まあ、基本的にめんどくさいのはゴメンなんですよー。
「じゃ、ま、任務に行きますか」
パンと手をあわせて、切り替えるようにそう言った。
「…強引に話を変えやがったな」
隊服をはたきながら、じっとりとした目でこっちを見てくる。
「…まあ、いい。いつまでもここに居ても、時間の無駄だしな」
獪岳も切り替えるように、そう答えた。
「洋菓子店だっけ? どこの?」
詳細はまだ聞いてない。ホント、あの雀、使えない。
「全部だ」
「えっ?」
「この街の洋菓子店、全部だ」
…黒死牟様…いや、まだ違う可能性はある!
「はー、歩いたねー」
せっかく銀座に来たのだからと、カフェー・パウリスタへとやって来ていた。
プランタンやライオンでも良かったんだけど、あっちは洋酒と洋食が中心だし、軽く珈琲でも飲むなら、こっちがいいよね。
「お、おう」
こういうところに入るのは初めてなのだろう、獪岳が面白いようにキョドってる。
「…にがっ」
珈琲を口に含んで、小声でにがって言っているのが、実に面白い。
「ミルクと砂糖を入れたら、美味しいよ」
ミルクたっぷり、砂糖もたっぷりと入れて、カチャカチャとスプーンでかき混ぜる。
「うん、うまい」
私はまだまだ苦味よりも甘味だね。ドーナツもパクリ。
「…まだ甘いのを食うのかよ」
目の前で、げー…という顔をする。もちろん、まだまだいけるよー。
「さすがは銀座の洋菓子店だったね。種類も多くて目移りしちゃったよ」
「全部の店で、三つも四つも買いやがって、どんだけ食うんだよ」
「いいじゃん別に、私のお金だし」
さすがにボコった獪岳におごらせるほど、私も鬼じゃないよ。鬼だけど!
「…んで、閉店直前あるいは直後に、どこの店でも黒衣のお侍さんが立っていたと…でも、特に店に入ってくるわけでもなく、何かをされたわけでもないと…まあ、特徴と容姿は一致していたから、同一人物だろうけど…」
聞き込みの結果、黒死牟様で確定ですよ。あの方も、なんで太陽が沈んでから動くんでしょうかねえ。習慣って怖ろしいね。
「…で、まあ、怪しいっちゃあ怪しいけど、鬼殺隊が動く案件だとは思えないんだけど」
私のその言葉に、獪岳がちらりと店内を伺う。秘密の案件があるとわかる動きだね。
「…確定情報ではないが、とある上弦の鬼に近い風貌だということらしい」
「…上弦の、何番?」
「……壱だ」
そのあたりの情報は、当然のように鬼殺隊も持っているみたいだ。
まあ、あの方は四百年以上生きているからなあ、鬼殺隊との付き合いもそれくらいになる以上、一番情報があっても不思議ではないか。
「…っはぁー? 何それ、私達に死ねっていう任務だったわけ?」
「…声がでけえ。 …あくまでも、調査任務だ。
違うならそれでよし。もし仮に、万が一、そうであったとしても、戦えってわけじゃない」
「そうかなー、もし仮に万が一、上弦の壱だったら、逃げられるもんかなあ?
こんな鬼殺隊でございって隊服着こんでて、見つかったら一発でしょ」
違うならそれでよし…なのは、わかる。
ただ、万が一の場合は、どっちか…あるいは両方が死ぬのも、それでよしってなってない?
隊員の命をなんだと思ってやがるんだ、むっかつくなあ。
「…そうだな、今日の調査はここまでにしておこう。日が暮れる前に藤の花の家紋の家に戻ろう」
獪岳が本日の任務終了を提案してきた。
万が一、上弦の壱の場合でも、太陽が昇っている間ならば問題はないという判断なのだろう。実に妥当だ。
獪岳の判断は悪くない。実力も柱ほどではないけれど、鳴ちゃん以上はある。下弦の鬼とも十分に渡り合えると思う。
実際、下弦の肆になったばかりの頃の私が獪岳と会ったら、迷わず逃走を選択すると思う。かなり優秀なんじゃないの?
そんなそこそこ有望な獪岳と、めっちゃ有望な私、その二人をこんな死んでもいいって任務に当てるなんて、ホントに何考えてるんだ?
「…じゃあ、帰る前に、一箇所だけ寄ってもいいかな?」
大正コソコソ噂話
「明治四十四年の三月に開業したカフェー・プランタンが、日本初のカフェーです。
同じ年の八月にカフェー・ライオン、十一月にカフェー・パウリスタができました。
その三店は、全部銀座にあります。その後、全国に広がって行きました。
大正末期から昭和初期になると、カフェーはごにょごにょなお店になっていったりします。
もちろん、このお話の頃は、健全なお店ですよー!」