「申し訳ございません」
戻ってくるなり、三人に土下座されましたよ。
「…逃がしちゃったか」
「路地裏に逃げ込まれた後、血鬼術の気配を追いかけたのですが…捕まえたみたら、猫でした」
ポリポリ…
ほっぺたをかく。
うまいこと裏をかかれたようだ。長子ちゃんは血鬼術を見抜けるって、ペラペラと私が喋ったのが、原因と言えば原因かもね。
「ま、そういうこともあるでしょ。みんな立って立って」
長子ちゃんの手をとって、立ち上がらせる。
「それに、珠世さんたちが鬼殺隊に逃げ込んだところで、うまくはいかないでしょ」
倒れている蟲柱を見ながら、そう言った。
「…蟲柱が、いないからですね」
「その通り。彼女が鬼殺隊で一番、薬学の知識がある。彼女以外には珠世さんと連携はできないでしょう。
あっと、山坊主と阿修羅はロープを探してみて、多分、この家にあると思うから」
せっかく捕まえたのに、逃がしては癪だ。
「それに、珠世さんを逃がすために、柱が一人犠牲になってるんだ。はたして、心情的に受け入れられるかな?」
「無理でしょうね」
長子ちゃんが即答する。
「そもそも、鬼殺隊のところに逃げ込むとも限らないけどね。まあ、珠世さんは後回しでもいいでしょう」
うーんと、伸びをする。
「私はこれから成宮未来になって、街の見回りに出るから、彼女は研究所の地下にでもご案内しておいてね」
「わかりました」
後のことは長子ちゃんに任せて、夜の街をぶらぶらした後、のほほんと藤の花の家紋の家へと戻りました。
おーおーおー、すっげえバタバタしているね。
「何かありましたか?」
おろおろとしている家人をつかまえて、しれっと聞いてみる。
「それが、何が何やらで…」
朝一に鎹鴉から突然の連絡が来たらしく、内容は複数の柱をこちらに派遣するとのことで、何故そうなったのか、何が起こったのか、何人の柱が来るのか、どの柱なのかとかはまるでわからないみたい。ただわかったのは、夕方前には到着するということだけらしい。
はてさて、情報が錯綜しているのか、秘匿されているのか、まあとりあえず、例の後始末に複数の柱が来ると言うことだね。
「まあ、来るのは夕方前なんですよね。私は部屋で昼過ぎまで寝てますので」
寝る前に、連絡だけでもしておきますかね。
「そう言えば、共同任務は初めてだな!」
「ああ、そうだっけか? まあ、俺は単独が多いからな」
二人の男が連れ立って歩く。どちらの男も特徴がありすぎて、目立たずにはいられなかった。
「しかし、いきなり柱二人投入とは!」
「お館様は、上弦との戦闘になると踏んでいるんだろうな」
燃えるような赤い髪が特徴の男の言葉に、長身の男が答える。
「やはり、上弦の鬼…なのか! すでに事件は地方紙にはとどまらず、全国紙でも一面だった!」
「さすがに、ここまで派手な騒ぎを起こせる奴が、下弦以下だとは思えないな」
東北の鬼の事件への応援に、即座に二人の柱の派遣が決まった。
炎柱の煉獄杏寿郎と、音柱の宇随天元の二人である。
「今回の任務に、そちらは立候補したと聞いたが、確か別の任務も遂行中ではなかったか!?」
「ああ、なんでもこいつの前段階の調査任務に、新人が三人行っているみたいで、そいつらが全員女だと聞いてな」
その宇随の返答に、煉獄がじっと目を見る。
「…確か、既婚だったのでは!?」
「ちっげーよ! しょんべん臭いガキ相手に、それはないわ!」
煉獄の邪推に、即座にツッコミを入れる。
「お前も言ってた別任務で、女の隊員が複数必要になるかもしれなくてな。ちょっと確認したいだけだ」
「ああ、これはすまない! 少々勘違いをしたようだ!」
勘違いをしたことを、煉獄がすぐに謝った。
「…だが、その別任務も、確か十二鬼月の関与が疑われていたのでは!?
新人の隊員には、いささか厳しいんじゃないのか!?」
「…そこも含めて、確認をしたかったんだ。…あとは噂に聞く、成宮さんの秘蔵っ子も見てみたかったんだけどな」
当たり前かもしれないが、鬼殺隊には女性隊員が少ない。その割に、女性隊員にしかできない任務もあったりする。
「今回の新人に無理そうなら、女装でもさせるしかないか」
「なるほど!」
「そういや、お前さんはいい相手とかはいないのか?
今回の新人ども、俺とは年齢が離れるが、お前さんなら年も近いんじゃないのか?」
まさかの反撃であった。
「いや、特にそういった気持ちはまだないな!」
年齢が離れるって、たった三つしか変わらないじゃないかと思いつつ、煉獄が答える。
「甘露寺は継子だったんだよな、どうなんだ、その辺は?
他に、胡蝶とかも、見た目はいいんじゃないか?
お前は、どんな女がいいんだ?」
ぐいぐいと来る宇随に、煉獄も苦笑するしかない。
「甘露寺や胡蝶がどうこうというよりも、隊員とそういう仲になるつもりはない!」
冗談めかしての問いかけであったが、真面目に答える。
「隊員とそういう仲になってしまうと、多分平等に見ることができなくなる!
それに、任務に冷静に当たれなくなったりしては困る!」
「真面目だねえ。いいと思うのが隊員にいたら、鬼殺隊を辞めてもらえばいいんじゃねえの?
そいつの分もお前が働けば、何も問題はないと思うがね」
「…ずいぶん勧めてくるな!?」
「まあね、柱で嫁さんがいるのが俺だけってのもな。
いつ死ぬかもわからないってのが、みんなを躊躇わせているんだろうが、逆にどんどんと押すべきだと思うがね」
冗談めかしているが、その気持ちはだいぶ本気だった。
「…その想いが、最後の最後で、命を繋ぎ止めるものに、なるかもしれないじゃないか」
任務地に到着後、胡蝶しのぶ敗北の知らせを聞き、二人が言葉を失うのは、しばらく先のことだった。
皆さん想像の通り、ここから鬼殺隊はどんどんと、厳しい展開になりそうです。
つらたん。
追記
皆さんの添削もあって、煉獄さんの会話の違和感はだいぶ消えたんじゃないでしょうか?
みんなで作り上げる、零余子日記なのですよー!w