悪の幹部様は推しの雑魚ヒーローを特等席で応援したい! 作:月兎耳のべる
強敵との戦いに明け暮れるガキーン。直前の戦闘によってアーマーすら用意出来ず、上下ジャージ姿で怪人『低反抗マクラン』との戦いに突入したが、やはり苦戦を強いられてしまう!
守るべき市民たちを逃がす事に成功したものの、低反抗マクランのマクランプレスにより押し倒されてしまうガキーン! このままガキーンは抵抗むなしく眠ってしまうのか……!?
「このマクランプレスで10秒眠らずに保った物はおらんスヤ~~~ッ、10~~9~~8~~7~~ッ」
「や、やめろーっ、
絶対絶命のピンチに、ガキーンはとうとう悲鳴を上げてしまう!
急速に失われてゆく力、増していく眠気! サンダーヘッドは来ることはなく、応援する者も居ない孤独な状態!
どんな苦境も根性で耐えてきたガキーン! しかし人の根源的欲求である睡眠に付け込まれれば、如何にガキーンと言えども抵抗は出来ない!
進むカウントダウン、反抗していた手足は柔らかな布団に抑え込まれ、意思と共に声も弱まる! そして、そしてついに恐れていた事態が訪れてしまう――!
「3~~2~~1~~っ……0だァ……♪」
「ぐ、あっ、あっ……あ………………」
布団からはみ出していたガキーンの手からこてん、と力が抜けてしまう! そして彼の口からは苦しみにもがく声が出る事もなく、代わりに出るのは健やかな寝息のみ!
おぉ、何ということだ……! ガキーンは、ガキーンはついに睡魔という魔物に負けてしまったのだ!
「……すやすや……」
「フンッ、雑魚の癖に粘ったスヤねぇ……だがこのマクラン様の秘奥義に耐えられる訳もないスヤ、残当って感じスヤねぇ」
ヘルメット越しに聞こえた寝息を持ってようやくその体をガキーンからどけて立ち上がり、怪人は愚かにも眠ってしまった目下のヒーローを鼻で笑う!
そして地べたで寝こけるガキーンの横で懐から飛び出した敷布団と掛け布団を展開すれば、ガキーンを布団に寝かしつけて満足そうに
なんと
「さぁーて、今やサンダーヘッドもおらぬ事スヤ、今のうちにそば殻やパイプ枕を使う硬派ぶった住民共を、低反発の魅力にとりつかせてやるすやぁ……! スーヤスヤッスヤッスヤッ!」
怪人は次なる獲物を探して街を
まずいぞガキーン! 今日も怪人を倒せずに市民を危険に晒してしまうのか!? しかし虚しくも響くは彼の安らかな寝息のみ、抵抗も反抗の意思もそこには感じられない!
あぁ今日こそが包丸町最後の日という事か! もう絶望しかここには残されていないのだろうか!?
「スヤッスヤッ……へ?」
――突然、マクランの頭部すれすれを物凄い
疑問もそこそこに怪人がすぐ傍に突き刺さった物を確認すれば――それは、鉄パイプ! 配管用のパイプが、コンクリの地面に深々と突き刺さっているではないか!
「ちっ、外したかァ……」
「な、ななななっ、だ、誰だこんなことをしたのはーッ! 鉄パイプなんて投げて、当たったら死んでしまうスヤよーっ!?」
突如、一角に聞こえ渡る女性のハスキーボイス!
カラカラと、何かを引きずるような音を立てて、言葉の主はその場に現れる!
振り返った怪人マクランが堪らず叫び、非難をしたその先に居たのは――!?
「あ゛? 怪人の癖に何ぬるい事言ってんだコラ。ヒーローと怪人つったら殺るか殺られるかだろうがよぉ……!」
「ひ、ヒーロー……!? き、貴様何者かァッ!?」
サンダーヘッドなのか!? いや違う、この口調、姿、全くと言っていい程別人!
片手にだらんとぶら下げたべこべこの金属バット!
頭に被られた傷だらけの古びた学帽!
ノースリーブの特徴的な黒の
下は時代錯誤
それらを包み込む体は高身長で、胸どころか腹までサラシに巻かれており、窮屈そうなサラシ越しでもそのバストが豊満であるのが見て取れた!
そして人を睨み殺せそうな程のガンを飛ばしてはいるものの、その顔は見る人全てが『若くはないが美人であるしぶっちゃけねんごろになりたい』と断定出来る程の美人である、黒の短髪の女性であった!
その人物は、総じて一昔前のスケバンのような出で立ちと言えば分かりやすいか!
