実にテンプレートで、反省が伺えない言葉ですな。
さーて、やりすぎちゃったね。
獪岳をぼっこぼこにしてその背中に座った後で、今更ながらにそう思う。
ちょっとカチンと来たのは間違いないけど、ここまでやるほどではないとも思う。なかなかにひどいことをした気がするね。
ちょっとは顔をたててあげるべきかな?
「先輩がなんで壱ノ型が使えないかわかる?」
顔をたてるつもりで振った話題は、獪岳にはずいぶん痛い話題だったかもしれない。
「わかってたら、使ってるわ!」
「あはは、だよねー」
まあ、そりゃそうだ。…でも、わかったからって、使えるもんでもないんだけどね。
「答えは簡単、ビビリだからだよ」
「なんだとっ!」
痛いところをつかれたのか、反応が過敏だった。
「俺があのヘタレよりもビビリだって、そう言いやがるのか!」
「はてさて、そのヘタレが誰なのかは知らないけど、まあ、そう言っているね」
「ふざけんな!」
体を起こして私を跳ねのけようとしてきたので、タイミングを合わせてその起こりを潰す。
「ぐえっ」
いいから、今は私の話を聞き給え。
「最初に会った時にわかったよ。偉そうな奴ってのは、大体が虚勢をはってるんだ。
それに対して、ヘタレな奴ってのは、意外と神経は図太かったりするもんだよ」
「ぅぐっ」
何かわかるところがあったのか、私の言葉に息をつまらせる。
「壱ノ型は、小細工なしにまっすぐ、敵の懐に飛び込む技だよ。
当然、最初の踏み込みが一番大事なのに、そこでビビってちゃあ、できるわけなんかないよね」
「くそっ!」
私の言葉が認められないのか、あるいは認めるわけにいかないのか?
ちょっと気になったので、聞いてみる。
「先輩は鬼の被害者なのかな?」
「っ! …違うっ!!」
おっと、今までとはちょっと違う反応だね。
鬼の被害者ではない…そこは絶対に否定しないと駄目な理由でもあるのかな?
でも、それでも…
「鬼殺隊に入る前に、鬼と直接対峙した経験があるわけだ」
そこは否定してこない。それは否定できない事実ってわけだ。
「その経験が原因だね。その原体験が、どうしようもなく鬼への恐怖になっているんだと思う。
三つ子の魂百までって言うからね。その克服は、なかなか難しそうだ」
うん、言っててあれだ。これは無理だね。
「まあ、使えなくてもいいんじゃないの?」
「…は?」
「ビビリってのは、ある意味で得難い才能だよ。
臆病っていうのは慎重ってことだ。生き残る為には、一番の要素だよ。
…まあ、私もビビリだし」
うん、ビビリなのは、そんな悪くないよ。
「お前のどこがっ!」
せっかくの私の言葉なのに、獪岳は納得いかないみたいだ。
「私があんたにビビらなかった理由? …そんなの私の方が強いからに決まってるじゃん。私の方が強いのに、なんであんたにビビる必要があるの?」
「ぐっ」
言い返したいけど、言い返しようがないのか、獪岳が黙る。
まあ、ぼっこぼこにされたあげくに、ぶっ倒されたんだ。言い返しようはないね。
「ビビリの次に必要なのは、彼我の実力をしっかり把握する能力だよ。
勝てると踏んだらビビることはないし、負けると思えば逃げればいい」
「敵前逃亡は…」
鬼殺隊の隊則なのかわからないけど、獪岳が綺麗事を言いそうだったので…
「負けるとわかっているのに突っ込むなんて、ただの自殺だよ。馬鹿のやることだね」
ピシャリとそう切って捨てた。
「………」
反論がないので、言葉を続ける。
「生き汚なかろうが、生き恥をさらそうが、文句を言われる筋合いはない。…いや、誰に文句を言われようが、自分の命を一番に考えるのは、当然のことだ」
「…それでも、俺は!」
獪岳の反応は、どこか後悔がにじんでいるように感じるね。…まあ、あくまでも私の印象だけどさ。
「よいしょっと!」
獪岳の背中から尻をあげる。
「ま、あくまでも私の持論だよ。先輩は好きに生きればいいさ」
手を差し伸べながらそう言うと、憮然とした表情をする。
「…その考えじゃあ、柱は無理だな。鬼殺隊を支えようって気持ちが、まるで感じられない」
私の手を取らずに立ち上がると、そう断言してきた。
「…まあ、そうだね」
はっきり言って、やってしまったね。
ここまで、初対面の鬼殺隊士に話すことではなかったし、そもそもが、取るべき態度でもなかった。
でもまあ、おそらくお互い様だろうけど、初対面から妙にイラついたんだ。
言うまでもなく、私は鬼殺隊が嫌いだ。
何を差し置いても鬼を殺そうとする在り様が…下手しなくても、人命以上に鬼を殺すことに価値を置いているような、その歪な在り様が特に嫌いだ。
そして、獪岳はその鬼殺隊の中でも、もっとも歪な在り様をしていると感じた。
私の直感だけどさ、あんたは鬼殺隊では幸せになれないよ、きっと。
獪岳って、行動原理がいろいろと掴みづらい、人間の弱さと複雑さを兼ね備えたキャラですね。
原作ではサラリと流された部分に、いろいろと考えさせられます。
そもそも、何の為に寺の金を盗んだのか? …自分勝手な理由だったのか、あるいは何か理由があったのか。
どうして、鬼を寺へと引き入れたのか? …生き残るために自ら積極的に売ったのか、あるいは口車に乗せられたのか。
結果的に、一緒に過ごしてきた家族とも言える子供たちがほとんど死ぬことになり、それが大きな心の傷になったのは、間違いないでしょう。
そんな状態で何故、鬼殺隊に入隊したのか? …これはもう、罪滅ぼしの気持ちが根底にあったとしか思えません。
雷の呼吸の技を、壱ノ型以外を習得できるまで努力し、一週間の最終選別試験を勝ち残りました。
岩柱の悲鳴嶼行冥さんにはどの段階で気付いたでしょうか? …割と最初の段階で気付いてたと思います。そんな組織に飛び込むなんて、茨の道もいいところでしょう。
桑島さんから頂いた羽織、羽織らなかったのではなく、羽織れなかったのではないでしょうか…