼のTシャツとも思える服を鼻に当てていたのだ!

 

「――お、オホホホホホ……清辻君、は、早いのね……! お、おかえりなさいっ?」

 

「え、あれ……えぇっ、えっと何で……どうして管理人さんが俺の家に?」

 

 秒速でTシャツを背中に隠し、慌てふためく黒雨! 混乱の極みに追い込まれる清辻!

 二人の動揺合戦が今まさに始まろうとしていた!

 

「えっと、あれよ! あれ! 清辻君ほほ、ほら! 鍵かけてなかったからおばさんね!? 不用心だなって思って!」

 

「あっ、え、そそ、そうだったんですか!?」

 

 先手は黒雨!

 混乱収まらぬ相手に初手から畳み掛ける作戦である!

 

「そ、そそそうよそうよ! だからおばさん泥棒が入ってないか、こう! ね、管理人ですし確認しないとって思って! で、でも大丈夫そうだったわ、通帳の位置とか、服とか、コスチュームとか何一つ大事な物に変な痕跡とか全くなくて!」

 

「それは良かったです……す、すみません要らぬ心配を……っ? こ、コスチュームとかみたんですか!?」

 

「えっいや、いやいやいや見てない見てないわ何言ってんだコスチュームなんて一言も言ってないだろうがコラ?! こほん……す、スチーム! スチームを良い間違えただけっ!」

 

 しかして初手からぐだぐだのぐだである!

 何やら不穏な発言をボロボロと零す黒雨、大きな隙が生まれてしまうのでは!?

 

「!? す、スチーム窯、そ、そう言えば戸棚にしまっていたかもしれません……!」

 

 信じた! 清辻信じた! 何か口調が荒くなったり、微妙に苦しい言い訳だったりしても黒雨さんの言う事だし、と納得してしまった! これには黒雨も大安心、丸め込めて良かったなどと勝利を確信したが――

 

「あれ……何か部屋が……?」

 

 まだ勝負は終わっていなかった! 次手は無自覚だが清辻の番! 

 彼が黒雨の肩越しに見た部屋の中、なんだかいつも以上に綺麗で整頓されているのに気付く!

 清辻の反応を見て違和感を覚え、数瞬後に再び焦る黒雨! 彼女の反撃は如何に!?

 

「あ、ほら部屋はね! ほら私主婦じゃない!? 汚い物見ると掃除したくなるっていうか!」

 

「き、汚……っ」

 

「あっ違うの! 清辻君の部屋は汚くないっ、その風水が汚いって意味でね!? ほら鬼門の流れが淀んていて、風水的によくなくてついでにね!?」

 

 オホホホホ、と空笑いをあげて弁明を続ける黒雨! これには清辻も流石に不審な目を向けざるを得ず、とうとう答える術をなくした彼女は空笑いもほどほどに、はぁ、と大きく肩を落とすと、

 

「……ごめんなさい勝手に上がって」

 

「い、いえ……こちらこそ扉の鍵をかけ忘れるなんて、本当すいません。それも中まで掃除して頂いて感謝しかないです」

 

 素直に謝罪をするのであった。

 清辻、しかして鍵をかけ忘れたのはこちらのせいだしと深くは気にしていないのか。はたまた黒雨の珍しい姿が見れた事が嬉しいのか怒ってる様子もなかった! 純粋過ぎるぞ清辻!

 

「い、いいのよ。実は昨日の夜怪我した清辻君を見かけちゃって、それで心配になってね。その傷じゃ普通に暮らすのも大変でしょ?」

 

「え……あ」

 

 黒雨の清辻へ向ける目には確かな憂慮の表情があった。

 

 そうだ、俺は昨日も怪人に負けてしまった。誰かがあの怪人を倒してくれたから良いものも、本来ならサンダーヘッドが倒れたなら自分が最後の砦の筈だった……それなのに自分はサンダーヘッドが弱らせた怪人相手に最後の最後で負け、あまつさえ管理人さんに心配までかけて……! 

 情けなさに思わず手を握りしめ、脳内で自分を責めてしまう清辻。そんな自己評価の低い清辻に黒雨はというと、

 

「――もう! ほら暗くならないの! どんな理由かしらないけど怪我したのはしょうがないじゃないの、ほら入って入って!」

 

「お、うぉっ!?」

 

 他人の家だと言うのに彼女の方から清辻を家に引きずり込み、あれよあれよ彼をと畳の上に楽な格好で座らせるのであった!

 これから一体何が始まるのか、と体を硬くして待っている清辻に黒雨が持ってきたのは救急箱!

 

「やっぱり。包帯とかよれちゃってるじゃないの……ほら、脱ぎなさい」

 

「ぬ゛ぅぅっ!?」

 

 清辻! 本日二度目の衝撃に見舞われる!

 まさか……まさかまさか、女性の前で脱ぐなんてそんな事許されるのか!? いや許される訳がない! そんなピュアハート(どうてい)な清辻は両手どころか全身で反対であるとジェスチャーするが、黒雨は全く意に介さない!

