コロナと雨で、どこにも出れませんけど。
「はい、そんな容貌のお侍様が、先日来られましたね」
「それは何時くらいだったかとか、お天気だったりとか、覚えてますか?」
私のその質問に、店員さんが少し考えると…
「確か、晴れの昼過ぎだったと思います」
「わかりました、ありがとうございます。あっ、その最中を十個下さい」
「はい、ありがとうございます」
最中で有名な、銀座の「空也」さんでの聞き込みの結果でした。
「はー、一発だったな」
獪岳が感嘆の声をあげる。
「まあ、洋菓子店に出没するお侍さんだからね。
甘いものが好きなんだろうから、当然、和菓子店にも来るよね」
ふっふーんと、いかにも推理したように話したけど、実際には前回のお茶会での黒死牟様のお土産の最中を見ていたから来たわけで、既に答えを知っていた推理小説のようなものだね。
「ま、晴れの昼日中に買いに来ていたってことで、この怪しい黒衣のお侍さんは、上弦の壱ではなかったということですね。
任務完了。お疲れ様でしたー!」
まあ、実際には、黒死牟様だったんですけどねー。
「…確かに、鬼が日中出歩くわけはないしな。
上弦の壱ではないという証言が得られたということで、俺も任務完了でいいと思う」
獪岳からも了承を得られる。
「それじゃあ、とりあえず報告がてら、藤の花の家紋の家に戻るか」
「ちっちっちっ! 何を言っているんだね、獪岳くん!」
「…獪岳、…くん?」
「せっかく銀座にまで来ているんだよ、観光に買い物、しなくてどうする!」
どーんと、言い切りました。
「…いや、お前は十分買い物しただろ」
「買ったのはケーキとかの甘いものばっかりじゃん! おしゃれな小物に…後は服だよ! 銀ぶらだよ!!」
私のその言葉に、げんなりとした顔をする。
「…わかったよ、報告は俺だけでしておくから、存分に見てくればいいさ」
どこか投げやりにそう言ってきたけど…
「何言ってんの? 私が見繕ってあげるから、光栄に思いなさい!」
「……………はー、わかりました。お願いします」
たっぷりと考え、百面相をした後で、そう答えた。
ふふん、勝った!
「いやあ、昨日は楽しかったねえ」
「…お前はそうだろうな」
翌朝、任務完了の報告を終えて、獪岳ともお別れの時間だ。わずか一日ばかりの邂逅だったけど、なかなかに楽しかったよ。
「最初はどうなるかと思ったけど、まあまあ良かったよ」
「お前が言うなよ」
獪岳はやれやれとばかりに苦笑しているが、割と楽しかったんじゃないの?
「ま、また何かあったら、よろしくってことで」
「…だな」
お互いに、ニヤリと笑って別れる。
「じゃ、獪岳、死ぬなよ! いくらあんたでも、これが今生の別れってのは、さすがに寂しいからね」
「言ってろよ。…まあ、お前も無事でな」
それは、何かの気まぐれだったろう…
「…何かあったら、私を頼っていいからさ。人生楽しもうぜ」
獪岳がキョトンとした顔をした後、くしゃりとした笑顔を浮かべて…
「…ああ、まあ、なんかあったらな。…じゃあな、未来」
銀ぶらは、銀座をぶらぶら歩くの略だとか、銀座でブラジル産の珈琲を飲むの略だとか、諸説あります。
でも、銀座が日本の流行の最先端を表している言葉と言えます。
…実は、この話をあげる直前まで、銀座の三越デパートに行く話だったりしました。
銀座三越は、関東大震災後だったようで、危なかったぜ(汗)