零余子日記   作:須達龍也

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ここから、十二鬼月入りを目指す、零余子ちゃん立志編が、はっじまるよー!



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「…さて、と」

 頭を切り替えて、立ち上がる。

「確かに、今まで一人も食べてはいないけど…」

 この一年で、ずいぶんと強くなった実感はあった。

 一年前は三刻程かかった、上星卿と初めて会った場所まで、今なら四半刻もかからない。

 血鬼術もそうだ。血を残した人間を感知できる距離も、数百メートルだったのが、今では数十キロ離れていても、感じることができるようになっている。

 

 鬼は人を喰うか、あの方からの血を頂くかで、強くなるという話だけれど。

 

 命を奪わないと、強くなれないのか? …人の死体なんて、要は肉と血だ。魂なんて、食べられはしない。

 それに、肉は肉だ。人間の肉も、獣の肉も大差はない…と思う。まあ、どっちも食べたことないけど。

 でも、血は違った。人の血は美味しかった。鬼の血もまあまあだった。熊の血は不味かった。

 

 鬼が持つ特殊能力を、”血”鬼術と呼んでいる。

 そもそもが、無惨様の”血”を分け与えられて、鬼になる。

 それに、稀”血”。稀血一人で、普通の人間の数十人から百人ほどに相当する力が得られるという話だ。

 

 それって、必要なのは、血だけなんじゃないの?

 

 確かに私は、一人から致死量程の血は吸わないけど、この一年で五百人以上から血を吸った。その中には、稀血が二人も含まれている。

 上弦には届かないだろうけど、下弦だったら、なんとかなるんじゃないかな。

 もちろん、それはただの期待、希望でしかない。十二鬼月と戦ったこともなければ、見たことすらない。

 

「…情報が必要ね。鬼殺隊…いえ、ある程度長く生きている鬼のほうがいいわね」

 

 

 

 私に許された時間は、たったの一か月しかない。即座の行動が必要だった。

 日が沈んだ後、上星卿と向かったのは、ある屋敷だった。…藤の紋が描かれた屋敷。そこの主も、上星卿の客の中にいた。

 突然の訪問でも、町一番の名士…華族である上星卿の名は大きい。即座に客間へと通される。

「夜分に申し訳ないな」

「いえいえ。それで、どういったご用件でしょうか?」

「うむ、実は私ではなく、こちらの私の義娘からなのだが」

 そこで、向こうの主人と目と目を合わせる。

「お久しぶりです」

 

 にっこりと微笑みかけた。

 

 

 

 

 

「…確か、この山を根城にしているって、話だったよね」

 

 藤の花の家紋の家の主…鬼殺隊の協力者から聞いた話では、この山には数十年前から鬼が潜んでいるのではないかとの噂があるらしい。

 それというのも、数十年前には、確かに猛威を振るった鬼がいたのは間違いないらしい。

 何人もの鬼殺の剣士が山に入り、そしてそのまま帰らなかった。

 いよいよ柱の剣士が赴こうかという直前に、鬼は忽然と姿を消したとのことだった。

 それから数年置きに、確認の為に鬼殺の剣士が山に入ったが、鬼のいる様子は確認できなかったとのことで、鬼は去ってしまい、戻ってきていない…もう死んでいるのではないかとなっていたのだが…

 

「…ここ最近、山に入ったものが帰ってこなくなっているので、ひょっとしたら件の鬼が戻って来たのではって話ね」

 

 果たして、鬼がいるのかはわからない。居たとしても件の鬼かはわからない。

「…でも、とりあえず当たる価値はあるよね」

 数十年前、祖父から聞いた話ということだから、情報は少ない。わかったことは二つだけ。

 

 

 一つは、この山の頂上付近に廃寺があり、そこを根城にしていたということ。

 

 

 この一年で私の感覚は、とても鋭くなっている。

 数キロ先に、ボロボロに朽ち果てた廃寺が見えてきた。

 ただ数十年前から廃寺だったと言う話だから、もはや寺の形は見る影もない。なんとか建物の名残を残しているだけだった。

 屋根もほとんどないので、ほとんど日を遮ることができない。根城にするには今は無理だろうという印象だ。

 

「…これは、外れかな」

 

 そんなことを独りごちているうちに、廃寺が目と鼻の先というくらいにまで近づく。

 せっかく来たのだから、とりあえずは調べておこうと思った時だった。

 

 

 ドコォッ!!

 

 

 地面が爆発した。

 

 その爆発を、ひらりと飛び下がってかわした。

 もうもうと土煙が上がる中、野太い声が響き渡る。

 

「なんじゃ! 獲物がやって来たかと思えば、鬼じゃったか!」

 

 

「確か二つ目は、その鬼は僧兵の恰好をしている…だったかな」

 

 

 土煙が晴れた後に姿を現したのは、武蔵坊弁慶の絵図によく似た出で立ちの…鬼だった。

 僧兵と言われれば、薙刀の印象だったが、そいつが持っているのは七尺はあろう大きくて長い金棒だった。

 だが、そんなことよりも、もっと大きな特徴がそいつにはあった。

 

 

「儂の名は山坊主! 鬼でも構わぬ、いざ尋常に勝負じゃ!!」

 

 

 

 左目に、大きく”×”がされた”下肆”の文字。…そいつは元十二鬼月だった。




零余子ちゃんの人肉を食べても仕方ないってのは、あのブドウは酸っぱい理論でしかないです。
食べないよりは食べたほうが、断然強くなりますが、零余子ちゃんは知らないし、知ろうともしません。
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