 

「どうせ腕だけじゃなくてお腹や背中にも傷があるんでしょ、おばさんそういうの分かっちゃうんだからね」

 

「い、いえ怪我なら自分で治療出来ますので、そんな管理人さんのお手を(わずら)わせるまでも……っ」

 

「もうここまでお世話したら一緒よ一緒。ほら脱ぎなさいな……あ、片手(ふさ)がって脱ぎにくいわよね。ならばんざーいってしなさい」

 

「い、いやいやいや……本当大丈夫ですって悪いですって! それに管理人さんこそ家の家事があるんじゃ!?」

 

「大丈夫よ、娘は寮生活だからいないし。おばさん伊達に主婦とかやってないし私も昔よく怪我したから治療ぐらい手慣れてるから……ね、万歳して」

 

「じ、自分もよく怪我するんでこういうのは手慣れてますしっ、ちょ、管理人さっ、待っ力強っ!?」

 

「手慣れて、手慣れてるって……手慣れてるって言ってるだろバンザイしろコラァっ! 万歳ッ! バンザイッ!!!」

 

 これはひょっとして万歳じゃなくて――犯罪なのか!?

 

 二人の問答と抵抗の板挟みで、既に清辻のTシャツは千切れんばかりに伸びている!

 そんなお粗末な格闘の結末は、最終的に力負けした彼がねじ伏せられた状態で上半身裸にされてしまい、顔を手で覆って羞恥に耐えるという悲劇であった! おぉ清辻よ、立場が逆なのではないか!?

 

「ふぅっ、ふぅっ……へへっ、手こずらせやがって……! って」

 

「せ、せめて優しく……っ」

 

「……お、おほほほ。ごめんなさいね清辻君! おばさんちょっと調子に乗っちゃったかもっ!?」

 

 今までの事は忘れてね、と仕切り直しに座らせた清辻を、黒雨は救急キットを使って丁寧に治療していく。流石に言うだけあってその手際は確かな物。彼女は清辻の患部を余すこと無く消毒、包帯や絆創膏を貼っていく。

 清辻はその間に痛みに顔を(しか)めたり――する余裕もなく、ただただ顔を真っ赤にしてこの極楽とも地獄とも言える時間を耐えていた!

 

「やっぱり背中も酷いわね……当然といえば当然だけど打ち身が多いわ、骨が折れてないのは幸いそうだけど……ヒビとか入ってなかった?」

 

「はひ……っ!」

 

「普通なら入院してもおかしくない傷なんだから……今日の所はお風呂入っちゃ駄目よ? いい?」

 

「いひィ……っ!」

 

(め、滅茶苦茶いい匂いがする上に……柔らかい……っ!)

 

 清辻は人生のほとんど全てをヒーロー活動に注いでいるヒーロー馬鹿一代ではあるものの、人並みの欲が無い訳ではないし、むしろ女日照りである! 今の彼の鼓動は敵怪人と戦うよりも強く高鳴り、黒雨のキメ細やかで柔らかな手が体を這い回るたびに、言語化しづらい謎の吃音(きつおん)を口から漏らしてしまう始末!

 いっその事傷口を抉って痛みに悶えさせて欲しいと思ってしまうのは女々しい事なのだろうか! 自分の筋肉の筋に沿ってなぞったり、その硬さを確かめるような彼女の指先に、彼は鋼の精神を持って耐えねばならなかった!

 

「……うんうん」

 

「あっ、あっ、あのっ……管理人さんその」

 

「……はぁ……うん、いいわね……うん、いい……」

 

「あのっ、も、もう治療は終わって」

 

「うん……まだ終わってないから我慢して……」

 

「でも包帯も巻き終わっているようですし……」

 

「我慢よ、我慢……いいから我慢……」

 

「消毒も終」

 

「うるせえ我慢しろってんだ、今マッサージしてんだからさぁ……ッ」

 

「ひぃん」

 

 ――急に凄み出す彼女に、清辻はもう何も返すことが出来ない!

 自分にできることはただご厚意に甘え、ひたすら我慢することだけである!

 そう覚悟を決めた清辻であったが、突如その時間は終わりを迎える事になった!

 

 

「――きゃっ!?」

「――うわっ!?」

 

 

 アパート全体を揺るがすような巨大な音、そして振動!

 揺れとしては大したことがないが、その音の発生源は近い! そして他ならぬ発生源はこの部屋のすぐ扉の先であると推測出来ていた!

 

 清辻も黒雨も驚きに二人で顔を合わせ、そしてすぐに扉を開けて外を確認してみれば……。

 

 

「うわっ……これ、これってまさか」

 

「あぁぁ……例のアレみたいね……」

 

 

 家の扉を囲うように置かれていたのは、急にどこから現れたか大量の段ボール箱であった!

 ドッバャチメ社のロゴが書かれた家庭用ストーブが入りそうな程の大きさのダンボールが、少なく見積もって10箱以上積み重ねられており、丁度足元には便箋らしき何かが置かれていた!