しかし、しかしてそのコスチュームを包む体は非常に
「はっ、もう忘れた名だ。言う価値もねえ」
「価値がないかあるかはこのマクラン様が決める事スヤ!」
「勘違いすんじゃねえ、すぐに消えちまうお前なんかに教える意味がねえって言ってんだ――よッ!」
学ランの女性は片手をポッケに、肩に金属バットを担いで大胆にも怪人マクランに間合いを詰めていく! そして見ため通りの乱雑さで右足に勢いを載せ、蹴りを叩き込もうとする!
それを見たマクランは笑いを禁じ得ない! この物理特化の俺様に物理攻撃だと!? その傲慢さ、軽く受け止めてやると! 避けもせず体を張る!
「馬鹿め、貴様程度の攻撃――っお?」
「――お、るるぁあッ!!」
「お、おぉ、おおおぉぉぉお――――ッ!?」
叩き込まれた蹴り! それがマクランの体に吸い込まれ、少なくない衝撃に周りに鈍くも重い音が響き渡る! その攻撃、やはり受け止められたかに見えた……しかし、実際は彼の低反発の体を持ってしても衝撃を逃しきる事は出来なかった! 怪人マクランは困惑を口から漏らしながら勢いよく吹き飛び、10m先の塀に体を叩きつけられる羽目になってしまう!
「っはァ! 貴様程度の攻撃が、なんだァ!? 次行くぞオラァッ!」
「ひっ、ちょ、ちょっと待つスヤ――スヤァッ!?」
衝撃を逃しきれない程の一撃に慌てて体勢を立て直そうとするマクラン! しかし時既に遅し! いつの間にか間合いをつめていた謎の女性に首根っこを掴まれ、乱暴に押されたかと思えば直後に炸裂する右ストレート! 今度は反対側の塀まで吹き飛び、間の抜けた悲鳴が怪人の口から溢れてしまう!
「オラッ、バラバラになれコラァッ!」
「ひぎっ、ひっ!? ひぎっ、スヤ、スヤァアアァアーッ!?」
殴る! 蹴る! 殴る! 蹴る!
技術もクソもない、ただ乱暴な攻撃の数々! しかして尋常ではあり得ない程の
このままでは本当に体がバラバラにされてしまうのではと危惧したマクラン! サンドバック状態から何とか脱しようと、小癪な技を披露し始める!
「枕でストレス発散をするんじゃないスヤァァッ!? 喰らえっ、必殺枕隠れの術ーッ!」
「んだァッ!?」
おぉ! 怪人は腹部のほつれた部分を自ら引き裂いたかと思えば、自分の内臓とも言えるふわっふわの羽毛を、今まさに拳を振り上げた謎の女性にぶちまけたではないか!
謎のスケバンもさしもの攻撃に一気に視界が奪われてしまい、振り上げた拳の狙いを間違い、塀に拳大の穴を開けてしまう結末に!
「ちィッ、舐めた真似しやがんじゃねえか!?」
「こ、こわっ!? なんだその威力、尋常じゃないスヤッ! ――しかし!」
その威力と相手の迫力に身震いが止まらない怪人マクラン! しかしもうこの手しかないと覚悟を決めた怪人が次に取った行動――それは、スケバンに抱きつく事だった!
「はぁっ!?」
「く、くらえーっ、マクラン様のバックマクランプレスーッ!」
一瞬の隙を突き、細い両腕でスケバンを羽交い締めにしたと思えば背面からその体を押し付け始める! 多少中身が出たとは言えその柔らかさは失われていない、彼女の背中に押し付けられた極上布団を思わせる柔らかさは間違いなくリラックスする効果を与えているようだ! 極悪な膂力を誇る彼女も少し眉根を和らげているぞ!
「こ、んのぉっ、離しやがれ、テメ、コラ……!」
「い、いやスヤ! 絶対に離すもんかスヤ……! 貴様こそさっさと眠ってしまえスヤーッ!」
実は攻撃的手段を何一つ持たない怪人マクラン、実質コレがラストチャンス! 故に解けそうになるほど強いその腕力を必死に抑え込みながら体をぐいぐいと押し付けて相手にリラックス効果を与えてゆく!
歪な羽交い締めによって彼女が胸を張るような格好になれば、サラシ越しでも弾けそうな2つの果実が今にも弾けそうに思えてしまう! おぉ、羞恥心も煽るとはやはり怪人! 許されるべき存在ではない!
しかして怪人のリラックス効果、侮るべきものではなかった!
与えられたリラックス効果は確実に女性の力を奪っており、あれほど解けそうな腕の力も今や十分に対抗出来るぐらいには弱まっている! そのため一転して女性は悔しげな声を漏らし始めたではないか!
「冗談見てえなっ、体してる雑魚の癖、にっ……! こ、このぉ……」
「く、ククク! 危ないところだったスヤァ、しかしその冗談みたいな敵に貴様は負けるスヤッ!」
弱々しくなっていく抵抗! 彼女の吊り目がちの目も眉が落ちそうになっているのが見える! 怪人マクランは九死に一生を得、余裕が出て彼女を煽り始めた!
