それは、普段と変わりない夜のはずでした。
「…胸騒ぎがします」
特に意味はないのだけれど、満月の見えていた窓を閉める。
「…珠世様」
私の様子が変わったことに気付いて、愈史郎が駆け寄ってくる。
「”目隠し”の術は…」
キィン…
音が聞こえた気がした。
「…断たれました」
愈史郎の言葉と共に、外から強烈な圧力を感じる。
「…もしや、十二鬼月…」
推測のように述べましたが、これほどの圧、まず間違いないでしょう。
「玄関を見てまいります」
「…私も参ります」
愈史郎が何かを言いかけたが、それを飲み込んで頷いた。
私たちが玄関に通じる廊下へ出たところで、ゆっくりと扉が開かれた。
「…ああ、お邪魔しますね」
愈史郎の術を断ち、勝手に上がりこんで来たそいつは、悪びれもせずに、そう言って軽く会釈をしてきた。
灰色の髪をショートカットにしたその女の鬼は、薄い桃色の着物を着ており、その片方だけ朱い左目に書かれた文字は…
「…下弦の…肆…」
こちらの緊張も意に介さず、その女の鬼は次に入る者の邪魔にならないようになのか、玄関脇に控えた。
下弦の肆の次に入って来たのは、侍のような者と、僧兵のような者…はたして鬼、なのでしょうか?
その二体の鬼も、扉を通った後に、先の下弦の肆のように、脇へと控えた。
それはまるで、この次に入ってくるものに、従っているようにしか見えない態度であり…
「…どうです? 私の秘書ってば、有能でしょ?」
くすくすと笑いながら入って来た女の鬼…とてつもない圧力を感じる。先程感じたのは、間違いなくこの鬼であり、鬼舞辻の血の匂いを恐ろしく漂わせている。
白銀の髪をショートカットにし、下弦の肆とおそろいの紅の着物を着て、その上に剣帯を付けて刀を佩いて、ウインクなのか右目はつむられており、開いた左目に書かれた文字は…
「…上弦!」
「…うちの長子ちゃんは、血鬼術を感じ取れるんです。どれだけすごい目くらましでも、それが血鬼術だったら、意味はないんですよ」
もったいぶったようにつぶられていた右目が、ゆっくりと開かれる。その右目に書かれた文字は…
「…零!!」
「はじめまして、上弦の零、零余子と申します」
そいつは、にこやかに笑って、そう名乗った。
十二鬼月…それも上弦の鬼の襲来に、思わずよろけてしまい、傍らの愈史郎になんとか支えてもらう。
「…十二鬼月は、上弦も下弦も、壱番からのはず…」
「そうですね。ですから、私は十二鬼月ではなくなりました」
そう言って、困ったものですと言わんばかりに、肩をすくめた。
十二鬼月ではないにしろ、その目に書かれた文字は上弦の零…壱よりも前の数字である以上、十二鬼月よりも上の存在である可能性が高い。
「…上弦の零なんて存在、私は知らない」
「それはそうでしょう。つい一週間前に、できたばかりですもの」
余裕なのか、こちらの質問に、実に気楽に答えてくる。
「こちらにいるみんなの他は、無惨様と黒死牟様に猗窩座様…あとは鳴女さんくらいしか、知らないでしょう」
その言葉に、ゾクリとした。
「逃れ者の珠世さん…で、いいんですよね?
私はちょっと知らなかったんですけど、山坊主に阿修羅、それに長子ちゃんまで知ってたんですよ」
こちらの動揺など、気にもしないで言葉を続ける。
「私にだけ教えてないとか、無惨様もひどいと思いません?」
こてりと小首を傾げながら、実に気安くそう言ってのけた。
鬼舞辻の呪いを受けていない!?
あるいは…
鬼舞辻に、その名前を呼ぶことを許されているっ!!??
今回書いてて思ったのは、零余子ちゃんって名前に「零」が入っていて、上弦の零にぴったりだなとw
あとは今回下弦の肆に昇格した長子ちゃんのビジュアルを、ようやく書きました。
灰色の髪は、白髪と黒髪が混ざった色ではなく、元の色が灰色です。
着物は零余子ちゃんの色違いで、黒いビラビラはないです。
右目は普通の黒い瞳で、左目は零余子ちゃんのを移植したものだったりします。