 

 清辻は唾を飲み込み、恐る恐る足元のそれを拾い、中の手紙を開き――そして小さく悲鳴をあげた。

 手紙は可愛らしい子犬がデザインされているというのに、その犬すらも埋め尽くさん限りの小さな文字がびっしりと記されていたからだ。

 

『ヒーローガキーン様へ。夏の入道雲のように益々ご隆盛の事とお(よろこ)び申し上げます。いつも貴方の戦いをハラハラしながら応援させて頂いております。前回の戦いは誠に残念ながら後少しという所で負けてしまわれましたが、過去一番追い詰めた試合であると実感しております。その証拠として2019年2月21日の怪人『バリューパッカー』との戦いで初のお披露目となったロイヤルフレートブースターパンチ、今回の怪人『ゲキカラバリバリ』が煎餅の体であることを考慮すれば致命的な一撃になった筈の必殺技、そのタイミングが繰り出す事34回目にしてようやく戦いの流れの中で自然と出せていると客観的に見て感じているためです。ただしそれでも成長は微々たるもので、貴方には足りない物があります。それはスタミナ、耐久性、スピード、力、カリスマ、予測力、デザインセンスぐらいですね。特にデザインセンスはいつ見ても壊滅的です。コレは持って生まれた才能であるため仕方がない部分はあるかもしれませんが。さて、今回の戦いでは過去3番目に迫る程の傷を負ったかと思いますが大丈夫でしょうか。頭部を中心に前頭筋、口輪筋。後は腹横筋、腹直筋、外腹斜筋辺りに打撲痕が出来ているのではと推測しています。更に右第三肋骨~右第五肋骨は最悪罅が入っている可能性があり、足は恐らく捻挫しております。どの怪我も放置は良くないので違和感があれば同封したカプセルをお飲みすることを推奨致します。数時間で全ての傷が治ります。また、つまらない物ではありますが、もしかしたら食傷気味かもしれませんが『激辛堅焼きお煎餅』を用意させて頂きました。12箱はありますのでほぼ一年は食べられると存じ上げております。またそれ以外にも前述した試験医療用カプセルγ-46と、正体は開かせないですが和牛よりも美味しくて舌の上で蕩ける、とても体に良い培養肉。また差し出がましいですが壊れたガキーン様のスーツに使えそうなパーツとして、生体超合金ライディアップを僅かながら同封させて頂きました。ご笑納頂ければと思います。次回以降も変わらご活躍を期待しておりますのでよろしくお願いします。さて話は代わりますが丁度二時間ほど前、貴方の部屋の前をうろちょろしている不埒な輩が確認出来ました。どうやらこの荘の大家のようですが、その雌は合鍵で勝手に部屋に侵入したことからガキーン様に付き纏う害虫であると断定出来ます。お気をつけ下さい。ただご安心下さい。不詳この私めがついておりますのですぐにそのクソ虫も近日中に取り除いてさしあげます。ご朗報をお待ち下さい。P.S.いい加減その女に体を触らせるのを辞めてすぐに全身を消毒してください。これは貴方の為に言って――』

 

「清辻君、すぐに捨てちゃいましょう。それは受け取る必要はないわ」

 

「……あ、は、はい」

 

 文章は丁寧かつ達筆であるのに怨念が籠もっているのかと勘違いするほどの熱量に、逆に寒気を感じた清辻だったが、そんな手紙を横から取り上げた黒雨は遠慮なく破り捨て。彼女に主導される形で玄関前のそれらを粗大ごみに送り出すことを決定したのだった!

 

 

 

「じゃあ後は捨てておくから、清辻君は安静にしておくこと。良いわね?」

 

「すみません、ありがとうございます」

 

「あ、どうせ外に出るのも大変だろうから冷蔵庫には料理も詰めておいたから食べてね」

 

「は、はい、どうもです」

 

「洗濯物は一応洗ってないものとか全部干しておいたから」

 

「本当に頭が上がりません」

 

「掃除機かけたし、窓も拭いたし、後やってない物とかは」

 

「もう無いはずです! 大丈夫ですから! 本当にありがとうございますっ!!」

 

 何から何まで、どこまでも世話してくれた黒雨に清辻はヘッドバンキングの勢いで感謝を表し、彼女は最後まで名残惜しそうにしながらも彼の住処を後にしたのだった!

 

 ようやく静寂を取り戻した彼の家。

 一人残された彼は一息つけたと言わんばかりに溜息を吐いた。

 しかして視界に入るはいつも以上に清潔になった部屋に、漂う甘い柑橘類の香水と思われる残り香。

 今日はずっと黒雨さんの姿を思い浮かべて仕方ないのかもしれない、と彼はドギマギするのだった!

 

 

 

「はぁ、グラビィさん俺――何か駄目になりそうです……って、あれ。何でポスターが裏返しになってるんだ……?」

 

 

 

 




「……しかも何かTシャツが一枚足りないような……」
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