「さーぁそこの雑魚ヒーローと同じく眠ってしまうがいいスヤ! 散々痛めつけてくれた貴様に布団など用意してやらんスヤ! せいぜいあのヒーローと同じ布団に詰め込んでくれるーッ!?」
「まま、ママジかっ!? あ、いや、そんなの駄目に決まってんだろさっさと……くぅっ、マジでねむ……でもアイツと一緒になら……あふ……」
「スーヤッスヤッスヤッスヤッ、怪力馬鹿もこうなってしまえば簡単よぉ! さぁ遠慮せず眠れ……眠れ……」
「あ、あ……ぁ……クソ、出かける前にコーヒーとか飲んでおけば……」
おぉ、折角明るくなった雲行きはまたも暗く!
助太刀すらも意味をなさず、ガキーンともども仲良くお布団ですやすやしてしまうのか!
「……フンッ、やはり包丸町にろくなヒーローなどいないという事スヤ……ん?」
ろくな抵抗もなくなった女性に対し、いまだ羽交い締めを続けるマクランがなにかに気付く。彼女の腹に巻かれたサラシ、それが解けそうになっている……! 暴れた事によりほつれてしまったのか、しゅるしゅると解けていくそれは、かなりキツク巻かれていたのか、抑え込んでいた物を見せ始めてしまう――それは!
「くっ、くく、スーヤッヤッヤッヤッ! なんだその
――女性への配慮を考え、言及は避けさせて頂く!
しかしあえて一言言わせていただければ――それは少し
サラシが腹まで巻かれていた理由を知ったマクランは、高らかに嘲笑を始める!
「人のことを冗談みたいな体と笑った癖して、貴様こそヒーローなのに冗談みたいな体してるすやっ! 人の事言えないスヤっ!」
「……」
「クク、ここまで痛めつけてくれた罰として貴様の腹が見えるようにわざとずらして布団を……え?」
しかして勝利を確信し怪人マクランが羽交い締めをやめた直後、急遽力を取り戻したスケバンが目にも留まらぬスピードで彼の胸ぐらを掴んでいた!
彼女はそして、ぼふんっ、とおでこを相手の顔に押し付け、自身の顔が間近で見えるように怪人を引寄せ始める!
「――笑ったな?」
「ひっ」
――震えている!
怪人の言葉が、その手が、その体が恐怖によって!
彼女の言葉が、その手が、その体が憤怒によって!
一方は噴火しそうな程顔を赤らめ、一方は凍りつきそうな程顔を青ざめさせ、極限まで緊張を張り詰めさせ、やがて――
「……だ、大丈夫スヤっ。ぽっちゃりは別に悪じゃないすや。それを証拠にだ、男性はぽっちゃり体型の方が好きな人が多いスヤアアアァアアアアァアアアァアアああああぁぁア――ッ!!?」
――その怪人の言葉を皮切りに、その緊張の糸は容易く切れてしまうのだった!
言葉にするのも恐ろしい暴虐の嵐が怪人にだけ振る舞われる!
叩かれ!
あぁなんというショッキングな場か! あの平和な筈の道路が瞬く間に真っ白に染まっても――そして、その全身を白く染め上げても尚暴虐を止めない彼女の姿は、ヒーローとは到底思えない残虐性であったと言えよう!
しかしてこれが女性の怒りという物! タブーに触れた存在への容赦や呵責など、そもそも存在していないも一緒! 諸兄らは切にこういった心無い発言は控えるよう心がけて頂きたい!
「ち、畜生ぉおぉぉぉっ、やっぱこんな格好しなきゃよかったぁぁぁぁぁ~~~~~~ッ!!」
そして物言わぬ羽毛と布切れが撒き散らされた場所で、ようやく我に返った謎のスケバンは両手で真っ赤になった顔を覆い、羽毛と撒き散らしながらその場を後にするのだった!
「……すやす……ごほっ、ごふっ……も゛ほっ」
こうして、包丸町にめでたく束の間の平和が訪れるのであった!
ガキーンは何も知らずに顔中に浴びた羽毛を呼気で飛ばしながら寝こけるばかり!
しかして彼の粘りが無ければ、もしかすれば平和は遠い道だったかもしれない! よく頑張ったぞガキーン! 今は眠るがいい!
それにしてもガキーンのピンチに応じて現れた謎のスケバン! その腕力で怪人を引きちぎり、羞恥に悶えてその場を後にした彼女の正体は一体誰だったのだろうか!? そしてガキーンとの関係は一体!? 次回以降を乞うご期待あれ!
ミネルヴァ様「……ガキーン様が地べたで布団しいて寝てて、かつ顔中羽毛まみれになってる」(写真パシャー)